第6款 差押禁止財産

差押禁止

1 法第75条の「差し押えることができない」とは、絶対的に差押えを禁止したものである。したがって、差押禁止財産であることが外観上明白なものを差し押さえたときは、その差押えは無効であるが、外観上明白でないものについては、その差押えは直ちに無効となるものではない。

第1号の財産

(生計を一にする親族)

2 法第75条第1項第1号の「生計を一にする」については、第37条関係6と同様である。
なお、法第75条第1項第1号の「その他の親族」とは、滞納者の六親等内の血族及び三親等内の姻族(民法第725条)のうち、滞納者と生計を一にする者をいい、縁組の届出はしていないが、滞納者と事実上養親子関係にある者は、「その他の親族」と同様に取り扱うものとする(執行法第97条第1項参照)。

(衣服、寝具等)

3 法第75条第1項第1号の「生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具」とは、滞納者及びその者と生計を一にする配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係にある者を含む。)その他の親族(以下第75条関係において「生計を一にする親族」という。)が、最低限度の生活を維持するに必要な衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具(以下3において「衣服等」という。)をいう。
なお、滞納者の所有に属さない衣服等(例えば、配偶者の所有に属する衣服等)は、差押えの対象財産とならないことはもちろんである。

第2号の財産

4 法第75条第1号第2号の「生活に必要な3月間の食料及び燃料」とは、滞納者及びその者と生計を一にする親族の3月間の生活の維持のため必要と認められる食料及び燃料をいう。

第3号の財産

(農業を営む者)

5 法第75条第1項第3号の「主として自己の労力により農業を営む者」とは、生計を一にする親族以外の他人の労力又は物的設備にほとんど依存することなく、農業により生計を維持している者をいい、自作、小作の別を問わない。

(器具等)

6 法第75条第1項第3号の「農業に欠くことができない器具」等とは、5に掲げる滞納者及びその者と生計を一にする親族が農業を行うため必要最低限の器具等をいう。この場合において、農業を行うため必要最低限のものであるかどうかは、滞納者の営む農業の規模、態様、当該器具等の用途又はその使用期間等を考慮して判定する(昭和42.5.25鳥取地決参照)。

(類する農産物)

7 法第75条第1項第3号の「その他これに類する農産物」とは、地下茎、球根、種芋等をいう。

第4号の財産

(漁業を営む者)

8 法第75条第1項第4号の「主として自己の労力により漁業を営む者」とは、生計を一にする親族以外の他人の労力又は物的設備にほとんど依存することなく、漁業により生計を維持している者をいい、舟、漁網その他の漁具を有する者も含まれる。

(漁網その他の漁具等)

9 法第75条第1項第4号の「水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具」等とは、8に掲げる滞納者及びその者と生計を一にする親族が漁業を行うため必要最低限の漁網、漁衣、釣りざおその他の漁具等をいう。

(その他これに類する水産物)

10 法第75条第1項第4号の「その他これに類する水産物」とは、真珠貝、種のり、養殖用の卵、種がき、えさとして飼育している小魚等をいう。

第5号の財産

(職業又は営業に従事する者)

11 法第75条第1項第5号の「技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者」とは、技術者、職人、労務者、弁護士、給与生活者、僧りょ、画家、著述家、小規摸な企業主等で生計を一にする親族以外の他人の労力又は物的設備にほとんど依存することなく、自己の知的又は肉体的な労働を主とする職業又は営業により生計を維持している者をいう(昭和46.5.18東京高決参照)。この場合においては、これらの者が独立して営業を営む場合であると、他に雇用される場合であるとを問わない(昭和8.2.10大決参照)。

(器具その他の物)

12 法第75条第1項第5号の「業務に欠くことができない器具その他の物」とは、11に掲げる滞納者及びその者と生計を一にする親族がその職業又は営業を遂行するに当たり最低限度必要なものをいう。この場合において、その職業又は営業を遂行するに当たり最低限度必要なものであるかどうかは、滞納者の職業又は営業の規模、態様、当該器具等の用途又はその使用期間等を考慮して判定する。

(商品の除外)

