問60 申告期限の延長:会社が清算中である場合

(問) 被相続人Aは、かつて甲株式会社の代表取締役であったが、平成20年12月に死亡した。甲株式会社は、平成18年9月に株主総会の決議により解散したが、被相続人Aの相続開始日現在において清算結了していない。
 この場合、被相続人Aの死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告について、平成21年改正法附則第65条第1項の規定により、相続税の申告書の提出期限は延長されているのか。

(答)

 被相続人Aの死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告については、平成21年改正法附則第65条第1項の規定が適用される。したがって、被相続人Aから相続又は遺贈により財産の取得をした者が提出すべき相続税の申告書の提出期限は、被相続人の相続の開始があったことを知った日の翌日から10月を経過する日又は平成22年2月1日のいずれか遅い日までとなる。

(解説)

  • 1 平成20年10月1日から平成21年3月31日までの間に開始した相続に係る相続税の申告期限については、平成21年改正法附則第65条第1項の規定により、次のいずれの要件も満たす場合には、その申告期限は、相続人等がその相続の開始のあったことを知った日の翌日から10月を経過する日又は平成22年2月1日のいずれか遅い日までとされている。
    • 丸1 被相続人が相続開始の直前に有していた財産の中に非上場株式等が含まれていること。(注)「非上場株式等」とは、措置法第70条の7第2項第2号に規定する非上場株式等をいう。
    • 丸2 被相続人がその非上場株式等に係る会社の代表権(制限が加えられたものを除く。)を有していたこと。
  • 2  問について、甲株式会社は清算中であるが、清算が結了するまでは会社法上存続するものとみなされ、法人格が消滅していない以上、株式それ自体も消滅するものではない。
     したがって、被相続人Aは、かつて甲株式会社の代表取締役であることから、甲株式会社の株式等が、措置法第70条の7第2項第2号に規定する非上場株式等に該当する場合には、平成21年改正法附則第65条第1項の規定が適用され、相続税の申告書の提出期限は延長されている。

問61 申告期限の延長:会社が組織変更している場合

(問) 子Aは、父から甲株式会社の株式を相続により取得をした。
 ところで、甲株式会社は、2年前に組織変更により、持分会社から株式会社に組織変更した。また、父が会社の代表権を有していた時期は、組織変更前の持分会社の時代だけであり、甲株式会社が株式会社になってからは代表権を有したことがない。
 この場合、平成21年改正法附則第65条第1項に規定する「当該被相続人が当該非上場株式等に係る会社の代表権を有していた場合」に該当するのか。

(答)

 父が代表権を有していた時が、組織変更前の会社の時代であったとしても、会社は組織変更の前後を通じて同一人格を有するものと解されている(最判昭46.6.29)ことから、会社が持分会社であったときに被相続人が代表権を有していた場合には、平成21年改正法附則第65条第1項に規定する「当該被相続人が当該非上場株式等に係る会社の代表権を有していた場合」に該当する。

(解説)

  • 1  会社が組織を変更するに当たっては、登記の技術上の問題から、登記簿上、旧会社の解散及び新会社の設立の各登記を経ることとなるが、会社自身は、組織変更の前後を通じて同一人格を有するものと解されている(最判昭46.6.29)。
  • 2  会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律による改正前の商法の下では、組織変更は、株式会社と有限会社間、又は合名会社と合資会社間でのみ認められていたが、会社法の制定により、株式会社と持分会社(合名会社、合資会社、合同会社をいう。以下同じ。)間の組織変更が可能になった。また、従来は組織変更とされていた持分会社間の組織の変更については、会社法の制定により、「組織変更」ではなく、定款の変更による持分会社の「種類の変更」と位置づけられることとなった。
  • 3  組織の変更があった場合、会社法第920条の規定により、会社は、組織変更前の会社について解散の登記をし、組織変更後の会社については設立の登記をしなければならないとされているが、その組織変更により会社の人格が変わるものではない。
  • 4  また、持分会社が他の種類の持分会社となったときも、会社法第919条の規定により、会社は、種類の変更前の持分会社について解散の登記をし、種類の変更後の持分会社については設立の登記をしなければならないとされているが、会社の種類の変更は定款の変更に過ぎず、会社の同一性は継続する。

