問3-1 税理士が遵守すべき税理士法上の義務等には、どのようなものがありますか。

答 法は、税理士の使命の重要性に鑑み、税務に関する一定範囲の業務を税理士業務と定め、これを行うことができる者を原則として税理士又は税理士法人に限定する(問2−1参照)一方で、税理士に対して一定の義務等を課しています。
 税理士が遵守すべき税理士法上の義務等を例示すると、以下のとおりとなります。

【税理士が遵守すべき主な税理士法上の義務等】

  • 1 税理士の使命(法第1条)
  • 2 税務代理の権限の明示(法第30条)
  • 3 特別の委任を要する事項(法第31条)
  • 4 税理士証票の提示(法第32条)
  • 5 署名押印の義務(法第33条)
  • 6 脱税相談等の禁止(法第36条)
  • 7 信用失墜行為の禁止(法第37条)
  • 8 非税理士に対する名義貸しの禁止(法第37条の2)
  • 9 秘密を守る義務(法第38条)
  • 10 会則を守る義務(法第39条)
  • 11 事務所の設置・2以上の事務所設置の禁止(法第40条)
  • 12 帳簿作成の義務(法第41条)
  • 13 使用人等に対する監督義務(法第41条の2)
  • 14 助言義務(法第41条の3)
  • 15 業務の制限(法第42条)
  • 16 業務の停止(法第43条)

(注1)通知弁護士は、税理士業務を行う範囲において税理士とみなされて、次に掲げる税理士法上の義務等の規定が適用されます(法第51条第2項)。

【通知弁護士が遵守すべき主な税理士法上の義務等】

  • 1 税理士の使命(法第1条)
  • 2 税務代理の権限の明示(法第30条)
  • 3 特別の委任を要する事項(法第31条)
  • 4 署名押印の義務(法第33条)
  • 5 脱税相談等の禁止(法第36条)
  • 6 信用失墜行為の禁止(法第37条)
  • 7 非税理士に対する名義貸しの禁止(法第37条の2)
  • 8 秘密を守る義務(法第38条)
  • 9 帳簿作成の義務(法第41条)
  • 10 使用人等に対する監督義務(法第41条の2)
  • 11 助言義務(法第41条の3)
  • 12 業務の停止(法第43条前段)

(注2)臨税許可者は、次に掲げる税理士法上の義務等の規定が準用されます(法第50条第2項)。

【臨税許可者が遵守すべき主な税理士法上の義務等】

  • 1 脱税相談等の禁止(法第36条)
  • 2 秘密を守る義務(法第38条)

【参考法令等】

  • 法第1条、第30条から第33条、第36条から第39条、第40条から第43条、第50条第2項、第51条第2項

問3-2 税理士に対する懲戒処分の種類には、どのようなものがありますか。

答 法は、税理士が、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るべく活動することを期待し、これをその使命として規定(法第1条)するとともに、税理士又は税理士法人でない者は、原則として税理士業務を行ってはならないこととし(法第52条)、税理士業務を独占業務として法的保護を与えています。
 このような法的保護が与えられている反面、税理士業務の執行は、一般納税者に対してのみならず、税務行政に対しても重大な影響を与えるものであることから、こうした点を踏まえ、監督上の行政処分として、税理士に対する懲戒処分制度が設けられています。
 法第44条は、税理士に対する懲戒処分の種類として、(1)税理士業務の禁止、(2)2年以内の税理士業務の停止、及び(3)戒告の3種類を規定しています。

  • (1) 税理士業務の禁止

    税理士業務の禁止は、税理士業務を行ってはならない旨を命ずる処分、すなわち、不作為義務を命ずる処分であり、税理士に対する懲戒処分のうち最も重い処分です。
     税理士業務の禁止処分を受けた者は、法第4条第7号の規定により処分を受けた日から3年を経過する日まで税理士となる資格を有しないこととなり、法第26条第1項第4号の規定により税理士登録を抹消されることとなります。

  • (2) 2年以内の税理士業務の停止

    2年以内の税理士業務の停止は、税理士業務を行うことを一定期間やめることを命ずる処分です。
     2年以内の税理士業務の停止処分を受けた者は、その停止期間中は税理士業務を行うことができませんが、税理士登録は抹消されません。

  • (3) 戒告

    戒告は、本人の将来を戒める旨の申渡しをする処分であり、懲戒処分としては最も軽いものです。
     戒告処分を受けた者は、税理士業務あるいは税理士の資格について特に制約を受けませんので、引き続き税理士業務を行うことができます。

(注) 通知弁護士は、税理士業務を行う範囲において税理士とみなされて、法第44条から法第46条まで(これらの規定中税理士業務の禁止の処分に関する部分を除きます。)の規定が適用されます(法第51条第2項)。

【参考法令等】

  • 法第1条、第4条第7号、第26条第1項第4号、第44条から第46条、第51条第2項、第52条

問3-3 税理士に対する懲戒処分は、どのような場合に行われるのですか。

答 税理士に対する懲戒処分は、税理士に対し不利益をもたらす処分ですので、懲戒処分の構成要件である懲戒処分事由は、法第45条及び法第46条において明確に規定されています。

1 法第45条(不真正の税務書類の作成及び脱税相談等をした場合の懲戒)

  • (1) 第1項(故意による特定の不正行為)
     税理士が、故意(注1)に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき又は法第36条(脱税相談等の禁止)の規定に違反する行為をしたときは、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分の対象とされています(法第45条第1項)。

    (注1)「故意」とは、事実に反し又は反するおそれがあると認識して行うことをいいます(基通45−1)。

  • (2) 第2項(過失による特定の不正行為)
     税理士が、相当の注意を怠り(注2)、法第45条第1項に規定する行為をしたときは、戒告又は2年以内の税理士業務の停止の処分の対象とされています(法第45条第2項)。

