(別紙1)

平成25年6月21日

 国税庁課税部長
 藤田 利彦 殿

株式会社 東日本大震災事業者再生支援機構
代表取締役社長 池田 憲人

T 照会の趣旨

 株式会社東日本大震災事業者再生支援機構(以下「震災支援機構」といいます。)は、株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法(平成23年法律第113号、以下「震災支援機構法」といいます。)に基づき、東日本大震災によって被害を受けたことにより過大な債務を負っている事業者であって、被災地域においてその事業の再生を図ろうとするものに対し、当該事業者に対して金融機関等が有する債権の買取り等を通じてその再生を支援することを目的として設立されたものです。
 震災支援機構の具体的な業務は、被災事業者から支援の申込みを受け、当該事業者の債権者である震災支援機構法第2条に規定する金融機関等(以下「震災支援機構法上の金融機関等」といいます。)のうち当該事業者に係る事業再生計画において支援者となる者からの当該計画に対する同意を取り付けた上で、その同意をした震災支援機構法上の金融機関等のうち債権の買取りを申し出た者から当該事業者に対する債権を適正な時価で買い取り、買取り後の債権の一部放棄等を通じて、当該事業者の再生を図るというものです。

 震災支援機構といたしましては、再生支援業務を円滑に進めるためには、震災支援機構による支援決定の対象となった法人(以下「支援対象者」といいます。)について、震災支援機構が関与して策定した事業再生計画に基づき債権放棄が行われる場合の支援対象者又は債権者における法人税の取扱い及び当該支援対象者の代表者等(代表権を有する会長及び社長その他の者をいいます。以下同じです。)から私財提供を受けた場合等の当該代表者等の所得税の取扱いを明確化しておくことが必要であると考えております。
 つきましては、震災支援機構が別に定めて公表する「東日本大震災事業者再生支援機構の実務運用基準」(以下「実務運用基準」といいます。)に従い、被災地域においてその事業の再生を図ろうとする支援対象者について、Uのとおり震災支援機構が関与して策定された事業再生計画により債務免除等が行われた場合における税務上の取扱いについて、Vの「照会の内容」の1から4までに掲げる震災支援機構の見解のとおりで差し支えないか、ご照会申し上げます。

  • (注1) 本件照会における債務免除等とは、債務の免除又は債権のその債務者に対する現物出資による移転(当該債務者においてその債務の消滅に係る利益の額が生ずることが見込まれる場合の当該現物出資による移転に限ります。)をいいます。
  • (注2) Vの「照会の内容」のうち<支援対象者に係る税務上の取扱い>の照会事項については、震災支援機構又は東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令(以下「震災特例法令」といいます。)第17条第1項第4号ハに規定する2以上の金融機関等(以下「2以上の金融機関等」といいます。)が債務免除等を行う場合を前提としております。 

U 震災支援機構が関与する事業再生手続

 震災支援機構の関与の下、実務運用基準に従って事業再生計画が策定され、成立するまでの手続は次のとおりです。
 まず、被災事業者の事業再生に関する事前相談に始まり、当該事業者の資産査定の実施及び震災支援機構による事業再生計画の策定支援を受け、当該事業者より事業再生計画が提出されます。被災事業者から提出された事業再生計画については、震災支援機構が、株式会社東日本大震災事業者再生支援機構支援基準(平成24年内閣府、復興庁、総務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省告示第1号。以下「支援基準」といいます。)に基づいて審理し、震災支援機構法第19条第4項に規定する支援決定を行います。
 なお、震災支援機構においては、案件審査の客観性・妥当性を確保する観点から、取締役会については取締役7名のうち3名を社外取締役とするほか、社外監査役2名を設置しており、Vの「照会の内容」の1及び2の制度の適用を受ける支援案件については、社外監査役による事業再生計画の確認を経た上で取締役会に付議することとしています。
 支援決定の後、震災支援機構は、支援対象者の債権者である震災支援機構法上の金融機関等のうち当該支援対象者に係る事業再生計画の実現のために協力を求めることが必要な者に対して、震災支援機構に対する債権の買取りの申込み又は事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意を求め、震災支援機構法第19条第4項に規定する必要債権額を満たす買取りの申込み及び同意を得ることで、震災支援機構法第25条第1項に規定する買取決定等が行われます。

