問42 相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる相続(事業承継)の態様

(問) 父の相続の開始に伴い、子A及び子Bは、それぞれ次に掲げる株式を相続により取得をした。この場合に、相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用が可能な相続(事業承継)の態様に該当するか。

  • (1) 甲株式会社の株式を子A、乙株式会社の株式を子Bが相続により取得をした場合
  • (2) 甲株式会社及び乙株式会社の株式を子Aが相続により取得をした場合
  • (3) 甲株式会社の株式を子A及び子Bが相続により取得をした場合

(答)

(1)について

 それぞれについて相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。
 ただし、子Aについて、既に亡父から生前に甲株式会社の株式の贈与を受け、父の相続開始時において、当該株式について贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている場合には、子Aは、同一会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

  • (注) 父の相続開始時において贈与税の納税猶予の特例の適用を受ける甲株式会社に係る特例受贈非上場株式等については、措置法第70条の7の3第1項の規定により、父から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされ、当該株式等について、同法第70条の7の4第1項の要件を満たす場合には、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。

 また同様に、子Bについて、既に亡父から生前に乙株式会社の株式の贈与を受け、父の相続開始時において、当該株式について贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている場合には、子Bは、同一会社である乙株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

  • (注) 父の相続開始時において贈与税の納税猶予の特例の適用を受ける乙株式会社に係る特例受贈非上場株式等については、措置法第70条の7の3第1項の規定により、父から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされ、当該株式等について、同法第70条の7の4第1項の要件を満たす場合には、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。

(2)について

 子Aについては、甲株式会社及び乙株式会社の株式の両方について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。
 ただし、子Aについて、既に亡父から生前に甲株式会社若しくは乙株式会社又は両方の会社の株式の贈与を受け、父の相続開始時において、当該いずれか又は両方の株式について贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている場合には、同一会社である甲株式会社若しくは乙株式会社又は両方の会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

  • (注) 父の相続開始時において贈与税の納税猶予の特例の適用を受ける甲株式会社若しくは乙株式会社又は両方の会社に係る特例受贈非上場株式等については、措置法第70条の7の3第1項の規定により、父から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされ、当該株式等について、同法第70条の7の4第1項の要件を満たす場合には、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。

(3)について

 同一会社の株式について2人以上が同時に相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできないことから、子A又は子Bのいずれかの者について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。
 ただし、子A又は子Bのいずれかの者が、既に亡父から生前に甲株式会社の株式の贈与を受け、父の相続開始時において、当該株式について贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている場合には、同一会社である甲株式会社について子A及び子Bのいずれの者についても相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

  • (注) 父の相続開始時において贈与税の納税猶予の特例の適用を受ける甲株式会社に係る特例受贈非上場株式等については、措置法第70条の7の3第1項の規定により、父から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされ、当該株式等について、同法第70条の7の4第1項の要件を満たす場合には、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。

(解説)

  • 1  措置法第70条の7の2第8項において「第1項の規定は、被相続人から相続又は遺贈により取得をした非上場株式等に係る会社の株式等について、同項の規定の適用を受けている他の経営承継相続人等又は前条第1項の規定の適用を受けている同条第2項第3号に規定する経営承継受贈者若しくは第70条の7の4第1項の規定の適用を受けている同条第2項第3号に規定する経営相続承継受贈者がある場合(第1項の規定の適用を受けようとする者が当該経営承継受贈者又は当該経営相続承継受贈者である場合を除く。)には、当該非上場株式等については、適用しない。」と規定し、同一の会社について相続税の納税猶予の特例、贈与税の納税猶予の特例又は贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例のいずれかの特例の適用を受けている者がいる場合には、当該納税猶予の特例の適用を受けている者以外の者は、当該同一の会社の株式等について納税猶予の特例の適用を受けることはできないこととされている。
  • 2  また、措置法第70条の7の2第1項かっこ書の規定により、「次条(措置法第70条の7の3)第1項の規定により当該被相続人から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされる同項の特例受贈非上場株式等に係る認定承継会社の株式等を除く。」と規定されていることから、相続人等のいずれかの者が、既に同一会社の非上場株式等について贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている場合には、当該贈与者の死亡に伴う相続税の申告において、当該同一会社の非上場株式等について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。
     なお、贈与者の相続開始時において贈与税の納税猶予の特例の適用を受ける特例受贈非上場株式等は、措置法第70条の7の3第1項の規定により、当該贈与者から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされることから、当該株式等について、同法第70条の7の4第1項の要件を満たす場合には、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができる。

