(別紙)

平成24年10月12日

 国税庁課税部
 審理室長 住倉 毅宏 殿

環境省地球環境局
地球温暖化対策課市場メカニズム室長 奥山 祐矢

1 照会の趣旨

 気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書(以下「京都議定書」といいます。)(注1)に基づく我が国の温室効果ガスの排出削減約束を達成するための手法の一つとして、カーボン・オフセット(注2)の取組が注目されつつあります。このカーボン・オフセットの取組に際して、内国法人は、オフセット・クレジット(J-VER)制度(以下「J-VER制度」といいます。)に基づいて発行されるオフセット・クレジット(J-VER)(以下「J-VER」といいます。)を活用することが可能であり、実際にJ-VERの取引が活発化しつつあります(J-VER制度の概要は、「2 照会に係る取引等の概要」のとおり)。
 このようなJ-VERに係る取引として、内国法人が温室効果ガス排出削減等のプロジェクトを実施する事業者(以下「プロジェクト実施事業者」といいます。)からJ-VERを購入し、自らの温室効果ガス排出量のオフセット(相殺)を目的としてJ-VER制度に基づいて設置されるJ-VER登録簿システム(以下「J-VER登録簿」といいます。)における環境省無効化口座(以下「無効化口座」といいます。)に移転する場合及び他の内国法人等に売却(有償譲渡)する場合があります。これらの取引があった場合において、次に掲げる法人税及び消費税の取扱いにつき、それぞれ次のとおり解して差し支えないか、ご照会申し上げます。

  • (注1) 地球温暖化防止に向けた具体的な方針を示す国際的枠組みとして、1997年12月に京都において採択され、2005年2月に発効しています。
  • (注2) 自らの温室効果ガス排出量のうち、削減が困難な量の全部又は一部を、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減や森林の吸収等をもって埋め合わせる活動をいいます。

[照会事項]

(1) 法人税

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《内国法人がJ-VER登録簿に保有口座を有する場合》(別添1仕組み図(PDF/165KB)参照。)

1 内国法人が、J-VERを購入し、当該J-VERをJ-VER登録簿における同法人の保有口座から無効化口座に移転する場合には、当該J-VERが無効化口座に記録された日(当該J-VERの無効化口座への移転が完了した日)を含む事業年度において、原則として、当該J-VERの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金の額に算入する。
 この場合における当該J-VERの価額とは時価をいうこととなり、当該J-VERが無効化口座に記録された日に近い売買実例等を参考として適正に算定することとなる。ただし、売買実例の把握が容易でないこと等により時価の算定が困難である場合には、当該内国法人の帳簿価額を当該J-VERの価額として取り扱う。

《内国法人がJ-VER登録簿に保有口座を有しない場合》(別添2仕組み図(PDF/165KB)参照。)

2 内国法人が、J-VERを保有するオフセット・プロバイダー(注3)との間でJ-VERの購入及び無効化口座への移転についての業務委託契約を締結した場合、当該内国法人は、その契約の成立時点において当該J-VERの処分権限を有することになるため、実質的に当該J-VERの所有者となる。
 したがって、当該内国法人は、実質的に所有するJ-VERが当該業務委託契約に従ってオフセット・プロバイダーの保有口座から無効化口座へ移転された日に当該J-VERを国に対して寄附したこととなり、その移転された日を含む事業年度において、原則として、当該J-VERの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金の額に算入する。
 この場合における当該J-VERの価額についての考え方は上記1と同様である。

  • (注3) ここでいうオフセット・プロバイダーとは、J-VER登録簿における保有口座を有し、例えば、保有口座を有しない者との間で業務委託契約を締結し、その者の委託に従い、J-VERを自らの保有口座から無効化口座へ移転する業務を行う内国法人をいいます。

(2) 消費税

3 内国法人が他の内国法人にJ-VERを有償譲渡した場合には、当該取引は消費税の課税の対象となる。一方、内国法人による他の内国法人からのJ-VERの購入については課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる。