    (注2)「相当の注意を怠り」とは、税理士が職業専門家としての知識経験に基づき通常その結果の発生を予見し得るにもかかわらず、予見し得なかったことをいいます(基通45−2)。

2 法第46条(一般の懲戒)

税理士が、上記1に該当する場合を除き、法第33条の2第1項若しくは第2項(計算書類、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき、又は税理士法若しくは国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したときは、戒告、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分の対象とされています。
 法第46条の懲戒事由については、告示において以下のとおり対象となる行為が例示されています(問3−5参照)。

  • 1 法第33条の2第1項又は第2項(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき(法第46条該当)
  • 2 自己脱税(法第37条違反)
  • 3 多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ(法第37条違反)
  • 4 調査妨害(法第37条違反)
  • 5 税理士業務を停止されている税理士への名義貸し(法第37条違反)
  • 6 業務け怠(法第37条違反)
  • 7 税理士会の会費の滞納(法第37条違反)
  • 8 その他反職業倫理的行為(法第37条違反)
  • 9 非税理士に対する名義貸し(法第37条の2違反)
  • 10 秘密を守る義務違反(法第38条違反)
  • 11 帳簿作成の義務違反(法第41条違反)
  • 12 使用人等に対する監督義務違反(法第41条の2違反)
  • 13 業務の制限違反(法第42条違反)
  • 14 税理士業務の停止の処分を受け、その処分に違反して税理士業務を行ったとき(法第46条該当)
  • 15 上記以外の場合で法又は国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反したとき(法第46条該当)

(注) 通知弁護士は、税理士業務を行う範囲において税理士とみなされて、法第44条から法第46条まで(これらの規定中税理士業務の禁止の処分に関する部分を除きます。)の規定が適用されます(法第51条第2項)。

【参考法令等】

  • 法第33条の2、第36条から第38条、第41条、第41条の2、第42条、第45条、第46条、第51条第2項
  • 基通45−1、45−2
  • 告示U第1の2

問3-4 税理士や税理士法人に対する懲戒処分等は、どのような手続で行われるのですか。

答 懲戒処分権者である財務大臣が、税理士や税理士法人に対して懲戒処分等を行うときは、法や行政手続法等に定める一定の手続に従って行わなければならないこととされています。
 法は、懲戒処分等が税理士や税理士法人の業務に重大な影響を与える処分であることに鑑み、懲戒処分等を行うに当たっては、厳格な手続が要請されており、具体的には、国税審議会の議決を要すること、懲戒処分等の通知はその理由を付記した書面によること等が規定されています。また、行政手続法の規定により、懲戒処分等を行うに当たっては、聴聞又は弁明の機会が与えられることとされています。
 税理士や税理士法人に対する懲戒処分等の手続を図示すると、次のとおりとなります。

懲戒処分等の手続

(注) 上記の税理士や税理士法人に対する懲戒処分等の手続に関する規定は、通知弁護士や通知弁護士法人に対する懲戒処分等についても適用されます(法第51条第2項、同条第4項)。

【参考法令等】

  • 法第47条、第48条、第48条の20第2項、第51条第2項、同条第4項
  • 行政手続法第13条から第15条、第30条

問3-5 税理士や税理士法人に対する懲戒処分等は、どのような基準により、どのような考え方で行われるのですか。

答 法第45条及び第46条の規定に基づく税理士に対する懲戒処分や法第48条の20の規定に基づく税理士法人に対する処分の基準・考え方については、「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等の考え方」として財務省告示(平成20年3月31日財務省告示第104号)により定められており、国税庁ホームページでも公表されています。告示の「T総則」においては、(1)懲戒処分等の量定の判断要素及び範囲や(2)税理士の使用人等が不正行為を行った場合の使用者である税理士等に対する懲戒処分についての考え方等が定められ、「U量定の考え方」においては、懲戒処分等の対象となる不正行為を例示し、その不正行為の類型ごとの量定の基本的な考え方が定められています。
 告示の概要は以下のとおりです。
 なお、この告示は、平成27年4月1日以後にした不正行為に係る懲戒処分等に適用され、平成27年3月31日以前にした不正行為に係る懲戒処分等については、平成27年財務省告示第35号による改正前の告示が適用されます。

1 総則

(1) 量定の判断要素及び範囲
 法に規定する税理士に対する懲戒処分及び税理士法人に対する処分の量定の判断に当たっては、下記2の「不正行為の類型ごとの量定の考え方」を基本としつつ、以下の点を総合的に勘案し決定するものとされています。

  • 1 不正行為の性質、態様、効果等
  • 2 税理士の不正行為の前後の態度
  • 3 懲戒処分等の前歴
  • 4 選択する懲戒処分等が他の税理士及び社会に与える影響
  • 5 その他個別事情

なお、下記2の「不正行為の類型ごとの量定の考え方」によることが適切でないと認められる場合には、法に規定する懲戒処分等の範囲を限度として、量定を決定することができるものとされています。

(注)下記2の不正行為の類型の異なるものが2以上ある場合の量定は、それぞれの不正行為の類型について算定した量定を合計したものを基本とすることとされ、税理士業務又は税理士法人の業務の停止期間は、1月を単位とすることとされています。

(2) 税理士の使用人等が不正行為を行った場合の使用者である税理士等に対する懲戒処分

イ 税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者(自ら委嘱を受けて税理士業務に従事する場合の所属税理士を除きます。以下「使用人等」といいます。)が不正行為を行った場合における、使用者である税理士又は使用者である税理士法人の社員税理士(以下「使用者税理士等」といいます。)に対する懲戒処分は、次に掲げるところによるものとされています。