(参考) 措置通70の7の2−3《相続税の納税猶予の対象とならない非上場株式等》、措置通70の7の2−35《既に非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例等の適用を受けている他の者がいる場合等》

問43 既に贈与税の納税猶予の特例等の適用を受けている場合

(問) 子Aが甲株式会社の株式について次に掲げる納税猶予の特例の適用を現に受けている場合において、その後、子Aが母から相続により新たに取得をした甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができるか。

  • (1) 父から贈与により取得をした甲株式会社の株式について「贈与税の納税猶予の特例」(措法70の7丸1)の適用を受けている場合
  • (2) 母から贈与により取得をした甲株式会社の株式について「贈与税の納税猶予の特例」の適用を受けている場合
  • (3) 父から相続により取得をした甲株式会社の株式について「相続税の納税猶予の特例」(措法70の7の2丸1)の適用を受けている場合
  • (4) 父から贈与により取得をした甲株式会社の株式について「贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の適用」(措法70の7の4丸1)を受けている場合

(答)

  • (1) について
     子Aが相続税の納税猶予の特例の適用を受けることは可能である。
  • (2) について
     子Aは相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。
  • (3) について
     子Aが相続税の納税猶予の特例の適用を受けることは可能である。
  • (4) について
     子Aが相続税の納税猶予の特例の適用を受けることは可能である。

(解説)

  • 1  措置法第70条の7の2第8項において「第1項の規定は、被相続人から相続又は遺贈により取得をした非上場株式等に係る会社の株式等について、同項の規定の適用を受けている他の経営承継相続人等又は前条第1項の規定の適用を受けている同条第2項第3号に規定する経営承継受贈者若しくは第70条の7の4第1項の規定の適用を受けている同条第2項第3号に規定する経営相続承継受贈者がある場合(第1項の規定の適用を受けようとする者が当該経営承継受贈者又は当該経営相続承継受贈者である場合を除く。)には、当該非上場株式等については、適用しない。」と規定し、同一の会社について相続税の納税猶予の特例、贈与税の納税猶予の特例又は贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例のいずれかの特例の適用を受けている者がいる場合には、当該納税猶予の特例の適用を受けている者以外の者は、当該同一の会社の株式等について納税猶予の特例の適用を受けることはできないこととされている。すなわち、1社1人というのが原則となる。
     したがって、問の(1)については、同一の会社である甲株式会社の株式について既に贈与税の納税猶予の特例の適用を受けているが、措置法第70条の7の2第8項の規定(すなわち1社1人という原則)に抵触しないため、母から相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることは可能である。
  • 2  問の(2)は、1社1人の原則以外に、非上場株式等についての納税猶予の特例の適用関係において、特例の適用を受ける者が同一の者であっても相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができないケースである。
     すなわち、措置法第70条の7の2第1項かっこ書の規定において、「次条(措置法第70条の7の3)第1項の規定により当該被相続人から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされる同項の特例受贈非上場株式等に係る認定承継会社の株式等を除く。」と規定し、既に贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている場合には、当該特例受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社の株式等については相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできないこととされている。
     したがって、問の(2)については、贈与者である母の相続開始の時において贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている特例受贈非上場株式等があり、当該株式等は、措置法第70条の7の3の規定により、母から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされることから、同法第70条の7の2第1項かっこ書に該当し、母から相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。
  • 3  問の(3)については、上記1と同様、措置法第70条の7の2第8項の規定(1社1人という原則)に抵触しないため、母から相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることは可能である。
  • 4  問の(4)については、措置法第70条の7の2第8項の規定(1社1人という原則)に抵触しない。また、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例(措法70の7の4丸1)の適用を受ける特例相続非上場株式等は、父が死亡したことに伴い、父から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされた特例受贈非上場株式等であり(措法70の7の3丸1)、問の場合、措置法第70条の7の2第1項かっこ書にいう「被相続人」は母であることから、この規定にも抵触しない。
     したがって、母から相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることは可能である。

