平成26年6月
国税庁

 適正公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的として、各国税局に配置されている国税査察官は、厳正な査察調査に基づき、悪質な脱税者に対する刑事責任の追及を行っています。
 今般、平成25年度の査察調査の結果がまとまりましたので、その概要を報告します。

1 着手・処理・告発件数、告発率の状況

 平成25年度において査察に着手した件数は、185件でした。

 平成25年度以前に着手した査察事案について、平成25年度中に処理(検察庁への告発の可否を最終的に判断)した件数は185件、そのうち検察庁に告発した件数は118件であり、告発率は63.8%となりました。

年度 平成 22 23 24 25
項目 21
着手件数
213 196 195 190 185
処理件数(A) 210 216 189 191 185
  告発件数(B) 149 156 117 129 118
告発率(B/A)
71.0 72.2 61.9 67.5 63.8

2 脱税額の状況

 平成25年度に処理した査察事案に係る脱税額は総額で145億円、そのうち告発分は117億円となりました。

 告発した事案1件当たりの脱税額は9,900万円でした。

 告発した事案のうち、脱税額が3億円以上のものは4件、うち5億円以上のものは2件でした。

年度 平成 22 23 24 25
項目 21
脱税額 総額 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
29,026 24,819 19,221 20,479 14,458
同上1件当たり 138 115 102 107 78
告発分 25,475 21,315 15,686 17,466 11,731
同上1件当たり 171 137 134 135 99

(注) 脱税額には加算税額を含む。

脱税額

1件当たりの脱税額

(参考)大口事案の推移

年度 平成 22 23 24 25
項目 21
告発件数
149 156 117 129 118
  うち脱税額が3億円以上 17 15 10 11 4
うち脱税額が5億円以上 6 6 3 3 2

(注) 脱税額には加算税額を含む。

3 税目別告発事案の推移

 平成25年度においても、従来どおり、所得税、法人税事案に取り組むとともに、相続税、消費税、源泉所得税事案についても積極的に取り組みました。

(1) 税目別の告発件数

年度 平成21 22 23 24 25
区分 件数 割合 件数 割合 件数 割合 件数 割合 件数 割合
所得税
36 24 36 23 35 30 22 17 18 15
法人税 84 57 90 57 64 55 79 61 64 54
相続税 6 4 9 6 6 5 10 8 6 5
消費税 内 10   内 8   内 6   内 5   内 8  
18 12 19 12 8 7 12 9 16 14
源泉所得税 5 3 1 1 4 3 6 5 14 12
贈与税 - - 1 1 - - - - - -
合計 149 100 156 100 117 100 129 100 118 100

(注) 消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)の告発件数である。

(2) 税目別の脱税額

年度 平成21 22 23 24 25
区分 脱税額 割合 脱税額 割合 脱税額 割合 脱税額 割合 脱税額 割合
所得税 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
5,375 21 3,637 17 4,111 26 2,889 17 2,027 17
法人税 15,205 60 10,113 47 7,923 51 10,074 58 5,354 46
相続税 1,915 7 5,483 26 2,581 16 2,249 13 1,923 16
消費税 内 1,270   内 723   内 513   内 740   内 298  
1,953 8 1,553 7 727 5 1,479 8 911 8
源泉所得税 1,027 4 144 1 344 2 775 4 1,516 13
贈与税 - - 385 2 - - - - - -
合計 25,475 100 21,315 100 15,686 100 17,466 100 11,731 100

(注1) 脱税額には加算税額を含む。
(注2) 消費税の内書は消費税受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む)の脱税額である。

4 告発事件の概要

 平成25年度に告発した査察事案で多かった業種・取引は、「クラブ・バー」、「不動産業」、「建設業」、「情報提供サービス」、「保険業」でした。

 脱税の手段・方法としては、売上除外や架空の原価・経費の計上が多くみられたほか、顧客から受領した飲食代金に係る消費税について、申告書を一切提出しない方法で不正に納付を免れていた事例もありました。

 脱税によって得た不正資金は、現金や預貯金、有価証券として留保されていたほか、高級外車や別荘の購入、遊興費、FX取引等の投資に充てられていた例も見られました。

 脱税によって得た不正資金の隠匿事例としては、床下貯蔵庫に置かれた段ボール内の金庫に現金を隠していたものなどがありました。

(1) 告発の多かった業種

平成23 24 25
業種 者数 業種 者数 業種 者数
建設業 9 情報提供サービス 11 クラブ・バー 12
商品・株式取引 7 クラブ・バー 11 不動産業 9
人材派遣業 7 建設業 7 建設業 5
食料卸 6 不動産業 4 情報提供サービス 5
情報提供サービス 6 医療業 4 保険業 5
運送業 5 - - 広告代理業 4
クラブ・バー 5 - - 人材派遣業 4

