損害保険

(意義)

1 法第53条第1項の「損害保険」とは、当事者の一方(保険者)が偶然な一定の事故(以下第53条関係において「保険事故」という。)によって差押財産について生ずることがあるかもしれない損害をてん補することを約し、相手方(保険契約者)が保険者に対してその保険事故の発生の可能性に応じたものとして保険料を支払うことを約する契約に関する保険をいう(保険法第2条第1号、第6号参照)。これらの保険には、例えば、火災保険、運送保険及び海上保険(商法第3編第7章)のほか、物についての盗難保険、ガラス保険、自動車保険、航空保険、ボイラー・ターボセット保険、風水害保険、動産総合保険等及び債権についての信用保険、抵当保険、有価証券保険がある。

(注)

1 当事者の意思によらない損害保険契約の終了
 損害保険契約の終了については、当事者の意思による場合とよらない場合とがあるが、次に掲げる場合には、当事者の意思表示を待たず当然に終了する。

(1) 保険期間の満了の場合 保険者は保険期間中に起こった保険事故による損害をてん補するものであるから、保険事故の発生を見ずに保険期間が満了したときは、損害保険契約は原則として消滅する。ただし、損害保険契約の継続について、特別の定めをしているときは、この限りでない。

(2) 被保険利益の消滅の場合 損害保険契約は、損害のてん補を目的とするから被保険利益の存在を前提とする。したがって、保険者の負担すべき保険事故以外の理由により保険の目的の全部又は一部が滅失し、被保険利益の全部又は一部が消滅した場合(危険が消滅した場合を含む。)には、その部分についての損害保険契約は効力を失う。

(3) 保険者の破産の後3月を経過した場合 保険者に破産手続開始の決定があったときは、保険契約者はその契約を解除することができるが(保険法第96条第1項、破産法第53条)、保険契約者が保険法第96条第1項«保険者の破産»の規定による解除をしない場合において、破産手続開始の決定の日から3月を経過したときは、その損害保険契約は当然にその効力を失う(同条第2項)。

2 当事者の意思による損害保険契約の終了
 損害保険契約は、次に掲げる場合には、契約当事者の意思によって終了させることができる。

(1) 保険契約者による任意解除の場合 保険契約者はいつでも損害保険契約を解除することができる(保険法第27条)。ただし、当事者がこれと異なる特約をしている場合には、この限りでない。

(2) 保険者の破産の場合における保険契約者による解除の場合 保険者に破産手続開始の決定があったときは、保険契約者は将来に向かって損害保険契約を解除することができる(保険法第96条第1項、第31条1項、破産法第53条)。

(3) 告知義務違反の場合における保険者による解除の場合 保険契約者が、告知義務に違反した場合には、保険者は、一定の要件の下に、将来に向かって損害保険契約を解除することができる(保険法第4条、第28条、第31条第1項)。

(4) 危険増加の場合における保険者による解除の場合 保険者は、損害保険契約の締結後に危険増加が生じた場合において、保険契約者又は被保険者が故意又は重大な過失により遅滞なく危険増加に係る告知事項についてその内容に変更が生じた旨の通知をしなかったときには、将来に向かって損害保険契約を解除することができる(保険法第29条第1項、第31条第1項)。
 なお、危険増加とは、損害保険契約の締結後に告知事項についての危険が高くなり、損害保険契約で定められている保険料が当該危険を計算の基礎として算出される保険料に不足する状態になることをいう(保険法第29条第1項)。

(5) 重大事由がある場合における保険者による解除の場合 保険者は、次に掲げる事由がある場合には、損害保険契約を解除することができる(保険法第30条)。

イ 保険契約者又は被保険者が、保険者に損害保険契約に基づく保険給付を行わせることを目的として損害を生じさせ、又は生じさせようとしたこと。

ロ 被保険者が、損害保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。

ハ 保険者の保険契約者又は被保険者に対する信頼を損ない、損害保険契約の存続を困難とする重大な事由があること。

(6) 保険約款の規定による解除の場合 保険約款に一定の要件があり、その契約を解除することができる旨の定めがある場合において、その要件に該当するときは、その損害保険契約を解除することができる。