V 照会の内容

<支援対象者に係る税務上の取扱い>

1 資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入

(1) 制度の概要(震災特例法171、法人税法253、334
 震災支援機構法の規定による支援決定の対象となった法人について、平成25年4月1日以後に東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(以下「震災特例法」といいます。)第17条第1項《被災法人について債務免除等がある場合の評価損益等の特例》の再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実が生じた場合において、その法人がその有する資産の価額につき所定の評定を行っているときは、その資産(一定の資産を除く。)の評価益の額又は評価損の額は、その事実が生じた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています。
 この場合の「再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実」とは、震災支援機構法の規定による支援決定の対象となった法人について、再生計画認可の決定があったことに準ずる事実で、その債務処理に関する計画が震災特例法令第17条第1項各号に掲げる要件の全てを満たしている場合に限るとされています。

(2) 震災支援機構の見解
 震災支援機構の関与の下、実務運用基準に従って策定される事業再生計画は、震災特例法令第17条第1項各号に掲げる要件を全て満たすものと考えられますので、当該事業再生計画の成立は、同項に規定する「再生計画認可の決定があったことに準ずる事実」に該当することとなります。
 したがって、当該事業再生計画において支援対象者の有する資産につき、同条第2項の規定による読み替え後の法人税法施行令第24条の2第3項に規定する資産評定が行われていることとなり、当該資産評定による価額を基礎とした貸借対照表に計上されている資産の価額と帳簿価額との差額(評価益又は評価損)は、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定により益金の額又は損金の額に算入することとなります。

2 再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実がある場合の欠損金の損金算入

(1) 制度の概要(震災特例法171、法人税法592
 上記1の「再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実」がある場合において、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定の適用を受けるときは、その適用を受ける事業年度において、震災特例法第17条第1項の規定による読み替え後の法人税法第59条第2項第3号の規定により、いわゆる期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して同項の損金算入額を計算することとされています。

(2) 震災支援機構の見解
 上記1のとおり、本件照会の場合には、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定による評価益又は評価損の益金算入又は損金算入が認められると考えられますので、震災特例法第17条第1項の規定による読み替え後の法人税法第59条第2項の規定の適用に当たっては、同項第3号に掲げる場合に該当し、いわゆる期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して同項の損金算入額を計算することとなります。

<債権者に係る税務上の取扱い>

3 法人税基本通達9-4-2の適用について

(1) 制度の概要(法人税基本通達9-4-2)
 法人がその子会社等の再建に際し、その子会社等に対して経済的利益の供与をした場合において、その経済的利益の供与が合理的な再建計画に基づくものであると認められるときは、その経済的利益の供与額は、寄附金の額に該当しないこととされています。すなわち、合理的な再建計画に基づく経済的利益の供与による損失であれば、税務上損金の額に算入されることとなります。

(2) 震災支援機構の見解
 震災支援機構の関与の下、実務運用基準に従って支援対象者及び支援者となる者の合意により策定された事業再生計画については、上記Tの「照会の趣旨」の(注2)に記載した前提によらない場合も含め、法人税基本通達9-4-2に定める支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられますので、同通達9-4-2にいう合理的な再建計画に該当することとなります。

<支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱い>

4 保証債務の特例等について

(1) 制度の概要(所得税法642
 保証債務を履行するため資産(棚卸資産等を除きます。)の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除きます。)をその年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすこととされています。
 この保証債務の特例を適用するための要件を整理すると、

  • イ 資産の譲渡時に保証債務契約が存在していたこと
  • ロ 資産を譲渡してその譲渡代金でその保証債務を履行したこと又は当該資産により保証債務を代物弁済したこと
  • ハ その保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこと

の全ての要件を満たすこととされています。

(2) 震災支援機構の見解
 上記1から3の適用を受ける場合を前提とすると、震災支援機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき債権放棄等が行われる際の支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱いは、次のとおりとなると考えます。

 [保証債務の特例]
 震災支援機構の関与の下で合理的な事業再生計画が策定される際には、当該事業再生計画において支援対象者の代表者等の個人に私財提供を求めることがあります。具体的には、代表者等が支援対象者に貸し付けている個人所有の資産(以下「事業用資産」といいます。)を、当該支援対象者の震災支援機構法上の金融機関等からの借入金の担保に供している場合において、代表者等が当該事業用資産を担保権負担付のまま当該支援対象者に担保権負担がないものとして算定した適正な時価により有償で譲渡するときに、代表者等は受け取った譲渡代金により、債務超過である当該支援対象者の保証債務を履行し、あるいは、代表者等が震災支援機構法上の金融機関等に対して当該事業用資産による代物弁済を行うことにより、債務超過である当該支援対象者の保証債務を履行します。
 この場合、震災支援機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき、再生支援が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合であっても、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》の規定による保証債務の特例の適用があると考えます。

