1 贈与税の納税猶予の対象となる非上場株式等の意義(70の7−1)

70の7−1 措置法第70条の7第1項の適用対象となる同条第2項第2号に規定する非上場株式等(以下70の7の4−9までにおいて「非上場株式等」という。)は、議決権に制限のない株式又は出資(以下70の7の4−9までにおいて「株式等」という。)に限られていることから、次に掲げる株式等は含まれないことに留意する。

(1) 会社の株主総会又は社員総会(以下70の7−12までにおいて「株主総会等」という。)において議決権を行使できる事項の全部又は一部について制限がある株式等

(2) 会社の株主総会等において議決権を行使できる事項の全部又は一部について制限がある株主又は社員(以下70の7の4−5までにおいて「株主等」という。)の有する株式等

(新設)
(説明)
1 措置法第70条の7第1項の適用対象となる同条第2項第2号に規定する非上場株式等(以下「非上場株式等」という。)は、議決権の制限がない株式又は出資(以下「株式等」という。)に限られている。
2 ところで、議決権とは、株式会社においては、株主が株主総会・種類株主総会の決議に参加する権利をいい、議決権の数は、原則として、1株1議決権(注)である(会社法3081本文)が、会社法第108条において株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行することができることとされている。 1剰余金の配当、2残余財産の分配、3株主総会で議決権を行使できる事項、4譲渡によるその種類の株式の取得について会社の承認を要すること、5株主が会社に対してその種類の株式の取得を請求できること、6会社が一定の事由が生じたことを条件としてその種類の株式を取得できること、7株主総会決議によって会社がその種類の株式の全部を取得できること、8株主総会・取締役会等で決議すべき事項についてその種類の株式の株主による種類株主総会決議を要すること又は9その種類の株式の株主による種類株主総会において取締役・監査役を選任すること。
 これらのうち3については、(a)ある事項(たとえば取締役の選任)についてのみ議決権がないものとすることも、(b)ある事項についてのみ議決権を有することとすることも、(c)まったく議決権を有しないとすることもでき、これらを総称して議決権制限株式という(会社法115)が、当該議決権制限株式については、措置法第70条の7第1項の適用対象となる「議決権の制限がない株式等」には該当しないこととなる。

(注) 会社法第188条第1項においては、株式会社は、その発行する株式について、一定の数の株式をもって株主が株主総会又は種類株主総会において1個の議決権を行使することができる1単元の株式とする旨を定款で定めることができることとされており、同法第189条第1項においては、単元未満株式を有する株主は、その有する単元未満株式について議決権を有することができないこととされていることから、当該単元未満株式については当然に「議決権の制限がない株式等」に該当しないこととなる。

3 また、公開会社でない株式会社(発行する株式の全部が譲渡制限株式である株式会社をいう。以下同じ。)においては、株式ではなく個々の株主に着目し、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、又は株主総会における議決権について、株主ごとに異なる取扱いを定款で定めることができることとされている(会社法1092)ことから、会社の株主総会において議決権を行使できる事項の全部又は一部について制限がある株主が有する株式についても、措置法第70条の7第1項の適用対象となる「議決権の制限がない株式等」には該当しないこととなる。
4 さらに、持分会社(合名会社、合資会社又は合同会社をいう。以下同じ。)の場合には、原則1人1議決権であるが、定款によりその内容は自由に定めることができる(会社法5901)。例えば、「出資金額10,000円につき1議決権を有する。」とすることや、「●●の議決権については、◎◎の事項に限る。」等さまざまな類型の議決権付与が可能である(定款の定めによって上記いずれの類型の議決権付与も可能と考えられる。)。したがって、持分会社の出資について、「議決権の制限のない株式等」に該当するかどうかを判定する場合には、定款の内容に応じ、株式会社の株式について「議決権の制限のない株式等」に該当するかどうかを判定するのと同様に判定することとなる。
5 そこで、措置法第70条の7第1項の適用対象となる非上場株式等には、1会社の株主総会又は社員総会において議決権を行使できる事項の全部又は一部について制限がある株式等及び2会社の株主総会又は社員総会において議決権を行使できる事項の全部又は一部について制限がある株主又は社員(以下「株主等」という。)の有する株式等は含まれないことを留意的に明らかにした。

