2 東京海上火災保険株式会社からの照会


平成11年10月4日

国税庁課税部長
河上信彦 殿

東京海上火災保険株式会社
取締役社長 樋口公啓

 弊社は、下記「1 人身傷害補償保険の概要」に記載する人身傷害補償保険を発売しています。この保険契約に係る被保険者が死亡し、保険金請求権者が人身傷害補償保険金を受領した場合の所得税、相続税及び贈与税の課税関係等について、下記「2 人身傷害補償保険金の課税関係」以下のとおりと考えますが、貴庁のご見解をお伺い申し上げます。

1 人身傷害補償保険の概要

 人身傷害補償保険は、自動車事故により被保険者が死亡し又は傷害を被った場合に、運転者等の過失割合にかかわらず契約金額の範囲内で被保険者の人的損害に係る実損害額を填補する保険です。

(注)

1 被保険者は次のいずれかに該当する者をいいます。

(1) 保険証券記載の者(記名被保険者)

(2) (1)の配偶者

(3) (1)又は(2)の同居の親族

(4) (1)又は(2)の別居の未婚の子

(5) (1)〜(4)以外の者で保険証券記載の自動車(被保険自動車)に搭乗中の者

2 被保険者が死亡した場合の保険金請求権者は、次のいずれかに該当する者をいいます。

(1) 被保険者の法定相続人

(2) 被保険者の父母、配偶者または子

 この人身傷害補償保険では、保険金の支払方式として、定額給付方式ではなく損害填補方式を採用しているので、(1)保険金請求権者は、自過失部分に対応する損害額についても補償を受けることができ、また、(2)これまで事故の相手方等に対して損害賠償請求をして取得していた損害賠償金をも含めて保険金として受け取り、弊社が、保険金支払後、事故の相手方等に対して損害賠償請求権の代位請求を行うことになるため、保険金請求権者は事故の相手方等との示談交渉も不要です。

【死亡事故の場合における保険金、損害賠償金の流れ】

[従 前] [人身傷害補償保険]
従前 人身傷害補償保険
※1 実損害額のうち、相手方過失割合に相当する額
※2 実損害額に相当する額

2 人身傷害補償保険金の課税関係

(1) 課税関係
被保険者死亡により保険金請求権者が人身傷害補償保険金を取得した場合には、原則として、保険料の負担者に応じて所得税、相続税又は贈与税の課税関係が発生します(所得税法第34条、所得税基本通達9-20、相続税法第3条第1項第1号、同法第5条第1項)。ただし、「(2)損害賠償金の性格を有する金額」に掲げる金額については、人身傷害補償保険金の支払により、弊社が保険金請求権者の有していた損害賠償請求権を取得し、事故の相手方等に対して代位請求することから、実質的に損害賠償金と考えられるので、次のとおり取り扱われるものと考えます。

イ 所得税の課税関係(保険料負担者=保険金受取人)
心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(所令30一)に該当するので非課税となる。

ロ 相続税の課税関係(保険料負担者=死亡者)
相続税基本通達3-10((無保険車傷害保険契約に係る保険金))の取り扱いと同様に、相続により取得したものとみなされる保険金に含まれないものと取り扱われる。

ハ 贈与税の課税関係(保険料負担者=保険金受取人及び死亡者以外の者)
相続税法基本通達5-1((法第3条第1項第1号の規定の適用を受ける保険金に関する取り扱いの準用))の取り扱いと同様に、贈与により取得したものをみなされる保険金に含まれないものと取り扱われる。

(2) 損害賠償金の性格を有する金額

イ 事故の相手方過失割合に応ずる金額
人身傷害補償保険金の支払により、保険金請求権者は自己の相手方過失割合に応ずる保険金の額に相当する損害賠償請求権を弊社に移転し、弊社は事故の相手方等に代位請求します。したがって、人身傷害補償保険金のうち、相手方過失割合に応ずる金額は、弊社から見れば、相手方の負担すべき損害賠償金を被害者たる保険金請求権者に一時的に立替払いしたのと同様であり、保険金請求権者から見れば事故の相手方に対して直接損害賠償請求をして取得する損害賠償金と異ならないということができます。

(注)

1 上記の相手方過失割合は、保険金支払に当たり弊社が算定しますが、(1)事故状況の調査報告に基づき「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(東京地裁民事第27部(交通部)編、別冊判例タイムス)等に従って算定するものであること、(2)この割合により弊社が相手方に代位請求すること、(3)各損害保険会社も同様のプロセス、判断基準に基づき過失割合の算定を行っていること等から客観的なものといえます。なお、この割合は、別添1または別添2の「死亡保険金のお支払について」により弊社が代位請求する金額について保険金請求権者の了解を得るため明らかです。

