(別紙)
令和4年4月1日
国税庁 課税部長
星屋 和彦 殿
中小企業の事業再生等に関する研究会
座 長 小林 信明
当研究会は、昨年6月に公表された「成長戦略実行計画」を受け、中小企業者(中小企業基本法第2条第1項に規定する中小企業者をいい、常時使用する従業員数が300人以下の医療法人を含みます。以下同じです。)の事業再生・事業廃業(これらを併せて、以下「事業再生等」といいます。)に関し、関係者間の共通認識を醸成し、事業再生等に係る総合的な考え方及び具体的な手続等として、今般、別添の「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)及び同ガイドラインと一体的に定められている「『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』Q&A」(以下「QA」といいます。)を取りまとめました。
本ガイドラインは、その目的を定めた第一部、基本的な考え方を示した第二部、私的整理手続を定めた第三部から構成され、第三部の「中小企業の事業再生等のための私的整理手続(中小企業版私的整理手続)」では、破産手続、民事再生手続、会社更生手続又は特別清算手続等の法的整理手続によらずに、債務者である中小企業者と債権者である金融機関等の間の合意に基づき、主として金融債務について返済猶予・減免等を受けることにより、当該中小企業者の円滑な事業再生や廃業を行うことを目的とする私的整理の手続(以下、事業再生に係る私的整理手続を「再生型私的整理手続」といい、廃業に係る私的整理手続を「廃業型私的整理手続」といいます。)を定めたものであり、また、QAは、具体的な実務を行う上で留意すべき事項等を当研究会においてとりまとめたものです。
当研究会としましては、本ガイドラインの中小企業版私的整理手続(再生型私的整理手続及び廃業型私的整理手続)が円滑に運用されるため、当該手続に関する税務上の取扱いを検討する必要があると考えます。
つきましては、本ガイドラインによる再生型私的整理手続に基づき策定された事業再生計画により債権放棄等(債権放棄及び債務の株式化をいいます。以下同じです。)が行われた場合の債権者及び債務者における税務上の取扱いについて、次の1及び2のとおりで問題がないか、また、再生型私的整理手続では、原則として、経営者保証に関するガイドラインを活用する等して、対象債務者の債務と保証債務の一体整理を図るよう努めることとしており、保証人のみならず物上保証人が存在する場面も想定されるところ、保証人や物上保証人がその個人資産を譲渡等した場合の当該保証人や物上保証人の税務上の取扱いについて、次の3のとおりで問題がないか、ご照会申しあげます。
(注) 廃業型私的整理手続に係る税務上の取扱いについては、別途、「『中小企業の事業再生等に関するガイドライン(廃業型私的整理手続)』に基づき策定された弁済計画により債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて」(令和4年4月1日照会)をご参照ください。
債権者である企業が取引先等を再生するために債権放棄等をした場合の税務上の取扱いについては、法人税基本通達9―4―2において合理的な再建計画に基づくものである等その債権放棄等について相当の理由があるときは、その債権放棄等により供与される経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとされ、その経済的利益の供与による損失の額は、税務上損金の額に算入することができます。
再生型私的整理手続によりUの手順に従い、全ての対象債権者の同意を得て策定された事業再生計画について、同通達に沿って検討するとVのとおりであり、同通達の支援額の合理性、支援者による適切な再建管理、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等のいずれも有すると考えられます。
このことを前提とすれば、再生型私的整理手続に基づき策定された事業再生計画により債権放棄等が行われた場合には、原則として、同通達にいう合理的な再建計画に基づく債権放棄等であると考えられます。
債務者である企業が債務免除等を受けた場合、法人税基本通達12-3-1(3)では、「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」が認められるときには、法人税法施行令第117条の3第3号の再生手続開始の決定に準ずる事実等に該当する旨を定めており、法人税法第59条第3項《会社更生等による債務免除等があった場合の欠損金の損金算入》の適用があることになります。
再生型私的整理手続によりUの手順に従って事業再生計画が策定され当該事業再生計画に基づき債務免除等を受けた場合には、同通達に沿って検討するとWのとおりであり、同通達の「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」に該当することから、原則として、法人税法第59条第3項の適用があるものと考えられます。
