別紙

2018年(平成30年)5月24日

国税庁 課税部 審理室長
山上 淳一 殿

日本弁護士連合会
会長 菊地 裕太郎

日本税理士会連合会
会長 神津 信一

Ⅰ 事前照会の趣旨

1 特定調停スキーム(廃業支援型)の概要

 日本弁護士連合会は、中小企業(個人事業者を含みます。以下同じ。)に対する円滑な廃業支援の必要性が高まっていることから、平成29年1月27日に、特定調停スキームを利用した廃業支援策(以下「特定調停スキーム(廃業支援型)」といいます。)の利用のため、「事業者の廃業・清算を支援する手法としての特定調停スキーム利用の手引き」(以下「本手引き」といいます。)を策定し公表しました。
 これまでも中小企業金融円滑化法終了後の中小企業再生のために特定調停を利用する手引きとして、平成25年12月に「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引き」(以下「特定調停スキーム利用の手引き」といいます。)を、平成26年12月に「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引き」を、それぞれ策定し公表してきたところであり、本手引きは、中小企業が廃業する際において特定調停を利用し、かつ保証人の保証債務については経営者保証に関するガイドライン(以下「経営者保証GL」といいます。)に則った処理を行うことを原則とするもので、これまでの手引きではカバーしていない特定調停を利用した廃業支援に関する手引きです。
 特定調停スキーム(廃業支援型)の実際の運用における税務面の課題については、日本税理士会連合会も、当該スキームの担い手として、検討に参加しました。
 具体的には、特定調停スキーム(廃業支援型)は、金融機関に過大な債務を負っている事業者(法人及び個人をいいます。以下同じ。)の主たる債務及び保証人の保証債務を一体として、準則型私的整理手続の一つである特定調停手続及び保証債務につき経営者保証GLを利用して、債務免除を含めた債務の抜本的な整理を図るものであり、事業の継続が困難な事業者を円滑に廃業・清算させて、経営者や保証人の新たな事業活動の実施等を図る制度です(本手引き第1 1)。

(※)特定調停とは、特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(以下「特定調停法」といいます。)に規定された債務の返済が困難な債務者の経済的再生に資するため、その債務者が負担する金銭債務等に関する利害の調整を目的とする民事調停をいいます(特定調停法第1条)。

2 特定調停スキーム(廃業支援型)の必要性

 中小企業を取り巻く事業環境は一部を除いて好転せず、事業規模に比べて過大な金融負債を抱えている中小企業はまだまだ多く、過大負債を残したまま廃業に至ってしまう中小企業が今後はさらに多くなると想定されます。
 このような過大な負債を抱えながら廃業を決断せざるを得ない中小企業が取るべき選択肢としては、破産手続だけではなく、その事業資産を有効に譲渡するなどしながら円滑に廃業手続を進めていく手続が必要です。従業員の再雇用先を斡旋し、取引先に対する最低限の取引終了対応を行うなどによって、利害関係人の損害を最小限にしながら廃業に至る方法として、特定調停を利用する方法が有効と考えられます。

3 照会の要旨

 特定調停スキーム(廃業支援型)としてⅡ4に記載した手順(以下「本手順」といいます。)に従い、特定調停において成立した調停条項に基づき債権放棄が行われた場合、債権者及び債務者における税務上の取扱いについては、次のイ及びロのとおりで問題がないか、ご照会申しあげます。
 また、特定調停スキーム(廃業支援型)では、原則として、保証人の保証債務の整理を同時に進めることを想定しており、物上保証人が存在する場面も想定されますので、その際に保証人や物上保証人がその個人資産を譲渡等した場合、当該保証人や物上保証人の税務上の取扱いについても、次のハのとおりで問題がないか、ご照会申しあげます。
 なお、法人税基本通達9-6-1(3)ロ、所得税法第44条の2第1項及び同法第64条第2項に沿って検討した項目及び内容は、Ⅲのとおりです。

