第3款 債権の差押え

債権

1 法第62条の「債権」とは、金銭又は換価に適する財産の給付を目的とする債権をいう。
なお、将来生ずべき債権であっても、差押え時において契約等により債権発生の基礎としての法律関係が存在しており、かつ、その内容が明確であると認められるもの(例えば、将来受けるべき継続的取引契約に基づく売掛代金債権、雇用契約に基づく給料債権、賃貸借契約に基づく賃料債権、社員又は株主の有する決議前の利益配当請求権、社会保険制度に基づく診療報酬債権等)は、差し押さえることができる(大正2.11.19大判、昭和54.9.19東京高決、昭和53.12.15最高判、平成11.1.29最高判参照。第62条関係25,26、第66条関係1参照)。
 ただし、本来の性質が債権であっても、その性質上取立てに適さず、換価手続によるべきもの(例えば、電話加入権、賃借権等)は、法第73条《電話加入権等の差押の手続及び効力発生時期》の規定により差し押さえる(法第54条第2号)。

(電子記録債権等)

2 法第62条第1項の債権には、電子記録債権(第62条の2関係1参照)及び振替社債等(第73条の2関係1、法第54条第2号参照)は含まれない。

連帯債務者のある債権

3 2人以上の債務者のある債権で、それらの債務者が連帯債務を負っているものを差し押さえる場合には、全ての債務者を第三債務者として差し押さえるものとする。この場合において、第三債務者が任意に履行しないときは、いずれの債務者に対しても執行法の規定による強制執行を行うことができる(民法第436条参照)。
 なお、第三債務者の1人が滞納者に対して債権を有している場合には、その第三債務者の負担部分を限度として、他の第三債務者は履行を拒むことができることに留意する(民法第439条第2項)。

保証人のある債権

(差押手続)

4 保証人のある債権を差し押さえる場合は、主たる債権の差押えと同時に、保証人を第三債務者として、その保証人に対する債権を別個に差し押さえるものとする。この場合において、その保証が連帯保証であるとき又は保証人が2人以上であり、かつ、保証人相互間では連帯債務であるときの保証人に対する履行の請求については、いずれの保証人に対しても行うことができる。

(催告及び検索の抗弁権)

5 保証人のある債権の差押え及びこれに基づく強制執行については、次のことに留意する。

(1) 主たる債権の差押えをすることなく、保証人に対する債権を差し押さえたときは、法第62条の規定による差押えは支払の請求を含むものであるから、保証人は催告の抗弁権を有する(民法第452条)。

(2) 主たる債権及び保証人に対する債権を差し押さえた後、主たる債務者及び保証人が任意に履行しない場合において、主たる債務者に対して執行法の規定により強制執行をすることなく、保証人に対して強制執行をしたときは、保証人は検索の抗弁権を有する(民法第453条)。

(3) 保証人が催告又は検索の抗弁権を行使したにもかかわらず、国が主たる債務者に対して差押え又は強制執行をすることを怠ったため、主たる債務者から全部の弁済を受けることができなかった場合は、保証人は、国が直ちに主たる債務者に対して差押え又は強制執行をすれば弁済を受けることができた限度において、その弁済の責めを免れる(民法第455条)。

(連帯保証の場合)

6 保証人の保証が連帯保証である場合は、その保証人は、5に掲げる催告及び検索の抗弁権を有しない(民法第454条。商法第511条第2項参照)。

差押えがされている債権

(滞納処分による差押えがされている債権)

7 滞納処分による差押えがされている債権(金銭の支払を目的とするものに限る。以下7において同じ。)に対する滞納処分による差押え(以下7において「二重差押え」という。)については、次に掲げるところによる。

(1) 既にされている差押え(以下7において「先順位の差押え」という。)が債権の全部又は一部についてされているかどうかを問わず、原則として、債権の全部について二重差押えを行うものとする(昭和33.10.10最高判、昭和32.7.2福岡地決参照)。

(2) 先順位の差押えがある間は、二重差押えに基づいて換価(取立てを含む。)をすることができない。
 なお、第三債務者が先順位の差押えに係る行政機関等に対して全額履行したときは、二重差押えは効力を失う。

