配当する債権

(質権、抵当権、先取特権)

1 法第129条第1項第3号の「質権、抵当権、先取特権」には、仮登記(保全仮登記を含む。)がされた質権、抵当権及び先取特権が含まれる(法第133条第3項、令第50条第4項参照)。また、同号の「先取特権」とは、法第19条第1号各号《不動産保存の先取特権等》及び第20条第1項各号《不動産賃貸の先取特権等》に掲げる先取特権をいい、これらの先取特権以外の先取特権は、配当を受けることができない。

(担保権の引受けとの関係)

2 法第124条第2項《担保権の引受け》の規定により質権、抵当権又は先取特権に関する負担を買受人に引き受けさせた場合には、その引受けに係る担保権の被担保債権については、配当をしない。

(損害賠償請求権又は借賃に係る債権)

3 法第129条第1項第4号の「損害賠償請求権又は借賃に係る債権」については、次のことに留意する。

(1) 動産の引渡しを命ぜられた第三者がその動産の差押え時までに法第59条第1項《引渡命令を受けた第三者等の権利の保護》の規定による契約の解除をした旨を通知しないときは、その第三者は、契約の解除により滞納者に対して取得する損害賠償請求権について配当を受けることができない(令第25条第2項)。ただし、その第三者がその動産の差押え後にその通知をした場合において、相当の理由があると認められるとき(第59条関係12参照)は、この限りでない(令第25条第3項)。

(2) 参加差押えを受けた差押えに係る行政機関等に対して、法第59条第1項又は第3項(同条第4項及び第71条第4項において準用する場合を含む。)の規定により配当を請求することができる権利は、法第87条第2項《参加差押えに係る動産等の引渡し》の規定により参加差押えに係る財産の引渡しがされた場合には、その引渡しを受けた行政機関等に対して行使することができる(令第41条第3項、第4項)。

国税に充てること

(国税に充てたことの効果)

4 法第129条第2項の規定により国税に充てたときは、滞納者の納税義務は、その充てられた範囲において消滅する。
なお、上記の場合には、配当計算書が作成されないので、滞納者に対しては、その充てた旨の通知をするものとする。この書面の様式は、別に定めるところによる。

(国税に充てるべき時期)

5 差押財産等の売却代金又は有価証券、債権若しくは無体財産権等の差押えにより第三債務者等から給付を受けた金銭(以下「換価代金等」という。)又は差し押さえた金銭若しくは交付要求(参加差押えを含む。以下5において同じ。)により交付を受けた金銭(第128条関係6に規定する金銭を含む。)を国税に充てるべき時期については、次に掲げる時によるものとする。

(1) 差押財産等の売却代金については、それを受領した時

(2) 第三債務者等から給付を受けた金銭(第128条関係2から5まで参照)については、その給付を受けた時

(3) 差し押さえた金銭については、その差押えの時

(4) 交付要求により交付を受けた金銭については、その交付を受けた時

(注) 交付要求により交付を受けた金銭を国税に充てた場合には、次に掲げる期間に対応する部分の延滞税は、免除する(通則法第63条第6項第4号、通則令第26条の2第1号、第2号)。

1 交付要求を受けた執行機関が強制換価手続において金銭を受領した日の翌日からその充てた日までの期間
 この場合において、交付要求が滞調法第36条の10第1項《みなし交付要求》の規定に係るものであるときは、第三債務者が同法第36条の6第1項《第三債務者の供託義務》の規定により供託した日が、上記の「受領した日」に当たるものとして延滞税を免除する。

2 換価執行決定をした行政機関等がその換価執行決定がされた不動産の売却代金を受領した日の翌日からその充てた日までの期間

滞納者等への交付

(滞納者への交付)

6 法第129条第3項の規定により、滞納者に残余の金銭を交付する場合には、次のことに留意する。

(1) 換価した財産が譲渡担保財産又は物上保証に係るものである場合は、配当した金銭の残余は、譲渡担保権者又は差押え時における担保物の所有者に交付する。

(2) 差押財産等が、差押え後に譲渡された場合において、配当した金銭に残余があるときは、その残余の金銭は、差押え時の所有者である滞納者に交付する(法第129条第3項、昭和35.1.29大阪高判参照)。

(3) 保険法第60条第2項又は第89条第2項に基づき介入権者から解約返戻金に相当する金額の支払を受けた場合において、配当した金銭に残余があるときは、その残余の金銭は、滞納者に交付する。

(破産手続開始の決定があった場合等)

7 滞納者に交付すべき金銭は、次に掲げる場合には、それぞれに掲げる者に交付するものとする。

(1) 滞納者につき破産手続開始の決定がされている場合 破産管財人(破産法第78条第1項)

(2) 滞納者である株式会社につき更生手続開始の決定があった場合 管財人(会社更生法第72条第1項)

(3) 滞納者につき民事再生手続開始の申立てがあった場合において民事再生法第79条第1項《保全管理命令》の規定による保全管理人による管理を命ずる処分があったとき又は滞納者につき民事再生手続が開始された場合において同法第64条第1項《管理命令》の規定による管財人による管理を命ずる処分があったとき 保全管理人又は管財人(同法第81条第1項、第66条)

