第6款 事業を廃止した場合等の所得計算の特例

(個人事業を引き継いで設立された法人の損金に算入されない退職給与)

63-1 個人事業を引き継いで設立された法人が、個人事業当時から引き続き在職する使用人の退職により退職給与を支給した場合において、その支給した金額のうちに、個人事業当時の事業主の負担すべきものとして当該法人の所得の金額の計算上損金に算入されなかった金額があるときは、その金額については、その事業主が支出した退職給与として法第63条の規定を適用する。

(確定している総所得金額等の意義)

63-2 令第179条第1号イ又は第2号イ《事業を廃止した場合の必要経費の特例》に規定する当該必要経費に算入されるべき金額が生じた時の直前において確定している当該廃止した日の属する年分(又はその前年分)の総所得金額、山林所得金額及び退職所得金額は、法第63条に規定する費用又は損失が生じた時の直前における事業を廃止した日の属する年分(又はその前年分)の確定申告、修正申告、更正若しくは決定又は当該更正若しくは決定についての不服申立てに基づく決定、裁決若しくは判決に係る当該年分の総所得金額、山林所得金額及び退職所得金額をいうのであるが、次に掲げる場合には、それぞれ次によるものとする。

  1. (1) 法第63条に規定する費用又は損失が生じた時までに同条に規定する事業を廃止した日の属する年分(又はその前年分)について確定申告書の提出及び決定がない場合には、これらの年分について同条の規定の適用をしないで計算した総所得金額、山林所得金額及び退職所得金額をいう。
  2. (2) 法第121条第2項《確定所得申告を要しない場合》に規定する所得税に係る退職所得金額で確定申告がされていないものがある場合には、これらの年分の退職所得金額をいう。

(法第63条の規定を適用した場合における税額の改算)

63-3 法第63条の規定を適用した場合における所得税の額の改算に当たっては、同条の規定により改算を要することとなる各種所得の金額から同条の規定により当該各種所得の金額の計算上必要経費に算入されることとなる金額を控除し、その控除後の各種所得の金額を基として法第2編第2章《課税標準及びその計算並びに所得控除》(第3節《損益通算及び損失の繰越控除》及び第4節《所得控除》に限る。)から第4章《税額の計算の特例》までの規定を適用するものとする。この場合において、同条の規定を適用したことにより新たに法第90条第1項《変動所得及び臨時所得の平均課税》の規定の適用を受けられることとなる者が法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》の規定により提出した更正の請求書に法第90条第4項に規定する事項を記載しているときは、同条第1項の規定の適用があるものとする。(昭46直審(所)19改正)

(注) 事業所得に係る源泉徴収の対象となる報酬、料金等が貸倒れとなった場合には、当該報酬、料金等に係る源泉徴収をされるべき所得税の額はなくなるから、法第120条第1項第5号《確定所得申告》に規定する源泉徴収をされるべき所得税の額の改算を行う。

法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》関係

(回収不能の判定)

64-1 法第64条第1項に規定する収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を回収することができなくなったかどうか、又は同条第2項に規定する求償権の全部若しくは一部を行使することができなくなったかどうかの判定については、51-11から51-16までの取扱いに準ずる。(昭48直資4-6、直所2-22追加)

(収入金額の返還の意義)

64-1の2 法第64条第1項に規定する返還とは、退職金等をその支給した者に返還する場合をいうのであるから、子会社に再就職する際、親会社から受けた退職金をその子会社に提供したような場合は、これに当たらない。(昭48直資4-6、直所2-22改正)

(注) 退職金等をその支給者以外の者に提供したことにより、その後その提供先から支給を受ける退職金等の金額がその提供した金額を含めて計算されている場合における当該退職金等に係る所得の収入金額は、その支給を受けた退職金等の金額からその提供した退職金等の金額を控除して計算する。

(役員が未払賞与等の受領を辞退した場合)

64-2 役員が、次に掲げるような特殊な事情の下において、一般債権者の損失を軽減するためその立場上やむなく、自己が役員となっている法人から受けるべき各種所得の収入金額に算入されるものでまだ支払を受けていないものの全部又は一部の受領を辞退した場合には、当該辞退した金額につき法第64条第1項の規定の適用があるものとする。(平11課所4-25、平12課所4-30、平16課個2-23、課資3-7、課法8-8、課審4-33、平18課個2-18、課資3-10、課審4-114、平22課個2-16、課法9-1、課審4-30改正)

  1. (1) 当該法人が特別清算開始の命令を受けたこと。
  2. (2) 当該法人が破産手続開始の決定を受けたこと。
  3. (3) 当該法人が再生手続開始の決定を受けたこと。
  4. (4) 当該法人が更生手続の開始決定を受けたこと。
  5. (5) 当該法人が事業不振のため会社整理の状態に陥り、債権者集会等の協議決定により債務の切捨てを行ったこと。

(各種所得の金額の計算上なかったものとみなされる金額)

