税務調査により更正処分などを受けた場合に、税務署長などと納税者との見解が対立し、納税者がその処分に不服があるときは、直接、裁判所に訴訟を提起する前に、行政部内でこれを再審理する制度(不服申立制度)があります。この不服申立制度は納税者の正当な権利や利益を簡易にかつ迅速に救済するための手続であり、異議申立てと審査請求とがあります。
 処分に対して不服がある納税者は、まず異議申立てを税務署長などに行うことを原則としています。一方、審査請求は、第三者的機関として設置された国税不服審判所の長である国税不服審判所長に対して行うものです。
 更に、国税不服審判所長の裁決を経た後、なお不服があるときなどは、一般の行政事件の場合と同様、裁判所に対して訴訟を提起して司法による救済を求めることができます。

(1) 異議申立て

 異議申立ては、税務署長などが更正・決定や差押えなどの処分をした場合に、その処分に不服がある納税者が、行政庁である税務署長などに対して、その処分の取消しや変更を求める手続であり、国税に関する処分の行政争訟の第一段階です。
 近年、経済取引の広域化、国際化などにより異議申立事案が複雑化しており、事実関係の把握や法令の解釈・適用に困難を伴うものが増加しています。このような状況に対応するため、各国税局に審理課・審理官を設置し、また各種研修を通じて、審理に精通した職員を養成するなどにより、税法の正確な解釈に基づく全国統一的な執行に取り組み、納税者からの異議申立てを適正かつ迅速に処理できるよう努めています。

(2) 審査請求

 上記の異議申立てに対する税務署長などの決定に、なお不服がある納税者は、国税不服審判所長に対して審査請求を行うことができます。
 国税不服審判所は、納税者の正当な権利利益の救済を図ることを目的とし、税務署長などと審査請求人との間に立つ公正な第三者的立場で、審査請求に対する裁決を行っています。そこでは、専門的な知識と豊富な経験を持った国税審判官及び国税副審判官が、調査、審理に当たっています。
 国税不服審判所長をはじめ、東京国税不服審判所長、大阪国税不服審判所長などの枢要な役職には、裁判官や検察官の職にあった者が任用されています。また、国税審判官には、税理士などの職にあった民間の専門家も任用しています。
 国税不服審判所は、審査請求人や税務署などと早期に接触し、双方の主張を十分把握した上で、当事者双方の主張を整理した争点整理表を作成するなどして早期に争点を明確化します。その上で、争点について、双方の意見を十分に聞き、必要に応じて自ら調査を行って、納税者の正当な権利や利益を適正かつ迅速に救済することとしています。
 なお、国税不服審判所長の裁決は、税務署長などの行った処分よりも納税者に不利益になることはありません。また、裁決は、行政部内での最終判断であるため、税務署長などは、仮にこれに不服があっても訴訟を提起することはできません。

(3) 訴訟

 納税者は、国税不服審判所長の裁決を経た後、なお不服があるときなどは、裁判所に対して訴訟を提起して司法による救済を求めることができます。

国税に関する不服申立制度の概要の図

(4) 権利救済の状況

 異議申立てについては、原則3か月以内にその処理を終えるよう図っています。平成20年度における異議申立処理件数は5,313件(課税関係4,613件、徴収関係700件)で、このうち新たな事実が把握されたことなどにより納税者の主張の全部又は一部が認められた割合は約8.8%です。
 審査請求については、原則1年以内にその処理を終えるよう図っています。平成20年度における審査請求処理件数は2,814件(課税関係2,517件、徴収関係297件)で、このうち請求の全部又は一部が認められた割合は約14.7%です。
 訴訟については、平成20年度における終結件数は356件(課税関係271件、徴収関係84件、審判所関係1件)であり、このうち納税者の請求の全部又は一部が認められた割合は約10.7%となっています。
 なお、国税庁や国税不服審判所は、権利救済制度に関する納税者からの理解を得るため、不服申立て及び訴訟の概要や裁決事例などの情報を、ホームページを通じて提供しています。

異議申立ての3か月以内の処理件数割合と異議申立処理件数、審査請求の1年以内の処理件数割合と審査請求処理件数のグラフ

[参考]納税者からの苦情などへの対応

 国税庁に対しては、処分に対する不服申立てだけではなく、職員の応対や調査の仕方など税務行政全般について、納税者から不満や注文、批判、困りごとの相談などが寄せられることがあります。国税庁は、このような納税者の様々な苦情などに正面から対応することが、納税者の理解と信頼を得るためには不可欠であると考え、納税者の視点に立って迅速かつ的確な対応を図っています。また、平成13年7月からは納税者支援調整官を置き、納税者の権利、利益に影響を及ぼす処分に係る苦情について、権利救済手続を説明するなど適切に対応しています。