16総合第1612号
平成17年2月7日

国税庁課税部審理室長
上斗米 明 殿

農林水産省総合食料局商品取引監理官 田辺 義貴
経済産業省商務情報政策局商務課長 宮本 聡

1 事実関係
 商品取引所の会員である東京ゼネラル株式会社(以下「東京ゼネラル」という。)が、平成16年1月に、顧客(以下「委託者」という。)の資産の分離保管義務違反などにより商品取引員の許可を取り消され、更に、商品取引所(以下「取引所」という。)において決済不履行を起こしたことから、同社に対して委託者が有していた債権を商品取引所に預託されていた受託業務保証金から払い渡す手続が進められているが、この手続は受託業務保証金規則第12条により主務大臣(農林水産大臣、経済産業大臣)による配当手続によって行っているところである。
 この配当手続は、平成17年3月頃には終了する予定であるが、取引所に預託されている受託業務保証金の他に委託者債権の弁済に充てるために分離保管されているべき財産が不足しているため、債権の一部を弁済できないことが予想される。
 ところで、委託者が商品先物取引に当たって東京ゼネラルに預託していた委託証拠金には、有価証券により預託されていたもの(以下、「充用有価証券」という。)があり、それら充用有価証券は、同社が委託者の書面による同意を得て、次のように預託又は担保の用に供されていた。

1 同社の取引所における決済を担保するための取引証拠金として取引所に預託

2 委託者の債権を担保するための受託業務保証金として取引所に預託

3 東京ゼネラルの借入金の担保として債権者に担保提供

 委託者は、これらのうち2の受託業務保証金について払渡しを請求することができるが、取引所はこの請求に対して充用有価証券を換価して支払うことができるとされている(商品取引所法97条の32)。したがって、委託者は、預託した充用有価証券に係る債権(平成16年1月7日の取引相場相当額)については、受託業務保証金の換価代金等を原資として金銭により配当を受けることとなる。
 ただし、2の受託業務保証金に係る充用有価証券の換価処分においては、委託者が預託した有価証券の取り戻しを希望した場合には、当該委託者に係る充用有価証券の現物であることが記番号により確認できたものに限り、平成16年6月10日の取引相場の価格で取り戻すことを認め、その他の充用有価証券については、同日に、取引所の名(取引所名義の口座)をもって証券会社を通じて市場で売却した。これらの換価代金等は、委託者債権全体の弁済原資となる。

2 照会事項
 上記のような事情から、委託者の東京ゼネラルに対する債権(預り委託証拠金に商品先物取引の損益を加減算した金額)の払渡しに当たり、取引所が充用有価証券の換価処分を行っているが、これに対する個人委託者の譲渡所得等の取扱い及び債権が全額払渡されなかった場合の損失の取扱い等、所得税法上の取扱いに関して下記のとおり解してよろしいか照会申し上げる。

(1) 充用有価証券の換価処分及び金銭による払渡しに係る譲渡所得等の取扱い

イ 譲渡による所得の収入金額及び課税時期
 取引所による充用有価証券の換価処分は直接委託者に帰属するものではないが、充用有価証券に代えて払渡しを受けるべき債権額(平成16年1月7日の取引相場相当額)については、当該充用有価証券の譲渡による所得の収入金額とされる。
 この場合の譲渡の日(課税時期)は、原則として、換価処分を含む一連の払渡手続を了した日(平成17年分)となるが、取引所に対して債権額の申出をした日(平成16年1月7日以後同年5月20日までの間で債権額を申出により確定させた日:平成16年分)を譲渡の日として申告することも認められる(所得税基本通達36−12、租税特別措置法通達37の10−1)。

ロ 上場株式等を譲渡した場合の軽減税率の特例等の可否
 上場株式等を譲渡した場合の軽減税率の特例(租税特別措置法第37条の11)及び譲渡損失の繰越控除の特例(租税特別措置法第37条の12の2)は、個人が上場株式等を証券業者等への売委託等により譲渡した場合に適用があることとされているが、充用有価証券の換価処分は取引所の名で証券会社に売委託するものであり、また、換価代金がそのまま当該委託者に帰属するものではないから、委託者が証券会社への売委託により市場売却したものということはできず、したがって、充用有価証券の譲渡に係る譲渡所得等の計算において、これらの特例を適用することはできない。

