3. 経営相談の基本的な考え方

(1) 相談の範囲
基盤強化事業の項目にそって、実態、効果、問題点等を把握しつつ経営相談を実施することを基本とするが、基盤強化事業の項目に含まれない分野についても要望があった場合には実施する。
(2) 経営ビジョンの確立
基盤強化事業は、酒類卸売経営全般を網羅したメニューが含まれている。しかし、対象卸が経営ビジョンを描けていない場合、どのメニューをどのように実施するかを決めることが困難となる。したがって、経営相談を実施する前に対象卸の今後の経営ビジョンを把握しておく必要がある。なお、規制緩和や飲酒運転等、酒類を取り巻く状況が厳しくなっており、酒類卸売業が経営ビジョンを確立することは難しくなってきている。従って、場合によっては経営ビジョンを立てるための相談から実施する必要がある。
(3) 経営資源の不足と認識の問題
5項目すべての分野について、実施しない理由として、人材がいない、担当者のスキルが足りない、資金がない等の経営資源の不足を指摘する酒類卸売業者が多数あった。このような問題点を指摘する酒類卸売業者には二通りのケースが考えられ、ケースに応じた対応が必要である。
 一つめのケースとしては、経営基盤強化事業の効果を理解しており必要性も理解しているが、事業を実施するために新たな経営資源を投入するほどには自社の将来の姿を描けない場合である。酒類卸売業を取り巻く環境が厳しい中、リストラ等のコスト削減による事業存続を優先せざるを得ない酒類卸売業者にとっては、新たに人材、資金を投入することはきわめて困難であることが理解できる。しかし、経営基盤強化事業を実施しなければ酒類卸売業者としての競争力が強化できないことも事実である。
 このようなケースに対しては、本当に人材を採用する余裕がないか、人材を教育する時間を生み出せないのか、新たに借り入れを行わずに資金を生み出すことができないのか等を検証することが必要となる。現在の労務管理、財務管理、業務プロセスを検証し見直すことができないか検討するのである。例えば、一人当たり売上高が他社より低ければ、従業員の生産性が低いと考えられ高める余地が存在している可能性がある。業務の進め方やプロセスをチェックすることによって生産性を高めることができれば、人を採用することなしに経営基盤強化事業の対象となった経営改善策を実施する人的資源を生み出すことができるかもしれない。資金に関しても同様に、債権回収期間、在庫等をチェックし、改善することで新たな資金調達なしに事業実施のための資金を生み出すことができる可能性がある。
 二つめのケースは、経営基盤強化事業の効果を理解していない、あるいは効果がないと認識している場合である。効果がない事業に人材、資金を投入する事業者はいないから経営基盤強化事業の対象となった経営改善策の効果を理解させることが重要となる。どのような事業をどのように実施していくかは企業経営そのものであるから、事業の効果がないと経営者が判断している場合、外部から助言することの是非は議論のあるところであるが、経営相談の中ではまず、積極的に助言してみる必要がある。
図表 1 人材不足・資金不足への対応策
ケース 経営基盤強化事業の効果の理解 対応
ケース1 事業の効果を理解している。
  • 業務プロセスをチェックする等により、作業の効率化が図れないかを検討する。
  • 従業員の能力不足の場合は、教育に時間を投入できるかどうかを判断する必要があるため、人数のチェックを行う。
  • 遊んでいる資金がないか、在庫、債権回収日数等資金効率をチェックする。
  • 人材・資金調達を行った場合の経営数値をシミュレーションする。
ケース2 事業の効果を理解していない/効果がないと判断している。
  • (必要な事業については)事業の効果を説明する。
  • 具体的にどのような改善効果が見込めるのか説明する。