4 上記(1)2の場合、内国法人が購入したJ-VERは、業務委託契約の成立した日の属する課税期間における課税仕入れに該当し、仕入税額控除の対象となる。

2 照会に係る取引等の概要

(1) J-VER制度の概要

(イ) 京都議定書に基づく温室効果ガスの排出削減
 京都議定書においては、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出削減に関して、先進国に対して法的拘束力のある数値約束を課し、その全体で温室効果ガスの排出量を基準年(概ね1990年)における排出量と比較して、第一約束期間(2008年から2012年までの5年間)の平均排出量について少なくとも5%削減することを定めており、我が国は基準年比で6%削減するという約束を負っています。また、我が国は長期的な目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すこととしています。
 これらの目標を達成するためには、あらゆる機会をとらえて温室効果ガス排出削減の取組を講じ、日本社会を低炭素化する必要がありますが、そのための手法の一つとして、カーボン・オフセットの取組が注目され取組実績が年々増加しつつあります。

(ロ) カーボン・オフセット
 カーボン・オフセットとは、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」(平成20年2月環境省)において「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせること」と定められています。また、平成20年3月に閣議決定された「京都議定書目標達成計画」においては、京都議定書における我が国の目標達成のための国民運動の一環として、カーボン・オフセットの取組を普及するものとされております。

(ハ) J-VER制度の仕組み
 カーボン・オフセットの取組の推進のための施策の一環として、環境省は、国内における温室効果ガス排出削減又は温室効果ガス吸収プロジェクトによる温室効果ガス排出削減及び吸収量(以下「排出削減量等」といいます。)をJ-VERとして、環境省が設置する専門家や学識経験者等から構成されるJ-VER制度認証委員会が認証し、当該J-VERをカーボン・オフセットに用いることができるJ-VER制度を設けています。
 企業等は、J-VER制度に基づきプロジェクト実施事業者等からJ-VERを購入し、これを無効化することによりカーボン・オフセットを行うことができ、これによりプロジェクト実施事業者の温室効果ガス削減の取組を支援することにもなります。こうしたカーボン・オフセットの取組は、前述のとおり「京都議定書目標達成計画」において、京都議定書における我が国の目標達成のための具体的施策の一つとされており、カーボン・オフセットを行う企業等は、J-VERをプロジェクト実施事業者から購入し、これを国に移転(無償譲渡)することで、我が国の京都議定書約束達成に実質的に貢献していることになります。また、J-VERは、京都クレジットメカニズムを活用したクレジット及び国内クレジットと同様に、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号)に基づく算定・報告・公表制度(注4)における特定排出者が公表する温室効果ガス排出量の調整に用いることができます。

  • (注4) 温室効果ガスを一定量以上排出する者(特定排出者)に温室効果ガス排出量の算定・国への報告を義務付け、国が報告されたデータを集計・公表する制度をいいます。

(ニ) J-VER制度の特徴
 J-VERは、温室効果ガス排出削減量等がクレジットとして市場を流通し、カーボン・オフセット取引を安心して行えるよう、信頼性の高い制度として設計され、次のような特徴を有しています。

  • 1 国際標準化機構(ISO)の温室効果ガスに係る規格に則った信頼性の高い検証機関による審査が行われ、その審査結果を踏まえて、J-VER制度認証委員会が、温室効果ガス排出削減等のプロジェクトの認証を行うことにより、排出削減量等に応じたJ-VERが発行されます。
  • 2 J-VERは、環境省が管理するJ-VER登録簿により電子的に管理されており、その全てについて1トン単位の識別番号が割り振られ、その発行、保有、無効化等の各種取引が記録・管理されています。
  • 3 J-VER登録簿では、環境省の承認を受けてJ-VERを保有・取引する民間事業者等用の保有口座とカーボン・オフセットに使用する際にJ-VERを無効化するための無効化口座が設置されています。
  • 4 プロジェクト実施事業者が排出削減量等の認証を受けると、プロジェクト実施事業者の保有口座にJ-VERの識別番号が記載されます。
  • 5 別の民間事業者等がプロジェクト実施事業者から当該J-VERを購入した場合には、プロジェクト実施事業者の保有口座から当該J-VERの識別番号が削除され、同じ番号が当該J-VERを購入した民間事業者等(以下「J-VER購入者」といいます。)の保有口座に記録されることになります。
  • 6 J-VER購入者がJ-VERを用いてカーボン・オフセットを行ったと認められるためには、無効化口座に移転することが必要となります(保有口座にクレジットを保有しているだけではカーボン・オフセット等に用いられたとは認められません。)。