(参考) 措置通70の7の2−3《相続税の納税猶予の対象とならない非上場株式等》、措置通70の7の2−35《既に非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例等の適用を受けている他の者がいる場合等》

問44 既に贈与税の納税猶予の特例等の適用を受けている他の者がいる場合

(問) 子Aが甲株式会社の株式について次に掲げる納税猶予の特例の適用を現に受けている場合において、その後、子Bが相続により取得をした甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができるか。

  • (1) 子Aが贈与により取得をした甲株式会社の株式について「贈与税の納税猶予の特例」(措法70の7丸1)の適用を受けている場合
  • (2) 子Aが相続により取得をした甲株式会社の株式について「相続税の納税猶予の特例」(措法70の7の2丸1)の適用を受けている場合
  • (3) 子Aが父から贈与により取得をした甲株式会社の株式について「贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例」(措法70の7の4丸1)の適用を受けている場合

(答)

 (1)から(3)のいずれの場合についても、子Bは、相続により取得をした甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

(解説)

  • 1  措置法第70条の7の2第8項において「第1項の規定は、被相続人から相続又は遺贈により取得をした非上場株式等に係る会社の株式等について、同項の規定の適用を受けている他の経営承継相続人等又は前条第1項の規定の適用を受けている同条第2項第3号に規定する経営承継受贈者若しくは第70条の7の4第1項の規定の適用を受けている同条第2項第3号に規定する経営相続承継受贈者がある場合(第1項の規定の適用を受けようとする者が当該経営承継受贈者又は当該経営相続承継受贈者である場合を除く。)には、当該非上場株式等については、適用しない。」と規定し、同一の会社について相続税の納税猶予の特例、贈与税の納税猶予の特例又は贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例のいずれかの特例の適用を受けている者がいる場合には、当該納税猶予の特例の適用を受けている者以外の者は、当該同一の会社の株式等について納税猶予の特例の適用を受けることはできないこととされている。すなわち、1社1人というのが原則となる。
  • 2  したがって、問については、(1)から(3)のいずれについても、子Aが甲株式会社の株式について既に納税猶予の特例の適用を受けていることから、子Bは、相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

(参考) 措置通70の7の2−3《相続税の納税猶予の対象とならない非上場株式等》、措置通70の7の2−35《既に非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例等の適用を受けている他の者がいる場合等》

問45 特定受贈同族会社株式等がある場合(1):平成21年改正前措置法第69条の5の適用を受ける場合

(問) 子Aは、被相続人から過去に甲株式会社の株式の贈与を受け、当該株式については、平成21年改正前措置法第69条の5第10項の書類を所轄税務署長に提出している。
 子Aは、当該株式については、平成21年改正法附則第64条第1項の規定により、平成21年改正前措置法第69条の5第1項の規定の適用を受けることとしているが、この場合に、子Aは、被相続人から相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用を受けることができるか。

(答)

 特定受贈同族会社株式等の全部について相続税の納税猶予の特例の適用を受けない場合には、子Aは、被相続人から相続により取得をした同一会社である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用を受けることはできない。

(解説)