 [担保権の消滅等]
 代表者等の個人資産が支援対象者の震災支援機構法上の金融機関等からの借入金の担保に供されている場合に、代表者等が生活に必要な個人資産を保有し続けられるよう、当該担保権を消滅させる、あるいは、代表者等が支援対象者の震災支援機構法上の金融機関等からの借入金について個人保証している場合に、代表者等が生活に必要な個人資産を保有し続けられるよう残債務に対する代表者等個人の保証を解除する場合があります。
 この場合、合理的な事業再生計画に基づき、震災支援機構法上の金融機関等及び債権を買い取った震災支援機構が主たる債務者である当該支援対象者から残債務を回収できる見込みである場合には、担保権の消滅や個人保証の解除による代表者等に対する利益供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じないと考えます。また、このように代表者等に対する利益供与がないことからすれば、原則として震災支援機構法上の金融機関等、債権を買い取った震災支援機構及び当該支援対象者において寄附金課税(法人税法37)の対象となることはないと考えます。

 なお、上記1から4までの震災支援機構の見解となった理由は、次葉に記載しております。

次葉

<支援対象者に係る税務上の取扱い>

1 資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入(震災特例法171、法人税法253、334

 次の(1)から(3)までのとおり、震災特例法令第17条第1項に規定する「再生計画認可の決定があったことに準ずる事実」が生じており、その債務処理に関する計画が同項各号に掲げる要件を満たすものであり、かつ、同条第2項の規定により読み替えて適用される法人税法施行令第24条の2第3項に規定する一定の資産評定を行うこととされていることから、震災特例法第17条第1項の規定により読み替えて適用される法人税法第25条第3項及び震災特例法令第17条第2項の規定により読み替えて適用される法人税法施行令第24条の2第1項から第3項までに規定される資産の評価益の計上要件を満たしているものと考えます。
 また、再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実による資産の評価損の計上要件は、資産の評価益の計上要件と同一であり、本件照会の場合は、震災特例法第17条第1項の規定により読み替えて適用される法人税法第33条第4項並びに震災特例法令第17条第2項の規定により読み替えて適用される法人税法施行令第68条の2第1項及び第2項に規定される資産の評価損の計上要件も満たしているものと考えます。

(1) 再生計画認可の決定があったことに準ずる事実に該当すること
 震災支援機構が関与して策定される事業再生計画は、以下の手続に従って成立します。
 まず、被災事業者の事業再生に関する事前相談に始まり、当該事業者の資産査定の実施及び震災支援機構による事業再生計画の策定支援を受け、被災事業者より事業再生計画が提出されます。
 事業再生計画については、支援基準に基づいて審理された後、支援決定が行われます。その後、関係金融機関による同意を得た後、震災支援機構法第25条第1項に規定する買取決定等が行われます。
 このように、震災支援機構の手続が、事業者の再生手続開始の申立てに始まり、当該事業者の財産状況等の調査手続を経た上での再生計画案の提出、当該再生計画案が債権者集会における決議において再生債権者の法定多数の同意による可決及び再生計画の認可の決定をするという民事再生法の規定による再生計画策定の一連の手続に準じて成立するものであることから、再生計画認可の決定があったことに準ずる事実に該当するものと考えます。

(2) 事業再生計画が所定の要件(震災特例法令171各号)に該当すること
 震災特例法令第17条第1項のかっこ書では、「その債務処理に関する計画が次の各号に掲げる要件の全てに該当するものに限る。」と規定されており、震災支援機構が関与して策定される事業再生計画(債務処理に関する計画)は、次のとおり、各要件を満たすものと考えます。

イ 震災特例法令第17条第1項第1号の要件に該当すること
 同号の要件は、1事業再生計画が一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則に従って策定されていること、2その準則が公正かつ適正なものであること、及びその準則に一定の事項(3公正な価額による債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項、4その事業再生計画が上記1の準則に従って策定されたものであること並びに同項第2号(下記ロ)及び第3号(下記ハ)に掲げる要件に該当することにつき確認をする手続に関する事項並びに5上記4の確認を税務上の要件を満たす者が行うことに関する事項)が定められていることであり、これらの要件を満たしていることにつき順を追って説明します。