(2) 委託者が預託していた充用有価証券の現物を取り戻した場合の取扱い
 委託者が預託した充用有価証券の所有権は当該委託者に帰属しており、これを金銭を支払って取り戻したとしても、その取引は有価証券の売買に該当せず、新たに有価証券を取得したものと解することはできないから、当該取引において支払った金額は当該有価証券の取得価額とはならない。その取得価額は当該委託者が預託以前に他から購入した際の取得価額によることとなる。
 なお、支払った金額(充用有価証券の平成16年6月10日の時価)と充用有価証券に基づく債権額(充用有価証券の平成16年1月7日の時価)との差額は、商品先物取引について生じた債権に係る損益として、平成16年分の商品先物取引に係る雑所得の計算に含めて申告することとなる。

(3) 委託者債権の一部が回収不能となった場合の取扱い
 受託業務保証金等の払渡手続及び破産手続を通じて債権額の一部が支払われないことが確定したときには、当該回収不能額が生じた債権の内容に応じて次のとおり取り扱われる。

1 充用有価証券(委託証拠金)での預託債権(上記(2)の場合の債権は次の2の債権として処理する。)について生じた回収不能額は、当該充用有価証券の譲渡に係る譲渡所得等の計算上、収入金額がなかったものとされる(所得税法第64条第1項、同法第152条に基づく更正の請求も可)。

2 現金(委託証拠金)での預託債権(上記(2)の場合の充用有価証券相当額の債権を含む。)について生じた回収不能額は、回収不能が確定した年分の商品先物取引に係る事業所得又は雑所得の計算上必要経費に算入される(所得税法第51条第2項、第4項)。なお、商品先物取引に係る所得が雑所得に該当する場合には、商品先物取引に係る雑所得の金額を限度とする。

3 商品先物取引の決済による損益に係る債権について生じた回収不能額は、1)商品取引に係る所得が事業所得に該当する場合には回収不能が確定した年分の必要経費に算入され(所得税法第51条第2項)、2)雑所得に該当する場合には当該利益を生じた年分の商品先物取引に係る雑所得の計算上収入金額がなかったものとして取り扱われる(所得税法第64条第1項、同法第152条に基づく更正の請求も可)。

 なお、回収不能額が上記のいずれの債権から生じたものか明らかとすることは困難であることから、それぞれの債権額の比により按分して計算するのが合理的と考えられるが、納税者の選択により回収不能額が生じた債権を特定して計算することとしても一つの合理的な方法として認められる。

(参考1)

東京ゼネラルの破綻に関する事実の経緯

  平成16年1月 6日  商品取引員の許可の取消しを通知・公表
  1月 7日  取引所にて違約(債務不履行)発生
  1月 13日  許可取消しの発効
  1月 14日  委託者の取引所に対する受託業務保証金払渡しの申出金額が、取引所に預託されている金額を超過したため、払渡しを停止
  2月 20日  受託業務保証金払渡しに係る配当手続への移行の官報公告
  5月 20日  受託業務保証金払渡請求権及び弁済対象債権払渡請求権の申出期限
  6月 10日  取引所は、受託業務保証金として預託を受けた充用有価証券を換価
  6月 21日  債権者が東京地裁に破産を申立て
  8月 6日  東京地裁による破産宣告
  平成17年2月  主務大臣による配当計画の作成及び申出人への通知
  3月  取引所による受託業務保証金の払渡し
(社)商品取引受託債務補償基金協会による弁済対象債権の払渡し
  未定  破産手続による配当

(参考2)