2 特例受贈非上場株式等の意義等(70の7−2)

70の7−2 措置法第70条の7第1項の適用対象となる非上場株式等(議決権に制限のない株式等に限る。以下70の7−2において同じ。)の贈与及び同項に規定する特例受贈非上場株式等(以下70の7の4−6までにおいて「特例受贈非上場株式等」という。)とは、次の表の左欄に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ、中欄に掲げる贈与(以下70の7の4−7までにおいて「特例対象贈与」という。)及び右欄に掲げる株式の数又は出資の金額に達するまでの部分をいうことに留意する。

区分 特例対象贈与 特例受贈非上場株式等
(1) A+B≧C×3分の2の場合 3分の2−B以上の贈与 3分の2−B
(2) A+B<C×3分の2の場合 Aの全部の贈与 A

(注)

1 上記算式中の符号は次のとおり。
 Aは、贈与者が措置法第70条の7第1項の規定の適用に係る贈与の直前に有していた非上場株式等の数又は金額
 Bは、同条第2項第3号に規定する経営承継受贈者(以下70の7の3−2までにおいて「経営承継受贈者」という。)が当該贈与の直前に有していた非上場株式等の数又は金額
 Cは、当該贈与の時における同条第2項第1号に規定する認定贈与承継会社(以下70の7の4−2までにおいて「認定贈与承継会社」という。)の発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式等に限る。)の総数又は総額

2 同一年中に、異なる贈与者から同一の認定贈与承継会社に係る非上場株式等を贈与により取得した場合、異なる贈与者から複数の認定贈与承継会社に係る非上場株式等を贈与により取得した場合及び同一の贈与者から複数の認定贈与承継会社に係る非上場株式等を贈与により取得した場合の特例対象贈与及び特例受贈非上場株式等に該当するかの判定は、それぞれの認定贈与承継会社及び贈与ごとに行うことに留意する。

3 上記(1)又は(2)により計算された株式の数又は出資の金額のうち、措置法第70条の7第1項に規定する贈与税の申告書に同項の規定の適用を受ける旨の記載がある部分が特例受贈非上場株式等に該当することに留意する。

4 上記(1)の右欄のC×3分の2の数又は金額に1株又は1円未満の端数がある場合には、措置法令第40条の8第2項((非上場株式等についての贈与税の納税猶予))の規定により、その端数は切り上げることに留意する。

(新設)
(説明)
1 措置法第70条の7第1項の規定の適用を受けるためには、措置法第70条の7第2項第1号に規定する認定贈与承継会社(以下「認定贈与承継会社」という。)の非上場株式等を一定数以上の贈与により取得し、かつ、当該取得をした非上場株式等のうち特例の適用を受けるもの(一定の部分に限る。)として措置法第70条の7第1項に規定する贈与税の申告書に同項の規定の適用を受ける旨の記載(この特例の適用を受けるものとして記載された非上場株式等を「特例受贈非上場株式等」という。以下同じ。)をし、贈与税の申告期限までに当該申告書を提出する必要がある。
2 通達では、当該「一定数以上の贈与(以下70の7の4−7までにおいて「特例対象贈与」という。)」及び「特例受贈非上場株式等」の意義について計算式により次の表のとおり明らかにした。
  特例対象贈与 特例受贈非上場株式等
(1) A+B≧C×3分の2の場合 3分の2−B以上の贈与 3分の2−B
(2) A+B<C×3分の2の場合 Aの全部の贈与 A

(注) Aは、贈与者が措置法第70条の7第1項の規定の適用に係る贈与の直前に有していた非上場株式等(議決権に制限のない株式等に限る。)の数又は金額
 Bは、同条第2項第3号に規定する経営承継受贈者(以下「経営承継受贈者」という。)が当該贈与の直前に有していた非上場株式等(議決権に制限のない株式等に限る。)の数又は金額
 Cは、当該贈与の時における認定贈与承継会社の発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式等に限る。)の総数又は総額