(3) 二重差押えを行う場合においては、法の規定による債権の差押えの手続によるほか、二重差押えを行った旨を先順位の差押え(その差押えが2以上あるときは、原則としてその全部。以下7において同じ。)に係る行政機関等に対して通知するものとする。この二重差押えを行った旨の通知は、(4)の交付要求書に付記することにより行う。

(4) 二重差押えを行う場合においては、併せて先順位の差押えに係る行政機関等に対して交付要求をするものとする。

(5) 先順位の差押えがある間に、二重差押えを解除したときは、その旨を先順位の差押えに係る行政機関等に対して通知するものとする。この二重差押えの解除の通知は、交付要求解除通知書に付記することにより行う。

(強制執行等による差押えがされている債権)

8 強制執行又は担保権の実行若しくは行使による差押えがされている債権に対する滞納処分による差押えについては、滞調法に定めるところによる。

(注) 担保権の行使とは、担保権者が、目的物の売却その他により滞納者が受けるべき金銭その他の物に対して民法その他の法律の規定によってするその権利の行使、すなわち物上代位権の行使をいう(執行法第193条第1項後段)。

期限の定めのない債権

9 期限の定めのない債権を差し押さえる場合には、徴収職員は、債権差押通知書の「履行期限」欄に、原則として「当税務署(又は当国税局)から請求あり次第即時」と記載する(民法第412条第3項参照)。
 なお、その債権が消費貸借に係るものであるときは、契約の目的、金額その他の事情を考慮して履行期限を定めるものとする(同法第591条参照)。

交互計算の特約のある債権

10 特約により交互計算に組み入れられることとなる債権は、計算期間中は独立して差し押さえることができないから、計算期間末に発生すべき残額の支払請求権を差し押さえる(商法第529条から第533条まで参照)。この場合において、他に適当な財産がないときは、通則法第42条《債権者代位権及び詐害行為取消権》において準用する民法第423条《債権者代位権の要件》の規定による債権者代位権により、滞納者に代位して交互計算の契約を解除し、直ちに残額の支払を請求することができる(商法第534条参照)。

対抗要件を欠いて譲渡された債権

11 債権の譲渡は、確定日付のある証書(民法施行法第5条)により譲渡人がこれを債務者に通知し、又は債務者がこれを承諾しなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない(民法第467条)ので、この要件を欠いている場合には、譲渡人の債権として差し押さえることができる。

(注)

1 債権譲渡の通知は譲渡人がすべきであり、譲受人は譲渡人から委任を受けている場合を除き、譲渡人に代位して通知することができない(昭和46.3.25最高判)。

2 法人が債権を譲渡した場合において、その債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、その債権の債務者以外の第三者については、民法第467条《債権の譲渡の対抗要件》の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなされる。この場合においては、その登記の日付をもって確定日付とされる(動産・債権譲渡特例法第4条第1項)。

代理受領の目的となっている債権

12 代理受領の目的となっている債権であっても、その契約は差押債権者に対抗できないから(昭和43.3.22大阪高判参照)、当該債権に対して滞納処分をすることができる。

(注) 代理受領とは、債権者が、その債権の確保のために、債務者(滞納者)が第三債務者に対して有する債権について、債務者から取立ての委任を受け、受領した金員を直接自らの債権の弁済に充当する方法による債権担保手段をいう。

譲渡制限の意思表示がされた債権

(譲渡制限の意思表示がされた債権の差押え)

13 債権につき、当事者がその譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合においても、当該債権を滞納処分により差し押さえることができる(第47条関係9、民法第466条の4第1項、昭和34.9.14東京地判、昭和45.4.10最高判参照)。

(譲渡制限の意思表示がされた債権が譲渡された場合)

14 譲渡制限の意思表示がされた債権(預貯金債権を除く。)が譲渡された場合において、譲受人がその意思表示がされたことを知っていたとき又はその意思表示がされたことを知らなかったことについて重大な過失があるときは、第三債務者は譲受人に対する債務の履行を拒み、譲渡人に対して弁済することができる(民法第466条3項)が、この場合であっても債権譲渡は有効であるから(同条2項)、譲渡人の債権としては差し押さえることはできない。

