【照会要旨】

 当社及びA社は、どちらもB社にその発行済株式の全てを保有されている法人ですが、グループ内の再編の一環として、A社を合併法人、当社を被合併法人とする吸収合併(以下「本件合併」といいます。)を実施し、当社の従業員(以下「本件従業員」といいます。)の雇用関係をA社に引き継ぎます。
 B社グループでは、退職時の退職金の支給に代えて確定拠出年金制度を軸とした給与制度を採用しており、グループ全体の退職金等に係る制度の統一的な運営を図るためグループ各社に対しB社グループ確定拠出企業型年金規約の採用を推奨しています。
 これまで、当社は、社内退職金規程に基づき従業員の退職時に退職金を支給しているのに対し、A社では、従業員の退職時には退職金を支給せず、B社グループ確定拠出企業型年金規約に基づく確定拠出年金又は給与の割増支給のいずれか選択したものを支給することとしています。
 本件合併に際し、当社とA社の退職金等の支給制度が異なるため、本件従業員に対し、当社の社内退職金規程に基づき算出された一時金(以下「本件一時金」といいます。)を支給しますが、本件一時金は退職所得に該当することになりますか。
 なお、本件従業員は、本件合併後は上記の確定拠出年金又は割増支給のいずれかの制度を選択することとなり、実際にA社を退職する際にA社から退職金は支払われません。また、本件従業員が確定拠出年金において一時金として受け取ることを選択した場合、本件一時金の計算の基礎となった勤続期間は確定拠出年金の一時金の計算上考慮されません。

【回答要旨】

 本件一時金は、退職所得に該当します。

 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(退職手当等)に係る所得をいい、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与に係る所得がこれに該当するとされています(所得税法第30条第1項、所得税基本通達30−1)が、引き続き勤務する者に対し使用者から退職手当等として一時に支払われる給与のうち、一定のもので、その給与が支払われた後、その者が実際に退職するときの退職手当等の計算上、その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、退職所得として取り扱われています(所得税基本通達30−2)。
 この一定のものとして、新たに退職給与規程を制定し、又は中小企業退職金共済制度若しくは確定拠出年金制度への移行等相当の理由により従来の退職給与規程を改正した場合において、使用人に対し当該制定又は改正前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与が掲げられていますが、この給与は、合理的な理由による退職金制度の実質的改変により精算の必要から支払われるものに限られ、例えば、使用人の選択によって支払われるものはこれに当たらない旨明らかにされています(所得税基本通達30−2(1))。
 本件従業員の退職の事実の有無についてみますと、@合併会社は被合併会社のすべての権利義務を法律上当然に承継(包括承継)すること(会社法第750条第1項)や、A本件合併により本件従業員に係る雇用関係が当社からA社へ引き継がれることからすれば、合併に伴う本件従業員の退職の事実はないものと考えられますが、本件一時金は、次の理由から、いわゆる打切支給の退職手当等として退職所得に該当すると解されます。

  • (1) B社グループではB社グループ確定拠出企業型年金規約の採用を推奨していることから、当社からみれば、本件合併を契機として、合理的な理由により退職金制度の変更が行われたものと認められること。
  • (2) 本件一時金は、本件合併を契機とした退職金制度の変更に伴い、従来の制度の精算を要することから支払われるものであり、特段の事情が認められること。
  • (3) 本件従業員は、本件合併後、確定拠出年金又は給与の割増支給のいずれかの制度を選択することとなるところ、いずれの制度も給与規程に定める給与の額を基礎に拠出額や割増額が算定されるものであって、合併前の勤続期間を加味するものではなく、また、本件従業員に対して、実際にA社を退職する際にA社から退職金も支払われず、確定拠出年金における一時金についても、合併前の勤続期間は加味されていないこと。

【関係法令通達】

 所得税法第30条第1項、所得税基本通達30−1、30−2

注記
 令和5年8月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。