(損害保険契約の終了又は無効と差押えの効力)

2 差押財産に係る損害保険契約が終了した場合(1の(注)1及び(注)2参照)又は損害保険契約の全部若しくは一部が無効である場合には、その差押えの効力は、その終了又は無効であることにより生ずる保険料等の返還を受ける権利(保険法第32条参照)には及ばない。したがって、この返還請求権は、別個の債権として差し押さえる必要がある。

火災共済協同組合の火災共済

(火災共済の意義)

3 法第53条第1項の「中小企業等協同組合法第9条の7の2第1項第1号(火災共済協同組合の火災共済事業)に規定する共済」とは、火災共済協同組合員が火災又は落雷等の偶然な事故によりその所有財産等について受けた損害をてん補するために、その火災共済組合が行う共済をいう。

(注) 火災共済協同組合が締結する火災共済契約についても、保険法の規定が適用されるので、共済契約の終了等については、1の(注)及び2に準ずる(同法第1条、第2条第1号)。

(これに類する共済)

4 法第53条第1項の「その他法律の規定による共済でこれに類するもの」には、次に掲げるものがある。

(1) 農業協同組合法の規定による共済(同法第10条第1項第10号、第11条の7参照)

(2) 水産業協同組合法の規定による共済(同法第11条第1項第11号、第15条の2、第93条第1項第6号の2、第96条第1項、第100条の2第1項第1号、第100条の8第1項参照)

(3) 消費生活協同組合法の規定による共済(同法第10条第1項第4号、第26条の3参照)

保険等の目的

(目的)

5 法第53条第1項の「差押財産が損害保険に附され、又は共済の目的となっているとき」とは、差し押さえた財産が保険事故によって損害が生ずることのある物として、損害保険契約で定めるものとなっているときをいい、例えば、差し押さえた建物が火災保険契約の目的物となっているときをいう(保険法第6条第1項第7号参照)。

(注) 損害保険契約の目的とは、被保険利益のことをいう(保険法第3条参照)。

(目的物の範囲)

6 損害保険、火災共済その他の共済の目的物及びその範囲は、各損害保険契約の約款又は共済契約により定められる。

保険金又は共済金

(保険金)

7 法第53条の「保険金」とは、保険事故が発生したことにより損害保険契約に基づく保険価額及び保険金額の範囲内で、実際に生じた損害額につき、被保険者が保険者から損害のてん補として受ける金銭をいう。
 なお、普通保険約款で、現品の交付、修繕その他の方法によるてん補も定めることができる(保険法第2条第1号参照)。

(注)

1 保険価額とは、損害保険契約の目的物の評価額をいい、保険金額とは、保険者が、保険事故による損害の発生の際にてん補すべき金額の最高限度額で契約締結時に保険者と保険契約者の間で約定されるものをいう(保険法第9条、第6条第1項第6号参照)。

2 損害保険契約の締結の時において保険金額が保険価額を超えていたことにつき保険契約者及び被保険者が善意でかつ重大な過失がなかったときは、保険契約者は、その超過部分について、損害保険契約を取り消すことができる(保険法第9条)。

3 損害保険契約によりてん補すべき損害について他の損害保険契約がこれをてん補することとなっている場合においても、保険者は、てん補損害額の全額について、保険給付を行う義務を負っている(保険法第20条第1項)。また、2以上の損害保険契約の各保険者が行うべき保険金額の合計額がてん補損害額を超える場合において、保険者の1人から保険給付を受けた被保険者は、いまだ保険給付を受けていない損害の限度で他の保険者から保険給付を受けることができる(同法第2条第6号参照)。

(共済金)

8 法第53条の「共済金」とは、共済事故が発生したことにより共済契約に基づく共済金額の範囲内で、実際に生じた損害額につき、共済契約者が共済事業者から損害のてん補として受ける金銭をいう。

保険金又は共済金に係る差押えの効力

(差押え前に差押財産が保険等に付されている場合)