手形又は小切手の振り出されている債権

15 債権について手形又は小切手が振り出されている場合には、その債権の差押えは、次による。

(1) 第三債務者が債務の支払に代えて手形又は小切手を振り出している場合には、代物弁済によりその債務は弁済されたことになるから、債権の差押えをすることはできない。したがって、この場合には、その手形又は小切手を、法第56条第1項《動産等の差押え》の規定により差し押さえる。

(2) 第三債務者が債務の支払のために手形又は小切手を振り出している場合には、本来の債務と手形債務とが併存しているから、その手形又は小切手とは別個にその債権を差し押さえることができる。ただし、手形又は小切手が時効その他の理由により効力を失うまでは、第三債務者は、手形又は小切手が返却されなければ、本来の債務の履行を拒むことができる(昭和13.11.19大判参照)。
 なお、手形又は小切手の振出について特に代物弁済の意思表示がなかったときは、その手形又は小切手は、支払のために振り出されたものと推定される(昭和3.2.15大判参照)。

電子記録債権の発生記録がされている債権

15-2 債権について電子記録債権の発生記録がされている場合には、その債権の差押えは、次による。

(1) 債務の支払に代えて電子記録債権の発生記録がされている場合には、代物弁済によりその債務は弁済されたことになるから、その原因となった債権の差押えをすることはできない。この場合においては、その電子記録債権を、法第62条の2第1項《電子記録債権の差押え》の規定により差し押さえる。

(2) 債務の支払のために電子記録債権の発生記録がされている場合には、本来の債務と電子記録債権とが併存しているから、その電子記録債権とは別にその原因となった債権を差し押さえることができる。ただし、電子記録債権が時効その他の理由により消滅するまでは、第三債務者は、電子記録債権の支払等記録がされなければ、本来の債務の履行を拒むことができる(昭和13.11.19大判参照)。
 なお、電子記録債権の発生記録について特に弁済に代える旨の意思表示がなかったときは、その電子記録債権は、債務の支払のために発生記録がされたものと推定される(昭和3.2.15大判参照)。

敷金

16 物の賃貸借において、賃借人が賃貸人に交付する敷金の差押えについては、次のことに留意する。
 なお、敷金とは、いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭である(民法第622条の2)。

(1) 賃貸借契約が終了し、かつ、賃貸人が賃貸物の返還を受けるまでは、賃借人は、敷金の返還請求権を有せず、また、敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず賃貸借終了後目的物の明渡義務の履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保する。したがって、敷金は、将来目的物の明渡しの際に生ずべき返還請求権として差し押さえる(民法第622条の2第1項第1号、昭和48.2.2最高判参照)。

(2) 賃貸人が賃貸借の目的物を譲渡した場合には、賃貸人の地位が譲受人に移転し(昭和39.8.28最高判参照)、特約があるときを除き、敷金は、当事者が現実に敷金の引継ぎをしたかどうかにかかわらず、被担保債権を控除した残額について、新たな賃貸人にその権利義務関係が引き継がれる(昭和2.12.22大判、昭和44.7.17最高判参照)。

(3) 賃借権が旧賃借人から新賃借人に移転した場合においては、旧賃借人が新賃借人に敷金返還請求権を譲渡するなど特段の事情のない限り、敷金に関する権利義務関係は新賃借人に承継されない(民法第622条の2第1項第2号、昭和53.12.22最高判参照)。

預金

17 預金(貯金を含む。以下17において同じ。)の差押えについては、次のことに留意する。

(1) 預金については、預金の種類、預金原資の出えん者、預入行為者、出えん者の預入行為者に対する委任内容、預金口座名義、預金通帳及び届出印の保管状況等の諸要素を総合的に勘案し、誰が自己の預金とする意思を有していたかという観点から、その帰属を判断する(昭和48.3.27最高判、昭和57.3.30最高判、平成15.2.21最高判、平成15.6.12最高判参照)。

(2) 他人名義又は架空名義で預金をしている場合であっても、その真の権利者に対する滞納処分としてその預金を差し押さえることができる。この場合においては、預金名義人の住所、氏名、預金の種類、名称、預金金額、預金証書番号等によって被差押債権を特定するとともに、真の権利者が滞納者である旨を表示する(例えば、何某(預金名義人氏名)こと何某(滞納者氏名)のように表示するものとする。)。