1 一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則(次の2から5までを満たすもの)に従って策定されていること
 震災支援機構における債務処理を行うための手続を定めた準則である実務運用基準は、震災支援機構による私的整理の進め方、対象となる企業、事業再生計画の内容等について定めたものであり、震災支援機構のホームページに掲載し、一般に公表するものであることから、「一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則」に該当すると考えます。
 また、震災支援機構は、公的な使命を担う機関として企業再生に取り組むに当たって、事業再生の手続や依拠すべき基準等の準則として実務運用基準を定め、震災支援機構が関与して策定される事業再生計画は次の2から5までを満たすこの準則に従って策定されますので、この要件を満たします。

2 その準則が公正かつ適正なものであること
 震災支援機構は、被災地域からの産業及び人口の被災地域以外の地域への流出を防止することにより、被災地域における経済活動の維持を図り、もって被災地域の復興に資するようにするため、金融機関、地方公共団体等と連携しつつ、東日本大震災によって被害を受けたことにより過大な債務を負っている事業者であって、被災地域においてその事業の再生を図ろうとするものに対し、当該事業者に対して金融機関等が有する債権の買取り等を通じて債務の負担を軽減しつつその再生を支援することを目的として(震災支援機構法1)、震災支援機構法に基づき主務大臣の認可を受けて設立された公的使命を帯びた会社であり、実務運用基準は債務処理に関する専門的な知識と経験を有する社外取締役を含む取締役会の協議を経て策定することから、このような経緯により策定した実務運用基準は公正かつ適正なものと考えます。

3 公正な価額による債務者の有する資産及び負債の価額の評定に関する事項が準則に定められていること
 支援対象者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)は、実務運用基準の4において公正な価額により行うことが定められており、かつ、その資産評定に関する具体的な評定方法等が実務運用基準の別紙1の「資産・負債の評定基準」に定められていることから、この要件を満たします。

4 その事業再生計画が上記1の準則に従って策定されたものであること並びに下記ロ及びハに掲げる要件に該当することにつき確認をする手続に関する事項が準則に定められていること
 実務運用基準13において事業再生計画が本実務運用基準に従って策定されたものであること等の確認手続を定めていることから、この要件を満たします。

5 上記4の確認を税務上の要件を満たす者が行うことが準則に定められていること
 東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則第6条の2第1項第1号において、上記4の確認を行う税務上の要件を満たす者として震災支援機構が掲げられているところ、実務運用基準の13においても事業再生計画につき確認をする者を震災支援機構と定めていることから、この要件を満たします。

ロ 震災特例法令第17条第1項第2号の要件に該当すること
 この要件では、再生計画認可の決定があったことに準ずる事実があった場合に策定された事業再生計画において、準則に定められた公正な価額による債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項に従って資産評定が行われ、それを基礎とした当該債務者の貸借対照表が作成されていることが求められています。
 この点、実務運用基準の別紙1に「資産・負債の評定基準」を定め、これに基づき支援対象者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)が行われ、かつ、当該資産評定は、実務運用基準4において公正な価額により行うことを定めています。また、この実務運用基準4において、当該資産評定による価額を基礎として支援対象者の貸借対照表が作成されることが定められており、この定めに従って貸借対照表が作成されることから、この要件を満たします。

ハ 震災特例法令第17条第1項第3号の要件に該当すること
 この要件では、事業再生計画が、上記ロの貸借対照表における資産及び負債の価額、事業再生計画における損益の見込み等に基づいて債務免除等をする金額が定められていることが求められています。
 この点、実務運用基準4において、上記ロの貸借対照表における資産及び負債の価額、再生計画における損益の見込み等に基づいて支援対象者に対して債務免除等をする金額が定められており、この定めに従って事業再生計画が策定されることから、この要件を満たします。

ニ 震災特例法令第17条第1項第4号の要件に該当すること
 この要件では、事業再生計画において、震災支援機構又は2以上の金融機関等が債務免除等を行うものであることが求められています。
 この点、本件照会は、震災支援機構又は2以上の金融機関等が債務免除等を行う場合の事業再生計画を前提とするものであることから、この要件を満たします。