  • 1 使用人等の不正行為を使用者税理士等が認識していたときは、その使用者税理士等がその不正行為を行ったものとして懲戒処分の対象になります。
  • 2 使用人等の不正行為を使用者税理士等が認識していなかったときは、内部規律や内部管理体制に不備があること等の事由により、認識できなかったことについてその使用者税理士等に相当の責任があると認められる場合には、その使用者税理士等が過失によりその不正行為を行ったものとして懲戒処分の対象になります。
  • 3 上記2に該当しないときでも、使用人等が不正行為を行ったことについて使用者税理士等の監督が適切でなかったと認められる場合には、その使用者税理士等が法第41条の2(使用人等に対する監督義務)の規定に違反したものとして懲戒処分の対象になります。

ロ 税理士法人の社員税理士が不正行為を行った場合における、税理士法人の他の社員税理士に対する懲戒処分は、次に掲げるところによるものとされています。

  • 1 社員税理士の不正行為を他の社員税理士が認識していたときは、当該他の社員税理士もその不正行為を行ったものとして懲戒処分の対象になります。
  • 2 社員税理士の不正行為を他の社員税理士が認識していなかったときは、その税理士法人の内部規律や内部管理体制に不備があること等の事由により、認識できなかったことについて他の社員税理士に相当の責任があると認められる場合には、当該他の社員税理士も過失によりその不正行為を行ったものとして懲戒処分の対象になります。

2 不正行為の類型ごとの量定の考え方

税理士に対する懲戒処分や税理士法人に対する処分については、対象となる不正行為の類型ごとに量定の考え方が定められており、図示すると以下の表のとおりとなります。

(1) 税理士の不正行為の類型ごとの量定等
税理士の不正行為の類型ごとの量定等

  • (注1)「不正所得金額等」とは、国税通則法第68条に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したところの事実に基づく所得金額、課税価格その他これらに類するものをいいます。
  • (注2)「申告漏れ所得金額等」とは、国税通則法第18条に規定する期限後申告書若しくは同法第19条に規定する修正申告書の提出又は同法第24条に規定する更正若しくは同法第25条に規定する決定の処分に係る所得金額のほか、課税価格その他これらに類するものをいいます。
  • (注3)「法第33条の2の虚偽記載」とは、法第33条の2第1項又は第2項(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたときをいいます。
  • (注4)「自己脱税」とは、自己(自己が代表者である法人又は実質的に支配していると認められる法人を含みます。)の申告について、不正所得金額等があることをいいます。
  • (注5)「多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ」とは、自己(自己が代表者である法人又は実質的に支配していると認められる法人を含みます。)の申告について、申告漏れ所得金額等が多額で、かつ、その内容が税理士としての職業倫理に著しく反するようなものをいいます。
  • (注6)「調査妨害」とは、税務代理をする場合において、税務職員の調査を妨げる行為をすることをいいます。
  • (注7)「名義貸し(第37条の2を除く)」とは、税理士業務を停止されている税理士への名義貸し(自己の名義を他人に使用させること)をいいます。
  • (注8)「業務け怠」とは、委嘱された税理士業務について正当な理由なく怠ったことをいいます。
  • (注9)「会費滞納」とは、所属する税理士会(県連合会及び支部を含みます。)の会費を正当な理由なく長期にわたり滞納することをいいます。
  • (注10)「その他反職業倫理的行為」とは、上記注4から注9以外の行為で、税理士としての職業倫理に反するようなことをしたことをいいます。
  • (注11)「業務停止処分違反」とは、税理士業務の停止の処分を受け、その処分に違反して税理士業務を行った場合をいいます。
  • (注12)「その他」とは、上記以外の場合で法又は国税若しくは地方税に関する法令の規定に違反した場合をいいます。

(2) 税理士法人の不正行為の類型ごとの量定等
税理士の不正行為の類型ごとの量定等

  • (注13)「業務停止処分違反」とは、業務の全部又は一部の停止の処分を受け、その処分に違反して業務を行った場合をいいます。
  • (注14)「その他」とは、上記以外の場合で法又は法に基づく命令に違反したときをいいます。
  • (注15)「社員税理士に法第45条、第46条に規定する行為」とは、社員税理士に法第45条又は第46条に規定する行為があった場合をいいます。
  • (注16)「社員税理士の量定」は、複数の社員税理士が関与している場合には、それぞれの量定を合計した量定をいいます。
  • (注17)「その他」とは、(注15)以外の場合で運営が著しく不当と認められるときをいいます。

【参考法令等】

  • 法第45条、第46条、第48条の20第1項
  • 告示

問3-6 法第45条第1項(故意による不真正の税務書類の作成等)の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は法第36条(脱税相談等の禁止)の規定に違反する行為をしたときは、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができることとされています(法第45条第1項)。
 この場合の「故意」とは、事実に反し又は反するおそれがあると認識して行うことをいうものとされています(基通45−1、問3-3参照)。
 また、法第36条は、「税理士は、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき、指示をし、相談に応じ、その他これらに類似する行為をしてはならない。」と規定し、税理士による脱税相談等を禁止しています。

(注)税理士が法第36条(脱税相談等の禁止)の規定に違反した場合は、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第58条)。

法第45条第1項の規定による懲戒処分の量定は、同項及び告示の規定に基づき、税理士の責任を問い得る不正所得金額等の額に応じて、6月以上2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

具体事例

1 脱税相談をした場合

脱税相談をした場合

(事例1)税理士甲は、滞納のある関与先である法人Aの代表者乙から、法人Aに対する滞納処分の執行を免れたい旨の相談を受け、乙に対して法人Aの事業資産を仮装売買する方法を提案したほか、その仮装売買の相手方の手配を行うなど、不正に国税の徴収を免れるための仮装工作に加担した。

【解説】税理士甲は、事業資産の売買が仮装であることを認識しながら、関与先に対して不正に国税の徴収を免れることについての具体的な指示等を行ったことから、法第36条(脱税相談等の禁止)に違反し、法第45条第1項に該当します。