2 保険金支払後における代位請求により、弊社が相手方と合意する相手方過失割合に応じる損害賠償金額は、原則として、別添1または別添2に記載される金額と一致すると考えますが、仮に差が生ずる場合であっても、(1)保険金支払に当たり弊社が算定する相手方過失割合は、上記1のとおり客観的なものであること、(2)弊社と保険金請求権者は、相手方との合意内容に基づく精算は行わないこと、(3)保険金支払後は、保険金請求権者は相手方に対する損害賠償請求権がなく、相手方との合意内容は保険金請求権者には及ばないこと等から、人身傷害補償保険金の支払時に弊社が算定する相手方過失割合に応ずる金額が実質的に損害賠償金として取り扱われるものと考えます。なお、事故状況の事実認定に明らかな誤認がある場合など、事故の相手方過失割合の算定が合理的になされていない場合に、実質的に損害賠償金として取り扱われる金額が訂正されるべきことは、いうまでもありません。

ロ 被保険自動車に同乗の他人が死亡した場合の自己過失割合に応ずる金額
被保険自動車に同乗していた他人(自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」といいます。)による自動車損害賠償責任保険契約(以下「自賠責保険」といいます。)や任意保険の対人賠償条項による保険金の支払が免責されない者をいいます。)が死亡した場合には、人身傷害補償保険金の支払により、保険金請求権者は被保険自動車の運転者及び保有者に対する損害賠償請求権を弊社に移転し、弊社は当該車両の自賠責保険の保険会社及び運転者の対人賠償条項に係る保険会社等に代位請求します。したがって、この場合には、同乗車両の運転者等が負担すべき損害賠償金を被害者たる保険金請求権者に一時的に立替払いしたのと同様であり、実質的に運転者等からの損害賠償金と異ならないということができます。
 ただし、死亡した同乗の他人に過失がある場合の好意同乗者減額に相当する人身傷害補償保険金額は、 損害賠償請求をしても過失相殺により取得することができず、損害賠償金としての性格は認められないので、好意同乗者減額に相当する部分の人身傷害補償保険金額は除かれます。

ハ いわゆる親族間事故における自賠法第16条に規定する被害者直接請求権に応ずる金額
例えば、保険契約者(車両保有者)、保険料負担者及び運転者が夫の場合において、同乗の妻が死亡したときには、相続人である子は、自賠法第16条による自賠責保険の保険会社に対する被害者直接請求権を有することとなり、弊社の保険金支払により、保険金請求権者である子は、損害賠償請求権を弊社に移転し、弊社は自賠責保険の保険会社に代位請求します。したがって、この場合には、自賠責保険の保険会社が負担すべき損害賠償金を被害者たる保険金請求権者である子に一時的に立替払いしたのと同様であり、実質的に自賠責保険の保険会社からの損害賠償金と異ならないということができます。

(注)

1 上記の例の親族間事故の場合、加害者(運転者=上記の例の夫)が死亡した被害者(上記の例の妻)の相続人に含まれますので、夫の被害者直接請求権は、法定相続分に応じて混同により消滅しますが、加害者以外の相続人(上記の例の子)は、自賠法第16条による自賠責保険の保険会社に対する被害者直接請求権を有することとなります。

2 保険金は、保険金請求権者の代表者(例えば夫)に一括支払しますが、保険金請求権者の代表者(夫)と他の保険金請求権者(子)との法的関係(委任)により、代表者への保険金支払は、他の保険金請求権者(子)に対する保険金支払の効果を生じ、自賠責保険の保険会社に対する被害者直接請求権に応ずる人身傷害補償保険金額は、被害者直接請求権を有する子が取得したものといえます。

3 上記の例で、代表者に一括支払した保険金のうち、自賠法第16条の被害者直接請求権に応ずる金額を当該請求権を有する子が取得しないときには、保険金受領とは別途の法律関係(例えば、いったん取得した保険金の贈与等)が生じていると考えられます(別添3「設例による具体的な課税関係の概要」の死亡者妻の(2)参照)ので、弊社は、別添2のとおり、被害者直接請求権に応ずる人身傷害補償保険金額を被害者直接請求権を有する子が取得するよう指導することとしています。

(3) 設例による具体的な課税関係

 上記(1)及び(2)に基づき、設例による具体的な課税関係をとりまとめると、別添3のとおりとなります。

3 支払調書の記載方法

 「損害(死亡)保険金・共済金受取人別支払調書」(相続税法施行規則第6号書式)については、人身傷害補償保険金の支払総額から損害賠償金としての性格が認められる金額を控除した金額が100万円を超える場合に、別添4のとおり記載して提出します。なお、参考までに、摘要欄に支払った人身傷害補償保険金の総額を記載するほか、保険金支払時における事故状況の事実確認に誤認が存する等により、相手方過失割合の算定が合理的になされていない場合には、保険金額等を訂正の上、支払調書を再提出します。

(別添4の設例)

(1) 保険金請求権者は、「東海良子」、「東海二郎」及び「東海三郎」の3人であり、代表者は、「東海良子」。

(2) 人身傷害補償保険契約に基づく支払保険金額100,000千円、うち損害賠償金としての性格が認められる金額は、60,000千円とします。

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● 人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取扱い等について(11.10)

1 東京海上火災保険株式会社からの照会に対する回答

2 東京海上火災保険株式会社からの照会