 顧客債権が受託業務保証金から払い渡される場合の課税関係

所得・損失の内容 課税上の取扱い
1  充用有価証券に代えて金銭の分配を受けた場合
充用有価証券の譲渡による所得として課税
課税時期]
 原則、払渡手続による弁済が終了したとき(平成17年分)
 選択により、債権届出により債権額が確定した日(平成16年分)
収入金額]
 債権額(弁済されるべき金額)の算定の基礎とされる平成16年1月7日の時価
 確定した回収不能額については収入金額に不算入(所法641、152)
特例の適用]
 委託者が証券業者への売委託等により譲渡したものでないため、軽減税率の特例(措法37の11)及び譲渡損失の繰越控除の特例(措法37の12の2)の適用なし
2  委託証拠金として預託した有価証券を取り戻した場合
所有権は当初から委託者に帰属しており、有価証券の「取得」に該当しない
支払額(16.6.10の時価)と債権額(16.1.7の時価)との差額の処理]
 商品取引に係る債権について生じた損益として、平成16年分の商品先物取引に係る雑所得等の損益として計算
3  商品先物取引による損益に係る債権について生じた回収不能額
商品先物取引に係る事業所得の(回収不能額確定時の)必要経費算入(所法512
 又は
商品先物取引に係る雑所得の(その損益の生じた年分(平成15又は16年分)の)収入金額不算入(所法641、152)
4  現金で預託したことによる債権(上記2の場合の有価証券に相当する債権を含む。)について生じた回収不能額
商品先物取引に係る事業所得又は雑所得の(回収不能額確定時の)必要経費算入(所法5124
(注)  商品先物取引に係る所得が雑所得の場合は、当該雑所得の金額を限度とする。

※ 回収不能額がいずれの債権から生じたものかどうかの計算に当たっては、原則として13及び4(商品先物取引に損失が生じている場合には14)の各債権額の比であん分するが、選択によりいずれの債権から優先的に生じたものとして計算して差し支えない。

(参考3)

 回収不能額が確定した場合の各債権の回収不能額の計算例


 
 
 
委託者(顧客)債権 払渡し額(平17.3) 破産手続による配当額
(未定)
回収不能額
 
各債権の回収不能額の計算
債権の内容(株式は1月7日の時価) 債権額

 
現金 100
株式 300
商品取引利益 60
460
 
 
390
 
5
 
65
 
1 株式譲渡の収入金額から控除すべき回収不能額
   65かける300わる460(100たす300たす60)=マイナス42
2 現金による預託債権の貸倒れ
   65かける100わる460=マイナス14
3 商品先物取引利益の回収不能額
   65かける60わる460=マイナス9

 ただし、回収不能額65について1から3のいずれかから優先的に生じたものとして計算しても差し支えない。
 

 
現金 100
株式 300
商品取引損失 マイナス60
340 290 4 46
1 株式譲渡の収入金額から控除すべき回収不能額
   46かける300わる400(100たす300)=マイナス35
2 現金による預託債権の貸倒れ
   46かける100わる400=マイナス11

 ただし、回収不能額46について1又は2のいずれかから優先的に生じたものとして計算しても差し支えない。
 

※ 金銭を払い込んで株式の払渡しを受けた場合の株式の価額(平成16年1月7日の時価)相当額の債権については「現金による預託債権の貸倒れ」として計算する。

(参考4)

整理番号:◯◯◯◯

1. 申出者
(1) 氏名(名称)□□ □□□
(2) 住所■■県◇◇市△△町○○○番地
(3) 代理人の氏名及び住所(代理人による申出の場合に限る。)
2. 申出の内容
(1) 受託業務保証金払渡請求金額 ○○○,○○○円
(2) 上記請求金額の内訳
 (現金) ○○○,○○○円
 (有価証券)※平成16年1月7日の時価 ○○○,○○○円
 (差引損益通算額) ○○○,○○○円
3. 審査結果
(1) 受託業務保証金払渡請求権認容額 ○○○,○○○円
(2) 上記認容の理由

 東京ゼネラル株式会社に対する商品市場における売買取引の委託により生じた債権であると認められる。
4.受託業務保証金配当金額(商品取引所から支払われる額)
○○○,○○○円
(参考)
○基金弁済額(社団法人商品取引受託債務補償基金協会から支払われる額)
○○○,○○○円
○支払合計額(受託業務保証金配当金額+基金弁済額)
○○○,○○○円