3 通達の(注)2においては、贈与者又は認定贈与承継会社が2以上ある場合の当該「一定数以上の贈与(特例対象贈与)」及び「特例受贈非上場株式等」の判定は、それぞれの認定贈与承継会社及び贈与ごとに行うことを留意的に明らかにした。
4 通達の(注)3においては、上記2の(1)又は(2)により計算された株式の数又は出資の金額のうち、措置法第70条の7第1項に規定する贈与税の申告書に同項の規定の適用を受ける旨の記載がある部分が「特例受贈非上場株式等」に該当することを留意的に明らかにした。
5 通達の(注)4においては、上記2の(1)の右欄のC×3分の2の数又は金額に1株又は1円未満の端数がある場合には、その端数は切り上げることを留意的に明らかにした。

3 特例対象贈与に係る贈与者が贈与税の申告期限前に死亡した場合(70の7−3)

70の7−3 特例対象贈与に係る贈与者が、当該特例対象贈与に係る贈与税の申告書の提出期限前に、かつ、受贈者による当該申告書の提出前に死亡した場合における措置法第70条の7第1項の規定の適用については、次に掲げることに留意する。

(1) 贈与者が特例対象贈与をした日の属する年に死亡した場合

イ 受贈者が贈与者の死亡に係る相続又は遺贈により財産を取得したとき当該特例対象贈与により取得した認定贈与承継会社の非上場株式等については、相続税法第21条の2第4項の規定に該当する場合には贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されないので、措置法第70条の7第1項の規定の適用はない。

(注) 上記の場合、贈与者の死亡に係る相続税については、当該非上場株式等は、措置法令第40条の8の2第2項の規定により受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされることから、同項の規定により読み替えられた措置法第70条の7の2第1項の規定の適用に係る要件を満たしている場合には、同項の規定の適用を受けることができることに留意する。

ロ 受贈者が贈与者の死亡に係る相続又は遺贈により財産を取得しなかったとき
 受贈者が、当該特例対象贈与により取得した認定贈与承継会社の非上場株式等について措置法第70条の7第1項の規定の適用を受ける旨の贈与税の申告書を提出したとき(同項の規定の適用に係る要件を満たしている場合に限る。)は、当該申告書は、同項の規定の適用のある申告書となることに留意する。
 この場合において、同項の規定による贈与税の納税猶予の適用要件のうち担保の提供については、その提供を要しないものとし、同条第16項の規定による贈与税の免除の規定の適用に当たっては、当該申告書の提出があった時に免除の効果が生ずるものとして取り扱う。
 なお、当該受贈者が当該贈与者に係る相続時精算課税適用者(相続時精算課税の適用を受けようとする者を含む。)であり、同条第1項の規定の適用を受けないときは上記イを準用することに留意する。