2 故意に不真正の税務書類の作成をした場合

故意に不真正の税務書類の作成をした場合

(1) 税理士自らが仮装行為をし、不真正の申告書を作成した場合

(事例2)税理士甲は、関与先である法人Aの法人税及び消費税の確定申告に当たり、法人Aの代表者乙から税金を払わずに手元に資金として置いておきたい旨の依頼を受け、甲が代表者である法人Bに業務委託があったように装うことを乙に提案し、法人B名義の口座に業務委託費として振り込ませた上で架空の業務委託費を計上することにより、所得金額等を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。
 なお、甲は、不正行為に加担した手数料として法人B名義の口座に乙が振り込んだ金額の一部を受領し、その残額を乙に返金していた。

【解説】税理士甲は、業務委託費の支払があったように仮装するなどの不正行為に積極的に加担し、業務委託費が架空であることを認識しながら、これを計上して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。

(2) 関与先から真正の事実を知らされていたにもかかわらず、不真正の申告書を作成した場合

(事例3)税理士甲は、関与先乙の所得税及び消費税の確定申告に当たり、乙が持参した帳簿には支払事実のない架空の接待交際費が計上されていることを乙から知らされていたにもかかわらず、その架空の接待交際費をそのまま計上することにより、所得金額等を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

【解説】税理士甲は、関与先乙が帳簿に計上している接待交際費が架空である事実を認識しながら、その架空の接待交際費をそのまま計上して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。

(3) 関与先からの依頼を受け、不真正の申告書を作成した場合

(事例4)税理士甲は、関与先乙の相続税の申告に当たり、乙から相続税を減らせないかと依頼され、自ら相続財産である貸付金を申告から除外することにより、課税価格を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

【解説】税理士甲は、関与先からの依頼の有無にかかわらず、貸付金が相続財産であることを認識しながら、自らその貸付金を申告から除外して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。

(事例5)税理士甲は、関与先である法人Aの法人税及び消費税の確定申告に当たり、法人Aの代表者乙から前年に比して所得が増加したため前年並みの所得に対する税額となるように調整してほしい旨の依頼を受け、一度は断ったものの強い要請を受けて、自ら前年と同様並みの税額となるよう架空の外注費や接待交際費等を決算期末に一括して計上することにより、所得金額等を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

【解説】税理士甲は、関与先からの依頼の有無にかかわらず、根拠のない架空の外注費等であることを認識しながら、自らその架空の外注費等を計上して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。

(事例6)税理士甲は、関与先乙の所得税及び消費税の確定申告に当たり、乙から自身には多額の借金があり税金を納めることができないので何とかしてほしい旨の依頼を受け、いずれ修正申告をしなければならないことを乙に説明した上で当年分に計上すべき売上金額であると認識しながらその売上金額を翌年分に計上することにより、所得金額等を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

【解説】税理士甲は、関与先からの依頼の有無にかかわらず、当年分に計上すべき売上金額であることを認識しながら、自らその売上金額を当年分の申告から除外して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。

(4) 関与先からの依頼はないものの、自ら不真正の申告書を作成した場合

(事例7)税理士甲は、関与先乙の所得税及び消費税の確定申告に当たり、乙から売上計算表を預かり正しい売上金額を認識していたにもかかわらず、乙が納得すると思われる税額になるよう自ら売上金額の一部を除外することにより、所得金額等を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。

【解説】税理士甲は、関与先乙の正しい売上金額を認識しながら、自ら売上金額の一部を除外して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。

【参考法令等】

  • 法第36条、第45条第1項、第58条
  • 基通45−1
  • 告示U第1の1(1)

問3-7 法第45条第2項(過失による不真正の税務書類の作成等)の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り、法第45条第1項に規定する行為をしたときは、戒告又は2年以内の税理士業務の停止の処分をすることができることとされています(法第45条第2項、問3-3参照)。
 この場合の「相当の注意を怠り」とは、税理士が職業専門家としての知識経験に基づき通常その結果の発生を予見し得るにもかかわらず、予見し得なかったことをいうものとされています(基通45−2)。
 法第45条第2項の規定による懲戒処分の量定は、同項及び告示の規定に基づき、税理士の責任を問い得る申告漏れ所得金額等の額に応じて、戒告又は2年以内の税理士業務の停止となります(問3−5参照)。

【参考法令等】

  • 法第36条、第45条第1項、同条第2項
  • 基通45−2
  • 告示U第1の1(2)

問3-8 「法第33条の2第1項若しくは第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載」があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 財務大臣は、税理士が、法第33条の2第1項若しくは第2項(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたときは、法第44条に規定する懲戒処分をすることができることとされています(法第46条、問3-3参照)。
 この場合の「法第33条の2第1項若しくは第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をしたとき」とは、その書面に記載された内容の全部又は一部が事実と異なっており、かつ、その書面を作成した税理士がそのことをあらかじめ知っていたと認められる場合をいうものとされています(基通46−1)。
 法第33条の2第1項若しくは第2項の規定により添付する書面に虚偽の記載をした場合の法第46条の規定による懲戒処分の量定は、同条及び告示の規定に基づき、虚偽の記載をした書面の件数、記載された虚偽の程度に応じて、戒告又は1年以内の税理士業務の停止となります(問3−5参照)。

具体事例

○ 故意に不真正の税務書類の作成を行い、かつ、法第33条の2第1項の規定により添付する書面に虚偽の記載をした場合

故意による不真正の税務書類の作成

法第33条の2第1項の規定により添付する書面に虚偽の記載

(事例8) 税理士甲は、関与先である法人Aの法人税の確定申告に当たり、支払手数料に関する契約や支払事実が無いことを法人Aの代表者乙から知らされて認識していたにもかかわらず、乙からの要請を受けて架空の支払手数料を計上することにより、所得金額を不正に圧縮した真正の事実に反する申告書を作成した。
 また、甲は、上記の申告書の作成に当たり、法第33条の2第1項の規定により添付する書面に「支払手数料について、その支払先とされた法人との契約内容等を検証し、金額の妥当性について審査した」旨の事実と異なる虚偽の記載をした。