64-2の2 法第64条の規定により各種所得の金額の計算上なかったものとみなされる金額は、措置法令第4条の2第9項《上場株式等に係る配当所得等の課税の特例》、第19条第24項《土地の譲渡等に係る事業所得等の課税の特例》、第20条第5項《長期譲渡所得の課税の特例》、第21条第7項《短期譲渡所得の課税の特例》、第25条の8第16項《一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》、第25条の9第13項《上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》、第25条の11の2第20項《上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除》、第25条の12の3第24項《特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除等》、第26条の23第6項《先物取引に係る雑所得等の金額の計算等》及び第26条の26第11項《先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除》の規定により読み替えられた令第180条第2項の規定により、次に掲げる金額のうち最も低い金額となることに留意する。(昭48直資4-6、直所2-22追加、昭50直資3-11、直所3-19、昭56直資3-2、直所3-3、昭63直所3-3、直法6-2、直資3-2、昭63直法6-7、直所3-8、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8、平8課所4-10、課資3-4、平11課所4-1、平13課個2-30、課資3-3、課法8-9、平15課個2-23、課資3-7、課法8-11、課審4-37、平16課資3-9、課個2-27、課審6-17、平17課資3-7、課個2-25、課審6-13、平19課資3-5、課個2-15、課審6-9、平21課資3-5、課個2-14、課審6-12、平22課資3-4、課個2-14、課審6-20、平27課資3-4、課個2-19、課法10-5、課審7-13、平30課資3-2、課個2-25、課法10-3、課審7-6、令元課資3-3、課個2-20、課法11-5、課審7-3、令5課資3-5、課法10-37、課審7-5、徴管6-27改正)

  1. (1) 令第180条第2項に規定する回収不能額等
  2. (2) 当該回収不能額等が生じた時の直前において確定している法第64条第1項に規定する年分の総所得金額、土地等に係る事業所得等の金額、短期譲渡所得の金額、長期譲渡所得の金額、上場株式等に係る配当所得等の金額、一般株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る譲渡所得等の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額
  3. (3) 当該回収不能額等に係る(2)に掲げる金額の計算の基礎とされる各種所得の金額

(回収不能額等が生じた時の直前において確定している「総所得金額」)

64-3 令第180条第2項第1号《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》に規定する「総所得金額」とは、当該総所得金額の計算の基礎となった利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額、一時所得の金額及び雑所得の金額(損益通算の規定の適用がある場合には、その適用後のこれらの所得の金額とし、赤字の所得はないものとする。)の合計額(純損失の繰越控除又は雑損失の繰越控除の規定の適用がある場合には、当該合計額から総所得金額の計算上控除すべき純損失の金額又は雑損失の金額を控除した金額とする。)をいうものとする。(昭50直資3-11、直所3-19改正)

(注) 上記の譲渡所得の金額とは、長期保有資産(法第33条第3項第2号《譲渡所得》に掲げる所得の基因となる資産をいう。)に係る譲渡所得であっても、2分の1する前の金額をいうことに留意する。また、一時所得の金額についても同様である。

(譲渡所得に関する買換え等の規定との関係)

64-3の2 譲渡所得の金額の計算につき、法第58条《固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例》又は措置法第33条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》(措置法第33条の2第2項《交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》において準用する場合を含む。)、第36条の2《特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例》、第36条の5《特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例》、第37条《特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例》、第37条の4《特定の事業用資産を交換した場合の譲渡所得の課税の特例》、第37条の5《既成市街地等内にある土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例》、第37条の6《特定の交換分合により土地等を取得した場合の課税の特例》若しくは第37条の8《特定普通財産とその隣接する土地等の交換の場合の譲渡所得の課税の特例》の規定(64-3の3までにおいて「買換え等の規定」という。)と法第64条の規定の適用を受ける場合には、まず、買換え等の規定を適用し、次に同条の規定を適用することに留意する。(昭48直資4-6、直所2-22追加、昭57直所3-15、直法6-13、直資3-8、昭60直所3-21、直資3-5、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8、平7課所4-1、課資3-1、平11課所4-25、平16課資3-9、課個2-27、課審6-17、平18課資3-6、課個2-11、課審6-5、平19課資3-5、課個2-15、課審6-9、平21課資3-5、課個2-14、課審6-12、平22課資3-4、課個2-14、課審6-20、平25課資3-4、課個2-14、課法9-4、課審7-15、平30課資3-2、課個2-25、課法10-3、課審7-6、令4課資3-7、課審7-16改正)

(買換え等の規定の適用を受ける場合の回収不能額等)

64-3の3 64-3の2の場合において、買換え等の規定の適用を受ける譲渡資産に係る譲渡対価のうち回収することができなくなった部分の金額(法第64条第2項に規定する保証債務の履行に伴う求償権のうち当該求償権を行使することができなくなった部分の金額を含む。)が、当該買換え等の規定により当該譲渡資産のうち譲渡があったものとされる部分の収入金額を超えるときは、当該譲渡資産に係る令第180条第2項に規定する「回収不能額等」は、当該収入金額に相当する金額に限られ、当該超える部分の金額は、同項に規定する「回収不能額等」に含まれないことに留意する。(昭48直資4-6、直所2-22追加)