(注) 同一の納税者が複数の税目で告発されている場合は1者としてカウントしている。

(2) 脱税の手段・方法

 告発の多かった業種における脱税の手段・方法として、クラブ・バーではホステス報酬に係る源泉所得税について徴収していたにもかかわらず納めていなかったもの、不動産業では不動産販売に係る売上と仕入の両方を除外する方法で取引そのものを隠していたもの、建設業では関係会社に対して架空の外注費を計上していたもの、情報提供サービスでは所得を一切申告していなかったもの、保険業では架空の接待交際費を計上していたものなどが見られました。
 そのほか、
  • 相続税事案では、相続財産の一部が相続人名義で預金されていたことを奇貨として当該預金を相続財産から除外していたもの
  • 消費税事案では、
    • 顧客から受領した飲食代金に係る消費税について、申告書を一切提出せず不正に納付を免れていたもの
    • 基準期間の事業主体を偽ることで納税義務がないものと仮装し、事業に係る消費税について、申告書を一切提出せず不正に免れていたもの
    • 課税売上となる建物の売却収入を非課税売上となる土地の売却収入に仮装していたもの
    • 居住用賃貸マンションの購入に係る消費税について、実際には課税売上がないため仕入税額控除を受けることができないにもかかわらず、架空の課税売上を計上し課税売上割合を高める方法で仕入税額控除を適用させ、不正に還付を受けていたもの
    • 輸出免税売上に対応する課税仕入の消費税が還付になることを奇貨として、架空の輸出免税売上とこれに見合う架空課税仕入を計上する方法で、不正に還付を受けていたもの
  • 源泉所得税事案では、
    • 従業員に対する給料を支払手数料に仮装する方法で源泉所得税を徴収せず、これを納付していなかったもの
    • 従業員等から源泉所得税を徴収していたにもかかわらず、これを一切納付せず、海外のカジノ等のギャンブルで費消していたもの
  • 国際事案では、
    • 海外の取引先と通謀して仕入代金を水増しして送金し、水増し分をバックさせていたもの
  • 複数の納税者に脱税を持ち掛け成功報酬を得ていた、いわゆる脱税請負人関与事案では、実態のない法人に対して架空の経費を計上して所得を少なくする方法を指南していたもの
がありました。

(3) 不正資金の留保状況及び隠匿場所

 脱税によって得た不正資金については、
  • 現金
  • 海外の預金
  • 金地金、金貨
  • 別荘
などで留保されていた事例や、
  • 高級外車を購入
  • FX取引等へ投資
  • 海外のカジノで遊興し費消
していた事例がありました。
 また、脱税によって得た不正資金の隠匿場所は様々でしたが、
  • 台所の床下貯蔵庫に置かれた段ボール内の金庫
  • 寝室のベッドのマットレスの下に保管された紙袋
に現金を隠していた事例がありました。

5 査察調査の状況

 平成25年度に着手した査察事案では1事件当たり、着手日に延べ158名を動員し、45箇所を調査しました。

 平成25年度に告発した査察事案では1事件当たり、着手から告発まで8か月の調査期間を要しました。

 検察庁との連携強化を図り、悪質な脱税者に対し厳正に対応しました。

 国際取引を利用した事案に的確に対応するため、査察部の専門部署による調査支援及び租税条約等の規定に基づく外国税務当局との情報交換制度を積極的に活用しました。

 経済取引等のICT化に的確に対応するため、査察部の専門部署による調査支援及びデジタルフォレンジック用機材を活用するとともに、関係機関と連携して電子機器等の電磁的記録の証拠保全及び解析を行いました。

(1) 動員人数及び調査期間

 平成25年度に着手した査察事案では1事件当たり、着手日に延べ158名を動員し、45箇所を調査しました。
 平成25年度に告発した査察事案では1事件当たり、着手から告発まで8か月の調査期間を要しました。調査期間が1年を超えた事件は26件あり、このうち最も長いものは約2年でした。

(2) 検察庁との連携

 検察庁との間で、早期かつ綿密な連携を図り、悪質な脱税者に対して厳正に対応しました。また、検察官が強制捜査を行った上で、合同で捜査・調査を実施し真相の解明に至った事案もありました。

(3) 国際化への対応

 税務行政執行共助条約が発効するなど、我が国の情報交換ネットワークが拡充する中、国際取引を利用した事案に的確に対応するため、査察部の専門部署による調査支援及び租税条約等の規定に基づく情報交換制度を積極的に活用しました。
 平成25年度に処理した事例では、7事件延べ11回、外国税務当局に情報提供を要請し、このうち、査察官を外国税務当局に派遣して事案の概要を説明した上で要請を行ったものなどがありました。また、外国税務当局からの情報提供要請を受け、3事件について、査察官が調査を行いました。
 OECDが開催する「税と犯罪に関する会合」(Forum on Tax and Crime)等の国際会議に出席し、脱税等への対応について意見交換を行いました。

(4) ICT化への対応

 経済取引等のICT化に的確に対応するため、査察部の専門部署による調査支援及びデジタルフォレンジック用機材を活用するとともに、関係機関と連携して電子機器等の電磁的記録の証拠保全及び解析を行いました。
 また、国内捜査関係機関が参加するデジタルフォレンジック連絡会(警察庁主催)に参加し、電磁的記録の解析に必要な技術の向上等を図りました。
 平成25年度に処理した事例では、パソコンのハードディスクから消去された会計データを復元し証拠化を行い、真実の取引金額を把握したものなどがありました。

6 査察事件の一審判決の状況

 平成25年度中に一審判決が言い渡された件数は116件であり、うち115件について有罪判決が出され、実刑判決が9人に出されました。

項目 1 2     3 4 5
年度 判決件数 有罪件数 有罪率(2/1) 実刑判決人数 1件当たり犯則税額 1人当たり懲役月数 1人(社)当たり罰金額
平成 百万円 百万円
23 内12 内12 内6
150 150 100.0 15 120 15.3 23
24 内2 内2 -
120 119 99.2 3 76 13.0 16
25 内17 内17 内9
116 115 99.1 9 52 12.9 12

(注1) 表中の内書は他の犯罪との併合事件を示している。
(注2) 35は他の犯罪との併合事件を除いてカウントしている。