【解説】税理士甲は、支払手数料が架空であることを認識しながら、自らその架空の支払手数料を計上して申告書を作成したことから、「故意に真正の事実に反して税務書類の作成をした場合」に該当します。
 また、税理士甲は、法第33条の2第1項の規定により添付する書面に記載した内容の全部が事実と異なっていることをあらかじめ知っていたことから、「第33条の2第1項の規定により添付する書面に虚偽の記載をした場合」に該当します。
 なお、この場合の懲戒処分の量定は、不正行為の類型の異なるものが2つあるため、それぞれの不正行為について算定した量定を合計したものを基本とすることとなります(問3−5参照)。

【参考法令等】

  • 法第33条の2第1項、同条第2項、第44条、第45条第1項、第46条
  • 基通46−1
  • 告示T第3、U第1の1(1)、U第1の2(1)

問3-9 法第37条違反(自己脱税)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「自己脱税」とは、税理士の自己(自己が代表者である法人又は実質的に支配していると認められる法人を含みます。)の申告について不正所得金額等があることをいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「自己脱税」をした場合(法第45条第1項又は第2項に該当する場合を除きます。)には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、不正所得金額等の額に応じて、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

具体事例

○ 自己脱税をした場合

自己脱税をした場合

(1) 税理士本人の所得税等について自己脱税をした場合

(事例9)税理士甲は、自己の所得税及び消費税の確定申告に当たり、売上金額の全てを顧問先ごとのメモにより把握していたにもかかわらず、売上元帳には売上金額の一部を計上せず、その売上金額を除外することにより、所得金額等を不正に圧縮して申告した。

(2) 税理士本人の相続税について自己脱税をした場合

(事例10)税理士甲は、実父である乙を被相続人とする自己の相続税の申告に当たり、自己が相続により取得した現金があったにもかかわらず、その現金を日本国外の金融機関に預け入れて隠ぺいし相続財産から除外することにより、課税価格を不正に圧縮して申告した。

(3) 税理士本人が代表者である法人の法人税について自己脱税をした場合

(事例11)税理士甲は、自己が代表者である法人Aの法人税の確定申告に当たり、実際には役員ではなく勤務実態もない税理士甲の娘である乙が法人Aの役員として業務に従事していたように装うために、開催していない臨時株主総会の議事録等を偽造した上で、架空の役員報酬を計上することにより、所得金額を不正に圧縮して申告した。

【解説】税理士甲自身が代表者である法人に係る法人税の申告について不正所得金額等がある場合も、信用失墜行為(自己脱税)に該当します。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の2(2)イ

問3-10 法第37条違反(多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ」とは、税理士の自己(自己が代表者である法人又は実質的に支配していると認められる法人を含みます。)の申告について、申告漏れ所得金額等が多額で、かつ、その内容が税理士としての職業倫理に著しく反するようなものをいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ」をした場合(法第45条第1項又は第2項及び自己脱税に該当する場合を除きます。)には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、申告漏れ所得金額等の額に応じて、戒告又は2年以内の税理士業務の停止となります(問3−5参照)。

具体事例

○ 多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れをした場合

多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れをした場合

(1) 税理士本人の申告が連年無申告である場合

(事例12)税理士甲は、自己の所得税及び消費税の確定申告に当たり、申告義務があることを認識していたにもかかわらず、関与先の増加に伴い業務多忙となったことや確定申告しても税金が還付となると見込まれたことを理由に、連年法定申告期限までに確定申告書を提出せずに多額の申告漏れ所得金額等を生じさせた。
 なお、甲は、過去にも連年法定申告期限までに確定申告書を提出していなかったため、税務署から申告書を提出するよう指導されていた。

【解説】税理士甲は、「税務に関する専門家」であるにもかかわらず自己の所得税等について連年無申告であり、その結果として多額の申告漏れ所得金額等を生じさせたことから、信用失墜行為(多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ)に該当します。
 なお、所得税に関しては、所得税の源泉徴収がされており結果として還付申告となる場合でも、所得税法第120条(確定所得申告)の規定に該当するときは確定申告が必要となることに留意が必要です。

(2) 税理士本人が多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れを行った場合

(事例13)税理士甲は、自己が代表者である法人Aの法人税の確定申告に当たり、日頃から帳簿書類の作成・保存をおろそかにしていたため売上金額や経費の計上漏れにより、多額の申告漏れを生じさせた。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の2(2)ロ
  • 所得税法第120条

問3-11 法第37条違反(調査妨害)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「調査妨害」とは、税務代理をする場合において、税務職員の調査を妨げる行為をすることをいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「調査妨害」をした場合には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、行為の回数、程度に応じて、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の2(2)ハ

問3-12 法第37条違反(税理士業務を停止されている税理士への名義貸し)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「税理士業務を停止されている税理士への名義貸し」とは、税理士業務の停止の懲戒処分により税理士業務を停止されている税理士に対して自己の名義を使用させることをいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「税理士業務を停止されている税理士への名義貸し」をした場合には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、名義貸しを受けた者の人数、名義貸しを受けた者が作成した税務書類の件数、名義貸しをした期間、名義貸しにより受けた対価の額に応じて、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

具体事例

○ 税理士業務を停止されている税理士への名義貸しをした場合

税理士業務を停止されている税理士への名義貸しをした場合

(事例14)税理士甲は、懲戒処分により税理士業務を停止されている税理士乙から依頼を受け、乙が税理士業務の停止期間中に作成した法人税や所得税の確定申告書に署名押印する「名義貸し」行為を行った。

