広報はいつの時代もいかにして分かりやすく、親しみやすいようにするかが求められ、そのために様々な工夫が試みられてきました。視覚に訴える広報用機材の一つに幻灯機(スライド映写機)があります。幻灯機は明治時代に広く普及し、全国で興行や子どもの学習教材として戦前から活用されていました。

幻灯機は映画のようにフィルムをスクリーンに投影して観賞する機械ですが、映画と異なり、静止画を投影して1コマずつ場面を変えていました。音声はなく、人が台本を読み上げて説明しました。そのため、幻灯は読み上げる職員に演技力が求められました。幻灯機用フィルムには白黒のものだけでなく、着色されたものもありました。解説台本にはそれぞれのセリフの他に情景やキャラクターの様子などコマの内容なども書かれています。さらに幻灯機が発熱するため、1コマ当り7分という映写限界時間がありました。

写真の史料は国税庁ができた昭和24(1949)年頃から、国税庁が広報として使用していた幻灯機(スライド映写機)用フィルムと解説台本です。このフィルムは「ブーブー国」と「お父さんにきくシャウプ勧告」でそれぞれ26コマと23コマあります。

このわずか数十コマのフィルムが製作、配付された背景には戦後の占領政策がありました。

当時日本を占領していた連合国軍は民主化啓蒙と広報のため、視覚教材の普及に力を入れており、連合国軍総司令部(GHQ)の民間情報教育局(CIE)から全国の図書館などに幻灯機が供与され、教育に活用されていました。

写真の幻灯機用フィルムはGHQの民間情報教育局と経済科学局(ESS)の指導と援助を受けて製作されたことが、当時の国税庁広報課が発行した「広報通信」に記載されています。これらの幻灯機用フィルムは、民間情報教育局が全国の図書館等に供与した幻灯機を活用して公開されたようです。

幻灯機用フィルムには、「ブーブー国」や「みんなのためにぼくらのために」のような小学生向けだけでなく、「確定申告書の書きかた」など大人向けにも製作されました。また昭和25年頃に作成された「お父さんにきくシャウプ勧告」や「税法はどう改正されたか」、複式簿記普及のために作成された「花子さんの複式簿記」などは、シャウプ勧告とそれに伴う税制改正を紹介したものであり当時の時代背景を色濃く反映しています。

その他にも当時の財政状況を説明する「わが国の財政」や税金の歴史を説明する「税の歴史」、「日本文化と税の変遷」など様々なバリエーションの幻灯機用フィルムが作成されました。

幻灯機用フィルムは映画よりも設備などの経費が安く、利用も比較的簡単だったようで、一種類当り600個から多い時は800個ものフィルムが生産されました(映画の場合は十数個から100個未満)。

その後広報活動は映画フィルムやVHS、DVD、動画配信など時代と共に媒体を変えて行われています。

なお、租税史料室には、幻灯機用フィルムを再生する幻灯機が所蔵されていないため、これらのフィルムを視聴することは残念ながらできません。しかしながら、広報用に作られたビデオテープとDVDが多数所蔵されており、これらを視聴することができます。

(研究調査員 菅沼 明弘)