別紙

平成21年11月4日

国税庁課税部長
 岡本 榮一 殿

株式会社企業再生支援機構
代表取締役社長 西澤 宏繁

T 照会の趣旨

株式会社企業再生支援機構(以下「機構」といいます。)は、株式会社企業再生支援機構法(平成21年法律第63号。以下「機構法」といいます。)に基づき、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中堅事業者、中小企業者その他の事業者であって、債権放棄等(注1)その他の金融支援を受けて事業再生を図ろうとするもの(以下「支援対象者」といいます。)に対し、事業再生の支援を行うことを目的として設立された法人です。
 具体的には、支援対象者から支援の申込みを受け、当該支援対象者の債権者である機構法第2条に規定する金融機関等(以下「機構法上の金融機関等」といいます。注2)のうち当該支援対象者に係る事業再生計画において支援者となる者からの当該計画に対する同意を取り付けた上で、その同意をした機構法上の金融機関等のうち債権の買取りを申し出た者から支援対象者に対する債権を適正な時価で買い取り、買取り後の債権の一部放棄等を通じて、当該支援対象者の再生を図ることを目的としています。
 また、このように機構が関与して策定された事業再生計画においては、株主・経営者の責任等の観点から、原則として、支援対象者の代表者等(注3)の個人に私財提供を求めることが考えられます。
 機構といたしましては、多数の機構法上の金融機関等がかかわるこのような業務を円滑に進めるためには、機構が関与して策定された事業再生計画に基づき債権放棄等が行われた場合の債務者又は債権者における税務上の取扱い及び代表者等の個人から私財提供等が行われた場合の当該個人の所得税の取扱いについて、明確化しておくことが必要であると考えております。
 このような必要性から、Uの「照会の内容」の1から3までに掲げる機構の見解のとおり解して差し支えないか、ここに照会いたします。

(注)

  • 1 債権放棄等とは、債務の免除又は債権のその債務者に対する現物出資による移転(当該債務者においてその債務の消滅に係る利益の額が生ずることが見込まれる場合の当該現物出資による移転に限ります。)をいいます。
  • 2 機構法上の金融機関等とは、次の者をいいます。
    • イ 預金保険法第2条第1項各号に掲げる金融機関
    • ロ 農水産業協同組合貯金保険法第2条第1項に規定する農水産業協同組合
    • ハ 保険業法第2条第2項に規定する保険会社
    • ニ 貸金業法第2条第2項に規定する貸金業者
    • ホ 政策金融機関、預金保険機構、信用保証協会その他これらに準ずる特殊法人等
    • へ 上記イからホまでに掲げる者のほか、金銭の貸付けその他金融に関する業務を行う事業者で一定のもの
  • 3 代表者等とは、支援対象者の代表権を有する会長及び社長その他経営責任を問われる者をいいます。
  • 4 下記Uの1(2)の機構の見解は、「機構若しくは政府関係金融機関」又は「2以上の金融機関等」から債権放棄等が行われる場合の事業再生計画を前提としており、ここにいう金融機関等とは、法人税法施行令第24条の2第1項第4号に規定する次の者(以下「税務上の金融機関等」といいます。)をいいます。
    • イ 預金保険法第2条第1項各号に掲げる金融機関
    • ロ 農水産業協同組合貯金保険法第2条第1項に規定する農水産業協同組合
    • ハ 保険業法第2条第2項に規定する保険会社及び同条第7項に規定する外国保険会社等
    • ニ 株式会社日本政策投資銀行
    • ホ 信用保証協会
    • へ 上記イからホまでに掲げる者のうちのいずれかの者とともに債務免除等を行う地方公共団体

U 照会の内容

1 支援対象者の税務上の取扱い

(1) 制度の概要

  • イ 資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入(法人税法25丸3、33丸4)
     民事再生法の規定による再生計画認可の決定があったことその他これに準ずる一定の事実が生じた場合において、法人がその有する資産の価額につき所定の評定を行っているときは、その資産(一定の資産を除く。)の評価益の額又は評価損の額は、その特定の事実が生じた日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています。この場合の「その他これに準ずる一定の事実」とは、民事再生法の規定による再生計画認可の決定があったことに準ずる事実が生じており、かつ、その債務処理に関する計画が法人税法施行令第24条の2第1項第1号から第3号まで及び第4号又は第5号に掲げる要件のすべてを満たしている場合に限るとされています。
  • ロ その他これに準ずる一定の事実がある場合の欠損金の損金算入(法人税法59丸2)
     上記イの「その他これに準ずる一定の事実」がある場合において、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定の適用を受けるときは、その適用を受ける事業年度において、法人税法第59条第2項の規定により青色欠損金等以外の欠損金(以下「期限切れ欠損金」といいます。注1)を青色欠損金等(注2)に優先して同項の損金算入額を計算することとされています。