9 保険に付され、又は共済の目的となっている財産に対する差押えの効力は、保険金又は共済金の支払を受ける権利に及ぶから、一定の事故が生じた場合には、改めて保険金又は共済金の支払を受ける権利の差押えをすることなく保険者又は共済事業者は、保険金又は共済金を差押債権者である国に対して支払うこととなる。ただし、保険者又は共済事業者に対し財産を差し押さえた旨を通知することが必要である(法第53条第1項ただし書)。この書面の様式は、別に定めるところによる。
 なお、保険金又は共済金の支払を受ける権利に質権等がある場合は、上記の通知をしたときにその質権等の権利者に法第55条«質権者等に対する差押えの通知»の規定による通知をするものとする。

(差押え後に差押財産が保険に付された場合等)

10 差押え後にその差押財産が保険に付され、又は共済の目的となった場合における差押えの効力は、次のとおりである。

(1) 差押え後にその差押財産が保険に付され、又は共済の目的となった場合には、その差押えの効力は、保険金又は共済金の支払を受ける権利に及ぶ。ただし、このためには、保険に付され、又は共済の目的となった財産を差し押さえた旨を保険者又は共済事業者に通知しなければ、その差押えをもってこれらの者に対抗することができない(法第53条第1項ただし書)。

(2) 差押え後にその差押財産が譲渡され、その後新たに保険に付され、又は共済の目的となった場合には、差押えの効力は、保険金又は共済金の支払を受ける権利に及ばない。

(保険に付された財産の譲渡と差押えの効力)

11 保険に付された財産を差し押さえ、法第53条第1項ただし書の通知をした後にその差押財産が譲渡された場合において、特約によりその財産に付された損害保険契約に係る権利が譲渡されたとしても、その権利の譲渡は差押えに対抗することができない。

(注) 保険に付された財産が、相続又は会社の合併若しくは分割による包括承継があった場合には、損害保険契約に係る権利も包括承継の対象となるため、差押えの効力は、その保険金の支払を受ける権利に及ぶ。

(損害保険契約の継続と差押えの効力)

12 保険事故の発生をみないで保険期間が満了した場合において、保険証券を新たに発行せず、損害保険契約継続証を従来の保険証券に添付し、新証券として損害保険契約が継続されたときは、改めて法第53条第1項ただし書の差押えの通知をする必要はない(昭和37.8.10名古屋高判参照)。

(共済の目的となっている財産の譲渡と差押えの効力)

13 火災共済契約の目的となっている財産が譲渡された場合(相続又は会社の合併若しくは分割による場合を含む。)におけるその財産に対する差押えの効力は、11と同様である。

14 削除

保険又は共済の事故

(事故)

15 法第53条第2項の「保険又は共済に係る事故」とは、保険者又は共済事業者が保険又は共済の目的物につき、一定の偶然な事故によって生ずる損害をてん補することを契約している場合において、その保険者又は共済事業者のてん補すべき義務を具体化させる事故をいう(保険法第2条第6号、第5条参照)。

(注)

1 保険事故と免責事由
 保険に係る事故については、それぞれの損害保険契約で約定されたところによるが、事故が生じても、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害及び戦争その他の変乱により生じた損害については、保険法第17条第1項«保険者の免責»の規定により、保険者は損害てん補義務を免れる。
 なお、保険者は、普通保険約款に、免責される事故又は損害の態様を特約事項として定めることができる。

2 共済事故
 共済に係る事故としては、火災共済協同組合が締結するものについては火災又は落雷等の偶然の事故、農業協同組合が締結するものについては共済規程に定める事故、水産業協同組合が締結するものについては共済規程に定める事故及び消費生活協同組合が締結するものについては規約に定める事故等がある(中小企業等協同組合法第9条の7の2、農業協同組合法第11条の7、水産業協同組合法第15条の2、第96条第1項、第100条の8、消費生活協同組合法第26条の3参照)。

差押財産上の抵当権等と差押国税との関係

(差押財産上の抵当権等の物上代位)

