問1 非上場株式等についての納税猶予の特例と農地等についての納税猶予の特例との違い

(問) 今回創設された非上場株式等についての納税猶予の特例と農地等についての納税猶予の特例とを比較したときに、制度上異なる主な点は何か。

(答)

 今回創設された非上場株式等についての納税猶予の特例と農地等についての納税猶予の特例とで、制度上異なる主な点は次のとおりである。

  • 1 法令の構成
  • 2 納税猶予税額の算出方法
  • 3 継続届出書の提出期間等
  • 4 会社の倒産等があった場合の特例適用者からの申請による猶予税額の免除制度
  • 5 同族会社等の行為又は計算の否認等
  • 6 非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例を受ける株式等の範囲
  • 7 贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例

(解説)

  • 1 法令の構成
     農地等についての納税猶予の特例は、農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予(措法70の4)と農地等についての相続税の納税猶予(措法70の6)により構成されているが、非上場株式等についての納税猶予の特例は、非上場株式等についての贈与税の納税猶予(措法70の7)(以下「贈与税の納税猶予の特例」という。)、非上場株式等についての相続税の納税猶予(措法70の7の2)(以下「相続税の納税猶予の特例」という。)及び非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予(措法70の7の4)(以下「贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例」という。)により構成されている。
  • 2 納税猶予税額の算出方法
     贈与税の納税猶予の特例に係る納税猶予税額については、この特例の適用を受けるものとして選択した非上場株式等(以下「特例受贈非上場株式等」という。)の価額を租税特別措置法(以下「措置法」という。)第70条の7第2項第3号に規定する経営承継受贈者(以下「経営承継受贈者」という。)に係るその年分の贈与税の課税価格とみなして、相続税法第21条の5《贈与税の基礎控除》及び第21条の7《贈与税の税率》の規定(措置法第70条の2の2《贈与税の基礎控除の特例》の規定を含む。)を適用して計算した金額が納税猶予分の贈与税額となる。
     また、相続税の納税猶予の特例に係る納税猶予税額及び贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例に係る納税猶予税額については、措置法第70条の7の2第2項第3号に規定する経営承継相続人等(以下「経営承継相続人等」という。)又は同法第70条の7の4第2項第3号に規定する経営相続承継受贈者(以下「経営相続承継受贈者」という。)が、この特例の適用を受けるものとして選択した非上場株式等(以下「特例非上場株式等」という。)のみを相続又は遺贈により取得するとした場合の相続税額から、当該特例非上場株式等の20%に相当する株式等のみを相続又は遺贈により取得するとした場合の相続税額を控除した残額に相当する金額が納税猶予分の相続税額となる。
  • 3 継続届出書の提出期間等
     贈与税の納税猶予の特例については、贈与税の申告期限の翌日から同日以後5年を経過する日(当該経過する日までに贈与者が死亡した場合は、その死亡の日。以下同じ。)までの期間(以下「経営贈与承継期間」という。)は、当該贈与税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日を基準日(以下「第一種贈与基準日」という。)として毎年、経営贈与承継期間の末日の翌日から納税猶予分の贈与税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの期間は、当該経営贈与承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日を基準日(以下「第二種贈与基準日」という。)として3年ごとに、引き続いてこの特例の適用を受けたい旨及び特例の適用を受けている非上場株式等に係る会社の経営に関する事項を記載した届出書(以下「継続届出書」という。)に一定の書類を添付して納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされている。
     また、相続税の納税猶予の特例については、相続税の申告期限の翌日から同日以後5年を経過する日(当該経過する日までに経営承継相続人等が死亡した場合は、その死亡の日。以下同じ。)までの期間(以下「経営承継期間」という。)は、当該相続税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日を基準日(以下「第一種基準日」という。)として毎年、経営承継期間の末日の翌日から納税猶予分の相続税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの期間は、当該経営承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日を基準日(以下「第二種基準日」という。)として3年ごとに、継続届出書に一定の書類を添付して納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされている。