    (注)

    • 1 期限切れ欠損金とは、法人税法第59条第2項の規定の適用対象となる欠損金額をいいます。
    • 2 青色欠損金等とは、法人税法第57条第1項《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》の規定及び第58条第1項《青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越し》の規定の適用対象となる欠損金額をいいます。

(2) 機構の見解

  • イ 機構の関与の下、「企業再生支援機構の実務運用標準」(以下「実務運用標準」といいます。)に従って事業再生計画が策定され、これが成立することから、法人税法施行令第24条の2第1項《再生計画認可の決定に準ずる事実等》各号に掲げる要件を満たすものと考えられますので、当該事業再生計画の成立は、同項に規定する「再生計画認可の決定に準ずる事実」に該当することとなります。
     したがって、当該事業再生計画において債務者の有する資産につき、同条第3項第2号に規定する資産評定が行われていることとなり、当該資産評定による価額を基礎とした貸借対照表に計上されている資産の価額と帳簿価額との差額(評価益又は評価損)は、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定により益金の額又は損金の額に算入することとなります。
  • ロ 上記イのとおり、本照会の場合には、法人税法第25条第3項又は第33条第4項の規定による評価益又は評価損の益金算入又は損金算入が認められると考えられますので、同法第59条第2項の規定の適用に当たっては、同項第3号に掲げる場合に該当し、期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して同項の損金算入額を計算することとなります。

2 債権者の税務上の取扱い

(1) 制度の概要(法人税基本通達9-4-2)

法人がその子会社等の再建に際し、その子会社等に対して経済的利益の供与をした場合において、その経済的利益の供与が合理的な再建計画に基づくものであると認められるときは、その経済的利益の供与額は、寄附金の額に該当しないこととされています。すなわち、合理的な再建計画に基づく経済的利益の供与による損失であれば、税務上損金の額に算入されることとなります。

(2) 機構の見解

機構の関与の下、実務運用標準に従って支援対象者及び支援者となる者の合意により策定された事業再生計画については、上記Uの1(2)の機構の見解における前提によらない場合も含め、法人税基本通達9-4-2に定める支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられますので、同通達9-4-2にいう合理的な再建計画に該当することとなります。

3 支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱い

(1) 制度の概要(所得税法64丸2)

保証債務を履行するため資産(たな卸資産等を除きます。)の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除きます。)をその年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすこととされています。
 この保証債務の特例を適用するための要件を整理すると、

  1. 資産の譲渡時に保証債務契約が存在していたこと。
  2. 資産を譲渡してその譲渡代金でその保証債務を履行したこと又は当該資産により保証債務を代物弁済したこと。
  3. その保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこと。

のすべての要件を満たすこととされています。

(2) 機構の見解

上記1及び2において、機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき債権放棄等が行われる際の支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱いは、次のとおりとなると考えられます。

[保証債務の特例]
合理的な事業再生計画が策定される際には、当該事業再生計画において支援対象者の代表者等の個人に私財提供を求めることがあります。具体的には、代表者等が支援対象者に貸し付けている個人所有の資産(以下「事業用資産」といいます。)を、当該支援対象者の機構法上の金融機関等からの借入金の担保に供している場合において、丸1代表者等が当該事業用資産を担保権負担付のまま当該支援対象者に担保権負担がないものとして算定した適正な時価により有償で譲渡するときに、代表者等は受け取った譲渡代金により、債務超過である当該支援対象者の保証債務を履行する、あるいは、丸2代表者等が機構法上の金融機関等に対して当該事業用資産による代物弁済を行うことにより、債務超過である当該支援対象者の保証債務を履行します。
 この場合、機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき、再生支援が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合であっても、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》の規定による保証債務の特例の適用があると考えられます。
[担保権の消滅等]
代表者等の個人資産が支援対象者の機構法上の金融機関等からの借入金の担保に供されている場合に、代表者等が生活に必要な個人資産を保有し続けられるよう、当該担保権を消滅させる、あるいは、代表者等が支援対象者の機構法上の金融機関等からの借入金について個人保証している場合に、代表者等が生活に必要な個人資産を保有し続けられるよう残債務に対する代表者等個人の保証を解除する場合があります。
 この場合、合理的な事業再生計画に基づき、機構法上の金融機関等及び債権を買い取った機構が主たる債務者である当該支援対象者から残債務を回収できる見込みである場合には、原則として、担保権の消滅や個人保証の解除による代表者等に対する利益供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じないと考えられます。また、このように代表者等に対する利益供与がないことからすれば、原則として機構法上の金融機関等、債権を買い取った機構及び当該支援対象者において寄附金課税(法人税法37)の対象となることはないと考えられます。