イ 債権放棄をした債権者(金融機関等)の税務上の取扱い
 特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債権放棄の額は、法人税基本通達9-6-1(3)ロに沿って検討すると、Ⅲ1に記載のとおり、同通達に定める「行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものに準ずるものにより切り捨てられることとなった部分の金額」に該当すると考えられますので、貸倒れとして損金の額に算入されると考えられます。
ロ 債務免除を受けた債務者(個人事業者)の税務上の取扱い
 特定調停スキーム(廃業支援型)においては、対象事業者は法人に限られず個人事業者も対象としています(本手引き第1 5(1)ア)。
 特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく個人事業者の債務整理は、所得税法第44条の2第1項に沿って検討すると、Ⅲ2に記載のとおり、同項に定める「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に該当すると考えられますので、当該調停条項に基づき債務免除を受けた対象債務者に係る債務免除益については、同項の規定により、各種所得の計算上、総収入金額に算入しないものと考えられます。
(注)債務免除を受けた事業者が法人である場合の税務上の取扱いについては、「参考」に記載のとおりと考えますので、本照会の対象外とします。
ハ 保証人が保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の税務上の取扱い
 特定調停スキーム(廃業支援型)では、保証人が個人資産を譲渡し、その譲渡代金をもって保証債務を履行することがあります。あるいは、保証人の個人資産を代物弁済することによって保証債務を履行することがあります。(注)
 特定調停スキーム(廃業支援型)では、対象債務者は債務超過である場合又は債務超過となることが確実と見込まれる場合の事業者で、かつ、廃業・清算を前提としています。
 したがって、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づき、保証人が保証債務を履行するためにその有する資産を譲渡し、保証債務の履行により取得した求償権を書面により放棄した場合は、所得税法第64条第2項に沿って検討すると、Ⅲ3に記載のとおり、同項に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当すると考えられます。
(注)保証債務の履行に当てはまる主なものは、保証人、連帯保証人として債務を弁済した場合、連帯債務者として他の連帯債務者の債務を弁済した場合、身元保証人として債務を弁済した場合、他人の債務を担保するために、抵当権などを設定した人がその債務を弁済したり、抵当権などを実行された場合になります。そこで、本照会における保証人には、上記からの場合の保証人・物上保証人が含まれることを前提としています。
(参考)
 特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債権放棄は、「特定調停スキーム利用の手引き」における特定調停スキームの場合と同様に、恣意性が排除され、その内容も合理的なものと考えられることから、当該調停条項に基づき債務免除を受けた対象債務者(法人)における法人税法第59条第2項の適用については、「特定調停スキームに基づき策定された再建計画により債権放棄が行われた場合の税務上の取扱いについて」(平成26年6月25日照会回答)と同様に取り扱われるものと考えられますので、本照会の対象外とします。
 また、特定調停スキーム(廃業支援型)では、事業者の主たる債務及び保証人の保証債務を一体として整理することを原則としていますが、保証債務の免除を受けた場合の保証人の税務上の取扱いについては、「『経営者保証に関するガイドライン』に基づく保証債務の整理に係る課税関係の整理」(平成26年1月16日制定)と同様になると考えられますので、本照会の対象外とします。

Ⅱ 照会に係る取引等の事実関係(特定調停スキーム(廃業支援型)の概要)

1 対象となり得る事業者(主たる債務者)及び保証人

 特定調停スキーム(廃業支援型)では、事業者(主たる債務者)の債務整理と保証人の保証債務の整理を図る一体型を原則としており、対象となり得る事業者及び保証人は、次の要件を備える者としています。
(1) 主たる債務者である事業者が、過大な債務を負い、既に発生している債務(既存債務)を弁済することができないこと又は近い将来において既存債務を弁済することができないことが確実と見込まれること(事業者(主たる債務者)が法人の場合は債務超過である場合又は近い将来において債務超過となることが確実と見込まれる場合を含みます。)(本手引き第1 5(1)ア)。
(注)上記の「既に発生している債務(既存債務)を弁済することができない」とは、破産手続開始の原因となる「支払不能」(破産法第2条第11項、第15条、第16条、第30条第1項)と同様の状態にあることを前提としており、また、「近い将来において既存債務を弁済することができないことが確実と見込まれる」とは、民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」(民事再生法第21条第1項、第33条第1項)と同様の状態にあることを前提としています。
(2) 保証人については、経営者保証GLの要件を充足すること(例えば、弁済について誠実であり、財産状況等を適時適切に開示している(経営者保証GL 第3項(3))とか、免責不許可事由のおそれがない(経営者保証GL 7項(1)二)などの要件を満たすことが必要です。)(本手引き第1 5(1)イ)。

