【照会要旨】

 当社(3月決算)は、XX年4月1日に、A社が行うX事業の全てを譲り受けました(以下「本件事業の譲受け」といいます。)。当社は、本件事業の譲受けに伴い、X事業に従事する従業員の雇用関係を承継し、当該従業員についての賞与及び退職給与に係る支払債務の履行に係る負担を引き受けました。これにより、当社は、A社から当該賞与に係る賞与引当金及び退職給付引当金を引き継ぎ、賞与については、同年7月31日に、これを取り崩して支給する予定です。
 この場合において、当社が引き継いだ賞与引当金の額(履行に係る負担を引き受けた賞与に係る支払債務相当額)は、法人税法第62条の8第2項第2号に規定する短期重要債務見込額には該当せず、法人税法第62条の8第3項及び第7項に規定する差額負債調整勘定の金額として、5年間で取り崩して益金の額に算入すると解してよいでしょうか。
 なお、当社が引き継いだ賞与引当金の額は、本件事業の譲受けに伴い移転を受けた資産の取得価額の合計額の20%相当額を超えるほか、法人税法第62条の8第2項第2号及び法人税法施行令第123条の10第8項に定める各要件のうち、「移転を受けた事業について生ずるおそれのある損失の額として見込まれる金額であること」以外の要件を全て満たすことを照会の前提とします。

【回答要旨】

 差額負債調整勘定の金額として、5年間で取り崩して益金の額に算入することとなります。

(理由)

1 法人が事業の譲受けにより資産又は負債の移転を受けた場合において、移転を受けた事業に係る将来の債務で次のイからニまでの要件を満たすものの履行に係る負担の引受けをしたときには、その債務の額に相当する金額(次のホ及びヘの要件を満たす額に限ります。以下「短期重要債務見込額」といいます。)は、短期重要負債調整勘定の金額とされ、短期重要債務見込額に係る損失が生じた場合又は事業の譲受けの日から3年が経過した場合には、その金額を減額し、益金の額に算入することとされています(法法62の8丸2二、丸6二、丸8、法令123の10丸8)。

  • イ 移転を受けた事業の利益に重大な影響を与える債務であること
  • ロ 退職給与債務引受けに係る債務以外の債務であること
  • ハ 既に履行をすべきことが確定している債務以外の債務であること
  • ニ その履行が事業の譲受けの日からおおむね3年以内に見込まれるものであること
  • ホ 移転を受けた事業について生ずるおそれのある損失の額として見込まれる金額であること
  • ヘ ホの金額が移転を受けた資産の取得価額の合計額の20%相当額を超えること

2 また、法人が事業の譲受けにより資産又は負債の移転を受けた場合において、事業の譲受けに係る対価(支払対価)の額が移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額(法人がその事業譲受けにより譲渡法人から移転を受けた資産の取得価額(時価)の合計額からその移転を受けた負債の額(時価)の合計額を控除した金額をいいます。)に満たないときは、その満たない部分の金額は差額負債調整勘定の金額とされ、5年間で取り崩して益金の額に算入することとされています。なお、この時価純資産価額を算定する場合の「負債」の額は、税務上の負債の額と解されますので、将来債務の履行のための会計上の引当金の額は原則として含まれませんが、法人税法第62条の8第2項第1号に規定する退職給与負債調整勘定の金額及び同項第2号に規定する短期重要負債調整勘定の金額については、この「負債」の額に含めることとされています(法法62の8丸1丸3丸7丸8)。

3 上記1のホのとおり、短期重要債務見込額は、「移転を受けた事業について生ずるおそれのある『損失の額』として見込まれる金額」とされています。法人税法上、「費用」あるいは「損失」の定義規定はありませんので、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準を参酌すると、一般的に、賞与は、販売費及び一般管理費に属する「費用」であり「損失」には当たらないと考えられます(財務諸表等規則第84条及び同ガイドライン)。
 したがって、本件事業の譲受けにより当社が引き継いだ賞与引当金の額(履行に係る負担を引き受けた賞与に係る支払債務相当額)は、「移転を受けた事業について生ずるおそれのある『損失の額』として見込まれる金額」に該当しないと考えられますので、上記1に掲げる短期重要債務見込額に当たらず、短期重要負債調整勘定の金額にも該当しないこととなります。

4 ご照会に係る賞与引当金の額は、将来債務の履行のための会計上の引当金です。したがって、当該賞与引当金は、上記2のとおり、税務上の負債には当たりません。また、上記3のとおり、短期重要負債調整勘定の金額にも該当しません。したがって、当該賞与引当金の額は、上記2における時価純資産価額の算定に当たって、「負債」の額には含まれないこととなります。
 これにより、上記2の計算の結果、当該賞与引当金の額に相当する金額の差額負債調整勘定の金額が算出されますので、当該金額を5年間で取り崩して益金の額に算入することとなります。

本件におけるイメージ図

【関係法令通達】

 法人税法第62条の8第2項第2号、第3項、第7項、第8項

 法人税法施行令第123条の10第8項

注記
 令和5年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。