平成23年11月24日

国税庁課税部審理室長
住倉 毅宏 殿

日本証券業協会
副会長 増井喜一郎

1 照会の趣旨

 平成20年度税制改正において、上場株式等の配当等に係る源泉徴収義務等の特例(措法9の3の2)が創設され、平成22年1月1日以後、個人又は内国法人(所得税法別表第一〔公共法人等の表〕に掲げる内国法人を除く。)若しくは外国法人に対して、販売会社(租税特別措置法第9条の3の2第1項に規定する「支払の取扱者」をいう。以下同じ。)を通じて支払われる公募株式投資信託の収益の分配に係る配当等については、当該販売会社を当該配当等の源泉徴収義務者とする措置が講じられている。
 投資信託については、原則として平成19年1月4日に振替制度へ一斉に移行しているが、移行に同意しなかった場合や受益証券を顧客が保管している場合など、当該振替制度に移行していないものも存在している。
 公募株式投資信託の受益証券で当該振替制度に移行していないもの(無記名のものに限る。以下「タンス受益証券」という。)(注1)の収益の分配に係る配当等の源泉徴収等について、次のとおり取り扱って差し支えないか。

(1) タンス受益証券の収益の分配に係る配当等については、当該タンス受益証券の保有者が当該公募株式投資信託の販売会社に受益証券を持ち込み、その配当等の支払を受けることとなる。
 当該タンス受益証券の収益の分配に係る配当等が、平成22年1月1日前に収益計算期間の満了の日が到来しているものであっても、同日以後に支払が行われる場合には、当該タンス受益証券が持ち込まれた販売会社が源泉徴収義務者になるとともに、当該配当等の支払をする際に行う源泉徴収の税率は、当該配当等が支払われた日において適用される法令に従うことになる。

(2) タンス受益証券の収益の分配に係る配当等の支払及びその公募株式投資信託の終了又は一部の解約による償還金等の交付が平成22年1月1日以後に行われる場合、これらに関する支払調書及び支払通知書の提出又は交付は販売会社が行うこととなるが、この場合の償還金等に関するものの提出又は交付の期限についても、当該配当等に関するものと同様に「その支払をした日」が基準となる。

(3) 個人が平成22年1月1日以後に金融商品取引業者等の営業所に持ち込んだタンス受益証券(当該タンス受益証券に係る公募株式投資信託が終了していないものに限る。)について、当該金融商品取引業者等の営業所において保管の委託がされた場合には、当該タンス受益証券の収益の分配に係る配当等は、源泉徴収選択口座に設けられた特定上場株式配当等勘定に受け入れることができる(注2)。

(注1) 投資信託振替制度における公募株式投資信託の受益権については、所得税基本通達36−3が類推適用されると解されるので、無記名の投資信託には該当しない。

(注2) 平成21年1月1日以後の公募株式投資信託の終了又は一部の解約により交付を受ける金銭等の額については、全て株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされるが(措法37の104一、平20改正法附則42)、当該タンス受益証券に係る公募株式投資信託の終了又は一部の解約による譲渡所得等は特定口座で計算することはできない。

2 照会に係る取引の概要

 顧客がタンス受益証券の収益の分配に係る配当等の支払を受ける場合、次のような流れとなる(別添の支払フロー図参照)。

(1) 顧客がタンス受益証券を受託銀行又は販売会社へ持ち込む。

(2) 受託銀行に持ち込まれた場合、受託銀行は顧客に対して当該タンス受益証券の販売会社に持ち込むよう指示する。

(3) タンス受益証券を持ち込まれた販売会社は、当該タンス受益証券に係る事故照会等の確認を行うため、必要に応じて、当該タンス受益証券の委託会社に当該タンス受益証券のファンド名称、取扱販売会社名、記番号、口数等を連絡する。