(注)懲戒処分により税理士業務を停止されている税理士乙は、その停止処分の期間中に税理士業務を行っていたことから、法第46条の規定に該当します。(問3−21参照)。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の(2)ニ

問3-13 法第37条違反(業務け怠)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「業務け怠」とは、委嘱された税理士業務について正当な理由なく怠ったことをいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「業務け怠」をした場合には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告又は1年以内の税理士業務の停止となります(問3−5参照)。

具体事例

○ 業務け怠をした場合

業務け怠をした場合

(事例15)税理士甲は、関与先乙等から所得税の確定申告書の作成等の税理士業務の委嘱を受けていたにもかかわらず、申告書の作成作業の遅れや提出の失念等により正当な理由なく、法定申告期限までの提出を怠ったことにより、乙等に対して無申告加算税の賦課や青色申告の承認の取消等の損害を与えた。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の2(2)ホ

問3-14 法第37条違反(税理士会の会費の滞納)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「税理士会の会費の滞納」とは、税理士が所属する税理士会(県連合会及び支部を含みます。)の会費を正当な理由なく長期にわたり滞納することをいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「税理士会の会費の滞納」をした場合には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告となります(問3−5参照)。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の2(2)ヘ

問3-15 法第37条違反(その他反職業倫理的な行為)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条は、「税理士は、税理士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」と規定しており、税理士の信用失墜行為を禁止しています。
 「その他反職業倫理的な行為」とは、問3−9から問3−14までに掲げる行為(自己脱税、多額かつ反職業倫理的な自己申告漏れ、調査妨害、税理士業務を停止されている税理士への名義貸し、業務け怠及び税理士会の会費の滞納)以外の行為で、税理士としての職業倫理に反するような行為をいい、法第37条において禁止する信用失墜行為に該当します(問3−5参照)。
 税理士が「その他反職業倫理的な行為」をした場合には、法第37条違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

具体事例

○ その他反職業倫理的な行為をした場合

その他反職業倫理的な行為をした場合

(1) 所属税理士に対して名義貸し行為の指示をした場合

(事例16)税理士甲は、非税理士乙から乙が作成した法人税の確定申告書に署名押印するよう依頼され、甲の税理士事務所に勤務する所属税理士丙に対してそれらの確定申告書に署名押印するよう指示し、「名義貸し」行為を行わせた。

【解説】税理士甲は、非税理士乙により作成された申告書に自ら署名押印は行っていませんが、所属税理士丙に対して指示をして署名押印を行わせており、このことは反職業倫理的な行為であることから、信用失墜行為に該当します。

(2) 非税理士による税理士業務を助長する行為をした場合

(事例17)税理士甲は、非税理士乙が税務書類の作成を行うことを認識しながら、税理士でないと契約を行うことができない申告書の作成が可能なソフトウェアを乙に貸与し、乙が税理士業務を行うことを黙認した。

【解説】税理士甲は、非税理士乙が税理士業務である税務書類の作成を行うことを認識しながら、税理士でないと契約を行うことができない申告書の作成が可能なソフトウェアを貸与した上で非税理士が申告書の作成を行うことを黙認しており、このことは非税理士が税理士業務を行うことを助長する反職業倫理的な行為であることから、信用失墜行為に該当します。

(3) 業務上横領をした場合

(事例18)税理士甲は、関与先乙等の事務負担を減らすために、乙等から税理士報酬に係る源泉所得税を預かりその源泉所得税を甲が代わりに納付することを乙等と約定していたにもかかわらず、乙等の承諾を得ずに自身の税理士事務所の運営資金に流用し、その源泉所得税の納付期限までに納付しなかった。

【解説】税理士甲は、税理士業務に関連して横領を行っており、このことは反職業倫理的な行為であることから、信用失墜行為に該当します。

(4) 国税職員との不適切な関係等があった場合

(事例19)元国税職員である税理士甲は、国税職員は国家公務員倫理規程により繰り返し供応接待や財産上の利益を受けることが禁止されていることや国税通則法等により守秘義務が課されていることを認識していながら、かつて同僚であった国税職員乙に対し、供応接待や財産上の利益の供与を繰り返し行うとともに、税務調査の内容等の情報提供を依頼し、その情報を入手した上で自己の税理士業務に活用した。

【解説】税理士甲は、国税職員乙が国家公務員倫理規程や国税通則法等に違反することを認識しながら、国税職員乙との不適切な関係を持ち、情報の漏えいの依頼を行うなどしており、これらのことは反職業倫理的な行為であることから、信用失墜行為に該当します。

【参考法令等】

  • 法第37条、第46条
  • 告示U第1の2(2)ト
  • 国税通則法第126条
  • 国家公務員法第100条
  • 国家公務員倫理規程第5条

問3-16 法第37条の2違反(非税理士に対する名義貸し)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第37条の2は、「税理士は、第52条又は第53条第1項から第3項までの規定に違反する者に自己の名義を利用させてはならない。」と規定し、非税理士に対する名義貸しを禁止しています。
 税理士が第52条又は第53条第1項から第3項までの規定に違反する者(問2-1参照)に対して「名義貸し」をした場合には、法第37条の2違反となり、法第46条の懲戒事由に該当することになります(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、名義貸しを受けた者の人数、名義貸しを受けた者が作成した税務書類の件数、名義貸しをした期間、名義貸しにより受けた対価の額に応じて、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

(注)税理士が法第37条の2の規定に違反した場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第59条第1項第2号)。

