【照会要旨】

 X社は、同社を合併法人、Y社を被合併法人とする吸収合併(以下「本件吸収合併」といいます。)を行うことを予定しています。
 本件吸収合併においては、被合併法人(Y社)の株主(個人A、個人B及び個人C)に対して株式その他の資産を交付しない、いわゆる無対価合併の手法により行うこととします。
 なお、本件吸収合併後、個人AはX社株式のすべてを継続して保有する見込みです。
 この場合において、本件吸収合併は法人税法第2条第12号の8に規定する適格合併に該当すると解してよろしいでしょうか。

吸収合併

【回答要旨】

 本件吸収合併は、適格合併に該当しません。

(理由)

  • 1 完全支配関係について
     完全支配関係とは、一の者(その者が個人である場合には、その者及びこれと特殊の関係のある個人)が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係(以下「当事者間の完全支配関係」といいます。)又は一の者との間に当事者間の完全支配関係がある法人相互の関係(以下「法人相互の完全支配関係」といいます。)をいうこととされています(法法2十二の七の六、法令4の2丸2)。
     なお、一の者が個人である場合における当該一の者と特殊の関係のある個人とは、次に掲げる者(以下「親族等」といいます。)をいうこととされています(法令4丸1、4の2丸2)。
    • @ 一の者の親族
    • A 一の者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
    • B 一の者(個人である一の者に限ります。Cにおいて同じです。)の使用人
    • C @からBまでに掲げる者以外の者で一の者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
    • D AからCまでに掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族

     本件吸収合併における合併法人であるX社は、その発行済株式のすべてが個人Aに保有されていることから、個人Aとの間に当事者間の完全支配関係があることとなります。
     また、被合併法人であるY社は、その発行済株式を個人Aだけでなく、その親族等に該当する個人B(父)及び個人C(妻)にも保有されているところ、完全支配関係に該当するかどうかの判定上、一の者の親族等が保有する株式を一の者(個人A)が保有しているものとして判定を行いますから、Y社についても個人Aとの間に当事者間の完全支配関係があることとなります。
     したがって、X社とY社の関係は、いずれも個人Aとの間に当事者間の完全支配関係があることから、法人相互の完全支配関係に該当することとなります。
  • 2 法人相互の完全支配関係がある場合の適格要件
     法人相互の完全支配関係がある法人間の合併に係る適格要件は、以下のとおりとされています。
    • 丸1 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(法人相互の完全支配関係)があり、かつ、合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていること(法令4の3丸2二)。

      (注) 本件吸収合併では、個人Aは合併後もX社株式のすべてを継続して保有する見込みであるため、個人Aによる完全支配関係が継続することが見込まれています。

    • 丸2 当該合併における被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないこと(法法2十二の八)。

      (注) 本件吸収合併は、無対価合併の手法により行われますので、合併法人株式又は合併親法人株式のみならず、これら以外の資産も交付されません。


     ただし、無対価合併の手法による場合には、上記丸1及び丸2の要件のほかに、合併前の同一の者による完全支配関係が次に掲げるいずれかの関係がある完全支配関係である場合に限り、適格合併に該当することとされています(法令4の3丸2二)。
    • @ 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
    • A 被合併法人及び合併法人の株主等(その被合併法人及び合併法人を除きます。)の全てについて、その者が保有するその被合併法人の株式の数のその被合併法人の発行済株式等(その合併法人が保有するその被合併法人の株式を除きます。)の総数のうちに占める割合とその者が保有するその合併法人の株式の数のその合併法人の発行済株式等(その被合併法人が保有するその合併法人の株式を除きます。)の総数のうちに占める割合とが等しい場合におけるその被合併法人と合併法人の関係

     この点、本件吸収合併は、無対価合併の手法によるものであり、合併法人X社は被合併法人Y社の株式を保有していないことから、上記@又はAの関係のうちAの関係(以下「Aの関係」といいます。)に該当するかどうか判定することとなります。
  • 3 Aの関係における「株主等」
     上記1のとおり、完全支配関係に該当するかどうかの判定においては、一の者の保有する株式だけでなく、一の者の親族等が保有する株式を一の者が保有しているものとして判定を行うこととされているところです(法令4の2丸2)。
     したがって、Aの関係に該当するかどうかの判定においても、株主等の親族等が保有する株式を株主等が保有しているものとして判定を行うのではないかとの疑問が生ずるところではあります。
     そこで、それぞれの規定に着目すれば、完全支配関係に該当するかどうかの判定における「一の者」は、「一の者(その者が個人である場合には、その者及びこれと前条第一項に規定する特殊の関係のある個人)が法人の発行済株式等の全部を保有する場合」(法令4の2丸2)と明示的に「一の者」と特殊の関係のある個人(親族等)の保有する株式を「一の者」が保有しているものとしてその判定を行うこととされているところです。
     一方、Aの関係に該当するかどうかの判定における「株主等」は、株主又は合名会社、合資会社若しくは合同会社の社員、その他法人の出資者をいう(法法2十四)と規定されているに過ぎず、株主等と特殊の関係のある個人(親族等)の保有する株式を株主等が保有しているものとしてその判定を行うこととはされていません。
     本件吸収合併の場合、被合併法人Y社は、個人Aに加え、その親族等に該当する個人B及び個人Cの3者によって、発行済株式のすべてを保有されています。
     ただし、Aの関係に該当するかどうかの判定においては、親族等に該当する個人B及び個人Cにより保有されている株式を個人Aが保有しているものとしてAの関係に該当するかどうかの判定を行うことはできませんから、被合併法人Y社と合併法人X社との関係は、「被合併法人及び合併法人の株主等の全てについて、その者が保有するその被合併法人の株式の数のその被合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とその者が保有するその合併法人の株式の数のその合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とが等しい場合におけるその被合併法人と合併法人の関係」には該当しないこととなります。
     したがって、照会の本件吸収合併が適格合併に該当すると解することはできないこととなります。

【関係法令通達】

 法人税法第2条第12号の7の6、第12号の8、第14号
 法人税法施行令第4条第1項、第4条の2第2項、第4条の3第2項第2号

注記
 令和6年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。