酒税は、明治政府設立以降、地租とともに大きな財源となり、一時地租を抜き国税収入の中で首位となったこともありました。その後、所得税・法人税などの直接税のウエイトが高まり、平成19年度においては、租税収入などの合計に占める割合は2.9%(1兆5,242億円)となっています。しかし、景気の影響を受けにくく、安定した税収が見込まれることから、現在でも重要な役割を果たしています。
 酒類業界は、2,878の製造業者と16万2,861の販売業者(平成20年3月末)からなり、その大部分が中小企業により構成されています。
 酒類業を取り巻く環境は、人口減少社会の到来、国民の健康・安全性志向の高まりや生活様式の変化などに伴い、大きく変化しています。
 国税庁では、こうした社会経済情勢の変化に対応して、酒類産業全体を展望した総合的な視点から、酒類業の健全な発達のための様々な取組を行っています。
 特に最近では、事故米穀の不正規流通事件を契機に、「食の安全」に対する消費者の関心が一層高まっていることから、生産から消費まですべての段階における安全性と品質の確保を図り、消費者に安全で良質な酒類が提供できるよう様々な取組を行っています。

(1) 酒類の安全性と品質の確保への取組

 各国税局の鑑定官室では、酒造メーカーへの技術指導や市販酒類調査(酒類の安全性・品質と表示のチェック)を通じて、国内で流通している酒類の安全性と品質の確保を図っています。また、酒類の安全性と品質の確保のために必要な新しい醸造技術や分析手法に関する研究・開発など高度な技術的問題については、独立行政法人酒類総合研究所と情報交換し、連携して対応しています。
 また、国税庁では、消費者利益の保護などの観点から、酒類業者が遵守すべき表示基準を定めるほか、これらの遵守状況についての調査などを行い、酒類の表示が適正に行われるよう努めています。

[独立行政法人酒類総合研究所]

 酒類総合研究所は、明治37年に大蔵省醸造試験所として設置され、平成13年4月に国税庁醸造研究所から独立行政法人に移行し、更に、平成18年4月には、民間・大学などとの連携や人事交流を促進する観点から、非公務員型の独立行政法人となりました。酒類にかかわる我が国唯一の総合的研究機関として、酒税の適正かつ公平な課税の実現のための高度な分析・鑑定とともに、酒類に関する研究・調査や中小酒造メーカー向けの講習、消費者向けの教養講座なども行っています。詳しくは、独立行政法人酒類総合研究所ホームページhttp://www.nrib.go.jpをご覧ください。

(2) 酒類業の健全な発達に向けた取組

 酒類業の健全な発達のためには、「量から質への転換」、「消費者の視点」を踏まえた対応などが必要です。消費者の視点に立ち、良質で安全な酒類が生産され、適切な品質管理の下、消費者に適正な情報とともに提供されるよう、酒類の製造から販売までの各段階の課題に業界と行政が連携して取り組んでいくことが重要です。
 このため、国税庁では、業界動向の調査の実施や、経営指導の専門家などによる研修の実施、経営改善の成功事例や各種中小企業施策に関する情報提供などを通じて、酒類業者に対する支援を行っています。
 また、海外での日本食ブームに伴い、日本文化としての酒類等への評価が高まっていることから、酒類の輸出に関する必要な手続や諸外国の規制等に係る情報を提供するなど、輸出環境の整備を行っています。

(3) 公正な取引環境の整備

 酒類業の健全な発達のためには、公正な取引環境の整備が重要です。国税庁では、平成18年8月に従来の指針を見直し、「酒類に関する公正な取引のための指針」を定めて、その周知・啓発を通じて、公正な取引の確保に向けた酒類業者の自主的な取組を推進しています。酒類業界でも自主的に、コストオン方式による合理的な価格設定、取引条件に係る自社基準の策定などの公正な取引を推進するための取組を行っています。
 また、国税庁では、酒類の取引状況を調査し、この指針に反する取引が認められた場合には、改善指導を行い、公正取引委員会とも必要な連携を図っています。