ホ 一定の資産評定(震災特例法令172による読み替え後の法人税法施行令24の23)を行っていること
 事業再生計画の策定において、上記イ3及びロのとおり、公正な価額による旨の定めのある債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項が定められた実務運用基準に基づき資産評定が行われていることから、この要件を満たします。

2 再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実がある場合の欠損金の損金算入(震災特例法171、法人税法592

 1のとおり、事業再生計画により支援対象者が債務免除等を受けた場合は、震災特例法第17条第1項の再生計画認可の決定があったことに準ずる一定の事実に該当すると考えており、本件照会の場合には、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定による評価益又は評価損の益金算入又は損金算入が認められると考えております。
 また、上記1の適用を受ける場合は、震災特例法第17条第1項の規定による読み替え後の法人税法第59条第2項の規定の適用に当たっては、同項第3号に掲げる場合に該当し、いわゆる期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して同項の損金算入額を計算することができると考えます。

<債権者に係る税務上の取扱い>

3 法人税基本通達9-4-2の適用について

 本件照会の場合に債権者が支援対象者に対して行う経済的利益の供与は、次のとおり、損失負担の必要性があり、かつ、合理的な再建計画に基づき行われるものと認識しています。
 したがって、震災支援機構が関与して策定された事業再生計画により債権者が行う経済的利益の供与は、原則として、法人税基本通達9-4-2にいう「合理的な再建計画」に基づく経済的利益の供与であり、その経済的利益の供与による損失は、税務上損金の額に算入することができると考えます。

(1) 損失負担の必要性

イ 支援対象者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか
 事業再生計画に基づき経済的利益の供与を行う者は、事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意をした者であることから、支援対象者とは資金関係において事業関連性を有しており、支援対象者は、支援者の「子会社等」に該当することとなります。

ロ 子会社等は経営危機に陥っているか
 支援対象者は、東日本大震災によって被害を受けたことにより過大な債務を負っている企業であって、支援者その他の者と協力してその事業の再生を図ろうとするものであり、この「過大な債務を負っている」とは、震災支援機構の支援基準の前文において、収益力に比して過剰な債務を負っているため、債権放棄、弁済猶予等の金融支援による事業の再生が求められている状態と定められています。したがって、支援対象者は、債権放棄等の金融支援を受けることなく自力での経営の再建が困難な状況にありますので経営危機に陥っていると考えます。

ハ 債権放棄を行う者にとって損失負担を行う相当な理由はあるか
 支援者による損失負担の相当性については、支援基準T3.(3)において、事業再生が見込まれることの要件として「申込事業者を支援決定時点で清算した場合の当該事業者に対する債権の価値を、事業再生計画を実施した場合の当該債権の価値が下回らないと見込まれること」が定められており、少なくとも支援対象者が清算した場合の回収額以上の回収が見込まれるときに経済的利益の供与が行われることが前提とされておりますので、経済的利益の供与を行う者にとっても経済合理性のあるものであり、損失負担を行う相当の理由があると考えます。

(2) 事業再生計画の合理性

イ 損失負担額(支援額)の合理性
 震災支援機構が関与して策定される事業再生計画は、震災支援機構における支援基準を満たしている必要があり、その支援基準は、被災地域の復興状況が計画策定時には不透明であることから、再生計画の期間を通常の事業再生計画より長くとる必要があること等に鑑み、支援決定が行われると見込まれる日から15年以内に有利子負債のキャッシュフローに対する比率が15倍以内となることなどの要件から構成されています。また、震災支援機構において、金融実務に精通した職員による支援対象者の状況の把握・支援内容の検討の上、公認会計士や弁護士等の資格を有する職員による、専門的見地からの助言や計画内容の確認を行う態勢を構築しております。高い職業的専門性・倫理性が求められるこれらの専門家による個別案件のチェックがされていることから、損失負担額の合理性は担保されております。なお、利害の対立する複数の支援者の合意により決定されていることからも、損失負担額の合理性は担保されております。

ロ 再建管理の有無
 震災支援機構法第28条及び株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法施行規則第11条において、震災支援機構は一定の期間ごとに債権の買取決定又は出資決定を行った支援対象者の概要その他の事項を公表することとされており、また、実務運用基準11において、事業再生計画の具体的な実施状況については、支援対象者から必要なモニタリングを行うこととしているため、震災支援機構による再建管理は適切に行われると考えます。