(2) 贈与者が特例対象贈与をした日の属する年の翌年に死亡した場合上記(1)のロ(なお書を除く。)を準用する。

(新設)
(説明)
1 贈与税の納税猶予の適用を受けることを前提とした非上場株式等の贈与があった場合において、贈与者がその贈与があった日の属する年中に死亡すること、あるいは、その翌年の贈与税の申告書の提出期限前に、かつ、受贈者による贈与税の申告書の提出前に死亡することがある。
2 非上場株式等の特例対象贈与があった日と贈与者の死亡の日とが同一年中であり、かつ、その受贈者が贈与者の死亡に係る相続又は遺贈によって財産を取得した場合において、相続税法第21条の2第4項の規定に該当するときは、当該相続の開始の年の被相続人から当該特例対象贈与により取得した非上場株式等は、贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されず相続税の課税対象とされるので、措置法第70条の7第1項の規定の適用はない。通達の(1)のイにおいてはその旨を留意的に明らかにした。
 この場合、当該非上場株式等は、措置法令第40条の8の2第2項の規定により受贈者が贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされることから、同項の規定により読み替えられた措置法第70条の7の2第1項の規定の適用に係る要件を満たしている場合には、同項の規定の適用を受けることができる。通達の(1)の(注)においてはその旨を明らかにした(70の7の2−5参照)。
3 また、非上場株式等の特例対象贈与があった日と贈与者の死亡の日とが同一年中であり、かつ、その贈与者の死亡に係る相続又は遺贈によって受贈者が財産を取得しなかった場合には、当該特例対象贈与によって取得した非上場株式等については、贈与税が課税されることがあるため(注)、措置法第70条の7第1項の規定の適用の有無が問題となる。ところで、同項の規定においてはその納税猶予の期限が贈与者の死亡の日までとされているので、既にその申告書の提出期限前に贈与者が死亡している場合には、納税猶予に係る納期限の確定事由が発生していることになり、同項の規定の適用を受ける実益はないことになる。しかしながら、同項の規定は、その贈与者が死亡した場合又はその死亡の時前に受贈者が死亡した場合には、その納税猶予に係る税額を免除することとされており(措法70の716)、同項の規定の適用の実益は主としてこの免除にあるのであるから、一概に納税猶予の実益がないことを理由として同項の規定の適用がないものと解し、その贈与税の免除の実益をも適用しないとすることは適当ではないことから、その旨を通達の(1)のロにおいて留意的に明らかにした。なお、この場合において、同項の規定による贈与税の納税猶予の適用要件のうち担保の提供については、農地の納税猶予の取扱いと同様に、措置法第70条の7第1項の規定の適用後即免除になるため、同項の規定の適用要件である担保提供を当該贈与税の申告時に求めることに実益がないことから、担保提供を要しないものとし、同条第16項の規定による贈与税の免除の規定の適用に当たっては、当該申告書の提出があった時に免除の効果が生ずるものとして取り扱うこととした。
 なお、贈与者の死亡が当該非上場株式等の特例対象贈与のあった年の翌年であった場合で受贈者による贈与税の申告書の提出前であるときは、当然に贈与税の課税対象となることから、上記により贈与税の課税対象となる場合と同様の取り扱いであることを通達の(2)において留意的に明らかにした。

(注) 特例受贈非上場株式等の特例対象贈与があった日と贈与者の死亡の日とが同一年中に属し、かつ、その贈与者の死亡に係る相続又は遺贈によって受贈者が財産を取得しなかった場合の受贈者の態様別の課税関係は次のとおりとなる。

1 受贈者が相続時精算課税適用者(相続時精算課税を選択しようとする者を含む。2において同じ。)でない場合
 相続税法第21条の2第4項の規定の適用はないため、暦年課税の贈与税の課税対象となる。

2 受贈者が相続時精算課税適用者である場合

(1) 措置法第70条の7第1項の規定の適用を受けるとき
 同項の規定の適用を受けた特例受贈非上場株式等は、同条第3項の規定により相続時精算課税の適用はされないため、暦年課税の贈与税の課税対象となる。

(2) 措置法第70条の7第1項の規定の適用を受けないとき
 当該特例対象贈与により取得した特例受贈非上場株式等は相続時精算課税適用財産となり、相続税法第21条の16第1項の規定の適用があるため、相続税の課税対象となる(贈与税については、相続税法第28条第4項の規定の適用により申告不要)。

 したがって、上記(2)の場合は、非上場株式等の特例対象贈与があった日と贈与者の死亡の日とが同一年中に属し、かつ、その受贈者が贈与者の死亡に係る相続又は遺贈によって財産を取得した場合と同様であるため、通達の(1)のロなお書きではその旨を留意的に明らかにした。

4 特例対象贈与に係る受贈者が贈与税の申告期限前に死亡した場合(70の7−4)

70の7−4 特例対象贈与に係る受贈者が、当該特例対象贈与を受けた日の属する年の中途において死亡した場合又は当該特例対象贈与に係る贈与税の申告書の提出期限前に当該申告書を提出しないで死亡した場合において、当該受贈者の相続人(包括受遺者を含む。)が当該受贈者の当該特例対象贈与に係る認定贈与承継会社の非上場株式等について措置法第70条の7第1項の規定の適用を受ける旨の贈与税の申告書を提出したとき(同項の規定の適用に係る要件を満たしている場合に限る。)は、当該申告書は、同項の規定の適用のある申告書として取り扱って差し支えない。
 この場合において、同項の規定による贈与税の納税猶予の適用要件のうち担保の提供については、その提供を要しないものとし、同条第16項の規定による贈与税の免除の規定の適用に当たっては、当該申告書の提出があった時に免除の効果が生ずるものとして取り扱う。