(2以上の譲渡資産に係る回収不能額等の各資産への配分)

64-3の4 令第180条第2項に規定する回収不能額等が2以上の資産の譲渡に係る譲渡所得の収入金額について生じた場合において、当該回収不能額等がいずれの資産の譲渡に係る収入金額について生じたものであるか明らかでないときは、当該回収不能額等を当該回収不能額等に係る各資産の譲渡に係る収入金額の比によりあん分して計算した金額を当該各資産の譲渡に係る収入金額に対応する回収不能額等として、同項の規定を適用するものとする。ただし、当該明らかでないときに該当する場合であっても、納税者が2以上の資産のうちいずれか一の資産又は2以上の資産を選択し、当該選択した資産の譲渡に係る収入金額について当該回収不能額等が生じたものとして計算をして申告したときは、その計算を認めて差し支えない。法第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》の規定による更正の請求をする場合においても、同様とする。(昭48直資4-6、直所2-22追加、昭57直資3-3、直所3-6改正)

(概算取得費によっている場合の取得費等の計算)

64-3の5 譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費につき措置法第31条の4《長期譲渡所得の概算取得費控除》の規定の適用を受ける場合において、令第180条第2項第2号に規定する「回収不能額等に相当する収入金額又は総収入金額がなかったものとした場合」に計算される譲渡所得の金額を計算するときは、当該譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、当該回収不能額等が生じた時の直前において確定している譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費によるものとする。
 山林所得の金額の計算につき措置法第30条《山林所得の概算経費控除》の規定の適用を受ける場合における山林所得の金額の計算上控除する必要経費についても、また同様とする。(昭48直資4-6、直所2-22追加、昭60直所3-21、直資3-5、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8、平3課所4-7改正)

(保証債務の履行の範囲)

64-4 法第64条第2項に規定する保証債務の履行があった場合とは、民法第446条《保証人の責任等》に規定する保証人の債務又は第454条《連帯保証の場合の特則》に規定する連帯保証人の債務の履行があった場合のほか、次に掲げる場合も、その債務の履行等に伴う求償権を生ずることとなるときは、これに該当するものとする。(昭56直資3-2、直所3-3、平17課資3-7、課個2-25、課審6-13改正)

  1. (1) 不可分債務の債務者の債務の履行があった場合
  2. (2) 連帯債務者の債務の履行があった場合
  3. (3) 合名会社又は合資会社の無限責任社員による会社の債務の履行があった場合
  4. (4) 身元保証人の債務の履行があった場合
  5. (5) 他人の債務を担保するため質権若しくは抵当権を設定した者がその債務を弁済し又は質権若しくは抵当権を実行された場合
  6. (6) 法律の規定により連帯して損害賠償の責任がある場合において、その損害賠償金の支払があったとき。

(借入金で保証債務を履行した後に資産の譲渡があった場合)

64-5 保証債務の履行を借入金で行い、その借入金(その借入金に係る利子を除く。)を返済するために資産の譲渡があった場合においても、当該資産の譲渡が実質的に保証債務を履行するためのものであると認められるときは、法第64条第2項に規定する「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」に該当するものとする。
 被相続人が借入金で保証債務を履行した後にその借入金を承継した相続人がその借入金(その借入金の利子を除く。)を返済するために資産を譲渡した場合も、同様とする。(昭56直資3-2、直所3-3改正)

(注) 借入金を返済するための資産の譲渡が保証債務を履行した日からおおむね1年以内に行われているときは、実質的に保証債務を履行するために資産の譲渡があったものとして差し支えない。

(保証債務を履行するため山林を伐採又は譲渡した場合)

64-5の2 法第64条第2項の規定の対象となる所得は、保証債務を履行するため行った資産の譲渡による所得のうち棚卸資産(令第81条各号《譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産》に掲げる資産を含む。)の譲渡その他営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得以外の所得に限られるから、山林の伐採又は譲渡による所得であっても、営利を目的として継続的に行われる山林の伐採又は譲渡による所得については、法第64条第2項の規定は適用されない。(昭50直資3-11、直所3-19追加、令4課資3-7、課審7-16改正)

(保証債務に係る相続税法第13条と法第64条第2項の規定の適用関係)

64-5の3 被相続人の保証債務を承継した相続人が、当該保証債務を履行するために資産を譲渡した場合には、当該資産の譲渡は、その保証債務を被相続人の債務として相続税法第13条《債務控除》の規定の適用を受けるときであっても、法第64条第2項に規定する「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」に該当するものとする。(昭56直資3-2、直所3-3追加)

(確定している総所得金額等の意義及び税額の改算)

64-6 令第180条第2項第1号に規定する「確定している法第64条第1項に規定する年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額」の意義及び法第64条の規定を適用した場合における所得税の額の改算については、63-2及び63-3の取扱いに準ずる。