(4) 滞納者を債務者とする外国倒産処理手続(外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第2条第1項第1号《定義》に規定する外国倒産処理手続をいう。以下7において同じ。)の承認の申立てがされた場合において同法第51条《保全管理命令》の規定による保全管理人による管理を命ずる処分があったとき又は滞納者を債務者とする外国倒産処理手続の承認がされた場合において同法第32条第1項《管理命令》の規定による承認管財人による管理を命ずる処分があったとき 保全管理人又は承認管財人(同法第53条第1項、第34条)

(5) 滞納者が死亡し、相続人があることが明らかでない場合 相続財産清算人(民法第953条)

(6) 滞納者である株式会社につき企業担保権の実行手続の開始決定があった場合  管財人(企業担保法第32条第1項)

(7) 滞調法の規定の適用がある場合 その執行官又は執行裁判所(同法第6条第1項、第17条等)

(8) 滞納者が不在者(民法第25条参照)に該当する場合 管理人(同法第25条、第28条)

(残余金について差押え等があった場合)

8 滞納者に交付すべき残余の金銭について、差押え等があった場合には、次に定めるところによるものとする。

(1) 執行法の規定による差押命令又は保全法の規定による仮差押命令の送達がされたときは、滞納者に対しては交付しない(執行法第145条、保全法第50条参照)。この場合においては、差押え又は仮差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭は供託することができ(執行法第156条第1項、保全法第50条第5項)、その事情を執行裁判所又は保全執行裁判所に届け出なければならない(執行法第156条第3項、保全法第50条第5項)。また、債務者(滞納者)に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、他に競合する債権者がいない場合に限り((3)参照)、その差押債権者に対して交付することになる(執行法第155条参照)。
なお、交付又は供託するまでの間は、その金銭は、保管金として処理する(出納官吏事務規程第61条参照)。また、債務者(滞納者)に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したか否かは、送達通知書(執行規則第134条)等により確認するものとする。

(2) 執行法の規定による差押命令及び転付命令の送達があった場合には、転付命令の確定(同法第159条第5項)及びその他の差押命令若しくは仮差押命令の送達又は配当要求がないこと(同法第159条第3項)を確認した上、この命令を得た債権者に交付する(同法第160条参照)。

(3) 差押え若しくは仮差押えが競合し(仮差押えと仮差押えが競合した場合を除く。)、又は配当要求があったときは、その金額の全部又は一部を供託し、その事情を差押命令を発した執行裁判所に届け出なければならない(執行法第156条第2項、第3項、保全法第50条第5項参照)。

(4) 滞納処分による債権差押通知書の送達を受けたときは、差押えをした行政機関等へ交付する(法第62条、第67条等)。

(5) 滞納者から債権譲渡の通知があったときは、その債権の譲受人に交付する(民法第467条参照)。

(換価財産について強制執行による差押え等がされている場合)

9 換価財産について、強制執行による差押え等がされている場合には、滞調法逐条通達に定めるところによる。

配当

(転質又は転抵当がある場合)

10 転質又は転抵当がある場合には、原質又は原抵当によって担保される債権額の範囲内で、その転質又は転抵当により担保される債権額について、まず転質権者又は転抵当権者に配当し、なお配当すべき残余があるときは、次いで原質権者又は原抵当権者に配当する(昭和7.8.29大決参照)。
なお、転質権者又は転抵当権者には、転質又は転抵当について保全仮登記をした仮処分の債権者が含まれる(法第133条第3項、令第50条第4項参照)。

(共同抵当権がある場合)

11 同一債権の担保として数個の財産上に抵当権の設定がある場合(共同抵当の場合)において、その財産を換価したときは、次のことに留意する。

(1) 共同抵当の目的となっている財産の一部について後順位の抵当権がある場合で、その財産の全部を換価したときは、抵当権者に交付すべき金額は、各財産の売却価額(その財産を一括して換価したときは各財産の見積価額によってあん分した価額)に応じて、共同抵当によって担保される債権額をあん分した金額である(民法第392条第1項)。

(2) 共同抵当の目的となっている財産の一部を換価した場合においては、その換価した財産について後順位の抵当権があるときでも、先順位の抵当権者に交付すべき金額は、担保される債権額の全額である(民法第392条第2項)。

(抵当権の譲渡等があった場合)

12 抵当権の譲渡等があった場合においては、被担保債権の範囲は、その譲渡等の目的となった抵当権の被担保債権を超えることはできないことに留意する。具体的には、次のように配当する。
 なお、抵当権の譲渡等を受けた者がその譲渡等を第三者に対抗するためには、その旨の付記登記がされていることが必要であるから、付記登記のない場合は、これらの処分はなかったものとして配当する。
 また、抵当権の順位の譲渡又は抵当権の順位の放棄についての保全仮登記がされている場合には、保全仮登記がされた抵当権により担保される債権に対して配当を行う(法第133条第3項、令第50条第4項参照)。

