(昭29.4.20 直所8-14、直法2-41、査調2-13)

 法人名義を仮装して社員等が個人で事業を営んでいるかどうかは、今後、別紙「判定調査要目」に掲げるところを中心として調査し、その調査により判明した諸事実を総合して、これを判定することとしたから、下記事項に留意のうえ、その適正を期されたい。

  1. (1) 別紙「判定調査要目」は、法人の種類いかんにかかわらず、多数の事業所を有する法人の事業所長、主任、その他これらに類する地位を有する社員等が当該事業所長等となる前に当該事業所において個人として事業を営んでいたような法人一般について、事業所長等が当該法人名義を仮装して個人で事業を営んでいるかどうかを判定するために通常必要と認められる調査事項を掲げたものであるから、必要があるときは、「判定調査要目」に掲げない事項についても調査して判定するもさしつかえないものであることに留意すること。
  2. (2) 法人名義を仮装して社員等が個人で事業を営んでいるかどうかは、調査の結果判明した諸事実につき、当該事実の意味をそれ自体だけでなく他の事実との関連をも考慮して慎重に検討し、更にこれを有機的に総合して全体として統一的に判定するものとすること。
  3. (3) 「判定調査要目」に掲げる「細目」相当数の調査によつて社員等が法人の名義を仮装して個人で事業を営んでいるかどうかが明らかとなつたときは、他の「細目」を調査する必要のないことはもちろんであるが、社員等が法人の名義を仮装して個人で事業を営んでいると疑われるにいたつたときは、その実態が明らかになるまで十分な調査を逐げることに留意すること。
  4. (4) 別紙「判定調査要目」によつては、その実態を明らかにし難いと認められる法人の判定調査については、「判定調査要目」を参考として調査すべき事項を選定して、これを行うものとすること。