なお、再生型私的整理手続は、債務者の有する資産及び負債の価額の評定に関する事項等が定められていないため、法人税法施行令第24条の2第1項第1号に規定する「債務処理を行うための手続についての準則」には該当しないことから、資産の評価益又は評価損の益金算入又は損金算入の規定(法法25③、33④)の適用については、本照会の対象外としています。
所得税法第64条第2項は、保証人が保証債務を履行するために資産(棚卸資産等を除きます。)を譲渡した場合において、その履行に伴う「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」は、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入される金額を除きます。)をその譲渡があった年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすと規定されています。
再生型私的整理手続により対象債務者の主たる債務と保証人の保証債務の一体整理を行う場合において、当該手続に従って策定された事業再生計画及び保証人の保証債務に係る弁済計画に基づき、経営責任の明確化等の観点から、代表者等(注)である保証人が保証債務を履行するためにその有する資産を譲渡し、書面によりその履行に伴う求償権を放棄したときは、その求償権の放棄によっても、対象債務者がなお債務超過の状態にある限り、Xのとおり、原則として、同項に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当すると考えられます。
(注)代表者等とは、対象債務者の代表権を有する会長及び社長その他経営責任を問われる者をいいます。
(参考) 再生型私的整理手続では、原則として、経営者保証に関するガイドラインを活用する等して、主債務と保証債務の一体整理を図るよう努めるとしていますが【第三部4(7)】、保証債務の免除を受けた場合の保証人の税務上の取扱いについては、「『経営者保証に関するガイドライン』に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理」(平成26年1月16日制定)と同様になると考えられますので、本照会の対象外とします。
(1) 再生型私的整理手続の対象となる債務者は、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生ずることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難であること等の要件を満たす中小企業者であること【第三部3(1)】。
(2) 保証人が、誠実に資産を開示する者であること、反社会的勢力又はそれと関係のある者ではないこと、そのおそれもない者であること、及び弁済について誠実である等といった経営者保証に関するガイドラインの要件を満たしていること【第三部3(1)③、QA74】。
2 対象債権者
再生型私的整理手続の対象となる債権者は、対象債務者に対して金融債権を有する取引金融機関等で事業再生計画が成立した場合に権利を変更されることが予定されている債権者とされています【第一部3、第三部1(1)】。
※ 主要債権者とは、対象債務者に対する金融債権額が上位のシェアを占める対象債権者で金融債権額のシェアが最上位の者から順番に、そのシェアの合計額が50%以上に達するまで積み上げた際の単独又は複数の対象債権者をいいます【第三部2(5)】。
(1) 対象債務者が、弁護士、公認会計士、税理士、中小企業診断士等の専門家(以下「外部専門家」といいます。)と相談しつつ、第三者支援専門家を公表されたリストから選定し(複数の対象債権者が関わる場合で、対象債権者全員の同意を得たときは、リストにない専門家を第三者支援専門家として選定することも認められています。)、主要債権者に再生型私的整理手続を検討している旨を申し出るとともに、第三者支援専門家の選任について主要債権者全員から同意を得ることになります【第三部4(1)①②、QA41】。
(2) 第三者支援専門家は主要債権者の意向も踏まえて、再生支援を行うことが不相当ではないと判断した場合には、対象債務者の資産負債及び損益の状況の調査検証や事業再生計画の策定方針について支援を開始します【第三部4(1)③】。
(3) 対象債務者は、上記(2)以降、対象債権者に対して必要に応じて一時停止の要請を行います【第三部4(2)】。
(4) 対象債務者は、外部専門家からの支援を受ける等して相当の期間内に事業再生計画案を作成することになります【第三部4(3)】。事業再生計画案の内容は、対象債務者の自助努力が十分に反映されたものであるとともに、企業の概況、財務状況の推移、保証人がいる場合はその資産と負債の状況、実態貸借対照表、経営が困難になった原因、事業再生のための具体的施策、今後の事業及び財務状況の見通し、資金繰り計画及び債権放棄等の金融支援を含むものとされています【第三部4(4)①イ】。