 なお、上記1から3までの機構の見解となった理由は、次葉に記載しております。

次葉

<支援対象者に係る税務上の取扱い>

1.資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入(法人税法25丸3、33丸4)

次の(1)から(3)までのとおり、法人税法施行令第24条の2第1項に規定する「内国法人について民事再生法の規定による再生計画認可の決定があったことに準ずる事実」が生じており、その事業再生計画は同項第1号から第3号まで及び第4号又は第5号に掲げる要件を満たすものであり、かつ、同条第3項第2号に規定する一定の資産評定を行うこととされていることから、法人税法第25条第3項及び法人税法施行令第24条の2第1項から第3項に規定される資産の評価益の計上要件を満たしているものと認識しております。
 また、民事再生法の規定による再生計画認可の決定があったことに準ずる事実による資産の評価損の計上要件は、資産の評価益の計上要件と同一であり、本件照会の場合は法人税法第33条第4項及び法人税法施行令第68条の2第1項及び第2項に規定される資産の評価損の計上要件も満たしているものと認識しております。

(1) 民事再生法の規定による再生計画認可の決定に準ずる事実に該当すること

機構が関与して策定される事業再生計画は、以下の手続きに従って行われます。
 支援対象者の事業再生に関する事前相談に始まり、当該支援対象者の資産査定の実施及び機構による事業再生計画の策定支援を受け事業再生計画が提出されます。
 その提出された事業再生計画を、機構法第15条の規定に基づき機構に設置された企業再生支援委員会(以下「委員会」といいます。)が株式会社企業再生支援機構支援基準(平成21年内閣府、総務省、財務省、厚生労働省、経済産業省告示第1号。以下「支援基準」といいます。)に基づいて審議し、機構法第25条第4項に規定する支援決定を行います。支援決定の後、機構は、支援対象者の債権者である機構法上の金融機関等のうち当該支援対象者に係る事業再生計画の実現のために協力を求めることが必要な者に対して、機構に対する債権の買取りの申込み又は事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意を求め、機構法第25条第4項に規定する必要債権額を満たす買取りの申込み及び同意を得ることで、機構法第31条第1項に規定する買取決定等が行われます。
 このように、機構の手続が、事業者の再生手続開始の申立てに始まり、当該事業者の財産状況等の調査手続を経た上での再生計画案の提出、当該再生計画案が債権者集会における決議において再生債権者の法定多数の同意による可決及び再生計画の認可の決定をするという民事再生法の規定による再生計画策定の一連の手続に準じて成立するものであることから、民事再生法の規定による再生計画認可の決定に準ずる事実に該当するものと考えられます。

(2) 事業再生計画が所定の要件(法人税法施行令24の2丸1かっこ書)に該当すること

法人税法施行令第24条の2第1項のかっこ書では、「その債務処理に関する計画が、第1号から第3号まで及び第4号又は第5号に掲げる要件に該当するものに限る。」と規定されており、機構が関与して策定される事業再生計画(債務処理に関する計画)は、次のとおり、各要件を満たすものと考えられます。