国又は地方公共団体に対する債権

18 国又は地方公共団体に対する債権を差し押さえる場合には、直接その支払の権限を有する支出官、資金前渡官吏等を第三債務者として差し押さえる(政府ノ債務ニ対シ差押命令ヲ受クル場合ニ於ケル会計上ノ規程参照)。この場合において、その支払の権限を有する者が判明しないときは、その行政機関の長を第三債務者として差し押さえても差し支えない。
 なお、供託金について債権差押えをする場合には、第三債務者を国とし、その代表者を供託官とし、供託官あてに債権差押通知書を送達する(昭和26.4.18付民事甲第61号最高裁判所民事局長回答参照)。

郵便貯金

19 郵便貯金の差押えについては、次のことに留意する。

  • (1) 第三債務者及び債権差押通知書の送達先
    • イ 通常貯金又は預入年月日が平成19年10月1日以降の定額貯金・定期貯金
       株式会社ゆうちょ銀行を第三債務者として、当該郵便貯金の貯金原簿を所管する貯金事務センター又は株式会社ゆうちょ銀行沖縄エリア本部(以下19において「貯金事務センター等」という。)に債権差押通知書を送達すること。
    • ロ 預入年月日が平成19年9月30日以前の定額貯金・定期貯金
       独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構を第三債務者として、当該郵便貯金の貯金原簿を所管する貯金事務センター等に債権差押通知書を送達すること。
  • (2) 払戻し
     郵便貯金の払戻しを受けるに当たっては、債権差押通知書を送達した貯金事務センター等に払戻しの請求を行うこと。貯金事務センター等においては、払戻しの請求に基づき、差押金額についての払戻証書を作成し送付することとなっているから、徴収職員はその払戻証書により郵便局において払戻しを受けること。
     なお、払戻しの請求に当たっては、原則として貯金通帳又は貯金証書(以下19において「通帳等」という。)を呈示することとなっているから(通常貯金規定7、14、通常貯蓄貯金規定6、13、定額貯金規定8、定期貯金規定13、平成17年法律第102号による廃止前の郵便貯金法第37条第1項)、法第65条《債権証書の取上げ》の規定により、債権に関する証書としてこれらの通帳等を取り上げるものとする。ただし、通帳等を取り上げることが困難と認められる場合には、通帳等の呈示をせずに払戻しの請求をすることとして差し支えない。

不渡異議申立預託金

20 手形又は小切手の振出人等が、その不渡りによる取引停止処分を回避するため支払銀行に預託する不渡異議申立預託金については、支払銀行に対して有する不渡異議申立預託金返還請求権を差し押さえる。この不渡異議申立預託金返還請求権の弁済期は、支払銀行が手形交換所から不渡異議申立提供金の返還を受けた時である(昭和45.6.18最高判参照)。

(注) 「不渡異議申立提供金」とは、支払銀行が、手形又は小切手の支払を拒絶した振出人等に支払の資力があり、不渡りがその信用に関しないものであることを明らかにすることにより取引停止処分を回避するために、手形の支払義務者から預託を受けて手形交換所に提供する手形又は小切手の金額相当額の金員をいう(東京手形交換所規則第66条参照)。

公示催告中の手形等に係る債権

21 公示催告中の手形又は小切手に係る債権(非訟事件手続法第114条から第118条まで参照)については、その手形金等の支払請求権を差し押さえることができる(昭和51.4.8最高判参照)。

(注) この手形金等の支払請求権は、将来の除権決定の取得を停止条件として権利行使ができる一種の条件付債権である。

換地の所有権の移転があった場合の清算金交付請求権

22 土地区画整理事業による換地の所有権が移転した場合における当該換地に係る清算金交付請求権(土地区画整理法第94条、第104条第8項参照)は、当事者間で特段の合意がなされない限り、当該換地の譲受人には移転しないから(昭和37.12.26最高判、昭和48.12.21最高判参照)、清算金交付請求権は、当該換地の譲渡人に帰属するものとして差し押さえることができる。

差押手続

(第三債務者)

23 法第62条の「第三債務者」とは、滞納者に対して金銭又は換価に適する財産の給付を目的とする債務を負う者をいう。

(債権の特定)