また、経営責任及び株主責任の明確化を図る内容であること【第三部4(4)①ホ】、加えて、破産手続で保障されるべき清算価値よりも多くの回収を得られる見込みがある等、対象債権者にとって経済合理性のある内容であることが求められます【第三部4(4)①ト】。
更に、事業再生計画案における権利関係の調整は、債権者間で平等であることを旨とし、債権者間の負担割合については、衡平性の観点から、個別に検討することとされています【第三部4(4)①へ】。
なお、対象債権者は、主たる債務と保証債務を一体整理する場合、保証債務の履行請求額の経済合理性について、主たる債務と保証債務を一体として判断することになります【QA74、経営者保証GL7項(3)③】。
(5) 第三者支援専門家は、対象債務者及び対象債権者から独立して公平な立場で、事業再生計画案の内容の相当性、実行可能性及び金融支援の必要性等について調査し、調査報告書を作成の上、対象債権者に提出し報告することになります【第三部4(5)①②】。
(6) 対象債務者により事業再生計画案が作成された後、原則として全ての対象債権者による債権者会議を開催し、第三者支援専門家は、当該債権者会議で対象債権者全員に対し事業再生計画案の調査結果を報告するとともに、事業再生計画案の説明、質疑応答及び意見交換を行うこととなります【第三部4(6)①】。
そして、全ての対象債権者が、事業再生計画案に同意し、その旨を文書等により確認した時点で事業再生計画は成立し、対象債務者は事業再生計画を実行する義務を負担し、対象債権者の権利は、成立した事業再生計画の定めにより変更され、対象債権者は、事業再生計画の定めに従った債権放棄等をすることとなります【第三部4(6)④】。
なお、経営者保証に関するガイドラインを活用して対象債務者の主たる債務と保証人の保証債務の一体整理を行う場合の保証債務に係る弁済計画は、主たる債務に係る事業再生計画と併せて、上記(1)から(6)までの手順に準じて、第三者支援専門家が内容の相当性及び実行可能性等について調査・報告をして、全ての対象債権者の同意を得ることとなります。そして、策定された対象債務者の事業再生計画及び保証人の弁済計画に基づき、対象債務者による債務の弁済及び保証人による保証債務に基づく弁済が行われた後、保証人が保証債務の履行により取得した求償権を放棄し、対象債権者は、対象債務者に残存する債務を免除し、保証人に残存する保証債務を免除することとなります【QA92】。
(7) 外部専門家や主要債権者は、事業再生計画成立後の対象債務者の事業再生計画達成状況等について定期的にモニタリングを行うこととされ、モニタリング期間は原則として事業再生計画が成立してから概ね3事業年度を目途とし、対象債務者の状況や事業再生計画の内容等を勘案して、必要な期間が定められます。また、主要債権者は、対象債務者の事業再生計画達成状況等を踏まえ、その後のモニタリングの要否を判断することとなります【第三部4(8)①】。
(1) 対象債務者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか
再生型私的整理手続においては、上記U2のとおり、対象債権者は、対象債務者に対して金融債権を有する取引金融機関等であり、事業再生計画が成立した場合に権利を変更されることが予定されている債権者とされています。
したがって、支援を受けることとなる対象債務者は、対象債権者である金融機関と取引関係及び資金関係等の事業関連性を有していることから「子会社等」に該当すると考えます。
(2) 子会社等は経営危機に陥っているか
再生型私的整理手続における対象債務者は、上記U1(1)のとおり、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難な状況にあります。
また、再生型私的整理手続の対象債務者の要件に該当することなどを含む事業再生計画案の内容の相当性等については、独立して公平な立場で第三者支援専門家が調査を行い、調査結果を対象債権者に報告を行うこととなります【第三部4(5)、(6)①】。
したがって、対象債務者は経営危機に陥っていると考えます。
(3) 支援者にとって損失負担等を行う相当な理由はあるか
再生型私的整理手続における債権放棄等を含む事業再生計画案の内容は、上記U4(4)のとおり、破産手続で保障されるべき清算価値よりも多くの回収を得られる見込みがある等、対象債権者にとって経済合理性のある内容であることが要件とされています。
また、第三者支援専門家は、事業再生計画案の内容が破産手続で保障されるべき清算価値と比較した場合の経済合理性があるかについて調査して、その結果について対象債権者に報告し、対象債権者は当該経済合理性について判断した上で合意することになります。
