【照会要旨】

 被相続人甲は、生前、信託銀行との間で、自己を委託者兼受益者、その信託銀行を受託者、信託財産を土地(譲渡所得の基因となる資産に該当します。以下「本件土地」といいます。)とし、甲(受益者)の死亡を信託終了事由とする内容の信託契約(以下、この契約に基づき設定される信託を「本件信託」といいます。)を締結していました。
 今回、甲が死亡したことにより、本件信託が終了し、帰属権利者(信託法第182条第1項第2号)として指定された受益者甲の子(乙)が本件信託に係る残余財産として本件土地を取得しましたが、乙が本件土地を譲渡する際の譲渡所得の計算上、その取得の時期及び取得費は、被相続人甲から相続又は遺贈により取得したものとして、所得税法第60条第1項第1号《贈与等により取得した資産の取得費等》の規定が適用されますか。
 なお、本件信託は、所得税法第13条第1項本文《信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属》の適用を受ける、いわゆる受益者等課税信託に該当します。

【回答要旨】

 乙は、被相続人甲から本件土地を相続又は遺贈により取得したものとして、その取得の時期及び取得費について所得税法第60条第1項第1号の規定が適用されます。

(理由)
 乙は、被相続人甲の死亡によって本件信託が終了したことにより、本件信託の残余財産である本件土地を遺贈により取得したものとみなされ、その取得につき相続税が課されることになりますので(相法9の24)、所得税法第9条第1項第17号の規定により、その残余財産の取得について所得税の課税はされません。
 また、乙による上記の本件土地の取得については、同法第59条第1項第1号及び第67条の3第6項の規定に該当しないため、被相続人甲に対する当該規定に基づく所得税の課税もされません。
 このため、本件信託が終了するまでの間、受益者であった被相続人甲が所有しているとされていた本件土地に生じているキャピタルゲインに対して課税が行われないまま、乙は本件土地を取得することとなるところ、取得価額の引継ぎの方法によって前所有者の所有期間中のキャピタルゲインも含めて譲渡等があったときに課税を行うという所得税法第60条第1項の趣旨を踏まえれば、同項の規定上、乙は、被相続人甲から本件土地を相続又は遺贈により取得したことと同視して、同項の規定の適用があるとすることが相当です。

【関係法令通達】

 所得税法第9条第1項第17号、第13条第1項、第59条第1項第1号、第60条第1項第1号、第67条の3第6項
 相続税法第9条の2第4項
 信託法第182条
 所得税基本通達13−5

注記
 令和5年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。