不動産賃貸の先取特権等の優先

1 法第20条第1項各号に掲げる先取特権(仮登記(保全仮登記を含む。)に係るものを含む。法第133条第3項、令第50条第4項参照)は、法第19条第1項各号に規定する先取特権とは異なり、一定の条件の下に質権又は抵当権に優先し、又は同順位であることから、先取特権の成立が国税の法定納期限等以前又は財産譲渡時以前であるときに限り、その被担保債権は、国税に優先する。
 なお、法第20条第1項各号及び法第19条第1項各号《不動産保存の先取特権等の優先》の先取特権に該当しない先取特権の被担保債権は、国税に劣後することはもちろん、滞納処分手続においては劣後配当も受けられない。

法定納期限等以前からあるとき

2 法第20条第1項の「法定納期限等以前」には、その法定納期限等に当たる日を含む。したがって、その日に成立した先取特権も、法定納期限等以前にある先取特権となる。

財産譲渡との関係

(譲り受けたとき)

3 法第20条第1項の「財産を譲り受けたとき」は、第17条関係1と同様である。

(注) 先取特権のある財産が譲渡された場合における譲渡人の国税と先取特権との関係については、法第22条《担保権付財産が譲渡された場合の国税の徴収》の規定に相当する規定がないことに留意する。

(譲渡による先取特権の追及の制限)

4 法第20条第1項第1号の先取特権については、その目的となっている動産が第三取得者に引き渡されたときは行使することはできない(民法第333条)。

不動産賃貸等の先取特権

(不動産賃貸の先取特権)

5 法第20条第1項第1号の「不動産賃貸の先取特権」とは、不動産の賃貸料その他賃貸借関係から生ずる賃貸人の債権(損害賠償請求権等)について、賃借人の動産の上に成立するものをいうが(民法第312条)、その被担保債権及び目的財産については、次のことに留意する。

(1) 賃貸人が敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けることができない不足額についてだけ先取特権が成立する(民法第316条)。また、賃借人の財産のすべてを清算する場合(破産の場合等)には前期、当期及び次期の賃借料その他の債権並びに前期及び当期において生じた損害賠償についてだけ先取特権が成立する(同法第315条)。

(2) 土地の賃貸人の先取特権の目的物は、賃借地又はその利用のためにする建物に備え付けた動産、その土地の利用に供した動産及び賃借人が占有しているその土地の果実であり(民法第313条第1項)、建物の賃貸人の先取特権の目的物は、賃借人がその建物に備え付けた動産である(同法第313条第2項)。
 また、賃借権の譲渡又は転貸があった場合においては、賃借権の譲受人又は転借人の動産及び譲渡人又は転貸人の受けるべき金額(賃借権譲渡の対価等)にも、先取特権の効力が及ぶ(民法第314条)。

(質権と同一順位の先取特権)

6 法第20条第1項第1号の「質権と同一の順位」の先取特権とは、不動産賃貸の先取特権のほか、旅館宿泊の先取特権(民法第317条)及び運輸の先取特権(同法第318条)をいい(同法第330条第1項、第334条)、先取特権の目的財産が農業上の果実(収穫物)であるときは、農業の労務の先取特権(同法第323条)をいう(同法第330条第3項、第334条)。

(注)

1 「旅館宿泊の先取特権」とは、宿泊客が負担すべき宿泊料及び飲食料の請求権について、その旅館にあるその宿泊客の手荷物の上に存する先取特権をいう(民法第317条)。

2 運輸の先取特権」とは、旅客又は荷物の運送賃及びそれに付随する費用(荷造費等)の請求権について、運送人の占有する荷物の上に存する先取特権をいう(民法第318条)。

(これらに優先する順位の動産に関する特別の先取特権)

7 法第20条第1項第1号の「これらに優先する順位の動産に関する特別の先取特権(前条第一項第三号から第五号までに掲げる先取特権を除く。)」とは、次のものをいう。

(1) 第1順位担保権を有する者が、その債権取得の当時において、既に第2順位担保権者又は第3順位担保権者のあることを知っていた場合におけるその第2順位担保権及び第3順位担保権(民法第330条第2項前段。第19条関係33の(2)参照)

(2) 第1順位担保権成立後、第2順位担保権が成立した場合におけるその第2順位担保権(民法第330条第2項後段。第19条関係33の(3)参照)

(注) 上記に該当しない場合、すなわち、第2順位担保権又は第3順位担保権と第1順位担保権との競合がない場合、第1順位担保権が第3順位担保権よりも先に成立した場合及び第1順位担保権の成立当時に第2順位担保権者又は第3順位担保権者のあることを知らなかった場合には、法第20条第1項第1号には該当しない。

(動産保存の先取特権等)