(新設)
(説明)
1 受贈者が、財産の贈与を受けた年中において死亡した場合又はその贈与を受けた翌年の贈与税の申告書の提出期限前にその申告書を提出しないで死亡した場合には、その受贈者の相続人(包括受遺者を含む。)は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内にその死亡した受贈者に係る贈与税の申告書を提出しなければならないこととされている(相続税法282)。
2 ところで、非上場株式等の特例対象贈与に係る受贈者が当該非上場株式等の特例対象贈与を受けた年中において死亡した場合又はその翌年の贈与税の申告書の提出期限前にその申告書を提出しないで死亡した場合には、その受贈者の死亡により既に納税猶予の期限の確定事由が発生しているため、その受贈者の相続人や包括受遺者が、その死亡した受贈者について措置法第70条の7第1項の規定の適用を受けようとする旨の贈与税の申告書を提出することができるかどうかについては疑義が生ずるところである。これについては、70の7−3においても述べたように、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予の特例」は、主として納税猶予税額の免除に実益があることから受贈者の死亡のタイミングによりこの実益を奪うことはあまりに納税者にとって酷であること、また、農地の贈与税の納税猶予においても同様のケースについて納税猶予の適用を認めることとしている(70の4−20参照)ことも考慮し、当該非上場株式等の受贈者が贈与税の申告期限前に死亡した場合においても、その適用要件を具備しているときは、同項の規定の適用を受けることができることと取り扱って差し支えないこととした。
3 この場合において、措置法第70条の7第1項の規定による贈与税の納税猶予の適用要件のうち担保の提供については、農地の納税猶予の取扱いと同様に、同項の規定の適用後即免除になるため同項の規定の適用要件である担保提供を当該贈与税の申告時に求めることに実益がないことから、担保提供を要しないものとし、同条第16項の規定による贈与税の免除の規定の適用に当たっては、当該申告書の提出があった時に免除の効果が生ずるものとして取り扱うこととした。

5 申告期限前に全部確定事由が生じた場合(70の7−5)

70の7−5 特例対象贈与があった日の翌日から贈与税の申告書の提出期限までの間に、措置法第70条の7第4項各号のいずれかに掲げる場合に該当することとなった場合には、当該特例対象贈与に係る認定贈与承継会社の非上場株式等について同条第1項の規定の適用を受けることができないことに留意する。

(新設)
(説明)
1 措置法第70条の7第4項においては、同条第2項第6号に規定する経営贈与承継期間(以下「経営贈与承継期間」という。)内に同条第4項各号に掲げる場合に該当することとなった場合には、納税の猶予に係る期限が到来し、同条第2項に規定する納税猶予分の贈与税額及び利子税を納付しなければならないこととされている。
2 ところで、経営贈与承継期間とは、特例対象贈与の日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日又は当該特例対象贈与に係る贈与者の死亡の日のいずれか早い日までの期間をいうこととされていることから、文理上、措置法第70条の7第1項の適用要件を充足する場合には、当該特例対象贈与の日から当該贈与税の申告書の提出期限までの間に同条第4項各号に規定する事由が生じた場合であっても同条第1項の規定の適用を受けることができるのか、また、当該適用を受けることができるとした場合に同条第4項の規定の適用はないのかについては疑義の生ずるところである。
3 このことについて、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則(平成21年経済産業省令第22号)(以下「円滑化法規則」という。)第6条第7号においては、当該特例対象贈与の時から中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成20年法律第33号)(以下「円滑化法」という。)第12条第1項の当該認定の申請時までに措置法第70条の7第4項各号に該当する事実が判明した場合には円滑化法第12条第1項の認定がされないこととされている。また、同項の認定がなされた後、同号に該当する事実等が生じたことが判明した場合には円滑化法規則第9条の規定により当該認定を取り消すことができることとされており、措置法第70条の7の規定ぶりとは異なり、特例対象贈与後とぎれることなく取消しが可能となっている。したがって、特例対象贈与の日から贈与税の申告期限までの間に措置法第70条の7第4項各号に規定する事由が生じた場合には、そもそも措置法第70条の7第1項の規定の適用の前提条件となる円滑化法第12条第1項の認定贈与承継会社に係る経済産業大臣の認定がなされないことから、事実上、措置法第70条の7第1項の規定の適用を受けることができない。また、そもそも措置法第70条の7は、中小企業者の事業(所有権と経営権)を円滑に後継者に承継し、当該後継者が当該事業(所有権と経営権)を維持し経営を引き続いて行っていくものについて税制上の支援を行うために創設された制度であることに鑑みると、同条第1項の規定の適用を受けることができると解することは適当でないことから、通達においては、そのことを留意的に明らかにした。

