(目的信託についての法第1章第3節の規定の不適用)
9の4─1 信託法第258条第1項((受益者の定めのない信託の要件))に規定する受益者の定め(受益者を定める方法の定めを含む。)のない信託で、かつ、特定委託者の存しないものについては、相続税法第1章第3節の規定の適用がないことに留意する。
(新設)
(説明)
 新信託法第258条第1項((受益者の定めのない信託の要件))に規定する受益者の定め(受益者を定める方法の定めを含む。)のない信託(以下「目的信託」という。)で、かつ、特定委託者の存しないものについては、受益者等が存しない信託に該当することから、受託者(受託者が個人である場合には法人とみなされる。)に法人税が課税されることとなる(法法4の61)。そして、当該信託の終了後、当該信託に係る信託財産は、当該信託の帰属権利者(新信託法1821二)である個人に帰属する場合があり得るが、当該受託者は法人である(又は法人とみなされる)ことから、法人から個人への贈与に該当することとなる(所得税の課税関係が生じる。)。
 そこで、相基通9の4─1では、目的信託で、かつ、特定委託者の存しないものについては、相続税又は贈与税の課税関係が生じ得ないことから、法第1章第3節((信託に関する特例))の適用がないことを留意的に明らかにした。
(受益者等が存しない信託の委託者が死亡した場合)
9の4─2 受益者等が存しない信託の委託者が死亡した場合には、法第9条の4第1項の規定の適用により当該信託の受託者が当該信託に関する権利を遺贈によって取得したものとみなされる場合を除き、当該信託に関する権利は当該死亡した委託者の相続税の課税財産を構成しないことに留意する。
(新設)
(説明)
 受益者等の存しない信託については、次のような課税が行われることとされた(所法6の3、67の3、法法4の6、4の7、64の3)。
  1. (1) 受託者(個人の場合には法人とみなされる。以下同じ。)に対し、信託財産に係る所得について、当該受託者の固有財産に係る所得と区別して法人税が課税されることとなる。この場合、信託の設定時に、受託者に対し、その信託財産に相当する金額について受贈益課税が行われる。
  2. (2) 受益者等の存しない信託を設定した場合には、委託者においては信託財産の価額に相当する金額による譲渡があったものとみなされる。
  3. (3) 受益者等の存しない信託に受益者等が存することとなった場合には、当該受益者等の受益権の取得による受贈益について、所得税又は法人税は課税されないこととされた。
  4. (4) 受益者等の存しない信託が終了した場合には、残余財産を取得した帰属権利者に対し、所得税又は法人税が課税されることとされた。
  5. (5) 受益者等の存しない信託を利用した相続税又は贈与税の租税回避に対しては、法第9条の4及び第9条の5の規定が整備された。
したがって、受益者等が存しない信託の委託者が死亡した場合には、法第9条の4第1項の規定の適用により当該信託の受託者が当該信託に関する権利を遺贈によって取得したものとみなされる場合を除き、当該信託に関する権利が、当該死亡した委託者の相続税の課税財産を構成しないのは明らかである。
 そこで、相基通9の4―2は、そのことを留意的に明らかにした。
(受益者等が存しない信託の受益者等となる者)
9の4─3 法第9条の4第1項に規定する「当該信託の受益者等となる者」又は第2項に規定する「当該受益者等の次に受益者等となる者」が複数名存する場合で、そのうちに1人でも当該信託の委託者(同項の次に受益者等となる者の前の受益者等を含む。)の親族(令第1条の9に規定する者をいう。以下9の5─1において同じ。)が存するときは、法第9条の4第1項又は第2項の規定の適用があることに留意する。
(新設)
(説明)
 受益者等の存しない信託の効力が生ずる場合又は受益者等の存する信託について当該信託の受益者等が存しなくなった場合には、当該信託の受託者に対して当該信託財産に相当する金額について受贈益課税が行われるほか、次のいずれかに該当するときには、当該受託者に対し贈与税又は相続税が課税されることとされた(法9の4)。
  1. (1) 受益者の存しない信託の効力が生ずる場合において、当該信託の受益者等となる者が当該信託の委託者の親族等(令第1条の9に規定する親族等をいう。以下同じ。)であるとき(受益者等が存しない信託の受益者等となる者が明らかでない場合にあっては、当該信託が終了した場合に当該信託の委託者の親族等が当該信託の残余財産の給付を受けることとなるとき)
  2. (2) 受益者等の存する信託について、当該信託の受益者等が存しないこととなった場合において、当該受益者等の次に受益者等となる者が当該信託の効力が生じた時の委託者又はその次に受益者等となる者の前の受益者等の親族等であるとき(受益者等の存しないこととなった信託の次に受益者等となる者が明らかでない場合にあっては、当該信託が終了した場合に当該信託の委託者又はその次に受益者等となる者の前の受益者等の親族等が当該信託の残余財産の給付を受けることとなるとき)
ところで、上記(1)又は(2)の将来の受益者等については、複数名存する場合もあり得るが、その場合において、上記の規定が適用されるのは、当該複数名の受益者等全員が委託者(法第9条の4第2項の次に受益者等となる者の前の受益者等を含む。以下この項において同じ。)の親族等である場合に限られるのではないかという疑義が生ずる。
 しかしながら、条文上、そのような条件は付されていないのは明らかであることから、当該複数名の受益者等のうち1人でも委託者の親族等が存すれば上記の規定が適用されることになる。
 そこで、相基通9の4―3は、そのことを留意的に明らかにした。
(受益者等が存しない信託の受託者が死亡した場合)
9の4─4 法第9条の4第1項又は第2項の規定の適用により、信託に関する権利を贈与又は遺贈により取得したものとみなされた受託者が死亡した場合であっても、当該信託に関する権利については、当該死亡した受託者の相続税の課税財産を構成しないことに留意する。
(新設)
(説明)
 受益者等の存しない信託の効力が生ずる場合又は受益者等の存する信託について当該信託の受益者等が存しなくなった場合には、当該信託の受託者に対して当該信託財産に相当する金額について受贈益課税が行われるほか、将来、受益者等となる者が委託者(法第9条の4第2項の次に受益者等となる者の前の受益者等を含む。以下同じ。)の親族等であるときは、当該受託者に対し贈与税又は相続税が課税されることから、当該受託者が死亡したときには、当該信託に係る信託財産は死亡した当該受託者の相続財産を構成するのではないかという疑義が生ずる。
 しかしながら、旧信託法第15条は、「信託財産ハ受託者ノ相続財産に属セス」と定めており、また、新信託法では、当該規定は削除されているが、受託者の死亡によってその任務は終了し(新信託法561)、信託財産は法人とみなす旨の規定(新信託法741)が設けられていることからすれば、信託財産が受託者の相続財産を構成しないのは明らかである。
 そこで、相基通9の4―4は、そのことを留意的に明らかにした。