ハ 支援者の範囲の相当性
 震災支援機構法第20条第1項において、支援者となる者は、支援対象者の債権者である震災支援機構法上の金融機関等のうち事業再生計画に基づく支援対象者の事業の再生のために協力を求める必要があると認められるものとされており、これらの者が支援者となることについては、公認会計士や弁護士等の資格を有する複数の職員による専門的見地からの計画の複層的な確認がされていることから、相当性があると考えます。なお、支援者となる者については、利害の対立する複数の合意により決定されていることからも、相当性が担保されております。

ニ 負担割合(支援割合)の合理性
 実務運用基準4において、実務運用基準の別紙1に定められた「資産・負債の評定基準」に基づく公正な価額により評定された資産及び負債の価額を基礎として実態貸借対照表が作成され、この実態貸借対照表における資産及び負債の価額、事業再生計画における損益の見込み等に基づいて債務免除額が定められていることとされております。このように、震災支援機構が支援決定等を行う前提となる事業再生計画には、支援対象者に対する債務免除額が記載されており、これは、利害の対立する複数の支援者の合意により決定されていることから、支援割合は合理的なものと考えます。

<支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱い>

 上記1から3の適用を受ける場合を前提とすると、下記4及び5のように解して差し支えないと考えておりますが、以下について照会者としての見解を説明いたします。

4 保証債務の特例について

 上記1から3において、震災支援機構が債権の買取りを行い、当該債権の債権放棄等を行うことを前提とする合理的な事業再生計画が策定される際には、当該事業再生計画において支援対象者の代表者等の個人に私財提供を求めることがあります。この場合、Vの「照会の内容」の4(2)のとおり、震災支援機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき、再生支援が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合であっても、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、平成14年12月25日付照会回答「保証債務の特例における求償権の行使不能に係る税務上の取扱いについて」(以下「平成14年照会回答」といいます。)に照らしても、下記(2)のとおり原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項の規定による保証債務の特例の適用があるものと解して差し支えないと考えております。

(1) 求償権行使不能の判定における税務上の取扱い
 法令等の手続によらない求償権の放棄について法人が求償権の放棄を受けた後も存続し、経営を継続していたとしても、次の全ての状況に該当すると認められるときは、その求償権は行使不能と判定することとしています(平成14年照会回答)。

イ その代表者等の求償権は、代表者等と金融機関等他の債権者との関係からみて、他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情により、放棄せざるを得ない状況にあったと認められること

ロ その法人は、求償権を放棄(債務免除)することによっても、なお債務超過の状況にあること

(2) 照会の場合
 本件照会の場合、合理的な事業再生計画に基づき行われる求償権の放棄であり、当該計画後において支援対象者の状態は再生可能な状態となることが一般的でありますが、次の事情を考慮すれば、平成14年照会回答でいうところの「他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情」により求償権は放棄せざるを得ない状況にあったと認められることから、支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、当該求償権の放棄は、原則として「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」(所得税法642)に行われたものと解することが相当であり、代表者等について保証債務の特例の適用があるものと考えます。

イ 求償権の放棄は、株主又は経営者責任の明確化の観点から行われるものであり、合理的な事業再生計画により他の債権者等が支援対象者に対して行う債権放棄等を行う前提となっていること

ロ 支援対象者は自力による経営の再建が困難な状況にあり、仮に代表者等が求償権の放棄に応じず合理的な事業再生計画が成立しなければ、支援対象者が倒産に至ることが想定され、この場合には、代表者等はその経営責任から、合理的な事業再生計画で予定されていた求償権の放棄を含む私財提供よりも多額の損失負担を求められることは必至の状況にあると考えられること

5 代表者等における担保権の解除

 震災支援機構の関与の下で策定された事業再生計画に基づき、震災支援機構法上の金融機関等及び債権を買い取った震災支援機構が支援対象者から残債務を回収できる見込みである場合には、残債務に付されている担保権の消滅や個人保証の解除を行ったとしても、偶発債務の免除等にすぎず、震災支援機構法上の金融機関等及び債権を買い取った震災支援機構から代表者等に対する利益供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じないものと考えます。
 また、代表者等に対する利益供与がないことから、原則として震災支援機構法上の金融機関等、債権を買い取った震災支援機構及び当該支援対象者において寄附金課税(法人税法37)は生じないものと考えます。