13 法第75条第1項第5号の「商品を除く」とは、商品は換価を目的とするものであるから、たとえ業務上欠くことのできないものであっても、同号の差押禁止財産から除外することをいう。

第6号の財産

(実印)

14 法第75条第1項第6号の「実印」とは、個人にあっては市町村条例等により市区町村役場に、会社の代表者にあっては登記所に、それぞれ届け出た印鑑で、市区町村役場又は登記所から印鑑証明書の交付を受けられるものをいう(商業登記法第12条参照)。

(職業に欠くことのできないもの)

15 法第75条第1項第6号の「職業に欠くことができないもの」とは、官公吏、会社員、弁護士、公証人等が職務上使用する印、会社の社印、画家及び書家の落款等の職業に必要な印章で、現に使用中のものをいう。

第7号の財産

16 法第75条第1項第7号の「その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物」とは、神体、神具、仏具等で、現に信仰又は礼拝の対象となっているもの及びこれに必要なものをいう。したがって、仏像、仏壇等であっても礼拝の対象としないで商品、骨とう品等となっているものには、法第75条第1項第7号の規定の適用がなく、また寺院の本堂、くり(庫裡)、神社の拝殿、社務所等は、礼拝に直接必要と認められないから、同号の規定の適用がない(昭和6.12.23大決、昭和11.3.19大判参照)。

第8号の財産

17 法第75条第1項第8号の「滞納者に必要な系譜、日記及びこれに類する書類」とは、滞納者が書画、骨とう等として有しているものを除き、滞納者自身又はその親族その他滞納者と特殊な関係にある者の系譜、日記、書簡等をいう。

第9号の財産

18 法第75条第1項第9号の「勲章」とは、勲功に対する名誉を表彰するものであって、内国のものであると外国のものであると問わず、また、はい(佩)授及び略章も含まれる。また、「その他名誉の章票」とは、勲章以外のもので、その所持が本人の名誉を表示するものであって、競技、学芸、技芸等が優秀なために授与された賞杯等をいう。
なお、法第75条第1項第9号は、いずれも本人又はその親族、弟子等その本人と特殊な関係にある者が所持している場合に限って適用され、美術品、骨とう品等として第三者が所有している場合には適用がない。

第10号の財産

19 法第75条第1項第10号の「学習に必要な書籍及び器具」とは、学校教育法第1条《学校の範囲》に規定する学校において教育を受け、又はこれと同程度の修学をするために必要と認められる書籍、器具をいう。この場合における「書籍」とは、教科書、参考書、辞書、帳簿等をいい、「器具」とは、机、本箱、文房具等をいう。

第11号の財産

(発明等)

20 法第75条第1項第11号の「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(特許法第2条第1項参照)、「著作に係るもの」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法第2条第1項第1号、第10条参照)。

(公表)

21 法第75条第1項第11号の「公表」とは、発明につき特許を受けたとき若しくは発明に係るものを展示等し(特許法第29条参照)、又は著作に係るものを発行、演奏、展示等すること(著作権法第4条第1項参照)をいう。

第12号の財産

22 法第75条第1項第12号の「その他の身体の補足に供する物」とは、義手、義足、盲人安全つえ、補聴器、車いす、義眼、眼鏡、人工こう(喉)頭及び松葉づえ等をいう。

第13号の財産

(工作物)

23 法第75条第1項第13号の「工作物」とは、人為的な労作を加えることによって通常土地に固定して設備された物をいい、「その他の工作物」には、塀、門、井戸、煙突等がある。

(消防用の機械等)

24 法第75条第1項第13号の「災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械」等とは、消防法第17条《学校等の消防用設備等の設置維持義務》の規定に基づく市町村条例等により学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街等の防火対象物に備え付けなければならない消防自動車、消火器その他の消防用機械、器具又は避難器具、鉱山保安法第19条《保安規程》及び鉱山保安法施行規則第40条《保安規程》の規定により鉱業権者が定めた保安規程に基づき設備しなければならない各種鉱山の保安施設等をいう。

他の法令による差押えが禁止されている財産

25 法以外の法令により差押えが禁止されている財産については、別に定めるところによる。