(偽りその他不正の行為)
1 ほ脱罪における「偽りその他不正の行為」とは、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうが(昭和42.11.8最高判参照)、法第40条の規定は、偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は還付を受けた法人を支配する役員等が、当該国税の納付の原資となるべき法人の財産を散逸させた場合に、当該役員等に第二次納税義務を負わせることにより徴税手続の合理化を図るという趣旨に基づく行政上の措置であり、刑罰を定めたものではないから、同条の規定を適用するに当たっては、ほ脱の意図があることまでを要しない。
また、「偽りその他不正の行為」は、その行為の態様が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠蔽又は仮装という態様に限定されるものではないことから、通則法第68条にいう「隠蔽」又は「仮装」に該当する場合は、一般的に、「偽りその他不正の行為」にも該当する。
(その国税を納付していない場合)
2 法第40条の「その国税(その附帯税を含む。)を納付していない場合」とは、株式会社、合資会社又は合同会社(以下第40条関係において「株式会社等」という。)が偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた部分の国税について、期限後申告、修正申告、更正、決定又は賦課決定(通則法第2条第2号に規定する源泉徴収等による国税についての納税の告知を含む。)により納付すべき額が確定した国税(その附帯税を含む。)をその納期限までに完納していない場合をいう。
なお、偽りその他不正の行為が通則法第68条にいう「隠蔽」又は「仮装」に該当するものである場合、「その国税(その附帯税を含む。)」とは、同条に基づき課され又は徴収することとされた重加算税の計算の基礎となるべき税額に係る国税及びその附帯税をいうものとする。
(徴収すべき額に不足すると認められるとき)
3 法第40条の「徴収すべき額に不足すると認められるとき」の判定は、第22条関係4と同様であり、また、その判定の時期は、第33条関係1と同様である。
なお、合資会社が国税を滞納している場合においては、法第33条の無限責任社員に対して滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるとき(法第33条の第二次納税義務を現実に追及した結果に基づいて判定する必要はない。)に限り、その合資会社の特定役員等に対して第二次納税義務を賦課することができることに留意する。
(株式会社の役員)
4 法第40条の「株式会社の役員」とは、株式会社の取締役、会計参与、監査役(会社法第329条第1項)及び執行役(同法第402条)をいう。
(特定役員等)
5 法第40条の「特定役員等」とは、株式会社の役員又は合資会社若しくは合同会社の業務を執行する有限責任社員を判定の基礎となる株主又は社員として選定した場合にその株式会社等が法人税法第67条第2項《特定同族会社の特別税率》に規定する会社に該当する場合におけるその役員又は有限責任社員をいう。
なお、法第40条の特定役員等に該当するかどうかの判定は、その株式会社等の役員又は有限責任社員による「偽りその他不正の行為」があった時の現況によるものとする。
(注) 「役員又は有限責任社員」は自然人に限られないことから、法人も「特定役員等」に該当し得ることに留意する。
(被支配会社の判定)
6 法第40条の「法人税法第67条第2項(特定同族会社の特別税率)に規定する会社」に該当するかどうかの判定は、偽りその他不正の行為をした株式会社の役員又は合資会社若しくは合同会社の有限責任社員の一人及びその特殊関係者(法人税法施行令第139条の7第1項各号に掲げる個人及び同条第2項各号に掲げる会社をいう。以下6において同じ。)の有する株式の数、出資の金額若しくは議決権の数又は当該有限責任社員の一人及びその特殊関係者の数を合計した数が、株式会社等の発行済株式の総数、出資の総額若しくは議決権の総数又は合資会社若しくは合同会社の社員の総数に占める割合によって、法人税法第67条第2項《特定同族会社の特別税率》の被支配会社に該当するかどうかにより行うものとする。
なお、法第40条の株主又は社員は、株主名簿、社員名簿の記載等にかかわらず、実質上の株主又は社員をいう。
(特定役員等以外の者が行った偽りその他不正の行為)
7 特定役員等が直接「偽りその他不正の行為」を行っていない場合であっても、特定役員等が他の者に指示をして当該行為を行わせる等、その行為を特定役員等の直接の行為と同視し得る場合には、法第40条を適用して、当該特定役員等に対して第二次納税義務を追及することができる。
(その偽りその他不正の行為により免れ、若しくは還付を受けた国税の額)
8 法第40条の「その偽りその他不正の行為により免れ、若しくは還付を受けた国税の額」とは、株式会社等が、偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた部分の国税(2参照)の額のうち、特定役員等がした偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた部分の国税(その附帯税を含む。)の額をいう。