問62 申告期限の延長:医療法人の出資を相続した場合

(問) 子Aは、被相続人である父から甲医療法人の出資を相続により取得をした。
 ところで、被相続人である父は、甲医療法人の代表者であったが、被相続人である父の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告書の提出期限は延長されているのか。

(答)

平成21年改正法附則第65条第1項に規定する「非上場株式等」とは、措置法第70条の7第2項第2号に規定する非上場株式等をいい、医療法人の出資は含まれていない。
 したがって、被相続人である父の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告書の提出期限は延長されていない。

(解説)

  • 1  平成20年10月1日から平成21年3月31日までの間に開始した相続に係る相続税の申告期限については、平成21年改正法附則第65条第1項の規定により、次のいずれの要件も満たす場合には、その申告期限は、相続人等がその相続の開始のあったことを知った日の翌日から10月を経過する日又は平成22年2月1日のいずれか遅い日までとされている。
    • 丸1 被相続人が相続開始の直前に有していた財産の中に非上場株式等が含まれていること。
    • 丸2 被相続人がその非上場株式等に係る会社の代表権(制限が加えられたものを除く。)を有していたこと。
  • 2  この場合に、平成21年改正法附則第65条第1項に規定する「非上場株式等」とは、措置法第70条の7第2項第2号に規定する非上場会社の株式又は出資をいい、医療法人の出資は含まれていない。
  • 3  したがって、子Aについて、被相続人である父の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告書の提出期限は延長されていない。

問63 申告期限の延長:特定受贈同族会社株式等である医療法人の出資がある場合

(問) 相続人Aは、被相続人である父から生前に甲医療法人に係る出資の贈与を受け、当該贈与により取得をした甲医療法人に係る出資について「特定受贈同族会社株式に係る届出書(平成21年改正前措法69の5丸10)」を税務署に提出している。
 ところで、被相続人である父は、甲医療法人の代表者であったが、この場合に、平成21年改正法附則第65条第2項の規定により、相続税の申告書の提出期限は延長されているのか。

(答)

平成21年改正法附則第65条第2項に規定する「特定受贈同族会社株式等の贈与をした者」とは、当該特定受贈同族会社株式等に係る「会社」の代表権を有していた者に限られる。
 したがって、医療法人は、医療法により認可、設立された法人であり「会社」には該当しないことから、被相続人である父の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告書の提出期限は延長されていない。

(解説)

  • 1  平成21年改正法附則第65条第2項の規定により、特定受贈同族会社株式等(平成21年改正法附則第64条第1項又は第2項の規定の適用に係るものに限る。)の贈与をした者(当該特定受贈同族会社株式等に係る会社の代表権(制限が加えられた代表権を除く。)を有していた者に限る。)又は特定同族株式(平成21年改正法附則第64条第6項の規定の適用に係るものに限る。)の贈与をした者(当該特定同族株式等に係る会社の代表権(制限が加えられた代表権を除く。)を有していた者に限る。)が、平成20年10月1日から平成21年3月31日までの間に死亡した場合には、これらの者から相続又は遺贈により財産の取得をした者が提出すべき相続税の申告期限については、相続人等がその相続の開始のあったことを知った日の翌日から10月を経過する日又は平成22年2月1日のいずれか遅い日までとされている。
  • 2  この場合に、「特定受贈同族会社株式等の贈与をした者」とは、平成21年改正法附則第65条第2項の規定により、当該特定受贈同族会社株式等に係る「会社」の代表権を有していた者に限られる。
  • 3  したがって、医療法人は、医療法により認可、設立された法人であり「会社」には該当しないことから、子Aについて、被相続人である父の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の申告書の提出期限は延長されていない。