  • 1  平成21年改正法(所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第13号)をいう。以下同じ。)附則第63条第2項においては、措置法第70条の7の2第1項の規定は、平成20年10月1日以後に相続又は遺贈により取得をする平成21年改正法附則第63条第1項に規定する非上場株式等に係る相続税について適用することとされている。
  • 2  また、平成21年改正法附則第64条第1項に規定する特定事業用資産相続人等(以下「特定事業用資産相続人等」という。)が平成21年3月31日以前に相続時精算課税に係る贈与により取得をした同項に規定する特定受贈同族会社株式等(以下「特定受贈同族会社株式等」という。)について平成21年改正前措置法(平成21年改正法による改正前の措置法をいう。以下同じ。)第69条の5第10項の書類を提出し、かつ、当該特定受贈同族会社株式等に係る特定贈与者(平成21年改正法附則第64条第2項に規定する特定贈与者をいう。)が平成20年10月1日以後に死亡している場合において、当該特定事業用資産相続人等が措置法第70条の7の2第1項の適用に係る要件及び平成21年改正法附則第64条第2項各号に掲げる要件のすべてを満たすときは、当該特定受贈同族会社株式等(平成21年改正令附則第43条第1項((非上場株式等についての相続税の課税価格の計算の特例等に関する経過措置))の規定により選択したものに限る。以下「選択特定受贈同族会社株式等」という。)は当該特定贈与者から相続(当該特定事業用資産相続人等が当該特定贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により取得をした非上場株式等とみなされて、措置法第70条の7の2第1項の規定の適用があることとされている(平成21年改正法附則64丸2、措置通69の5−19参照)。
  • 3  ところで、相続又は遺贈により取得をする非上場株式等について、措置法第70条の7の2第1項の規定の適用を受ける場合、当該非上場株式等に係る会社の株式等については、平成21年改正前措置法第69条の5第1項の規定は適用しないこととされている(平成21年改正法附則63丸2)。
  • 4  また、平成21年改正法附則第64条第4項においては、「特定事業用資産相続人等が、当該特定事業用資産相続人等に係る特定贈与者から相続又は遺贈により取得をした株式等(選択特定受贈同族会社株式等に係る法人のものに限る。)については、当該選択特定受贈同族会社株式等につき同条第2項の規定の適用を受ける場合を除き、措置法第70条の7の2の規定は適用しない。」と規定されている。
  • 5  したがって、特定贈与者が平成20年10月1日以後に死亡した場合で、当該特定贈与者から相続又は遺贈により取得をした非上場株式等及び平成21年3月31日以前に相続時精算課税に係る贈与により取得をした特定受贈同族会社株式等があるときにおいて、当該特定受贈同族会社株式等の全部について平成21年改正令附則第43条第1項の規定による選択をせず措置法第70条の7の2第1項の規定の適用を受けないときには、当該選択をしない者の当該特定受贈同族会社株式等に係る会社の株式等のすべてについて同項の規定の適用はないこととなる。
  • 6  問については、子Aが被相続人から過去に贈与により取得をした甲株式会社の株式の全部について相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用を受けず、平成21年改正前措置法第69条の5第1項の規定の適用を受ける場合には、子Aが被相続人から相続により取得をした同一の会社である甲株式会社の株式についても相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。
  • 7  なお、問について、仮に、子Aが被相続人から過去に贈与により取得をした甲株式会社の株式の一部について相続税の納税猶予の特例の適用を受けた場合には、平成21年改正法附則第64条第3項により「第1項の規定は、前項の規定により特定事業用資産相続人等が当該特定受贈同族会社株式等について新租税特別措置法第70条の7の2の規定の適用を受ける場合には、適用しない。」と規定されていることから、当該納税猶予の特例の適用を受けない株式について、平成21年改正前措置法第69条の5第1項の規定の適用を受けることはできない。

(参考) 措置通69の5−17《措置法第70条の7の2第1項の規定の適用を受けた場合の特定事業用資産の特例の不適用》、措置通69の5−20《過去に特定受贈同族会社株式等の贈与を受けた者に係る非上場株式等について相続税の納税猶予の特例の適用》

