令和2年8月17日変更

1 酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項

(1)酒類の特性について

 灘五郷の清酒は総じて、味わいの要素の調和がとれており、後味の切れの良さを有している。その中でも貯蔵したものは、秋上がりして香味が整いまろやかさを増して飲み飽きしない酒質となる。
 また、純米吟醸酒・吟醸酒は、華やかな果実様の香りと幅のある味わいが相まって香味の調和が整うとともに、更に後味の切れの良い酒質となる。

(2)酒類の特性が酒類の産地に主として帰せられることについて

イ 自然的要因
 灘五郷は西郷・御影郷・魚崎郷・西宮郷・今津郷の総称であり、北は六甲連峰を背にし、南は大阪湾を望む東西に長い帯状の地域である。(以下、本生産基準において「灘五郷」とは、兵庫県神戸市灘区、東灘区、芦屋市、西宮市とする。)
 冬季には西からの季節風が明石海峡で収束して山添いに強く吹き抜け、山頂に当たって六甲おろしとなって吹き降りてくる。このような地形は寒造りに極めて適した気候をもたらしている。
 灘五郷の海辺に迫る山系の急斜面は、東西の10kmの間に9本の急流を集めていたことから、古くはこの水力を利用した水車精米により、高品質な白米を数多く得ることができたほか、沿岸部に接して船積みの便に恵まれたこともあって、この地域の酒造業を発展させてきた。
 また、宮水に代表される、この地域の地層を通って湧き出る地下水は、酵母の増殖に必要なクロールやカリウムなどのミネラル分を適度に含み、着色の原因となる鉄分をほとんど含まない、酒造りに適した硬水をもたらす。
 これを仕込み水として醸造することにより、強く健全な発酵を促し、味わいの要素の調和がとれ、後味の切れの良い酒質が形成されてきた。さらに、寒造りしたこのような酒質の酒を4月までに火入れし、春から夏にかけた気温の上昇によって熟成させることで、香味が整いまろやかさのある酒質になることを「秋上がり」するという。秋上がりした酒の中でも、貯蔵容器から外気温と同温度程度に冷めた清酒を加熱処理することなくそのまま出荷するものを「冷卸(ひやおろし)」といい、灘五郷では伝統的に9月以降に出荷されてきた。

ロ 人的要因
 灘五郷の清酒の特性は、丹波杜氏の影響を強く受けてきた。
 丹波杜氏とは、南部杜氏、越後杜氏とともに日本三大杜氏の一つに挙げられる酒造技術者集団であり、勤勉であると同時に、高度な醸造技術によって米の特性を引き出すとともに、灘五郷の気候や水の特性を熟知し、これを活かすことによって味わいの要素の調和がとれ、後味の切れの良さを有した秋上がりのする酒を醸してきた。
 伝統的な酒造技術を有する杜氏らが活躍する一方で、灘五郷に籍を置く蔵元には大学で発酵学や醸造学を専攻した技術者・研究者が多く在籍し、丹波杜氏の高度な醸造技術について、科学的知見による裏付けを行うとともに、より一層の向上のための技術開発を進めてきた。こうした技術者・研究者が技術交流を行う民間の組織である「灘酒研究会」もまた、灘五郷の蔵元の酒造技術向上及び人材育成に寄与してきた。
 灘酒研究会は、水部会・米部会・醸造部会・酒質部会・管理部会・編集部会の6部会制を構成して幅広い活動を続けており、「灘酒研究会会報」をはじめ、昭和44年には灘の酒造技術を集大成した「灘酒」を、昭和63年には「続・灘酒」を発行するなど、酒造技術の周知に努めてきたほか、平成22年には酒質審査委員会を発足し、「灘の生一本」の酒質を認定審査している。
 このような技術者・研究者による研究・技術開発及び灘酒研究会を通した技術交流は、味わいの要素の調和がとれ、後味の切れの良さという灘五郷らしい清酒の特性を護持し、更に磨きをかける上で大きな役割を果たしてきた。
 更に域内の地下水の流路調査及び水質変化の監視を目的として、灘五郷酒造組合は昭和28年に神戸市と合同で灘地区地下水調査会を、昭和29年に西宮市と合同で宮水保存調査会を設立し、冬夏の井水定期一斉分析調査を実施しているほか、事業工事などに伴う地下水の影響についての調査研究を通じて、域内の地下水の品質維持だけでなく、灘五郷らしい清酒の特徴を形づくる水質について灘酒研究会と共に研鑽を深めてきた。
 これらの官民・地域一体となった灘酒研究会に代表されるような人材育成と酒造技術向上の取組みにより、味わいの要素の調和がとれ、後味の切れの良さという灘五郷らしい清酒の特性が時を越えて現代まで脈々と受け継がれ、寒造りの温度条件を再現できる四季醸造設備の導入等により、年間を通じて灘五郷の特性を維持している。

2 酒類の原料及び製法に関する事項

 地理的表示「灘五郷」を使用するためには、次の事項を満たしている必要がある。

(1)原料

イ 米及び米こうじに国内産米(農産物検査法(昭和26年法律第144号)により3等以上に格付けされたものに限る。)のみを用いたものであること。

ロ 水に灘五郷内で採水した水のみを用いたものであること。

ハ 酒税法第3条第7号に規定する「清酒」の原料を用いたものであること。
 ただし、酒税法施行令第2条に規定する清酒の原料のうち、アルコール(原料中、アルコールの重量が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の25を超えない量で用いる場合に限る。)以外は用いることができないものとする。

(2)製法

イ 酒税法第3条第7号に規定する清酒の製造方法により、灘五郷内において製造されたものであること。

ロ 製造工程上、貯蔵する場合は灘五郷内で行うこと。

ハ 消費者に引き渡すことを予定した容器に灘五郷内で詰めること。

3 酒類の特性を維持するための管理に関する事項

(1) 地理的表示「灘五郷」を使用するためには、当該使用する酒類を酒類の製造場(酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出(酒税法第28条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)するまでに、当該使用する酒類が「酒類の産地に主として帰せられる酒類の特性に関する事項」及び「酒類の原料及び製法に関する事項」を満たしていることについて、次の団体(以下「管理機関」という。)により、当該管理機関が作成する業務実施要領に基づく確認を受ける必要がある。

管理機関の名称:灘五郷酒造協同組合
住所:兵庫県神戸市東灘区御影本町5丁目10番11号
電話番号:078-841-1101
ウェブサイトアドレス:www.nadagogo.ne.jp/

(2) (1)により確認を受けた酒類であって、酒類の容器又は包装に地理的表示であることを明らかにする表示と併せて「冷卸(ひやおろし)」である旨を表示する場合は、業務実施要領に基づき表示することとする。

4 酒類の品目に関する事項

 清酒

(参考)