24 債権の差押えにおける被差押債権の特定は、既に発生した債権については、債権者(滞納者)、第三債務者、債権の数額、給付の内容、発生日時等の要素を表示することにより、また、将来生ずべき債権については、債権者(滞納者)、第三債務者、債権の発生原因、債権の種類、発生期間(始期及び終期)等を表示することによる。
 なお、被差押債権の表示については、具体的事実によって第三債務者が被差押債権を確知できる程度に表示されておれば、その債権の差押えは有効である(昭和13.7.2大判、昭和30.5.19大阪高決、昭和46.11.30最高判参照)。

(債権の範囲)

25 差し押さえる債権の範囲は、原則として、その債権の全額である(法第63条)。
 なお、雇用契約に基づく給料債権、賃貸借契約に基づく賃料債権、社会保険制度に基づく診療報酬債権(平成17.12.6最高決参照)等の継続収入の債権については、法第66条《継続的な収入に対する差押の効力》の規定によりその差押えの効力は差押えに係る国税の額を限度として差押え後の収入すべき金額に及ぶことに留意する(第66条関係1参照)。

(債権差押通知書)

26 法第62条第1項の「債権差押通知書」は、令第27条第1項各号《債権差押通知書の記載事項》に掲げる事項を記載した規則第3条《書式》に規定する別紙第4号書式による。この債権差押通知書には、滞納者に対する履行を禁止する旨のほか、被差押債権の弁済期までに履行すべき旨又は弁済期が既に到来しているものについては直ちに履行すべき旨を記載する。

(差押調書)

27 債権を差し押さえたときは、法第54条《差押調書》の規定により、差押調書を作成し、その謄本を滞納者に交付する。この謄本には、債権の取立てその他の処分(譲渡、期限の猶予、債務免除等)を禁止する旨を付記しなければならない(法第62条第2項、令第21条第3項第1号)。

(債権証書の取上げ)

28 徴収職員は、債権の差押えのため必要があるときは、その債権に関する証書を取り上げることができる(法第65条)。

差押えの効力

(効力発生の時期)

29 債権の差押えは、債権差押通知書が第三債務者に送達された時にその効力を生ずる(法第62条第3項)。
 なお、滞納者に対する差押調書の謄本の交付は、差押えの効力発生要件ではないが、法第54条《差押調書》の規定により、滞納者に交付しなければならないことに留意する。

(履行の禁止)

30 第三債務者は、債権の差押えを受けたときは、その範囲において滞納者に対する履行が禁止される。したがって、債権差押通知書の送達を受けた後に、第三債務者が滞納者に対して履行をしても、その履行をもって差押債権者である国に対抗することができない(民法第481条参照)。

(相殺の禁止)

31 第三債務者の有する反対債権と被差押債権との相殺については、次のことに留意する。

(1) 被差押債権及び反対債権(差押え前に取得した債権及び差押え前の原因に基づいて差押え後に取得した債権(差押え後に他人から取得した債権を除く。)に限る。)の弁済期がいずれも到来している場合には、第三債務者は、相殺をもって差押債権者に対抗することができる(民法第505条第1項、第511条)。ただし、先に弁済期が到来した被差押債権につき第三債務者が履行しなかったことがその期間の長さなどからみて権利の濫用に当たるときは、この限りでない。

(注)

1 反対債権の弁済期のみが到来している場合であっても、第三債務者は、被差押債権に係る期限の利益を放棄して、相殺をもって差押債権者に対抗することができる(昭和32.7.19最高判)。

2 被差押債権の弁済期のみが到来している場合であっても、滞納者と第三債務者との間において、差押え前に、期限の利益の喪失の特約又は債務不履行があった場合等一定の条件の下に第三債務者が相殺の予約完結権を行使できる旨の特約がされているときは、第三債務者は、当該特約に基づく相殺をもって差押債権者に対抗することができる(昭和45.6.24最高判)。

(2) 民法第509条《不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止》、会社法第208条第3項《出資の履行における相殺禁止》等の法令の規定により、相殺が禁止される場合がある。

(債権の譲渡等)

32 第三債務者が債権の差押えを受けたときは、滞納者が被差押債権の譲渡、免除、期限の猶予等をしても、第三債務者は、これらの行為にかかわらず、差押債権者に弁済をしなければならない(法第62条第2項参照)。