     また、贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予の特例については、措置法第70条の7第1項の規定の適用に係る贈与の日の属する年分の同項に規定する贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの間に当該贈与に係る贈与者について相続が開始した場合における当該相続の開始の日から当該5年を経過する日(当該経過する日までに経営相続承継受贈者が死亡した場合は、その死亡の日。以下同じ。)までの期間(以下「経営相続承継期間」という。)は、当該贈与税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日を基準日(以下「第一種相続基準日」という。)として毎年、経営相続承継期間の末日の翌日から納税猶予分の相続税額の全部につき納税の猶予に係る期限が確定する日までの期間は、当該経営相続承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日を基準日(以下「第二種相続基準日」という。)として3年ごとに、継続届出書に一定の書類を添付して納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされている。
     更に、継続届出書とは別に、特例の適用を受けている者が死亡等した場合(措置法第70条の7第16項、同法第70条の7の2第16項又は同法第70条の7の4第12項の規定により準用する同法第70条の7の2第16項に該当した場合をいう。)の納税の猶予に係る贈与税額(又は相続税額)の免除に当たっては、納税地の所轄税務署長に対し、免除を受けるための届出書とともに、当該死亡等した日の直前の経営(贈与・相続)報告基準日の翌日から当該死亡等した日までの間において一定の事由(納税の猶予に係る期限の確定事由)に該当していないかどうかの有無その他一定の事項を明らかにする所定の書類を当該届出書に添付して提出しなければならないこととされている。
  • 4 会社の倒産等があった場合の特例適用者からの申請による猶予税額の免除制度
     経営贈与承継期間経過後、経営承継期間経過後又は経営相続承継期間経過後に、非上場株式等についての納税猶予の特例の適用を受けている者が事業の再生を図るために、自己が保有するこの特例の対象となっている非上場株式等に係る会社(以下「認定(贈与・相続)承継会社」という。)の株式等の全部を譲渡した場合や、認定(贈与・相続)承継会社が倒産した場合など一定の場合には、この特例の適用を受けている者からの申請により、一定の範囲で猶予中贈与税額(措置法第70条の7第2項第7号ロに規定する猶予中贈与税額をいう。以下同じ。)又は猶予中相続税額(同法第70条の7の2第2項第7号ロ又は租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第40条の8の3第10項に規定する猶予中相続税額をいう。以下同じ。)を免除することとされている(措法第70条の7第17項、同法第70条の7の2第17項及び同法第70条の7の4第12項の規定により準用する同法第70条の7の2第17項)。
  • 5 同族会社等の行為又は計算の否認等
     非上場株式等についての納税猶予の特例の適用を受けて相続税等の負担の回避を図るといった行為を適切に防止する観点から、相続開始前(贈与前)3年以内に、この特例の適用を受けようとする者及び当該者と特別の関係がある一定の者から、この特例の適用を受ける非上場株式等に係る会社に対し現物出資又は贈与(以下「現物出資等」という。)があった場合で、当該現物出資等に係る資産の価額の合計額がその会社の資産の価額の合計額の70%以上である場合には、この特例の適用を受けることができないこととされている(措法第70条の7第24項、同法第70条の7の2第24項)。
     更に、この特例創設時には予期できない類型の租税回避行為などが発生し、この特例の適正な利用を確保できない事態に対応するため、包括的に租税回避行為等を防止するための規定が設けられている(措法第70条の7第15項、同法第70条の7の2第15項及び同法第70条の7の4第11項の規定により準用する同法第70条の7の2第15項)。
  • 6 贈与税の納税猶予の特例を受ける株式等の範囲
     贈与税の納税猶予の特例は、贈与税の申告書に、この特例の適用を受けようとする旨の記載があるものについて納税猶予の特例の適用を受けることができることとされている(措法70の7丸1)。すなわち、農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予の特例(措法70の4)のように、農地の全部を贈与し、その農地の全部について納税猶予の特例の適用を受ける必要はなく、贈与税の納税猶予の特例は、贈与者から全部又は一定以上の株式等の贈与を受けることを前提とするものの、当該贈与を受けた株式等のうち一定の数等(限度数又は限度額に達するまでの部分)を限度として、この特例の適用を受ける株式等の数又は金額を当該特例の適用を受ける者が選択することができる制度となっている。
  • 7 贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例
     農地等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70の5)では、農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予(措法70の4)の適用を受けていた場合で、当該贈与に係る農地等の贈与者が死亡したときは、贈与者の相続開始時において特例の適用を受けている農地等をその贈与者から相続(又は遺贈)により取得をしたものとみなされ、その死亡の日における価額が当該贈与者の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入される。
     他方、非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70の7の3)では、贈与税の納税猶予の特例(措法70の7)の適用を受けていた場合で、当該贈与に係る非上場株式等の贈与者が死亡したときは、贈与者の相続開始時において特例の適用を受けている非上場株式等をその贈与者から相続(又は遺贈)により取得をしたものとみなされ、当該非上場株式等の贈与の時における価額を基礎として計算した価額が当該贈与者の死亡による相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入されることとされている。