問46 特定受贈同族会社株式等がある場合(2):平成22年4月1日以後に特定受贈同族会社株式等事前届出書が提出された場合

(問) 子Aは、被相続人から過去に甲株式会社の株式の贈与を受け、当該株式については、平成21年改正前措置法第69条の5第10項の書類を所轄税務署長に提出している。
 ところで、子Aは、当該株式について平成21年改正法附則第64条第2項第1号に規定する書類を平成22年3月31日までに提出していなかった。
 この場合、子Aは、当該贈与により取得をした特定受贈同族会社株式等である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができるか。
 また、子Aが、被相続人から相続により取得をした甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用を受けることができるか。

(答)

 子Aは、平成22年3月31日までに平成21年改正法附則第64条第2項第1号に規定する書類(以下「特定受贈同族会社株式等事前届出書」という。)を提出していないことから、被相続人から過去に贈与により取得をした特定受贈同族会社株式等及び被相続人から相続により取得をした甲株式会社の株式のいずれについても相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用を受けることはできない。

(解説)

  • 1  平成21年改正前措置法第69条の5第2項第11号に規定する特定事業用資産相続人等が相続税の納税猶予の特例の適用を受けるものとして選択した平成21年改正法附則第64条第2項に規定する選択特定受贈同族会社株式等について措置法第70条の7の2第1項の規定の適用を受けるためには、当該特定事業用資産相続人等が、平成22年3月31日までに納税地の所轄税務署長に特定受贈同族会社株式等事前届出書を提出しなければならない(ただし、相続税の申告書の提出期限が同日までに到来する場合には、既に当該特定受贈同族会社株式等事前届出書を提出している場合を除き、当該特定受贈同族会社株式等事前届出書を当該相続税の申告書に添付して提出しなければならない。)こととされている(平成21年改正法附則64丸2一)。
  • 2  したがって、特定事業用資産相続人等が当該特定受贈同族会社株式等事前届出書を平成22年3月31日までに提出していない場合には、当該特定事業用資産相続人等について措置法第70条の7の2の規定の適用はない(ゆうじょ規定は設けられていない。)。
  • 3  また、当該特定受贈同族会社株式等事前届出書を提出していない場合には、当該特定受贈同族会社株式等について措置法第70条の7の2第1項の規定の適用がないだけでなく、当該特定受贈同族会社株式等に係る特定贈与者の死亡に係る相続又は遺贈により取得をした非上場株式等(当該特定受贈同族会社株式等に係る会社と同一会社の株式等に限る。)についても同条の規定の適用はない。

(参考) 措置通69の5−20《過去に特定受贈同族会社株式等の贈与を受けた者に係る非上場株式等について相続税の納税猶予の特例の適用》、措置通69の5−21《平成22年4月1日以後に特定受贈同族会社株式等事前届出書が提出された場合》

問47 特定同族株式等がある場合:平成22年4月1日以後に特定同族株式等事前届出書が提出された場合

(問) 子Aは、被相続人から過去に甲株式会社の株式の贈与を受け、当該株式については、平成21年改正前措置法第70条の3の3の規定の適用を受けている。
 ところで、子Aは、当該株式について平成21年改正法附則第64条第7項第1号に規定する書類を平成22年3月31日までに提出していなかった。
 この場合、子Aは、当該贈与により取得をした特定同族株式等である甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができるか。
 また、子Aが、被相続人から相続により取得をした甲株式会社の株式について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることができるか。

(答)

 子Aは、平成22年3月31日までに平成21年改正法附則第64条第7項第1号に規定する書類(以下「特定同族株式等事前届出書」という。)を提出していないことから、被相続人から過去に贈与により取得をした特定同族株式等及び被相続人から相続により取得をした甲株式会社の株式のいずれについても相続税の納税猶予の特例の適用を受けることはできない。