  • イ 法人税法施行令第24条の2第1項第1号の要件に該当すること
     同号の要件は、丸1事業再生計画が一般に公表された債務処理を行うための手続についての準則に従って策定されていること、丸2その準則が公正かつ適正なものであること、丸3その準則が特定の者(政府関係金融機関、株式会社企業再生支援機構及び協定銀行を除く。)が専ら利用するものでないこと、及びその準則に一定の事項(丸4公正な価額による債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項、丸5事業再生計画が上記丸1から丸4までを満たす準則に従って策定されたものであること、丸6上記丸5並びに同項第2号(下記ロ)及び第3号(下記ハ)の要件に該当することにつき確認をする手続に関する事項並びに丸7当該確認を税務上の要件を満たす者が行うことに関する事項)が定められていることであり、これらの要件を満たしていることにつき順を追って説明します。
    • 丸1 一般に公表された債務処理の手続を行うための準則であること
       機構における債務処理を行うための手続を定めた準則である実務運用標準は、機構による私的整理の進め方、対象となる企業、事業再生計画の内容等について定めたものであり、機構のホームページに掲載し、一般に公表するものであることから、この要件を満たすものと考えられます。
    • 丸2 公正かつ適正な準則であること
       機構は、地域における総合的な経済力の向上を通じて地域経済の再建を図り、併せて地域の信用秩序の基盤強化にも資するため、金融機関、地方公共団体等と連携しつつ、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負う事業者の事業再生を支援することを目的として(機構法1)、機構法に基づき主務大臣の認可を受けて設立される公的使命を帯びた会社であり、実務運用標準は債務処理に関する専門的な知識と経験を有する社外取締役が過半数を占める委員会の協議を経て策定することから、このような経緯により策定した実務運用標準はこの要件を満たすものと考えられます。
    • 丸3 特定の者(政府関係金融機関、株式会社企業再生支援機構及び協定銀行を除く。)が専ら利用するものでないこと
       法人税法施行令第24条の2第1項第1号のかっこ書において、機構が特定の者から除かれていることから、実務運用標準が専ら機構において利用される限り、この要件を満たします。
    • 丸4 公正な価額による債務者の有する資産及び負債の価額の評定に関する事項が準則に定められていること
        債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)は、実務運用標準の5.丸5において公正な価額により行うことが定められており、かつ、その資産評定に関する具体的な評定方法等が実務運用標準の別紙1の「再生計画における資産評定基準」に定められていることから、この要件を満たします。
    • 丸5 事業再生計画が上記丸1から丸4までを満たす準則に従って策定されたものであること
       実務運用標準は、機構が公的な使命を担う機関として企業再生に取り組むに当たって、事業再生の手続や依拠すべき基準等の準則であり、上記丸1から丸4までを満たすこの準則に従って策定されると認められる本件の事業再生計画は、この要件を満たします。
    • 丸6 上記丸5並びに下記ロ及びハに該当することにつき確認をする手続に関する事項が準則に定められていること
       実務運用標準14.により事業再生計画が本実務運用標準に従って策定されたものであること等の確認手続を定めていることから、この要件を満たします。
    • 丸7 上記丸6の確認を税務上の要件を満たす者が行うことが準則に定められていること
       法人税法施行規則第8条の6第1項第2号においては上記丸6の確認を行う税務上の要件を満たす者として機構が掲げられているところ、準則である実務運用標準の14.においても事業再生計画につき確認をする者を機構と定めていることから、この要件を満たします。
  • ロ 法人税法施行令第24条の2第1項第2号の要件に該当すること
     この要件では、民事再生法の規定による再生計画認可の決定に準ずる事実があった場合に策定された事業再生計画において、準則に定められた公正な価額による債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項に従って資産評定が行われ、それを基礎とした当該事業者の貸借対照表が作成されているかどうかが求められています。
     この点、実務運用標準の別紙1に「再生計画における資産評定基準」を定め、これに基づき債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)が行われており、かつ、当該資産評定は、実務運用標準5.丸5において公正な価額により行うことを定めています。また、この実務運用標準5.丸5において、当該資産評定による価額を基礎として支援対象者の貸借対照表が作成されることが定められており、この定めに従って事業再生計画が策定されることから、この要件を満たします。
  • ハ 法人税法施行令第24条の2第1項第3号の要件に該当すること
     この要件では、事業再生計画が、上記ロの貸借対照表における資産及び負債の価額、事業再生計画における損益の見込み等に基づいて債務免除等をする金額が定められているかどうかが求められています。
     この点、実務運用標準5.丸5において、上記ロの貸借対照表における資産及び負債の価額、再生計画における損益の見込み等に基づいて支援対象者に対して債務免除等をする金額が定められており、この定めに従って事業再生計画が策定されることから、この要件を満たします。
  • ニ 法人税法施行令第24条の2第1項第4号又は第5号の要件に該当すること
     この要件では、事業再生計画において、2以上の金融機関等、政府関係金融機関、株式会社企業再生支援機構又は協定銀行が債権放棄等を行うものであるかどうかが求められています。
     この点、本件照会は、「機構若しくは政府関係金融機関」又は「2以上の金融機関等」から債権放棄等が行われる場合の事業再生計画を前提とするものであることから、この要件を満たします。
(3) 一定の資産評定(法人税法施行令24の2丸3二)を行っていること