(2) J-VERの無効化(移転)手続について
 プロジェクト実施事業者等が保有するJ-VERをJ-VER登録簿内において当該プロジェクト実施事業者等の保有口座からJ-VER購入者の保有口座に移転する場合は、移転元となるプロジェクト実施事業者等がJ-VER登録簿における操作を行い、当該移転を記録することとなります。
 また、カーボン・オフセットに用いるためにJ-VERを無効化する場合には、移転元となるJ-VER購入者の保有口座から移転対象となるJ-VERの識別番号が削除されるとともに、同じ番号が移転先となる無効化口座に記録されることから、無効化されたJ-VERは他の取引には使用できなくなります。したがって、無効化口座に移転されたことをもって、カーボン・オフセットに使用されることが確定され、京都議定書における我が国の目標達成に実質的に貢献することとなります。

(3) J-VERの資産性
 平成21年2月24日国税庁文書回答「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて」(以下「京都メカニズム文書回答」といいます。)及び平成22年3月26日国税庁文書回答「国内クレジットの取引に係る法人税の取扱いについて」(以下「国内クレジット文書回答」といいます。)では、それぞれの制度におけるクレジットについて、資産性があるものと整理されています。
 本件のJ‐VERについて、京都メカニズムを活用したクレジット及び国内クレジットにおける資産性の判断と同様の検討をすると、次のことから、その性格は京都議定書約束達成に実質的に貢献できるよう制度設計され、J-VER制度認証委員会による認証を経て発行された後、事業者間を一定の価格により流通することが想定されている京都クレジットや国内クレジットに極めて類似しており、資産性を有するものと解されます。

  • 1 J‐VER制度は、プロジェクトによる排出削減量等をクレジット化(J‐VER)して取引の対象とし、企業等がプロジェクト実施事業者等からJ-VERを購入し、これを国に移転することによりカーボン・オフセットを推進する制度として設計されていること。また、「京都議定書目標達成計画」において、京都議定書における我が国の目標達成のための具体的施策として、環境省が設けた制度であること。更に、手続面においても、内国法人がJ‐VER登録簿上に保有口座を開設する場合やJ‐VERを自らの保有口座から他(政府及び民間)の口座に移転する場合の手続等を定め、J‐VER取引の安定性を担保していること。〔法的安定性、流通性の確保〕
  • 2 国際標準化機構(ISO)の温室効果ガスに係る規格に則った信頼性の高い検証機関による審査が行われ、その審査結果を踏まえて、J-VER制度認証委員会が認証を行うことにより、J‐VER発行に係る厳格性・透明性が確保されていること。〔恣意性の排除(客観性の確保)〕
  • 3 プロジェクト実施事業者とJ‐VER購入者との間で金銭等を介して取引の対象とされ、財産的価値を有するものとして移転することが可能であること。〔取引可能性〕

(4) J-VERの会計上の取扱いについて
 企業会計基準委員会による「実務対応報告第15号 排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(最終改正平成21年6月23日)においては、「京都メカニズム以外のクレジットについても、会計上、その性格が類似していることから、本実務対応報告の考え方を斟酌し、会計処理を行うものとする。」とされています。
 これに基づけば、J-VERを無効化目的で購入する場合は、「無形固定資産」又は「投資その他の資産」として、転売を目的として購入する場合は、「棚卸資産」として計上し、無効化時にはこれを費用として処理(原則として「販売費及び一般管理費」で計上)することになります。

3 照会者の求める見解となることの理由

[法人税]

(1) 照会事項1について
 J-VER制度の下で、内国法人が無効化を目的としてJ-VERを購入し、当該J-VERをJ-VER登録簿における当該内国法人の保有口座から無効化口座に移転する場合には、基本的には次の1から5までのことが認められますので、当該J-VERの無効化口座への無償移転は、原則として、法人税法第37条第7項に規定する「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当します。また、その相手先である無効化口座が国(環境省)に帰属するものであることから、当該J-VERの価額に相当する金額を法人税法第37条第3項第1号に規定する「国等に対する寄附金」として、その支出があったと認められる日、具体的には当該J-VERが無効化口座に記録された日(当該J-VERの無効化口座への移転が完了した日)を含む事業年度において損金算入することが相当であると考えられます。