別紙

判定項目 調査項目 調査細目
一 企業の合同によつて一個の企業体が成立しているかどうか。
1 出資及び法人と社員間の資産の譲渡に関する事項
  1. 1 現金出資の払込金額が、社員から譲り受けた資産の対価と全く相殺された形式がとられ、または一部相殺の形式がとられたことによる残額が未払勘定として放置され、あるいは出資金額が社会通念上法人の運転資金となり得ない少額である等、現金出資の払込及び資産の譲渡が名目的であると認められるようなことはないかどうか。
  2. 2 現物出資をする者を定めた場合または法人の成立後に譲り受けることを約した財産がある場合は、法令の規定にのつとり、定款に記載すべき出資者または譲渡人の氏名、出資の目的としまたは譲り受けることを約した財産、価格及びこれに対して与える出資口数等が記載されていないことを通じて真実の出資または資産の譲渡を疑わしめるようなことはないかどうか。
  3. 3 現物出資の対象とした資産または社員から譲り受けた資産のうちに法人の事業上不用なものまたは著しく不良なものが混入している等通常行われるべき検討及び選択を欠いていることはないかどうか。
  4. 4 現物出資または社員から譲り受けた資産について、その明細書が作成され、なお、その評価は、一定の評価基準に基く等時価に照して公平、適正にされているかどうか。
  5. 5 法人の行う事業に従事する出資者について、加入申込当時、通常企業合同の際に行われるその者の資格、信用事業能力等の必要な調査をしない等真実の加入を疑わしめるようなことはないかどうか。
2 不動産、事業等の名義変更に関する事項
  1. 6 現物出資または社員から譲り受けた資産のうち登記登録を要する不動産、その他の資産または対抗要件等を具備することを要する主要な債権、債務等について、必要な名義変更または相手方の承諾を得る等の措置がされているかどうか。
  1. 7 社員が法人加入に当り廃業し、代つて法人が営むこととなつた事業のうち、許可、認可、免許等を要する事業について、名義変更の手続等が可能な限りとられているかどうか。
  2. 8 現物出資または社員から譲り受けた資産にかかる損害保険契約について、契約期間満了等のため更改を要すべき時において、社員個人の名義が法人に変更されているかどうか。
3 法人と社員間の賃貸借契約に関する事項
  1. 9 社員から譲り受けないで法人の事業に供している店舗、じゆう器、備品等の資産がある場合は、社員に対して支払われるべき賃借料が実際に支払われているかどうか。
  2. 10 賃借料は、4に準じて公平、適正に決定されているかどうか。
  1. 11 社員が他から賃借している店舗、じゆう器、備品等を法人の事業に供している場合は、転貸について必要な賃貸人の承諾を得ているかまたはその承諾を得るための努力がされているかどうか。
4 脱退時の清算に関する事項
  1. 12 脱退社員の出資に対する持分が、定款に定めるところに従い正確に計算されておらず、またその払もどしも放置されている等出資が名目的であると認められるようなことはないかどうか。
  2. 13 脱退社員が主宰していた事業所の資産について、脱退に伴い法人との間において当然行われるべき決済が放置されているようなことはないかどうか。
  3. 14 脱退社員が譲り受けた資産について、4と同様の措置がされているかどうか。
  4. 15 脱退社員に譲渡した資産の対価を、当該脱退社員が法人加入に当り法人に譲渡した資産の対価とほぼ同一額であるとして相殺の形式を採つている等資産の譲渡が名目的であると認められるようなことはないかどうか。
  5. 16 脱退社員に譲渡した資産の対価と、当該脱退社員が組合加入に当り法人に譲渡した資産の対価との間に決済をすべき差額があることとなつているものについて、その差額の決済が放任され、またはその決済に関する金銭の授受等が明らかでなく、決済そのものが形式的であると認められるようなことはないかどうか。
  6. 17 脱退社員が譲り受けた資産のうち対抗要件等を具備することを要する主要な債権について、債務者に対する通知またはその承諾を得る等の措置がされているかどうか。
ニ 一個の企業体として事業が運営されているかどうか。
5 法人事業の経営方針に関する事項
  1. 18 法人の本部が、法人事業の運営について必要な経営方針を策定せず、各事業所をして、個人営業時代と同様に事業を運営せしめていることはないかどうか。
  1. 19 法人の本部が、事業計画及びその遂行方法を社員に周知徹底せしめる手段を採つていない等社員の主宰している事業が法人の事業として営まれていることを疑わしめるようなことはないかどうか。
6 事業所の経営の掌握、統制に関する事項
  1. 20 法人の本部が、事業所ごとの売上、仕入、その他の入出金高の現金収支及び売掛金、買掛金、貸付金または借入金等の貸借関係を掌握していると認められる事実があるかどうか。
  2. 21 法人の本部から各事業所に回送した金額及び各事業所から法人の本部に送金した金額等法人の本部と各事業所間の資金の授受に関する事実が、明らかにされているかどうか。
  3. 22 法人の本部が、一の事業所において余裕のある資金、商品、労力、運搬具等を、それらが不足している他の事業所に利用せしめているかどうか。
  4. 23 法人の本部が、事業所に供給しまたは利用せしめた資金、商品、労力等にかかる利子、運賃、その他の諸掛及び法人の事務費等を内部統制等のため関係事業所の会計に配賦している場合は、その配賦が合理的にされているかどうか。また、その配賦額が実際に支払われていることはないかどうか。
  1. 24 法人の本部が、事業所長、従業員の配置換等によつて事業所の経営が明らかに合理化されると認められる場合において、それらの措置をしているかどうか。
  2. 25 法人の本部が、事業所における特別の支出額、たとえば店舗の改造、修理等の費用等が事業所における渡切経費額をこえるような場合において、または従業員の採用解雇等について必要な指導承認をしているかどうか。
  3. 26 事業所における資金の預入及び借入、商品の仕入及び販売その他の取引が社員個人の名義でされていることはないかどうか。
  4. 27 事業所における現金、商品等について事業所会計と社員の個人会計とが明らかに区別されているかどうか。
  5. 28 事業所における商品、現金等を当該事業所の社員が必要に応じ随時家事等のために消費している場合は、その対価を社員が法人に支払う等会計処理が的確にされているかどうか。
  6. 29 法人が補てんすべき災害、盗難等の不可抗力による損害を、社員が個人で補てんしている結果となつているようなことはないかどうか。
  7. 30 法人の事業所であることを明りように表示せず、従来どおり社員個人の事業所であると一般に誤認せしめることはないかどうか。
7 給与の決定及び支給に関する事項
  1. 31 社員に支払われる給与の額は、妥当な基準によつて、適正に定められているかどうか。たとえば、それが現在または過去の事業所の所得と殆ど同額である等一般の法人の給与額と著しく異なつているようなことはないかどうか。
  2. 32 給与の一部が能率給として支払われている場合において、その算定基準は、一般の工場、会社、商店等の能率賃金とほぼ同様な基準によつているかどうか。
  3. 33 給与は所定の期日に所定の方法で実際に支払われているかどうか。なお、銀行預金の引出、その他により実際に支払われた事実が明らかであるかどうか。
三 社員の損益が共通にされているかどうか。
8 収益の処理に関する事項
  1. 34 事業所の利益金が、当該事業所の社員及び従業員の給与額にみたない場合においては、その不足相当額を当該事業所における社員及び従業員の給与の未払とし、もしくはその不足相当額を当該事業所を主宰する社員の個人会計からの借入金によつて支払つている形式により、また、事業所の利益金が給与額をこえる場合においては、その超過額を当該事業所の仕入資金として管理、運用せしめる形式による等給与の支払の形態等を通じて損益が共通にされていないと認められるようなことはないかどうか。
  2. 35 社員が主宰している事業所の売上金の一部を法人の本部に送金している場合においては、当該送金額が法人の本部の事務費、公租公課等の割当額に止まり、当該社員が当該事業所の売上金の全部を管理運用し、損益通算が単なる名目にすぎないと認められるようなことはないかどうか。
  3. 36 社員が主宰している事業所の売上金の全部を法人の本部に送金している場合においては、その送金額から法人の本部の事務費、公租公課等の割当額を控除した残額が当該事業所の仕入資金、経費、給与、賃貸料等の名義をもつてそのままれい送され、損益通算が単なる名目にすぎないと認められるようなことはないかどうか。

(注) ※は、一般的には、比較的重要でないと認められるものを示すものである。