(4) 社会的な要請への対応

 未成年者の飲酒防止をはじめとする様々な社会的要請に応えるため、酒類販売管理者の選任、酒類販売管理研修の受講及び酒類の陳列場所における表示義務の遵守について、その徹底を図っています。また、「酒類販売管理協力員」を公募・委託し、表示の遵守状況の確認を強化しています。
 更に、飲酒運転の問題をはじめとする社会的要請への対応については、酒類業界だけではなく、家庭、学校、地域社会、行政それぞれにおける取組が重要であり、関係省庁や酒類業界などとの連携・協調を図りつつ取り組んでいます。
 このほか、平成17年5月のWHO(世界保健機関)における決議を受け、国税庁では、酒類の不適切な摂取による健康や社会に与える影響の低減のための取組について、関係省庁や酒類業界と引き続き検討しています。

(5) 免許申請などの適正な処理

 酒類は高率な税が課される担税物資であることから、酒税の確実な徴収と消費者への円滑な転嫁のために、酒類等の製造及び酒類販売業については、免許制度が採用されています。
 酒類の製造及び販売業の免許事務については、制度の目的に沿って適正に運用し、免許付与手続の透明性・統一性の向上に努めています。
 また、新規免許者については、小売販売場における酒類販売管理者の選任義務など、免許業者として遵守すべき事項について適正に指導しています。

「酒類に関する公正な取引のための指針」(平成18年8月31日制定)

酒類に関する公正な取引のための指針(酒税の確保及び酒類の取引の安定化、酒類業の健全な発達)

1 近年の酒類市場

  • ⇒ ・ 経営環境の変化(人口減少社会の到来など)…>酒類全体では数量ベースでの国内市場の拡大困難
  • ・ 酒類小売業の多様化(コンビニ、スーパー、ドラッグストアなど)…>事業者間で取扱数量や取引価格に格差

2 酒類業の健全な発達に向けた課題

⇒ 「量から質への転換」、「消費者の視点」、「販売管理」、「公正取引の確保」

3 酒類業組合法第84条《酒税保全のための勧告又は命令》の適用の可能性を踏まえつつ、「酒類に関する公正な取引の在り方」、「公正取引委員会との連携方法等」を提示

⇒ 公正取引の確保に向けた自主的な取組を促進

第1 酒類に関する公正な取引の在り方(酒税保全の観点から酒類取引の在り方を提示)

1 合理的な価格の設定

  1. 1 価格は「仕入価格+販管費+利潤」となる設定が合理的
     また、酒類の特殊性から妥当なものであるべき
  2. 2 酒類の特殊性に鑑みれば、顧客誘引のための「おとり商品」として使用することは不適正な慣行であり改善していくべき
  3. 3 的確な需給見通しに基づき、適正生産を行うべき

2 取引先等の公正な取扱い

 合理的な理由がなく取引先又は販売地域によって取引価格や取引条件について差別的な取扱いをすることは、価格形成を歪める一因

3 公正な取引条件の設定

 スーパー等大きな販売力を持つ者が、自己都合返品、プライベート・ブランド商品の受領拒否、従業員等の派遣、協賛金や過大なセンターフィーの負担等の要求を一方的に行う場合、又はこれらの要求拒否を理由として不利益な取扱いをする場合は、納入業者の経営を悪化させ、製造業者の代金回収に影響し、酒税保全上の問題発生のおそれ

4 透明かつ合理的なリベート類

 透明性及び合理性を欠くリベート類は、廃止していくべき

第2 取引状況等実態調査の実施及び公正取引委員会との連携等(国税庁の対応)

1 効果的な取引状況等実態調査の実施等

  1. 1 市場への影響の大きな業者に対し重点的に調査を実施
  2. 2 改善指導を行った業者についてはフォローアップ調査を実施
  3. 3 問題取引とその指導事績は可能な限り具体的に公表し、他の業者において同様の取引が行われないよう啓発

2 酒税保全措置

  1. 1 酒類業組合法第84条第1項に規定する過当競争の有無は、第1の「酒類に関する公正な取引の在り方」を参考に判定
  2. 2 酒税保全措置が必要な事態があるときは、事態解消に必要最小限の措置

3 独占禁止法違反等への対応

 国税局長は、酒類業者の取引に関し独占禁止法に違反する事実があると思料したときは、公正取引委員会に対しその事実を報告

4 公正取引委員会との連携等

  1. 1 国税庁は公正取引委員会と流通上の諸問題について協議
  2. 2 国税局に市場問題の情報を一元的に管理する担当者を配置