2 対象債権者

 対象債権者は、事業者(主たる債務者)に対して金融債権を有する金融機関(信用保証協会を含みます。以下同じ。)及び保証人に対して保証債権を有する金融機関です。ただし、事業者(主たる債務者)又は保証人の弁済計画の履行に重大な影響を及ぼす恐れのある債権者については、金融債権を有する債権者以外でも対象債権者に含めることができます(本手引き第1 5(2))。

3 第三者機関

 特定調停においては、中立公正な第三者的立場から双方の意向を確認しながら、弁済計画案や調停条項案等を検討するために、事案の性質に応じて必要な法律、税務、金融、企業の財務、資産の評価等に関する専門的な知識経験を有する廃業・清算に精通した調停委員が選任されます(特定調停法第8条)。この調停委員を速やかに選任してもらう必要があることから、地方裁判所本庁に併置された簡易裁判所が管轄裁判所となっています(本手引き第2 4(2))。

4 特定調停スキーム(廃業支援型)に係る債務整理の手順

(1) 事業者(主たる債務者)及び保証人から委任を受けた弁護士(以下「本弁護士」といいます。)は、税理士、公認会計士等の専門家(以下「専門家」といいます。)の協力を得て、まず、事業者(主たる債務者)が過大債務を負っていることの確認のほか、当該事業者の経営改善や事業売却の可能性が低く、早期の事業廃止以外に方法がないことを十分に確認します(本手引き第2 2(1))。
(2) 本弁護士は、専門家の協力を得て、将来の清算時における事業者(主たる債務者)の主たる債務及び保証人の保証債務の回収見込額と現時点において清算した場合の事業者の主たる債務の弁済計画及び保証債務の弁済計画をそれぞれ作成します(本手引き第2 3(1))。
(3) 本弁護士は、金融機関等に事業廃止の方針や弁済計画案等について説明し、必要があれば弁済計画案を修正するなど、金融機関等と十分に意見交換を行い弁済計画案に対する同意の見込みを得ます(本手引き第2 3(2)~(6))。
(4) 本弁護士は、弁済計画案に対する同意の見込みを得た後、調停条項案を作成し、金融機関等に対して特定調停についての説明と調停条項案に対する同意の見込みを得ます(本手引き第2 3(7))。ここで、事業者(主たる債務者)の主たる債務及び保証人の保証債務に係る債権放棄額について同意の見込みを得ることとなります。
(5) 事業者(主たる債務者)は、弁済計画案や調停条項案について金融機関等の同意の見込みが得られた後に、特定調停の申立てを行います(本手引き第2 4)。
(6) 第1回調停期日において、調停委員は、申立人及び金融機関等の意向を確認しながら、弁済計画の履行可能性や債権放棄額の合理性など、調停条項案が公平かつ妥当で経済合理性を有するものであるかを検討します(特定調停法第15条、17条、18条)。全ての金融機関等との間で調停条項案につき合意が成立し、これを調停調書に記載すると調停が成立し、裁判上の和解と同一の効力が生じます(特定調停スキーム(廃業支援型)は、弁済計画案に対する金融機関等の同意が事前に見込まれていることが前提となっていますので、1~2回の調停期日で終結することを想定しています。)(本手引き第2 5、特定調停法第22条、民事調停法第16条)。また、一部ないし全ての金融機関等が調停条項につき裁判所の決定があれば異議を述べないという段階まで達すれば、民事調停法第17条の規定により、裁判所が職権で決定をします(本手引き第2 5(1)、(3))。
(7) 調停成立(又は職権決定)後、成立した調停条項に基づき事業者(主たる債務者)による債務の弁済及び保証人による保証債務の弁済がいずれもなされたときに、金融機関等は、事業者(主たる債務者)に残存する債務の支払義務を免除し(本手引き 書式6-1の3(2))、保証人に残存する保証債務の支払義務を免除します(本手引き 書式6-1の6(3))。

5 特定調停スキーム(廃業支援型)に係る債権放棄額(債務免除額)