8 動産保存の先取特権(民法第320条)、農業動産信用法第4条第1項第1号《農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権》の先取特権、動産の売買の先取特権(民法第321条)、種苗又は肥料の供給の先取特権(民法第322条)、農業労務の先取特権(民法第323条)、工業労務の先取特権(民法第324条)及び農業動産信用法第4条第1項第2号から第6号まで《農業用動産の購入資金貸付けの先取特権等》の先取特権については、法第20条第1項第1号の「これらに優先する順位の動産に関する特別の先取特権」に該当する場合(7参照)と滞納処分手続において劣後配当も受けられない場合とがある。
 なお、動産保存の先取特権及び農業動産信用法第4条第1項第1号《農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権》の先取特権については、法第19条第1項第5号《動産保存の先取特権等の優先》に該当する場合がある。

(注)

1  「動産の売買の先取特権」とは、動産の代価及びその利息について、その動産の上に存する先取特権をいう(民法第321条)。

2  「種苗又は肥料の供給の先取特権」とは、種苗又は肥料の代価及びその利息に関し、その種苗又は肥料を用いた後1年内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)の上に存する先取特権をいう(同法第322条)。

3  「農業労務の先取特権」とは、農業労務者の最後の1年間の賃金について、その労務によって生じた果実(農業収穫物)の上に存する先取特権をいう(同法第323条)。

4  「工業労務の先取特権」とは、工業労務者の最後の3ヶ月間の賃金について、その労務によって生じた製作物の上に存する先取特権をいう(同法第324条)。

5  「農業動産信用法第4条第1項第2号から第6号まで《農業用動産の購入資金貸付けの先取特権等》の先取特権」とは、貸し付けた債権の元本及び利息について、次に掲げる財産の上に存する先取特権をいう(同法第4条第1項第1号の農業用動産等の保存資金貸付けの先取特権については、第19条関係32参照)。
 なお、優先順位については、次の(1)及び(2)の先取特権は動産売買の先取特権((注)1参照)と、(3)から(5)までの先取特権は種苗又は肥料の供給の先取特権((注)2参照)と、それぞれみなされる(農業動産信用法第11条)。

(1) 農業用動産の購入資金貸付けの先取特権については、貸付けを受けた資金をもって購入した農業用動産(同法第6条)

(2) 薪炭原木の購入資金貸付けの先取特権については、貸付けを受けた資金をもって購入した薪炭原木から生産した薪炭(同法第9条)

(3) 種苗又は肥料の購入資金貸付けの先取特権については、貸付けを受けた資金をもって購入した種苗又は肥料を用いた後1年内にその用いた土地から生じた果実、また、桑樹の肥料購入資金貸付けの先取特権についてはその果実たる桑葉より生じた物(同法第7条)

(4) 蚕種又は桑葉の購入資金貸付けの先取特権については、貸付けを受けた資金をもって購入した蚕種又は桑葉より生じた物(同法第8条)

(5) 水産養殖用種苗又は水産養殖用じ(餌)料の購入資金貸付けの先取特権については、貸付けを受けた資金をもって購入した種苗を養殖した物又は貸付けを受けた資金をもって購入したじ(餌)料を用いて養殖した物(同法第10条)

(優先順位)

9 「第20条関係5から8までの先取特権の優先順位は、第19条関係33と同様である(民法第330条第1項、第2項)。ただし、先取特権の目的財産が農業上の果実である場合の優先順位は、第1順位が農業の労務者、第2順位が種苗又は肥料の供給者、第3順位が土地の賃貸人である(同法第330条第3項)。

不動産売買の先取特権

(意義)

10 「法第20条第1項第2号の「不動産売買の先取特権」とは、不動産の代価及びその利息について、その不動産の上に存する先取特権をいう(民法第328条)。

(効力の保存)

11 不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に(売買による所有権移転登記とともに)、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記することによってその効力を保存するものであるから(民法第340条)、登記をしない場合はもちろん、売買契約と同時に登記していない場合にも、先取特権としての優先権を行使できない。

(優先順位)

12 不動産売買の先取特権は、不動産保存の先取特権及び不動産工事の先取特権に次ぐ優先権を有し(民法第331条第1項)、抵当権又は不動産質権と競合した場合には、登記の前後によって優先順位が定まる(同法第341条、第373条)。また、同一の不動産について逐次の売買があった場合における売主相互間の順位は、売買の時期の前のものが後のものに優先する(同法第331条第2項)。

借地借家法第12条の借地権設定者の先取特権等

(借地借家法第12条の先取特権)

13 法第20条第1項第3号の「借地借家法第12条(借地権設定者の先取特権)に規定する先取特権」とは、借地権(建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。)を設定した土地所有者又は賃貸人が、弁済期の到来した最後の2年分の地代又は土地の借賃について、借地権者がその土地において所有する建物の上に有する先取特権をいい(同法第12条第1項)、その効力の保存及び優先順位等については、次のとおりである。