(債権譲渡と差押えとの優劣)

33 債権の譲渡と滞納処分による差押えの優劣は、確定日付のある譲渡通知書が第三債務者に到達した日時又は確定日付のある第三債務者の承諾の日時と、債権差押通知書が第三債務者に到達した日時との先後により判定する(昭和58.10.4最高判参照)。この場合において、これらの日時が同一であること又はその先後が不明であることにより債権譲受人と差押債権者の優劣の判定ができないときは、債権譲受人及び差押債権者は、それぞれ第三債務者に対しその全額の履行を請求することができ、第三債務者は譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、弁済を免れることはできない(昭和55.1.11最高判、平成5.3.30最高判参照)。
 なお、これらの日時の先後関係が不明であるために、第三債務者が債権者を確知することができないことを原因として債権額に相当する金員を供託した場合において、被差押債権額と譲受債権額の合計額が供託金額を超えるときは、差押債権者と債権譲受人は、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額をあん分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得する(平成5.3.30最高判参照)。

(注) 確定日付のある譲渡通知書が第三債務者に到達した日時又は確定日付のある第三債務者の承諾の日時と債権差押通知書が第三債務者に到達した日時の先後関係が不明である場合には、第三債務者は民法第494条第2項《供託》の規定により供託をすることができ、差押債権者がその供託金の払渡しを受けるためには、供託金払渡請求書に供託規則第24条第1項第1号《還付請求の添付書類》の書面を添付する必要がある(平成5.5.18付民4第3841号法務省民事局民事第四課長通知参照)。

(同時履行の抗弁権又は選択権の行使)

34 第三債務者が同時履行の抗弁権を有する場合(民法第533条)又は第三債務者若しくは第三者が選択権を有する場合(同法第406条から第411条まで参照)には、差押え後であっても、これらの権利を行使することができる。

(法定果実)

35 債権を差し押さえた場合には、その差押えの効力は、差押え後に生ずる利息に及ぶが、その他の法定果実には及ばない(法第52条第2項、第52条関係16、17参照)。

(時効の完成猶予及び更新)

36 債権の差押えは、通則法第72条第3項《時効についての民法の規定の準用》において準用する民法第148条《強制執行等による時効の完成猶予及び更新》の規定により、その差押えに係る国税の時効の完成猶予及び更新の事由となる。
 また、債権の差押えは、被差押債権については催告としての効力を有するから(大正10.1.26大判参照)、債権差押え後6月を経過するまでは、被差押債権の時効は完成しない(民法第150条第1項)。

(注) 債権の消滅時効は、原則として、権利を行使することができることを知った時から5年と権利を行使することができる時から10年のいずれか早い時に完成するが(民法第166条第1項)、これらよりも短い時効期間の定めがあることに留意する(商法第586条、手形法第70条等)。

登録国債の差押えの登録の嘱託

37 登録国債を差し押さえたときは、日本銀行に対して差押えの登録を嘱託する。具体的には、次に掲げる書類を日本銀行に送達することにより、差し押さえるものとする。

(1) 第三債務者を国とし、その代表者を財務大臣と記載した債権差押通知書

(2) 日本銀行をあて先とする登録国債差押登録嘱託書

38 削除

債権譲渡に係る登記

(債権譲渡登記の効果)

39 動産・債権譲渡特例法第4条第2項《債権の譲渡の対抗要件の特例等》に規定する債権譲渡登記がされていたとしても、当該登記は譲渡の対象となる債権の譲渡の事実を公示するにすぎず、譲渡契約の有効性までも証明するものではない。
 したがって、滞納処分による差押えに先行して債権譲渡登記がされている場合であっても、債権譲渡契約が無効であるときには、差し押さえることができる。

(債権譲渡登記と滞納処分による差押えが競合した場合)

40 債権譲渡登記がされた債権譲渡と滞納処分による差押えが競合した場合における優先関係は、債権譲渡登記がされた時と債権差押通知書が第三債務者に送達された時の先後により判定する。
 したがって、法人である滞納者の売掛債権等を差し押さえた場合には、債権譲渡登記の有無を確認するため、滞納者の本店等所在地の法務局等において滞納者の概要記録事項証明書の交付を請求する必要がある。