なお、偽りその他不正の行為をした特定役員等が2人以上ある場合には、各特定役員等がした偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた部分の国税(その附帯税を含む。)の額の合計額となる。
(偽りその他不正の行為があつた時)
9 法第40条の「偽りその他不正の行為があつた時」とは、税の賦課徴収を不能又は著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為が行われた時をいう。
なお、複数の行為が同条の「偽りその他不正の行為」に該当する場合の「偽りその他不正の行為があつた時」とは、これらの行為のうち特定役員等による偽りその他不正の行為が最初になされた時をいう。
(特定役員等が移転を受けたもの)
10 法第40条の「特定役員等が移転を受けたもの」とは、偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた株式会社等から当該偽りその他不正の行為をした特定役員等に移転された財産をいう。
なお、ここでいう「移転」とは、贈与、売買、交換、債権譲渡、代物弁済、報酬の支払、金銭の貸付け、借入れの返済、剰余金の配当等による財産権の移転をいい、その原因となる行為の態様を問わない。
また、架空の経費として取引先等に移転された金銭が、当該取引先等から特定役員等に移転された場合など、形式的には株式会社等以外の第三者から特定役員等に財産が移転されていたとしても、実質的には株式会社等から特定役員等に対する移転であると認められる場合には、「特定役員等が移転を受けたもの」に該当することに留意する。
(限度額の算定の基礎となる移転)
11 法第40条の限度額の算定の基礎となる「移転」については、納付通知書を発する時までに行われたものに限る。
(特定役員等が移転をしたもの)
12 法第40条の「特定役員等が移転をしたもの」とは、偽りその他不正の行為をした特定役員等が主体的に財産の移転に係る意思決定を行い、株式会社等からその特定役員等以外の者に移転した財産をいう。
なお、「移転」及び「限度額の算定の基礎となる移転」については10及び11と同様である。
(通常の取引の条件に従つて行われたと認められる取引)
13 法第40条の「通常の取引の条件に従つて行われたと認められるその株式会社、合資会社又は合同会社の各事業年度の収益に係る売上原価、販売費又は一般管理費の額の基因となる取引その他の政令で定める取引」(以下13において「通常の取引」という。)に該当するかどうかの判定は、その株式会社等の取引の内容その他の事情を勘案して、その取引の相手方との間で通常の取引の条件に従って行われたと認められるかどうかに加えて、その取引が営業活動の一環として行われるものかどうか、又はその株式会社等の事業を遂行するために通常必要と認められるものに該当するかどうかといった取引の類型的な性質も勘案して判定する。
例えば、役員給与として支給された場合であっても、その支給を受ける役員の勤務実態や職責等からみて、不相当な支給であると認められる場合のように、その支給が実質的には簿外資金の処分のためにされたものであると認められる場合や、取引先に対する金銭の支払であっても、その支払が隠蔽仮装行為に要する費用(法人税法第55条第1項参照)として支出されたものであると認められる場合等については、通常の取引には該当しない。
なお、通常の取引は、損益取引に該当するものに限られず、資産の売却、借入金の返済、剰余金の配当等も含まれる(令第14条の2第3号)。
また、法人税法上の損金に算入することができる金額の基因となる取引であっても、通常の取引に当たらない場合があることに留意する。
(移転を受けたもの及び移転をしたものの価額)
14 移転を受けたもの及び移転をしたものの価額は、原則として、特定役員等が移転を受けた時におけるその財産の価額及び移転をした時におけるその財産の価額をいう。ただし、納付通知書を発する時の現況において、売買や交換等により株式会社等が反対給付として財産を取得している場合や、株式会社等が貸し付けた金銭の弁済を受けている場合は、その財産の価額から反対給付として取得した当該財産の価額又は当該弁済された額(利息の支払額を除く。)を差し引くものとする。
(限度額の算定時期)
15 法第40条の第二次納税義務の限度額の算定について、その算定の基礎となる「その偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税の額」のうち、延滞税の金額は、納付通知書を発する日における金額とする。
なお、「その偽りその他不正の行為により免れ、又は還付を受けた国税」の一部につき納付又は過誤納金等の充当等があった場合においても、法第40条の第二次納税義務の限度額の算定の基礎となる国税(延滞税及び利子税を除く。)の額には影響がないことに留意する。
(偽りその他不正の行為をした特定役員等が2人以上ある場合)
16 偽りその他不正の行為をした特定役員等が2人以上ある場合において、各特定役員等がそれぞれ財産の移転を受け、又は財産を移転したときは、そのそれぞれの財産の価額をその特定役員等が移転を受けたもの及びその特定役員等が移転をしたものの価額とするが、各特定役員等が共同して財産を移転したと認められるときは、その移転をした財産の価額の全額を、その特定役員等が移転を受けたもの及びその特定役員等が移転をしたものの価額とする。