6 修正申告等に係る贈与税額の納税猶予(70の7−6)

70の7−6 措置法第70条の7第1項の規定は、特例受贈非上場株式等の贈与に係る贈与税についての期限後申告、修正申告又は更正に係る税額について適用がないことに留意する。
 ただし、修正申告又は更正があった場合で、当該修正申告又は更正が期限内申告において同項の規定の適用を受けた特例受贈非上場株式等の評価又は税額計算の誤りのみに基づいてされるときにおける当該修正申告又は更正により納付すべき贈与税額(附帯税を除く。)については、当初から同項の規定の適用があることとして取り扱う。
 この場合において、当該修正申告又は更正により納税猶予を受ける贈与税の本税の額と当該本税に係る利子税の額に相当する担保については、当該修正申告書の提出の日又は当該更正に係る通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに提供しなければならないこととして取り扱う。

(新設)
(説明)
1 措置法第70条の7第1項は、期限内申告に限り適用されるのであるが(ゆうじょ規定も設けられていない。)、通達においては、農地の納税猶予における取扱いと同様に、例外的に、修正申告又は更正があった場合でも、その修正申告又は更正が期限内申告書の提出により同項の規定の適用を受けた特例受贈非上場株式等の評価誤り又は税額計算の誤りのみに基づくものであるときは、当該修正申告又は更正により納付すべき贈与税額(附帯税を除く。)については、当初からこの制度の適用があるものとして取り扱うこととした。
2 これは、期限内申告に含まれている特例受贈非上場株式等の単純な評価誤りや税額の計算誤りのような軽微な原因に基づく増加税額については、納税者の立場を考慮し、納税猶予の適用を認めようとするものである。したがって、修正申告又は更正に基づく税額であっても、当該修正申告又は更正の起因となった事実のなかに当該原因によるもの以外のものが含まれているときは、この取扱いは適用されない。また、これにより納税猶予の適用が受けられるのは、特例受贈非上場株式等の評価誤り又は税額の計算誤りによって増加する本税の額に限られ、附帯税の額についてまでは適用されない。なお、これによる納税猶予の適用は、その効果を贈与税の申告期限まで遡及することとしていることから同じ附帯税であっても延滞税については、これを課される余地がない。
3 なお、これによる納税猶予の適用についても、一般の場合と同様に、当該修正申告又は更正による贈与税の本税の額とその本税に係る利子税の額との合計額に相当する担保の提供が必要であるが、その担保の提供に係る期限は、農地の納税猶予における取扱いと同様に、国税通則法第35条第2項の規定による納期限である当該修正申告書の提出の日又は当該更正に係る通知書が発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までとして取り扱うこととした。

7 担保の提供等(70の7−7)

70の7−7 措置法第70条の7第1項の規定による担保の提供については、国税通則法第50条から第54条までの規定の適用があることに留意する。

(新設)
(説明)
 担保提供に関する原則は国税通則法の規定に基づくものであることを留意的に明らかにした。
 なお、非上場株式等に係る贈与税の納税猶予においては、持分会社の持分を担保提供可能財産として取り扱うこと、持分会社の持分に係る担保提供手続き・担保解除手続きを措置法等で定めているが、当該財産についても国税の担保に関する原則は国税通則法の規定に基づくことに留意する。

8 贈与税の額に相当する担保(70の7−8)