事業再生計画の策定において、上記(2)イ丸4及びロのとおり、公正な価額による旨の定めのある債務者の有する資産及び負債の価額の評定(資産評定)に関する事項が定められた実務運用標準に基づき資産評定が行われていることから、この要件を満たします。

2.法人税法第59条第2項の適用について

1.のとおり、事業再生計画により債務者が債務免除等を受けた場合は、法人税法第59条第2項の民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことに準ずる事実に該当すると考えております。
 また、上記1.の適用を受ける場合は、同法第59条第2項の規定の適用に当たっては、同項第3号に掲げる場合に該当し、期限切れ欠損金を青色欠損金等に優先して同項の損金算入額を計算することができると考えられます。

<債権者に係る税務上の取扱い>

3.法人税基本通達9-4-2の適用について

本件照会の場合に債権者が行う経済的利益の供与は、次のとおり、損失負担の必要性があり、かつ、合理的な再建計画に基づき行われるものと認識しています。
 したがって、機構が関与して策定された事業再生計画により債権者が行う経済的利益の供与は、原則として、法人税基本通達9-4-2にいう「合理的な再建計画」に基づく経済的利益の供与であり、その経済的利益の供与による損失は、税務上損金の額に算入することができると考えています。

(1) 損失負担の必要性
  • イ 支援対象者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか
     事業再生計画に基づき経済的利益の供与を行う者は、機構法第26条第1項に規定される支援対象者の債権者である機構法上の金融機関等のうち支援対象者の事業の再生のために協力を求める必要があると認められるもので同項第2号に規定される事業再生計画に従って債権の管理又は処分をすることの同意をした者であることから、支援対象者とは資金関係において事業関連性を有しております。
     したがって、支援者にとって支援対象者は、「子会社等」に該当します。
  • ロ 子会社等は経営危機に陥っているか
     事業再生計画に基づき経済的利益の供与を受ける支援対象者は、機構法第25条第1項に規定される過大な債務を負っている事業者であって、債権者その他の者と協力してその事業の再生を図ろうとするものであり、この「過大な債務を負っている」とは、機構における支援基準の前文において、収益力に比して過剰な債務を負っているため、債権放棄等の金融支援による事業再生が求められている状態と定められています。したがって、支援対象者は、債権放棄等の金融支援を受けることなく自力での経営の再建が困難な状況にありますので経営危機に陥っていると考えられます。
  • ハ 債権放棄を行う者にとって損失負担を行う相当な理由はあるか
     支援基準T1.(3)において、事業再生が見込まれることの要件として「申込事業者を支援決定時点で清算した場合の当該事業者に対する債権の価値を、事業再生計画を実施した場合の当該債権の価値が下回らないと見込まれること」が定められており、少なくとも支援対象者が清算した場合の回収額以上の回収が見込まれるときに経済的利益の供与が行われることが前提とされておりますので、経済的利益の供与を行う者にとっても経済合理性のあるものであり、損失負担を行う相当な理由があると考えられます。
(2) 事業再生計画の合理性
  • イ 損失負担額(支援額)の合理性
     機構が関与して策定される事業再生計画は、機構における支援基準を満たしている必要があり、その支援基準は支援決定が行われると見込まれる日から3年以内に経常収入が経常支出を上回るなどの要件から構成されています。また、事業再生計画に基づく支援の申込に対して、債務処理に関する専門的な知識と経験を有する社外取締役が過半数を占める委員会によって妥当性の判断が行われることから、損失負担額の合理性があると考えられます。
     更に、利害の対立する複数の支援者の合意により決定されていることから、損失負担額の合理性は担保されております。
  • ロ 再建管理の有無
     機構法第34条及び株式会社企業再生支援機構法施行規則第15条において、機構は、支援決定から一の支援決定に係るすべての再生支援を完了したときまでの各決定等を行ったときは、各決定時に速やかに事業再生計画の概要その他の事項を公表することとされていることから、事業再生計画の進捗状況は、支援者を含む多数の者の監視下に置かれることとなります。また、実務運用標準12.において、事業再生計画の具体的な実施状況については、支援対象者から必要なモニタリングを行うこととしているため、機構による再建管理は適切に行われると考えられます。
  • ハ 支援者の範囲の相当性
     機構法第26条第1項において、支援者となる者は、支援対象者の債権者である機構法上の金融機関等のうち事業再生計画に基づく支援対象者の事業再生のために協力を求める必要があると認められるものとされており、これらの者が支援者となることは、債務処理に関する専門的な知識と経験を有する社外取締役が過半数を占める委員会によって妥当性についての判断がされており相当性があると考えられます。
     更に、支援者となる者については、利害の対立する複数の合意により決定されていることから、相当性が担保されております。
  • 二 負担割合(支援割合)の合理性
     実務運用標準5.丸5において、同実務運用標準の別紙1に定められた「資産評定基準」に基づく公正な価額により評定された資産及び負債の価額を基礎として実態貸借対照表が作成され、この実態貸借対照表における資産及び負債の価額、事業再生計画における損益の見込み等に基づいて債務免除額が定められていることとされております。このように、機構が買取決定等を行う前提となる事業再生計画には、支援対象者に対する債務免除額が記載されており、これは、利害の対立する複数の支援者の合意により決定されていることから、負担割合(支援割合)は合理的なものと考えられます。