したがって、金融機関等の対象債権者にとっても経済合理性があることから、債権放棄等を行う相当な理由があると考えられます。
(1) 損失負担額(支援額)の合理性
再生型私的整理手続における事業再生計画案は、上記U4(4)のとおり、自助努力が十分に反映されたものであるとともに、役員報酬の削減、経営者貸付の債権放棄及び私財提供等の経営責任の明確化を図る内容とすること【QA23】及び支配株主の権利を消滅させる方法や減増資により既存株主の割合的地位を減少又は消滅させる方法等により株主責任の明確化を図る内容とすること【QA24】が求められます。
さらに、事業再生計画の内容について第三者支援専門家が金融支援の必要性や内容の相当性等について調査し、全ての対象債権者による債権者会議で対象債権者に調査結果の報告を行い、最終的に全ての対象債権者が同意し、その旨を文書等により確認した時点で事業再生計画は成立することとなり、これらの手続により過剰支援とならないよう損失負担額の合理性は十分に検証されるものとなっています。
(2) 再建管理等の有無
再生型私的整理手続においては、上記U4(7)のとおり、外部専門家や主要債権者は、事業再生計画成立後、対象債務者の事業再生計画達成状況等について、毎四半期、半期など定期的に収益の状況、財務の状況等の報告を受けることで定期的にモニタリングを行うこととされており【QA76】、再建管理を実施することになっています。
また、主要債権者はモニタリングの結果、事業再生計画と実績の乖離が大きい場合は、当該乖離の真因分析を行い、対象債務者及び主要債権者が、当該分析を踏まえて、事業再生計画の変更や抜本再建、法的整理手続及び廃業等への移行を行うこととされており【第三部4(8)】、事業再生計画の期間中、主要債権者は、対象債務者を管理することとなるため、事業再生計画に対する再建管理は行われているものと考えられます。
(3) 支援者の範囲の相当性
再生型私的整理手続は、上記U2のとおり、対象債務者に対して金融債権を有する全ての取引金融機関等の対象債権者が関わることを原則とし、例外的に対象債権者から少額の債権者を除く場合においても債権者間の衝平を害さないことが要件とされています【QA73】。また、対象債務者が策定した事業再生計画案について、最終的に全ての対象債権者の同意を得て、その旨を文書等により確認した時点で事業再生計画が成立することから、支援者の範囲の相当性は担保されているものと考えます。
(4) 負担割合(支援割合)の合理性
再生型私的整理手続は、上記U4(4)のとおり、事業再生計画案における権利関係の調整は、債権者間で平等であることを旨とし、債権者間の負担割合に関しては、衡平性の観点から個別に検討することとされています。具体的には、対象債務者に対する関与度合、取引状況等を考慮し、実質的に衡平性が確保されているかを個別に検討されることとなりますが、第三者支援専門家が金融支援の衡平性について調査し、対象債権者に調査結果の報告を行い、最終的には、対象債権者との協議を踏まえ、全ての対象債権者の合意により成立することから、負担割合は合理的に決定されているものと考えます。
再生型私的整理手続により対象債務者は、上記U3のとおり、再生型私的整理手続を遂行する適格性を有する第三者支援専門家を選任し、当該第三者支援専門家が主要債権者の意向等を踏まえて、対象債務者の事業再生計画策定の支援等を行うこととなります。
第三者支援専門家は、作成された事業再生計画案について、対象債務者及び対象債権者から独立して公平な立場で、事業再生計画案の実行可能性や支援額の適正性等について調査を行い、その結果を対象債権者に報告し、対象債権者の合意形成を図り、最終的に全ての対象債権者が事業再生計画案に同意することで成立することになります。このような段階的手続が踏まれることにより、計画の適正性・実行可能性や支援額の合理性について担保されているものと考えます。
このように再生型私的整理手続によって策定される事業再生計画に基づく債権放棄等は、恣意性が排除され、その内容の合理性も担保されていると考えられることから、法人税基本通達12―3―1(3)の「債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」に該当するものと考えます。
したがって、法人税法施行令第117条の3第3号の再生手続開始の決定に準ずる事実に該当し、法人税法第59条第3項の適用があるものと考えます。
(1) その代表者等の求償権は、代表者等と金融機関等他の債権者との関係からみて、他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情により、放棄せざるを得ない状況にあったと認められること。
(2) その法人は、求償権を放棄(債務免除)することによっても、なお債務超過の状況にあること。
以上