 特定調停スキーム(廃業支援型)に係る債権放棄額は、対象債権者にとって経済的合理性が期待できるものでなくてはなりません。そのため、事業者の主たる債務及び保証人の保証債務について、現時点においてそれぞれ破産手続が行われた場合の予想配当額よりも特定調停スキーム(廃業支援型)により清算する場合の予想配当額の方がより多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとって経済的な合理性が期待できることを確認します(本手引き第1 5(5))。
 なお、保証債務の弁済計画案の策定に当たり、保証人に残存資産を残す場合には、経営者保証GLの要件を十分に検討します(本手引き第1 1)。対象債権者は、保証債務の履行請求額の経済合理性について、主たる債務と保証債務を一体として判断します(経営者保証GL 7項(3))。
 また、調停条項案は、公平かつ妥当で経済合理性を有するものである必要があり(特定調停法第15条、第17条、第18条)、各対象債権者の債権切捨率は、基本的には一律となります。

Ⅲ 理由(照会者の求める見解となる理由)

 特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債務整理について、法人税基本通達9-6-1(3)ロ、所得税法第44条の2第1項及び同法第64条第2項に沿って検討した項目及び内容は、次のとおりです。

1 法人税基本通達9-6-1(3)ロの検討

 法人税基本通達9-6-1(3)ロでは、「行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものに準ずるものにより切り捨てられることとなった部分の金額」は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入するとされています。
 特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債権放棄は、弁済計画・調停条項の成立に至るまでの経緯、対象となる事業者(主たる債務者)及び保証人、債権放棄額について、次の事実が認められます。
(1) 民事再生法における再生計画は、再生手続開始の申立て、裁判所及び裁判所の選任する監督委員(又は個人再生委員)の監督の下で行われる財産状況等の調査手続を経た再生計画案の提出及び再生債権者の同意を経た認可決定により成立する。この点、特定調停スキーム(廃業支援型)による調停条項は、専門家の支援の下に調停条項案を作成し、対象債権者の同意の見込みを得た後特定調停の申立てを行い、裁判所の特定調停という手続により確定することから、民事再生法における再生計画に係る一連の手続に準じて成立するものであること(上記Ⅱの3~5)
(2) 事業者(主たる債務者)は、過大な債務を負っており、既存債務を弁済することができないこと又は近い将来において既存債務を弁済することができないことが確実と見込まれており(事業者が法人の場合は債務超過である場合又は近い将来において債務超過となることが確実と見込まれる場合を含む。)(上記Ⅱの1(1))、破産手続開始の原因となる「支払不能」(破産法第2条第11項、第15条、第16条、第30条第1項)又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」(民事再生法第21条第1項、第33条第1項)と同様の状態にあること(上記Ⅱの1(1)(注))
(3) 金融機関等が行う事業者(主たる債務者)に対する債権放棄額は、破産手続による債権の免責額よりも少なくなること(上記Ⅱの5)からすれば、破産手続による弁済額よりも多くの弁済をすること(債権の切捨額が破産手続による債権の免責額よりも少ないこと)が求められる民事再生手続(注)による債権の切捨額と同等と認められるほか、債権者間において平等又は衡平と認められるものとなること(上記Ⅱの5)
(注)破産手続による弁済額よりも少ないと見込まれる場合には、再生計画不認可決定事由の一つである「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法第174条第2項第4号)に該当する(清算価値保証原則)。
(4) 保証人は、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づき保証債務を弁済しなければならないこと(上記Ⅱの4(7))
(5) 事業者を支援する弁護士が、当該事業者について上記(2)の状態にあること、債権放棄額が上記(3)に合致した金額であること、上記(4)の保証履行を求める金額が相当であることなど、作成される調停条項案について特定調停スキーム(廃業支援型)に適合するものであることを確認すること(上記Ⅱの4)。加えて、調停委員会が、中立公正な第三者的立場から、作成された調停条項案の実行可能性や合理性等を検討すること(上記Ⅱの3、4(6)、5)
 以上のように、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債権放棄は、その手続が民事再生法における再生計画に係る一連の手続に準じており(上記(1))、対象となる事業者は破産法又は民事再生法による債務整理の対象となる者であるとともに(上記(2))、その債権放棄額も破産手続による免責額の範囲内であり(上記(3))、保証債務の履行を求める部分については債権放棄が行われず(上記(4))、また、調停条項案が専門家の支援の下に作成され、特定調停において中立公正な第三者的立場から調停委員会がその内容を確認し、これらの過程を踏まえて最終的に利害の対立する対象債権者全員の同意により調停条項が確定する(上記(1)(5))ことからすれば、当該調停条項に基づく債権放棄の額については、「行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容が債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものに準ずるものにより切り捨てられることとなった部分の金額」に該当すると認められます。
 したがって、当該調停条項に基づく債権放棄は、客観的手続により合理的になされた債権放棄という点では、法令の手続に基づく債権の消滅に準ずるものと認められ、その債権放棄の額は、同通達9-6-1(3)ロを根拠として、法人税法上、貸倒れとして損金の額に算入されることとなります。