(1) 借地借家法第12条の先取特権は、地上権又は土地の賃貸借の登記をすることによって効力を保存するものであるから(同法第12条第2項)、これらの登記をしていない場合には、先取特権としての優先権を行使できない。

(2) 借地借家法第12条の先取特権は、共益費用、不動産保存及び不動産工事の先取特権並びに(1)による登記前に登記されている質権及び抵当権には劣後するが、他の権利に対しては優先の効力を有する(同法第12条第3項)。

14 削除

(接収不動産に関する借地借家臨時処理法第7条の先取特権)

15 法第20条第1項第3号の「接収不動産に関する借地借家臨時処理法第7条(賃貸人等の先取特権)に規定する先取特権」とは、賃借権の設定(接収不動産に関する借地借家臨時処理法第3条)又は借地権の譲渡(同法第4条)があった場合において、賃貸人又は借地権の譲渡人が、借賃の全額及び貸借権の設定の対価又は借地権の譲渡の対価について、その賃借権の設定又は借地権の譲渡を受ける者がその土地に所有する建物の上に有する先取特権をいい(同法第7条第1項)、その効力の保存及び優先順位等については、13の(1)及び(2)と同様である(同法第7条第2項、第3項)。

一般の先取特権

(種類及び意義)

16 一般の先取特権には、次のものがある。

(1) 共益費用の先取特権
共益費用の先取特権(民法第306条第1号)は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用について存在するが、これが総債権者のうちの一部の者にとってだけ有益となっているときは、その者に対してだけ存在する(同法第307条)。

(2) 雇用関係の先取特権
雇用関係の先取特権(民法第306条第2号)は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する(同法第308条)。

(3) 葬式費用の先取特権
葬式費用の先取特権(民法第306条第3号)は、債務者のためにされた葬式費用として相当な額(死亡者の財産の上に先取特権が成立する。)又は債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式費用として相当な額(葬式をした者の財産の上に先取特権が成立する。)について存在する(同法第309条)。

(4) 日用品供給の先取特権
日用品供給の先取特権(民法第306条第4号)は、債務者又はその扶養すべき同居の親族及びその家事使用人の生活に必要な最後の6月間の飲食料品、燃料及び電気の供給の代価について存在する(同法第310条)。

(優先順位等)

17 一般の先取特権の優先順位等は、次のとおりである。

(1) 一般の先取特権は、特別の先取特権には劣後するが、共益費用の先取特権だけは、その利益を受けた総債権者に対して優先の効力を有する(民法第329条第2項)。
また、登記をした一般の先取特権と抵当権又は不動産質権とが競合した場合には、登記の早いものが優先する(民法第341条、第373条参照)。

(2) 16の一般の先取特権が競合した場合には、その優先順位は、16の(1)から(4)までの順序に従う(民法第329条第1項)。

(3) 一般の先取特権は、まず不動産以外の財産について弁済を受けることを要し、その不足額についてだけ不動産から弁済を受けることができ(民法第335条第1項)、また不動産からの弁済についても、まず特別担保の目的となっていないものから弁済を受けることを要するのであって(同法第335条第2項)、これらの順序に従わず、配当加入を怠ったときは、配当加入をすれば弁済を受けることができたであろう額について、登記をした第三者に対して先取特権を行使することができない(同法第335条第3項)。ただし、不動産以外の財産に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産に先立って特別担保の目的不動産の代価を配当する場合には適用されない(同法第335条第4項)。

(共益費用の先取特権とみなされる先取特権)

18 建物の区分所有等に関する法律第7条の先取特権は、建物の区分所有者(同法第2条第2項)が共用部分(同法第2条第4項)、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権、規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権又は管理者若しくは管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権(同法第2条第6項)を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に有する先取特権であり(同法第7条第1項)、その優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなされる(同法第7条第2項)。

証明の期限等

19 第20条第1項第1号の先取特権が第1項の規定の適用を受けるための証明については、第15条関係26及び27の(2)と同様である(法第20条第2項、令第4条第1項、第3項、通則令第2条第7号)。
なお、法第20条第1項第2号から第4号までの先取特権については、証明を要せず、徴収職員は、その先取特権がある事実を登記により調査の上確認しなければならない。また、徴収職員は、法第20条第1項各号の先取特権が法定納期限等以前又は譲受け前からあるかどうかについて調査の上確認しなければならない。

(注)  法第20条第1項第1号の先取特権は、その目的財産が第三取得者に引き渡されたときは行使することができないから(民法第333条)、財産の譲受けとの関係は考慮する必要がない。