  • 1 J-VERは資産性を有するものであること
  • 2 J-VERは我が国の京都議定書に基づく温室効果ガスの削減目標達成に寄与するため政府にとって実質的価値を有するものであること
  • 3 内国法人から政府へのJ-VERの無償移転(具体的にはJ-VER登録簿における当該内国法人の保有口座から無効化口座への移転)が条約や法律等に基づき課せられた義務ではなくあくまで当該内国法人の任意に行われる我が国の取組への貢献であること
  • 4 内国法人の事業と直接の関係がなく、かつ、経済的に裨益するものではないこと
  • 5 無償譲渡であり対価性がなく内国法人から我が国への資産の贈与と認められること

 ところで、この場合のJ-VERの価額は、売買実例等を参考として適正に時価を算定する必要がありますが、J-VERの無効化口座に対する無償移転を行う内国法人においては、現状において我が国にJ-VERの取引市場が形成されておらず、第三者間で行われる売買実例等の指標を把握することが容易ではないことも考えられます。このような場合であっても、J-VERの無効化口座に対する無償移転が国等に対する寄附金として損金算入されることを考えると、内国法人がこの無償移転を行うに当たって、売買実例の把握が容易でないこと等により時価の算定が困難である場合には、J-VERの帳簿価額をJ-VERの価額とみて処理することとしても課税上の弊害は特段生じないものと考えられます。
 なお、内国法人が、仮に転売を目的としてJ-VERを購入し、これを他の者に売却(有償譲渡)した場合には、原則として、会計処理と同様に棚卸資産の譲渡として扱い、その売却により生じた損益の額を、その確定した日を含む事業年度の損金又は益金の額に算入することが相当であると考えられます。

(2) 照会事項2について
 平成23年3月24日国税庁文書回答「カーボン・オフセットを目的とした京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて」と同様に、J-VERを活用したカーボン・オフセットの取組においては、オフセット・プロバイダーは、業務委託契約に基づく内国法人からの指示に従い、契約の対象となったJ-VERを無効化口座に移転するものであり、当該業務委託契約成立以降、当該J-VERに対する処分権限は当該内国法人が有することとなるため、当該内国法人が当該J-VERの所有者といえます。
 したがって、その業務委託契約に従ってオフセット・プロバイダーの保有口座から無効化口座へ移転された日に、内国法人が当該J-VERを国に対して寄附したこととなり、その移転された日を含む事業年度において、原則として、当該J-VERの価額に相当する金額を国等に対する寄附金の額として損金に算入することになると考えられます。

[消費税]

(3) 照会事項3について
 消費税法第2条第1項第8号及び第12号に規定する「資産」とは、取引の対象となる一切の資産をいい、棚卸資産又は固定資産のような有形資産のほか、権利その他の無形資産が含まれることとされており(消基通5-1-3)、上記2(3)のとおり、J-VERは資産性を有するものであることから、これに該当すると解されます。
 また、J-VERの譲渡が国内で行われたかどうかの判定は、その譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地で判定することとなります(消令61十)ので、内国法人が他の内国法人にJ-VERを譲渡した場合、当該取引は、消費税法第4条第1項に規定する「国内において事業者が行った資産の譲渡等」に該当して消費税の課税の対象になり、一方、内国法人が他の内国法人からJ-VERを購入した場合には、国内における課税仕入れとして、仕入税額控除の対象になると解されます(消法301)。
 なお、J-VERを購入した内国法人が消費税法第30条第2項第1号の個別対応方式により仕入税額控除を行う場合には、1将来の自社使用を見込んで購入する場合は「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に、2第三者に転売する目的で購入する場合は「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に、それぞれ区分されることになると考えられます。

(4) 照会事項4について
 消費税法における「課税仕入れ」とは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることとされており、免税及び非課税となるもの、給与を対価とする役務の提供は除くこととされています(消法21十二)。
 上記(2)のとおり、J-VERを活用したカーボン・オフセットの取組においては、業務委託契約の成立により内国法人はオフセット・プロバイダーからJ-VERを購入するものであり、これは事業として他の者から資産を譲り受けるものですから、当該J-VERの購入は課税仕入れに該当します。そして、課税仕入れを行った日はJ-VERを購入した日、すなわち業務委託契約の成立した日となりますから、この日の属する課税期間における仕入税額控除の対象になると考えられます。
 なお、当該J-VERは、国に無償で譲渡するために購入するものであり、資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れに該当するものですから、消費税法第30条第2項第1号に規定する個別対応方式により仕入控除税額の計算を行う場合には、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分されると考えられます。

以上