具体事例

○ 法第52条の規定に違反する者に対して名義貸しをした場合

法第52条の規定に違反する者に対して名義貸しをした場合

(事例20)税理士甲は、非税理士乙から依頼され、乙が作成した法人税及び消費税の確定申告書に署名押印する「名義貸し」行為を行った。

【解説】税理士甲は、非税理士乙により作成された申告書に署名押印をし、自己の名義を利用させたことから、法第37条の2の規定に違反します。
 なお、非税理士乙は、他人の求めに応じ、業として申告書を作成しており、税理士業務を行ったことから、法第52条の規定に違反します。

(事例21)税理士甲は、非税理士乙から依頼され、乙が作成した所得税の確定申告書の下書きを受領した上で、甲のパソコンにその下書きの内容をそのまま入力した上で電子署名を行い電子申告する「名義貸し」行為を行った。

【解説】税理士甲は、自らパソコンに申告内容を入力して電子申告をしていますが、その入力した内容は非税理士乙により作成された申告書の下書きの内容をそのまま入力したものであることから、税理士甲の判断で作成したものとはいえず、非税理士乙の判断で作成されたものといえます。したがって、税理士甲は、非税理士乙により作成された申告書に電子署名をし、自己の名義を利用させたこととなり、法第37条の2の規定に違反します。
 なお、非税理士乙は、他人の求めに応じ、業として申告書を作成しており、税理士業務を行ったことから、法第52条の規定に違反します。

(事例22)税理士乙の税理士事務所に勤務する所属税理士甲は、乙に指示され、非税理士丙が作成した所得税及び消費税の確定申告書に署名押印する「名義貸し」行為を行った。
 なお、甲は、自分で申告書上の転記誤りについて確認をした上で署名押印すれば問題ないと思っていた。

【解説】所属税理士甲は、非税理士丙により作成された申告書の確認をしていますが、その確認内容は申告書上の転記誤りのみであることから、それらの申告書は所属税理士甲の判断で作成したものとはいえず、非税理士丙の判断で作成されたものといえます。したがって、所属税理士甲は、非税理士丙により作成された申告書に署名押印をし、自己の名義を利用させたこととなり、たとえ税理士乙の指示により行ったものとしても、法第37条の2の規定に違反します。
 また、税理士乙は、非税理士丙により作成された申告書に自ら署名押印は行っていませんが、所属税理士甲に対して指示をして署名押印を行わせており、このことは反職業倫理的な行為であることから、信用失墜行為に該当することとなります(問3-15(事例16)参照)。
 なお、非税理士丙は、他人の求めに応じ、業として申告書を作成しており、税理士業務を行ったことから、法第52条の規定に違反します。

(事例23)税理士甲は、勤務実態のない非税理士乙を使用人と装い、乙が作成した所得税及び消費税の確定申告書の内容を何ら確認せずに署名押印する「名義貸し」行為を行った。

【解説】非税理士乙は、勤務実態がないことから、たとえ税理士甲の使用人としての形式を整えていたとしても、実質的には使用人とはいえません。そして、税理士甲は、署名押印を行った申告書の内容を何ら確認していないことから、それらの申告書は税理士甲の判断で作成したものとはいえず、非税理士乙の判断で作成されたものといえます。したがって、税理士甲は、非税理士乙により作成された申告書に署名押印をし、自己の名義を利用させたこととなり、法第37条の2の規定に違反することとなります。
 なお、非税理士乙は、他人の求めに応じ、業として申告書を作成しており、税理士業務を行ったことから、法第52条の規定に違反します。

(事例24)税理士甲は、税理士業務の禁止の懲戒処分を受けたことにより税理士登録を抹消された非税理士乙から依頼され、乙が作成した所得税及び相続税の確定申告書に署名押印する「名義貸し」行為を行った。
 なお、甲は、乙に対し、印鑑を預け自分の名義で署名押印することを許可していた。

【解説】税理士甲は、非税理士乙により作成された申告書に署名押印をすることを許可し、自己の名義を利用させたことから、法第37条の2の規定に違反します。
 なお、非税理士乙は、他人の求めに応じ、業として申告書を作成しており、税理士業務を行ったことから、法第52条の規定に違反します。

(注)税理士が法第44条第3号の「税理士業務の禁止」処分を受けた場合は、その税理士は、法第4条第7号の規定により処分を受けた日から3年を経過する日まで税理士となる資格を有しないこととなり、法第26条第1項第4号の規定により税理士登録を抹消されることとなります(問3−2参照)。
 したがって、この資格を有しない期間中は非税理士であることから、その者が税理士業務を行った場合は、法第52条の規定に違反することとなり、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第59条第1項第4号)(問2−1参照)。

【参考法令等】

  • 法第4条第7号、第26条第1項第4号、第37条の2、第44条第3号、第46条、第52条、第53条第1項から第3項、第59条第1項第2号、同条同項第4号
  • 告示U第1の2(3)

問3-17 法第38条違反(秘密を守る義務違反)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第38条は、「税理士は、正当な理由(注1)がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密(注2)を他に洩らし、又は窃用(注3)してはならない。税理士でなくなつた後においても、また同様とする。」と規定し、秘密を守る義務(守秘義務)を課しています。

  • (注1)「正当な理由」とは、本人の許諾又は法令に基づく義務があることをいうものとされています(基通38−1)。
  • (注2)「税理士業務に関して知り得た秘密」とは、税理士業務を行うに当たって、依頼人の陳述又は自己の判断によって知り得た事実で、一般に知られていない事項及びその事実の関係者が他言を禁じた事項をいうものとされています(基通38−2)。
  • (注3)「窃用」とは、自ら又は第三者のために利用することをいうものとされています(基通38−3)。

税理士が法第38条の規定に違反した場合には、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

(注)税理士が法第38条の規定に違反した場合は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第59条第1項第3号)。

【参考法令等】

  • 法第38条、第46条、第59条第1項第3号
  • 基通38−1、38−2、38−3
  • 告示U第1の2(4)

