債権差押えの登記の嘱託

(登記の嘱託)

1 抵当権(根抵当権を含む。以下3及び4において同じ。昭和55.12.24付民三第7176号法務省民事局長通達)又は登記することができる質権若しくは先取特権によって担保される債権を差し押さえた場合(債権差押え後に、その債権を被担保債権として担保権が設定された場合を含む。昭和42.1.30付民事甲第206号法務省民事局長通達)には、税務署長は、債権差押えの登記を関係機関に嘱託する。この関係機関については、第68条関係36、第70条関係5、第71条関係6、第72条関係15及び第73関係52と同様(電子記録債権については質権設定記録がされている電子債権記録機関(第62条の2関係2参照))である。この債権差押えの登記は、担保権の登記の付記登記としてなされる(不動産登記規則第3条第4号)。
 なお、債権差押えの登記は、債権差押えの効力発生要件ではないが、その登記をすることにより、その抵当権、質権又は先取特権に差押えの効力が及んでいることについて対抗要件を具備することとなる。

(注)

1 登記の嘱託とは、官公署が法令の規定に従って関係機関に対して登記の依頼を行うことをいう。嘱託による登記の手続には、原則として申請による登記に関する規定が準用される(不動産登記法第16条第2項、船舶登記令第35条、航空機登録令第8条、自動車登録令第9条、建設機械登記令第16条、電子記録債権法第4条、特許登録令第15条等)。

2 動産・債権譲渡特例法第4条第1項《債権の譲渡の対抗要件の特例等》に規定する債権譲渡登記ファイルに質権の設定登記がされた債権については、法第64条の規定は適用されない。

(登録免許税の非課税)

2 税務署長が債権の差押えの登記を嘱託する場合には、登録免許税法第5条第11号《滞納処分に関する登記等の非課税》の規定により、登録免許税は課されない。

債権譲渡又は担保権の処分と差押えとの関係

3 抵当権又は登記することができる質権若しくは先取特権によって担保される債権の譲渡と滞納処分による差押えとの優劣は、その担保権の移転の登記又は債権差押えの登記との先後によってではなく、債権譲渡の対抗要件である確定日付のある通知又は承諾と債権差押通知書の送達との先後によって定まる(第62条関係33)。したがって、債権譲渡が優先する場合には、債権差押えの登記をしても、債権譲受人に対し担保権につき差押えの効力を主張できず(大正1.11.26大判参照)、また、差押えが優先する場合においては、既に担保権の移転の登記がされていても、その抹消を求めることができる(昭和35.4.28高知地判、昭和35.9.28松山地判参照)。
 なお、被担保債権と別個になされる抵当権のみの譲渡、順位譲渡その他の抵当権の処分と差押えとの優劣は、抵当権の処分の登記と債権差押えの登記との先後によって定まることに留意する(民法第177条、第376条参照)。

債権差押えの通知

(質権又は抵当権が設定されている場合)

4 税務署長は、1の嘱託をしたときは、その質権又は抵当権が設定されている財産の権利者(第三債務者を除く。)に対して、債権差押えをした旨を通知しなければならない(法第64条後段)。この書面の様式は、別に定めるところによる。

(先取特権がある場合)

5 税務署長は、1の嘱託をしたときは、その先取特権がある財産の権利者に対して4の通知をしなければならない。この場合において、その権利者がその被差押債権の第三債務者であるときは、この通知は要しない(法第64条後段)。

他の担保権のある債権の差押え

(動産質等のある場合の差押手続)

6 動産について質権又は留置権のある債権を差し押さえた場合には、その質権又は留置権に差押えの効力が及ぶから、その質権又は留置権の目的となっている財産の権利者(第三債務者を除く。)に対して、4に準じて債権を差し押さえた旨を通知するほか、滞納者の所持する質物又は留置物を動産差押えの手続に準ずる方法により徴収職員が直接占有するものとする。
 なお、その質物又は留置物を滞納者以外の第三者が所持している場合の徴収職員の占有の手続については、法第56条第1項、第58条及び第60条第1項本文《動産の差押手続、保管等》の規定に準じて行う。
また、不動産留置権のある債権を差し押さえた場合においても、上記の手続に準ずる。

(債権質のある場合の差押手続)

7 債権質のある債権を差し押さえた場合(8の場合を除く。)には、その債権質の目的となっている債権の債務者(第三債務者を除く。)に対して、4に準じて主たる債権(その債権質によって担保されている被差押債権)を差し押さえた旨を通知するものとする。この場合において、主たる債権の債権者(滞納者)の占有する債権に関する証書があるときは、法第65条《債権証書の取上げ》の規定によりその証書を取り上げることができる。

(有価証券質のある場合の差押手続)

8 有価証券を目的とする質権のある債権を差し押さえた場合には、その質権の設定者(第三債務者を除く。)に対して、4に準じて債権を差し押さえた旨を通知するほか、滞納者が占有するその質権の目的である有価証券を、法第65条《債権証書の取上げ》の規定により徴収職員が占有する。この場合において、その有価証券が記名社債又は記名株式であるときは、その有価証券質に差押えの効力が及んでいることの対抗要件を具備するために、その有価証券を発行した者に債権を差し押さえた旨を通知する(会社法第693条、第147条参照)。
 なお、有価証券を滞納者以外の第三者が所持している場合の徴収職員の占有の手続については、法第56条第1項、第58条及び第60条第1項本文《動産の差押手続、保管等》の規定に準じて行う。

(注) 債権を質権の目的とする場合において、質権者に対して債権証書又は証券を交付しなければ効力を生じないときがあることに留意する(民法第520条の7、第520条の17等)。

(その他の権利質のある場合の差押手続)

9 7及び8以外の権利質のある債権を差し押さえた場合には、その権利質の目的となっている財産権の性質に従い、主たる債権の差押えの登記の嘱託、第三債務者に準ずる者への通知等7及び8に準じて必要な手続をとるものとする。