(受益者連続型信託に関する権利の価額)
9の3─1 受益者連続型信託に関する権利の価額は、例えば、次の場合には、次に掲げる価額となることに留意する。
(1) 受益者連続型信託に関する権利の全部を適正な対価を負担せず取得した場合 信託財産の全部の価額
(2) 受益者連続型信託で、かつ、受益権が複層化された信託(以下9の3─3までにおいて「受益権が複層化された受益者連続型信託」という。)に関する収益受益権の全部を適正な対価を負担せず取得した場合 信託財産の全部の価額
(3) 受益権が複層化された受益者連続型信託に関する元本受益権の全部を適正な対価を負担せず取得した場合(当該元本受益権に対応する収益受益権について法第9条の3第1項ただし書の適用がある場合又は当該収益受益権の全部若しくは一部の受益者等が存しない場合を除く。)零
(注) 法第9条の3の規定の適用により、上記(2)又は(3)の受益権が複層化された受益者連続型信託の元本受益権は、価値を有しないとみなされることから、相続税又は贈与税の課税関係は生じない。ただし、当該信託が終了した場合において、当該元本受益権を有する者が、当該信託の残余財産を取得したときは、法第9条の2第4項の規定の適用があることに留意する。
(新設)
(説明)
 法第9条の3第1項では、受益者連続型信託についての贈与税又は相続税の課税上、受益者連続型信託に関する権利(異なる受益者が性質の異なる受益者連続型信託に係る権利(当該権利のいずれかに収益受益権が含まれるものに限る。)をそれぞれ有している場合にあっては、収益受益権が含まれるものに限る。)に当該受益者連続型信託の利益を受ける期間の制限その他の当該受益者連続型信託に関する権利の価値に作用する要因としての制約が付されているものについては、当該制約は付されていないものとみなされることとされた。
 したがって、例えば、受益権が複層化された受益者連続型信託の収益受益権を個人X1が、元本受益権を個人Y1が有するものについて、収益受益権が個人X2に、元本受益権が個人Y2に移転した場合における課税上のそれぞれの受益権の価額については、当該収益受益権の価額は、当該受益者連続型信託の信託財産そのものの価額と等しいとして計算され、当該元本受益権の価額は、零となる。
 ただし、この規定は、この規定の適用対象となる受益者連続型信託に関する権利を有することとなる者が法人(人格なき社団等を含む。以下この項において同じ。)である場合には、適用されないこととされており、上記の例でいえば、収益受益権が個人X1から法人Zに、元本受益権が個人Y1から個人Y2に移転した場合には、個人Y2が有する元本受益権の価額は零とはならないこととなる(この場合には、財産評価基本通達202((信託受益権の評価))により評価した上で課税関係が生ずる。)。
 そこで、相基通9の3―1では、受益者連続型信託に関する権利の価値を例示的に明らかにした。
 なお、相基通9の3―1の注書では、受益権が複層化された受益者連続型信託の元本受益権(当該元本受益権に対応する収益受益権を法人が有する場合又は当該収益受益権の全部又は一部の受益者等が存しない場合を除く。)について、信託期間中は贈与税又は相続税の課税関係は生じないが、当該信託が終了し、元本受益者が当該信託の残余財産の給付を受けることとなる場合には、法第9条の2第4項の規定に基づき贈与税又は相続税の課税関係が生じることを留意的に明らかにした。
(参考)
説明図
(受益権が複層化された受益者連続型信託に関する元本受益権の全部又は一部を有する法人の株式の時価の算定)
9の3─2 受益権が複層化された受益者連続型信託で、個人がその収益受益権の全部又は一部を、法人(当該収益受益権を有する個人が当該法人の株式(出資を含む。)を有する場合に限る。)がその元本受益権の全部又は一部をそれぞれ有している場合において、当該個人の死亡に基因して、当該個人から当該法人の株式を相続又は遺贈により取得した者の相続税の課税価格の計算に当たっては、当該株式の時価の算定における昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)185((純資産価額))の計算上、当該法人の有する当該受益者連続型信託に関する元本受益権(当該死亡した個人が有していた当該受益者連続型信託に関する収益受益権に対応する部分に限る。)の価額は零として取り扱う。
(新設)
(説明)
 受益権が複層化された受益者連続型信託については、原則として収益受益者が受益権のすべてを有しているものとみなされることとされている(法9の31)。したがって、例えば、被相続人である個人(以下この項において「被相続人」という。)がその収益受益権の全部を、法人がその元本受益権の全部をそれぞれ有しており、かつ、当該収益受益権を有する被相続人が、当該元本受益権を有する当該法人の株式(出資を含む。)を有している場合において、被相続人の相続税の課税価格に算入される元本受益権を有する法人の株式の価額には、当該元本受益権の価額が算入されるが、法第9条の3第1項の規定により、当該元本受益権の価額は、収益受益権の価額(当該信託の信託財産そのものの価額)に折込済みであることから、二重課税の問題が生ずる。
 そこで、相基通9の3―2では、二重課税の問題を解消するために、上記のような元本受益権を有する法人の株式の評価に当たっては、当該法人の資産として計上されている元本受益権の価額を零として取り扱うことを留意的に明らかにした。
(法第9条の3第1項本文又は法令第1条の12第3項の規定の適用がある場合の信託財産責任負担債務の帰属)
9の3─3 信託財産責任負担債務(信託法第2条第9項((定義))に規定する信託財産責任負担債務をいう。以下「信託財産責任負担債務」という。)は、次に掲げる場合には、次に掲げる信託に関する権利に帰属することに留意する。
  1. (1) 信託財産責任負担債務に係る信託に関する権利について法第9条の3第1項本文の規定の適用がある場合 同項本文に規定する制約が付されていないものとみなされた受益者連続型信託に関する権利
  2. (2) 信託財産責任負担債務に係る信託に関する権利について法令第1条の12第3項の規定の適用がある場合 同項各号に規定する受益者等が有するものとみなされた信託に関する権利
(新設)
(説明)
 信託財産責任負担債務とは、受託者が信託財産に属する財産をもって履行する責任を負う債務をいい(新信託法29)、その範囲は新信託法第21条第1項各号に規定されている。
 ところで、法第9条の2第6項では、信託に関する権利又は利益を贈与又は遺贈により取得したものとみなされた場合において、当該信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなされて相続税法の規定が適用することとされた。
 したがって、例えば、受益権が複層化された受益者連続型信託の収益受益権を取得した場合には、元本受益権の価額に相当する部分について、また、受益権の一部の受益者等が存しない信託の受益権(当該受益者等が存しない受益権を除く。)を取得した場合には、当該受益者等が存しない受益権の部分について、それぞれ取得したものとみなされる(法9の31、令1の123)が、それにより、当該収益受益権又は当該受益権の一部の受益者等が存しない信託の受益権(当該受益者等が存しない受益権を除く。)を取得した者は、その取得した受益権に帰属する債務及びその取得したものとみなされた部分に帰属する債務を取得又は承継したものとみなされることとなる。
 そこで、相基通9の3―3では、そのことを留意的に明らかにした。
 なお、信託財産責任負担債務であっても、相続開始の時において確実と認められないものについては、相続税の債務控除の対象にならないことに留意する。