70の7−8 措置法第70条の7第1項に規定する「当該贈与税の額に相当する担保」とは、納税猶予に係る贈与税の本税の額と当該本税に係る納税猶予期間中の利子税の額との合計額に相当する担保をいうことに留意する。
 なお、この場合の当該本税に係る猶予期間中の利子税の額は、当該年分の贈与税の申告書の提出期限における贈与者の平均余命年数を納税猶予期間として計算した額によるものとして取り扱うことに留意する。

(注) 上記平均余命年数は、所得税法施行令別表((余命年数表))に定める年数によることに留意する(以下70の7の2―11までにおいて同じ。)。

(新設)
(説明)
 担保として必要な財産の価額は、本税のほか猶予期間中の利子税も担保する必要があることを留意的に明らかにした。
 この場合に、担保提供時には「贈与者の死亡の日まで」という未確定の猶予期間に係る利子税を計算することができないことから、必要担保額の計算に当たっては「贈与者の平均余命年数に相当する納税猶予期間中の利子税の額」による取扱いとしたものである。
(注) 国が設定する担保権(抵当権等)に係る被担保債権額についても、当該金額による取扱いとしている。
(参考)
 国税通則法基本通達第50条関係の9(担保の額)
 「国税の担保は、その担保にかかる国税が完納されるまでの延滞税、利子税及び担保の処分に要する費用をも十分に担保できる価額のものでなければならない。」

9 持分会社の持分が担保提供された場合(70の7−9)

70の7−9 措置法第70条の7第7項本文により認定贈与承継会社(持分会社に限る。)の持分を担保として提供を受け質権を設定した場合には、納税猶予期間中においては、当該持分から生じる配当その他の利益処分については、税務署長はその支払い又は引渡し等を受けないことに留意する。

(新設)
(説明)
 持分会社の持分に対して設定する質権は、「登録質」として整理されることから、持分から生じる配当や利益処分にも質権の効力が及ぶものと考えられる。
 ただし、この配当等をその都度税務署長が受け入れることは、次のような問題があることから、納税猶予中の期間においては、持分について配当等が生じた場合にもその支払い・引渡し等を受けない取扱いとしたものである。
1 納税猶予中の税額は、納期限が未到来であるとともに将来免除が見込まれるものであり、これに猶予期間中に発生した配当等を充てていくことは妥当ではない(延納のように将来納付が必要なものの履行期限が到来していない債権とは異なる。)。
2 通則法上も担保権の効果として受けた金銭をその担保権に係る国税に充てることのできる規定がない(通則法上では担保物処分したものを国税に充てることとされている。)。

10 常時使用従業員の意義(70の7−10)

70の7−10 経営承継受贈者の親族であっても、措置法規則第23条の9第4項((非上場株式等についての贈与税の納税猶予))に規定する者に該当すれば、当該親族は、措置法第70条の7第2項第1号イに規定する常時使用従業員に該当することに留意する。

(新設)
(説明)
1 措置法第70条の7第2項第1号イにおいては、常時使用従業員が1人以上であることが認定贈与承継会社の要件の1つとして規定されている。また、同条第4項第2号においては、当該常時使用従業員の数が同条第2項第7号イに規定する第1種贈与基準日において一定の数を下回る数となった場合には、当該第1種贈与基準日から2月を経過する日(当該2月を経過する日までの間に当該経営承継受贈者が死亡した場合には、当該経営承継受贈者の相続人(包括受遺者を含む。)が当該経営承継受贈者の死亡による相続の開始があったことを知った日の翌日から6月を経過する日をいう。)に納税の猶予に係る期限が到来することとされている。
2 ところで、上記1の常時使用従業員とは、措置法規則第28条の9第4項において、会社の従業員であって、1厚生年金保険法第9条、船員保険法第2条第1項又は健康保険法第3条第1項に規定する被保険者又は2当該会社と2月を越える雇用契約を締結している者であって75歳以上であるもののいずれかに該当する者とされていることから、当該いずれかに該当すれば、経営承継受贈者の親族であっても当該親族は常時使用従業員に該当することとなる。通達では、そのことを留意的に明らかにした。