<支援対象者の代表者等に係る税務上の取扱い>

上記1.から3.の適用を受ける場合を前提とすると、下記4.及び5.のように解して差し支えないと考えておりますが、以下について照会者としての見解を説明いたします。

4.保証債務の特例について

上記1.から3.において、機構が債権買取を行い、当該債権の債権放棄等を行うことを前提とする合理的な事業再生計画が策定される際には、当該事業再生計画において支援対象者の代表者等の個人に私財提供を求めることがあります。この場合、照会の内容3(2)のとおり、機構が関与して策定された合理的な事業再生計画に基づき、再生支援が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合であっても、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、平成14年12月25日付照会回答「保証債務の特例における求償権の行使不能に係る税務上の取扱いについて」(以下「平成14年照会回答」といいます。)により、下記(2)のとおり原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項の規定による保証債務の特例の適用があるものと解して差し支えないと考えております。

(1) 求償権行使不能の判定における税務上の取扱い

法令等の手続によらない求償権の放棄について法人が求償権の放棄を受けた後も存続し、経営を継続していたとしても、次のすべての状況に該当すると認められるときは、その求償権は行使不能と判定することとしています(平成14年照会回答)。

  • 丸1 その代表者等の求償権は、代表者等と金融機関等他の債権者との関係からみて、他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情により、放棄せざるを得ない状況にあったと認められること。
  • 丸2 その法人は、求償権を放棄(債務免除)することによっても、なお債務超過の状況にあること。
(2) 照会の場合

照会の場合、合理的な事業再生計画に基づき行われる求償権の放棄であり、当該計画後において支援対象者の状態は再生可能な状態となることが一般的でありますが、次の事情を考慮すれば、平成14年照会回答でいうところの「他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情」により求償権は放棄せざるを得ない状況にあったと認められることから、支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、当該求償権の放棄は、原則として「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」(所得税法64丸2)に行われたものと解することが相当であり、代表者等について保証債務の特例の適用があるものと解して差し支えないと考えられます。

  • 丸1 求償権の放棄は、株式の消却や経営者の退陣など株主・経営者責任の明確化の観点から行われるものであり、合理的な事業再生計画により他の債権者等が支援対象者に対して行う債権放棄等を行う前提となっていること。
  • 丸2 支援対象者は自力による経営の再建が困難な状況にあり、仮に求償権の放棄に応じず合理的な事業再生計画が成立しなければ、支援対象者が倒産に至ることが想定されます。この場合、代表者等はその経営責任から、合理的な事業再生計画で予定されていた求償権の放棄を含む私財提供よりも多額の損失負担を求められることは必至の状況にあると考えられること。

5.担保権の消滅等について

合理的な事業再生計画に基づき、機構法上の金融機関等及び債権を買い取った機構が主たる債務者である支援対象者から残債務を回収できる見込みにある場合には、残債務に付されている担保権の消滅や個人保証の解除を行ったとしても、偶発債務の免除等に過ぎず、機構法上の金融機関等及び債権を買い取った機構から担保権提供者又は保証人である代表者等に対して具体的な経済的利益の供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じないと考えられます。
 上記の場合には、機構法上の金融機関等、債権を買い取った機構及び支援対象者から代表者等に対する具体的な利益供与は存在しないことから、原則として機構法上の金融機関等、債権を買い取った機構及び支援対象者に寄附金課税(法人税法37)の課税関係は生じないと考えられます。