問3-18 法第41条違反(帳簿作成の義務違反)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第41条第1項は、「税理士は、税理士業務に関して帳簿を作成し、委嘱者別に、かつ、一件ごとに、税務代理、税務書類の作成又は税務相談の内容及びそのてん末を記載しなければならない。」と規定し、帳簿作成の義務を課しています。また、この帳簿は、閉鎖後5年間保存しなければならないこととされています(法第41条第2項)。
 税理士が法第41条の規定に違反した場合には、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告となります(問3−5参照)。

【参考】税理士業務処理簿(日本税理士会連合会標準様式)

税理士業務処理簿(日本税理士会連合会標準様式)1

税理士業務処理簿(日本税理士会連合会標準様式)2

【参考法令等】

  • 法第41条、第46条
  • 告示U第1の2(5)
  • 日本税理士会連合会会則第64条

問3-19 法第41条の2違反(使用人等に対する監督義務違反)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第41条の2は、「税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないよう当該使用人その他の従業者を監督しなければならない。」と規定し、使用人等に対する監督義務を課しています。
 税理士が法第41条の2の規定に違反した場合には、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告又は1年以内の税理士業務の停止となります(問3−5参照)。

【参考法令等】

  • 法第41条の2、第46条
  • 告示U第1の2(6)

問3-20 法第42条違反(業務の制限違反)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第42条は、「国税又は地方税に関する行政事務に従事していた国又は地方公共団体の公務員で税理士となつたものは、離職後1年間は、その離職前1年内に占めていた職の所掌(注1)に属すべき(注2)事件(注3)について税理士業務を行つてはならない。」等と規定し、国税又は地方税に関する行政事務に従事していた国又は地方公共団体の公務員で税理士となった者に対し、原則として離職後1年間は、一定の事件について税理士業務を禁止しています。

  • (注1)「職の所掌」の範囲は、財務省設置法等関係法令又は地方公共団体の条例等の定めるところによるものとされています。なお、分掌すべき事務が、訓令等により定められている場合には、その訓令等によるものとされています(基通42−1)。
  • (注2)「所掌に属すべき」とは、事件が国税又は地方税に関する行政事務に従事していた国又は地方公共団体の公務員で税理士となった者の離職前1年内に占めていた職の所掌に属していること、及び依頼があった時点において、その職の所掌に属することとなることが客観的に高度の蓋然性をもってあらかじめ見込まれることをいうものとされています(基通42−2)。
  • (注3)「事件」とは、法第2条に規定する租税の課税標準等の調査(犯則取締り及び不服申立てを含みます。)、徴収(不服申立てを含みます。)及びこれらに準ずるものに関する案件をいうものとされています(基通42−3)。

税理士が法第42条の規定に違反した場合には、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、同条に違反して税務代理をした件数、税務書類を作成した件数、税務相談に応じた件数に応じて、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分となります(問3−5参照)。

(注)税理士が法第42条の規定に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第60条第1号)。

【参考法令等】

  • 法第2条、第42条、第46条、第60条第1号
  • 基通42−1、42−2、42−3
  • 告示U第1の2(7)

問3-21 税理士業務の停止処分違反があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第44条第2号に規定する「2年以内の税理士業務の停止」は、税理士業務を行うことを一定期間やめることを命ずる処分であり、税理士業務の停止処分を受けた税理士は、その停止期間中は税理士業務を行うことができません(問3−2参照)。
 税理士が、税理士業務の停止処分を受けたにもかかわらず、その停止処分の期間中に税理士業務を行った場合には、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、税理士業務の禁止の処分となります(問3−5参照)。

(注)税理士が法第44条第3号の「税理士業務の禁止」処分を受けた場合は、その税理士は、法第4条第7号の規定により処分を受けた日から3年を経過する日まで税理士となる資格を有しないこととなり、法第26条第1項第4号の規定により税理士登録を抹消されることとなります(問3−2参照)。
 したがって、この資格を有しない期間中は非税理士であることから、その者が税理士業務を行った場合は、法第52条の規定に違反することとなり、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる場合があります(法第59条第1項第4号)(問2−1参照)。

具体事例

○ 税理士業務の停止処分期間中に申告書の作成を行った場合

税理士業務の停止処分期間中に申告書の作成を行った場合

(事例25)税理士甲は、税理士法に基づく懲戒処分の結果、税理士業務の停止処分を受けていたにもかかわらず、停止処分の期間中に他の税理士に関与先を引き継ぎ申告書の作成を依頼する等の措置を講じることなく、自ら関与先の所得税の確定申告書を作成した。

【解説】税理士は、税理士業務の停止処分期間中であったにもかかわらず、税理士業務を行ったことから、法第46条の懲戒事由に該当します。

【参考法令等】

  • 法第4条第7号、第26条第1項第4号、第44条第2号、同条第3号、第46条、第52条、第59条第1項第4号
  • 告示U第1の2(8)

問3-22 法第40条第3項違反(2以上の事務所の設置)があったとして行われる法第46条の規定による懲戒処分は、どのような内容ですか。

答 法第40条第3項は、「税理士は、税理士事務所を2以上設けてはならない。」と規定し、税理士1人につき1税理士事務所に限ることとして、2以上の事務所の設置を禁止しています。
 この場合の「事務所」とは、継続的に税理士業務を執行する場所をいい、継続的に税理士業務を執行する場所であるかどうかは、外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実によって判定することとされています(基通40−1)。
 税理士が事務所を2以上設置した場合には、法第40条第3項違反となり、法第46条の懲戒事由に該当します(問3−3、3−5参照)。
 この場合の懲戒処分の量定は、法第46条及び告示の規定に基づき、戒告、2年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止となります(問3−5参照)。

 

【参考法令等】

  • 法第40条第3項、第46条
  • 基通40−1
  • 告示U第1の2(9)