2 所得税法第44条の2の検討

 個人事業者が債務免除を受けた場合の債務免除益については、原則として所得税法第36条第1項括弧書きに規定する「金銭以外の物又は権利その他の経済的な利益」に当たるため(所得税基本通達36-15(5))、原則として、各種所得の金額の計算上収入とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額に該当し、所得税が課税されます。
 ただし、所得税法第44条の2第1項では、「破産法に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があった場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」には、債務免除益については、各種所得の計算上、総収入金額に算入しないと規定されています。
 所得税法第44条の2第1項に規定する「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」をいうこととされています(所得税基本通達44の2-1)。
 特定調停スキーム(廃業支援型)では、上記1(2)で述べたとおり、対象となる個人事業者は、過大な債務を負い、既存債務を弁済することができないこと又は近い将来において既存債務を弁済することができないことが確実と見込まれることから(上記Ⅱ1(1))、破産手続開始の原因となる「支払不能」又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にある者とされています(上記Ⅱ1(1)(注))。したがって、民事再生手続の対象者又はそれよりも資力を喪失している者が対象となっていると認められます。
 また、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債権放棄額は、上記1(3)で述べたとおり、民事再生法による再生手続と同様に破産手続による債権の免責額よりも少なくなるように設定することとなります。
 さらに、これらのことにつき、調停条項案が専門家の支援の下に作成され、特定調停において中立公正な第三者的立場から調停委員会により確認されていることが照会の前提であることからすれば、本件ガイドラインに基づく債務免除額は、民事再生手続の対象となり得る者に対して、民事再生手続による債権の切捨額と同等の債務免除をするものと認められます。
 したがって、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づき債務免除を受けた対象債務者に係る債務免除益については、民事再生手続による債権の切捨額と同様に、同通達44の2-1に規定する「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」に該当することから、その債務免除益は、同項の規定により、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないこととなります。

3 所得税法第64条第2項の検討

 所得税法第64条第2項では、保証債務を履行するため資産(棚卸資産等を除きます。)の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除きます。)をその譲渡があった年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすと規定されています。
 所得税法第64条第2項に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」の判定について、所得税基本通達64-1では、同通達51-11から51-16までの取扱いに準ずるとされています。そして、同通達51-11は、法人税基本通達9-6-1と同様に、金銭債権である貸金等の債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れについて定めており、所得税基本通達51-11(3)ロでは、法人税基本通達9-6-1(3)ロと同様の場合、すなわち、金銭債権である貸金等が、行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものに準ずるものにより切り捨てられた場合を定めています。
 上記1のとおり、上記1(1)から(5)までに掲げる事実が認められることからすれば、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に基づく債権放棄が行われた場合は、法人税基本通達9-6-1(3)ロと同様の場合を定める、所得税基本通達51-11(3)ロの場合に該当すると認められます。
 したがって、上記のとおり、特定調停スキーム(廃業支援型)として本手順に従い、特定調停において成立した調停条項に基づく債権放棄は、法令の手続に基づく債権の消滅に準ずるものと認められることから、当該調停条項に基づき、保証人が保証債務を履行するためにその有する資産を譲渡し、保証債務の履行により取得した求償権を書面により放棄した場合には、所得税法第64条第2項に規定する「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当すると考えられます。

以上