(解説)

  • 1  平成21年改正前措置法第70条の3の3第3項第1号に規定する特定受贈者が相続税の納税猶予の特例の適用を受けるものとして選択した平成21年改正法附則第64条第7項に規定する選択特定同族株式等について措置法第70条の7の2第1項の規定の適用を受けるためには、当該特定受贈者が、平成22年3月31日までに納税地の所轄税務署長に特定同族株式等事前届出書を提出しなければならない(ただし、相続税の申告書の提出期限が同日までに到来する場合には、既に当該特定同族株式等事前届出書を提出している場合を除き、当該特定同族株式等事前届出書を当該相続税の申告書に添付して提出しなければならない。)こととされている(平成21年改正法附則64丸7一)。
  • 2  したがって、特定受贈者が当該特定同族株式等事前届出書を平成22年3月31日までに提出していない場合には、当該特定受贈者について措置法第70条の7の2の規定の適用はない(ゆうじょ規定は設けられていない。)。
  • 3  また、当該特定同族株式等事前届出書を提出していない場合には、当該特定同族株式等について措置法第70条の7の2第1項の規定の適用がないだけでなく、当該特定同族株式等に係る特定贈与者の死亡に係る相続又は遺贈により取得をした非上場株式等(当該特定同族株式等に係る会社と同一会社の株式等に限る。)についても同条の規定の適用はない。

(参考) 措置通旧70の3の3・70の3の4−3《過去に特定同族株式等の贈与を受けた者に係る相続税の納税猶予の特例の適用》、措置通旧70の3の3・70の3の4−4《平成22年4月1日以後に特定同族株式等事前届出書が提出された場合》

問48 相続税の納税猶予税額の計算方法:代償分割があった場合

(問) 子Aは、被相続人の全財産である土地(評価額:2,000万円)と甲株式会社の株式9,000株(評価額:1億2,000万円)を相続し、甲株式会社の株式6,000株について相続税の納税猶予の特例の適用を受けることとしている。

(注) 甲株式会社の発行済み株式総数(議決権に制限はない。)は9,000株である。

 ところで、子Aは、もう一人の相続人である子Bに対し代償財産として7,000万円を現金で支払っているが、この場合の相続税の課税価格の計算において、代償財産として支払った7,000万円は納税猶予の特例の適用を受ける財産の価額から優先的に控除し計算するのか、あるいは、納税猶予の特例の適用を受けない財産の価額から優先的に控除し計算するのか。

(答)

 代償財産の価額を代償財産の交付をした者が相続又は遺贈により取得したそれぞれの相続財産の価額の割合により按分し、それぞれの相続財産の価額から当該按分後の代償財産の価額を控除する方法によることが合理的な計算方法と考えられるが、法令上特段の控除方法は定められていないので、代償財産の価額を相続税の納税猶予の特例の適用を受けない財産の価額から優先的に控除し計算して差し支えない。

(解説)

  • 1  「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるが、代償分割の方法により遺産分割が行われ、代償財産の交付をしている場合の当該代償財産の交付をした者に係る相続税の課税価格の計算については、相続税法基本通達11の2−9《代償分割が行われた場合の課税価格の計算》により、「相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額」としている。

    (参考)相続税法基本通達(抄)
    (代償分割が行われた場合の課税価格の計算)