(4) 事故照会等の確認を行った委託会社は、当該タンス受益証券の販売会社に対して問題がない旨の連絡を行う。

(5) 連絡を受けた販売会社は、顧客に対して源泉徴収後の配当等の支払を行うとともに、その支払をした日の属する月の翌月10日までに源泉徴収税額を納付する。

(6) 販売会社は、配当等の支払をした日から1月以内に支払調書を所轄税務署長に提出するとともに、支払通知書を顧客に交付する。

3 照会者の求める見解となることの理由

〔照会事項(1)〕源泉徴収義務者等について

 公募株式投資信託の収益の分配に係る配当等についての源泉徴収義務者は、従前は受託銀行とされていたが、平成22年1月1日以後に支払われるものについては、支払の取扱者である販売会社とされている(措法9の3の2、措令4の6の22、措規5の21)。
 また、公募株式投資信託の収益の分配に係る配当等のうち、信託期間中のものについては収益計算期間の満了の日、信託の終了又は解約によるものについてはその終了又は解約の日が配当等の収入すべき時期とされているが(所基通36−4(2))、タンス受益証券のように無記名のものに係る収益の分配にあっては、その年において支払を受けた金額とされ(所法363)、現金主義によることとされている。
 したがって、タンス受益証券の収益の分配に係る配当等については、その支払が行われたのが平成22年1月1日以後であれば、当該配当等に係る収益計算期間の満了の日が平成22年1月1日前であっても、販売会社(支払の取扱者)が源泉徴収義務者となる。
 なお、上場株式等の配当等が平成25年12月31日までの間に支払を受けるべきものであるときは、7%の軽減税率が適用されるところ(措法9の3、平20改正法附則332)、タンス受益証券の収益の分配に係る配当等は無記名のものに係るものであり、その支払を受けた日が収入すべき時期となるもの(支払を受けるべき配当等)であることから、所得税の源泉徴収税率についても、その支払が行われた日において適用される法令に従うことになる。

〔照会事項(2)〕償還金等に関する支払調書及び支払通知書について

 無記名の公募株式投資信託に係る収益の分配につき支払を受ける者は、受領に関する告知書をその支払を受ける際にその支払の取扱者に対し提出しなければならない(所法2242)。また、公募株式投資信託の終了又は一部の解約により償還金等の交付を受ける場合には、その交付を受ける時までにその交付をする者に対し受領者に関する告知をしなければならない(所法224の34)。
 一方、公募株式投資信託に係る収益の分配の支払の取扱者及び公募株式投資信託の終了又は一部の解約により償還金等の交付をする者(いずれも販売会社)は、その支払の確定した日から1月以内に、これらの支払調書を税務署長に提出するとともに(所法2251二・十、措法9の3の25、措令4の6の29)、支払通知書をその支払を受ける者に交付しなければならない(所法2252一)(注3)。
 これらの支払調書及び支払通知書が無記名の公募株式投資信託に係る収益の分配に関するものであるときは、その提出又は交付の期限は、その支払の確定した日ではなくその支払をした日が基準とされ、現金主義によることが明らかにされているが、公募株式投資信託の終了又は一部の解約による償還金等に関しては、その支払をした日とはされていない(所法2251本文かっこ書・2本文かっこ書)(注4)。
 しかし、無記名の公募株式投資信託の場合、その終了又は一部の解約による償還金等の交付は、収益の分配に係る配当等と同様に、支払を受ける者からの受領者に関する告知を受けて行うこととされており、その交付を受けた時が償還金等の収入すべき時期になると解されるところ、支払調書及び支払通知書の作成も、受領者に関する告知がなければすることはできないことからすれば、無記名の公募株式投資信託の終了又は一部の解約による償還金等における「その支払の確定した日」とは、「その支払をした日」と同義になるものと解される。
 したがって、タンス受益証券の収益の分配に係る配当等の支払及びその公募株式投資信託の終了又は一部の解約による償還金等の交付が平成22年1月1日以後に行われる場合、これらに関する支払調書及び支払通知書の提出又は交付は販売会社が行うこととなるが、この場合の償還金等に関するものの提出又は交付の期限についても、収益の分配に係る配当等に関するものと同様に「その支払をした日」が基準となる。

(注3) 支払通知書をその年中に支払った配当等の合計額(いわゆる年間一括方式)で作成する場合は、その支払の確定した日の属する年の翌年1月31日が交付期限となる(措法8の45)。

(注4) 公募株式投資信託の終了又は一部の解約による償還金等(譲渡所得等)の収入すべき時期については、その終了又は一部の解約の日とされ、収益の分配(所法363)のように、無記名の場合に「その支払を受けた日」とする現金主義の取扱いは明示されていないものの(措通37の10−1(7)イ)、収益の分配に係る配当等と同様に、無記名の場合には「その支払を受けた日」が当該償還金等の収入すべき時期になると解される。

〔照会事項(3)〕特定上場株式配当等勘定への受入れについて

 タンス受益証券の収益の分配に係る配当等について、源泉徴収選択口座に設けられた特定上場株式配当等勘定に受け入れる場合の手続は、以下のとおり行われることとなる。

(1) 顧客と販売会社との間では、租税特別措置法第37条の11の6第4項第1号に規定する「上場株式配当等受領委任契約」が締結されるとともに、顧客から同条第2項に規定する「源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書」が提出される。

(2) 販売会社に持ち込まれたタンス受益証券は、顧客から当該販売会社に保管の委託がされる。

(3) 販売会社は、上記(1)及び(2)の手続を経て、保管の委託がされた後に支払われるタンス受益証券の収益の分配に係る配当等を受領し、源泉徴収選択口座に設けられた特定上場株式配当等勘定に受け入れることとなる。

 このように、タンス受益証券の収益の分配に係る配当等であっても、特定上場株式配当等勘定への受入れが、租税特別措置法第37条の11の6の規定に従って行われる限りにおいては、当該受入れの対象になると考えられる。