〔例〕

第1順位抵当権甲の被担保債権・・・・・・・・・・・・・400万円

第2順位抵当権乙の被担保債権・・・・・・・・・・・・・500万円

第3順位抵当権丙の被担保債権・・・・・・・・・・・・・800万円

一般債権者丁の債権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・600万円

換価代金・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1,100万円

(注) 滞納国税については、考慮していない。

1 甲が丁のために抵当権の譲渡をした場合
丁は甲の被担保債権(400万円)の範囲内で甲の抵当権者としての地位を取得することになり、丁の債権額(600万円)の範囲内で甲が受けるべき債権額が配当され、乙、丙の配当額には影響がない。
したがって、1丁の債権に400万円、2乙の被担保債権に500万円、3丙の被担保債権に200万円(1,100万円−400万円−500万円)配当される。

2 甲が丙のために抵当権の順位の譲渡をした場合
抵当権の順位の譲渡がないとした場合に丙が受くべき債権額は200万円(1,100万円−400万円−500万円)であるから、甲の400万円と丙の200万円の合計額600万円の範囲内で丙の債権額に先に配当され、乙の配当額には影響がない。
したがって、1丙の被担保債権に600万円、2乙の被担保債権に500万円配当される。

3 甲から丁のために抵当権の放棄があった場合
甲は丁に対し優先権を持たなくなるため、甲と丁は、抵当権の放棄がないとした場合に甲が受くべき債権額400万円について、甲・丁それぞれの債権額によりあん分して配当され、乙、丙には影響がない。
したがって、1甲の被担保債権に160万円(400万円×(400万円/(400万円+600万円)))、2丁の債権240万円(400万円×(600万円/(400万円+600万円)))、3乙の被担保債権に500万円、4丙の被担保債権に200万円配当される。

4 甲から丙のために抵当権の順位の放棄があった場合
甲は丙に対し優先権を持たなくなるため、抵当権の順位の譲渡がないとした場合の甲と丙が配当を受くべき債権額600万円(甲の400万円と丙の200万円(1,100万円−甲の400万円−乙の500万円))について、甲・丙それぞれの債権額によりあん分して配当され、乙には影響がない。
したがって、1甲の被担保債権に200万円(600万円×(400万円/(400万円+800万円)))、2乙の被担保債権に500万円、3丙の被担保債権に400万円(600万円×(800万円/(400万円+800万円)))配当される。

(仮差押えの執行後に担保権が設定された財産を換価した場合)

13 仮差押えの執行後に担保権が設定された財産を差し押さえ、換価した場合において、その配当時に仮差押えに係る本案訴訟の確定判決がない等のため配当額が定まらないときは、その定まらない部分に相当する金銭は供託しなければならない(滞調法第34条第2項、執行法第87条第2項、第91条第1項第6号、第92条)。この場合において、仮差押えに係る本案訴訟が確定したこと等により、配当額が確定したときの配当手続は、滞調法逐条通達第33条関係8に定めるところによる。

(差押え後に担保権が設定された財産を換価した場合)

14 滞納処分又は強制執行による差押え後に設定した担保権については、配当しないものとする(6の(2)参照)。ただし、執行停止に係る強制執行による差押え後に登記された担保権については、滞調法逐条通達第33条関係7及び8に定めるところによる。

(担保権の目的となっている財産と、なっていない財産とを共に換価した場合)

15 担保権の目的となっている財産となっていない財産とを共に換価した場合において、その担保権の被担保債権が国税に優先しないときは、その担保権の目的となっていない財産の売却代金から順次国税に配当するものとする。

(不動産の共有持分を換価した場合)

16 担保権の設定後に共有となった不動産の共有持分を換価した場合には、担保権者に対しては、担保権の被担保債権に対する共有持分の割合に相当する金額を配当する。この場合における担保権の登記の抹消は、嘱託書に抹消すべき登記として、「平成 年 月 日受付第 号担保権設定登記のうち共有者何某の持分に対する担保権」等と記載する(昭和4.7.24付民第6250号司法省民事局長回答)。

(換価執行決定がされた場合)

17 換価執行決定をした行政機関等が換価する場合の配当の順位は、差押えをした行政機関等が換価する場合と同一である。

不服申立て等の期限の特例

18 換価代金等の配当処分に対する不服申立て又は訴えの提起については、法第171条第1項又は第2項《滞納処分に関する不服申立て等の期限の特例》の規定による期限の制限がある。

徴収の順位

19 配当された金銭を国税に充てる場合には、まず徴収の基因となった国税の本税に充て、その後、延滞税、利子税及び加算税に充てるものとする(法第129条第6項参照)。
 なお、徴収の基因となった国税が複数ある場合は、順次に本税、附帯税に充て(法第129条第6項、民法第489条第1項参照)、本税と本税の相互間、又は附帯税と附帯税の相互間は、民法第488条第4項第2号及び第3号《同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当》の規定に準じて処理するものとする(昭和62.12.18最高判参照)。