    11の2―9 代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。

    • (1) 代償財産の交付を受けた者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
    • (2) 代償財産の交付をした者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額
  • 2  基本通達においてこのような方法を採るのは、相続財産を現物で取得した者については、民法第909条の規定によりその取得した相続財産の現物が直接被相続人から承継取得したものとされ、まさにその取得した相続財産そのものが相続又は遺贈により取得した財産となるとしても、その財産のうちには、代償財産の交付を受ける者のその代償財産の価額が混入しているものと言わざるを得ないことから、代償財産を交付した者については、相続税の課税価格の計算上の技術的措置として、取得した相続財産の現物の価額からその代償財産の価額を控除しているところである。
  • 3  問について、相続税の納税猶予の特例(措法70の7の2丸1)の適用を受ける者が代償財産の交付をした者である場合も上記1と取扱いを異にする理由はないことから、同通達によることについては言うまでもない。
  • 4  しかしながら、相続税の納税猶予の特例の適用を受ける者が代償財産の交付をした者である場合で、相続又は遺贈により取得をした財産の中に特例の適用を受ける株式等とそれ以外の財産とがある場合の当該特例の適用を受ける者に係る相続税の課税価格の計算方法については、代償財産として交付をした財産の価額を丸1特例の適用を受ける財産の価額から優先的に控除する方法(T案)、丸2特例の適用を受ける財産以外の財産の価額から優先的に控除する方法(U案)、あるいは丸3交付をした代償財産の価額を代償財産の交付をした者が相続又は遺贈により取得をしたそれぞれの財産の価額により按分し、それぞれの相続財産の価額から当該按分後の代償財産の価額を控除する方法(V案)のいずれかが考えられるが、法令上特段の定めはない。
  • 5  このことについて、特定の現物財産と代償財産とがひも付きになっておらず、相続財産全体に対して代償分割が行われた場合には、それぞれの相続財産に対し代償財産の価額が均等に混入しているとするのが最も合理的な考え方であると考えられる。
  • 6  ただし、特例の適用を受ける株式等とそれ以外の財産とがある場合の代償財産の価額の控除方法について法令において定められていない以上、按分による方法でなければならないとする明確な根拠はなく、特例の適用を受ける株式等以外の財産の価額から優先的に代償財産の価額を控除して申告がなされてきたとしてもこれを認めて差し支えないものと考える。
  • 7  なお、相続税の納税猶予税額の計算方法は、措置法第70条の7の2第2項第5号の規定により、次により算出することとされているが、代償財産として支払った財産の価額を相続税の納税猶予の特例の適用を受けない財産の価額から優先的に控除しても、なお控除しきれない金額は、特例非上場株式等の価額から控除することになることから、同号イ及びロに規定する「特例非上場株式等の価額」は、当該控除後の価額となることに留意する必要がある。

    (措置法第70条の7の2第2項第5号抜粋)
    五 納税猶予分の相続税額 イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した残額をいう。

    • イ 前項の規定の適用に係る特例非上場株式等の価額を同項の経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税法第十五条から第十九条までの規定を適用して政令で定めるところにより計算した当該経営承継相続人等の相続税の額
    • ロ 前項の規定の適用に係る特例非上場株式等の価額に百分の二十を乗じて計算した金額を同項の経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税法第十五条から第十九条までの規定を適用して政令で定めるところにより計算した当該経営承継相続人等の相続税の額
  • 8  問について、子Aは、被相続人の全財産である土地(評価額:2,000万円)と甲株式会社の株式9,000株(評価額:1億2,000万円)を相続し、もう一人の相続人である子Bに対し7,000万円を代償財産として現金で支払っている。このとき、相続税の納税猶予の特例の適用を受けない財産の価額から代償財産の価額を優先的に控除し計算することとした場合、子Aに係る相続税の課税価格の計算に当たっては、相続により取得をした土地の価額(2,000万円)及び相続税の納税猶予の特例の適用を受けない株式の価額(4,000万円※)から、代償財産として交付をした現金の額7,000万円を優先して控除し計算することとなるが、なお控除しきれない1,000万円については、相続税の納税猶予の特例の適用を受けることを選択した特例非上場株式等の価額(8,000万円)から控除することとなる。
     したがって、問の場合、結果的に、特例非上場株式等の価額は7,000万円(相続税法第13条の規定により控除すべき債務がある場合には、その者の負担に属する部分の金額を控除した残額となる。)となる。
    ※ 120,000千円×9,000株×(1−2/3)/9,000株