16 差押財産が保険又は共済及び抵当権等の目的となっている場合において、徴収職員がその財産についてその保険金又は共済金の支払を受けたときは、法第53条第2項の規定により、その抵当権者、質権者又は先取特権者(以下第53条関係において「抵当権者等」という。)がその支払前にその保険金又は共済金の支払を受ける権利について、民法第304条第1項ただし書«物上代位»、第350条«留置権等の規定の準用»、第372条«留置権等の規定の準用»、自動車抵当法第8条«物上代位»、建設機械抵当法第12条«物上代位»等の規定による差押えをしたものとみなされるので、その抵当権者等は、物上代位のための要件としての差押手続を要せず、その権利の行使をしたと同様の関係になる。

(保険金等の配当)

17 徴収職員が、差押えに係る保険金又は共済金の支払を受けた場合のその保険金又は共済金に係る金銭は、法第128条第1項第2号«配当すべき金銭»の規定による配当すべき金銭に該当する。

(差押財産上の抵当権等と差押国税)

18 徴収職員が、差押財産に係る保険金又は共済金の支払を受けた場合において、その財産上に法第53条第2項の抵当権等があったときのその抵当権等の被担保債権とその差押えに係る国税との優先関係については、その保険金又は共済金が差押財産の換価代金に相当するものとして、法第2章第3節«国税と被担保債権との調整»等の規定を適用するものとする。
 なお、上記の場合における抵当権等の被担保債権の優先についての証明は、令第4条第3項«優先質権等の証明の期限»の規定により、保険金又は共済金についての配当計算書の作成の日の前日までにしなければならない。

保険金の請求権上の質権と差押財産上の抵当権等と差押国税との競合

19 徴収職員が、差押財産に係る保険金又は共済金の支払を受けた場合において、その保険金又は共済金の支払を受ける権利について設定された質権があり、かつ、その財産上に法第53条第2項の抵当権等があったときのその質権の被担保債権とその抵当権等の被担保債権と差押えに係る国税との優先順位は、その質権及びその抵当権等を設定した時とその国税の法定納期限等とを比較して、これらの古い順序に従って定めるものとする(平成10.3.26最高判参照)。

(注)

1 法第53条第2項の規定により差押えをしたものとみなされた場合において、抵当権等が2以上あるときは、その抵当権等相互間については、民法その他の法律の規定によりその順位を定めるものとする。

2 法第53条第1項の規定により、差押財産に対する差押えの効力が保険金又は共済金の支払を受ける権利に及んだ時より後に、その請求権上に設定した質権については、配当しないものとする。

参加差押え及び交付要求との関係

(参加差押え又は交付要求をした者への配当)

20 徴収職員が、差押財産に係る保険金又は共済金の支払を受けた場合において、その差押財産につき、参加差押え又は交付要求がされていたときは、これらの参加差押え又は交付要求に係る国税、地方税又は公課に対しても配当する。
 なお、上記の場合においては、法第2章第2節«国税及び地方税の調整»の規定が適用される。

(参加差押えに係る差押えについての保険者等への通知)

21 保険に付され、又は共済の目的となっている財産の参加差押えをした場合には、参加差押えをした旨を保険者又は共済事業者に通知するものとする。この通知をしていない場合において、先行の差押えが解除されたことにより参加差押えが差押えの効力を生じたときは、改めて保険者又は共済事業者に対し差し押さえた旨を通知しない限り、その差押えをもってこれらの者に対抗することができない。
 なお、保険金又は共済金の支払を受ける権利に質権等がある場合には、その質権等の権利者に対する通知をするものとする。

保険金等の支払を受ける権利の差押えと法第53条第2項との関係

22 法第53条第1項の保険金又は共済金の支払を受ける権利を滞納処分により差し押さえた場合において、その差押えに基づきその保険金又は共済金の支払を受けたときにおいても、法第53条第2項の規定の適用があるものとする。

担保の処分としての差押えと法第53条との関係

23 通則法第52条第1項«担保の処分»の規定により、滞納処分の例により担保物の差押えをする場合において、その財産が保険に付され、又は共済の目的となっているときは、保険金又は共済金の支払を受ける権利に質権を設定しているときを除き、その財産を差し押さえた旨を保険者又は共済事業者に通知する(法第53条第1項ただし書)。