(受益者としての権利を現に有する者)
9の2─1 法第9条の2第1項に規定する「受益者としての権利を現に有する者」には、原則として例えば、信託法第182条第1項第1号((残余財産の帰属))に規定する残余財産受益者は含まれるが、停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する者、信託法第90条第1項各号((委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例))に規定する委託者死亡前の受益者及び同法第182条第1項第2号に規定する帰属権利者(以下9の2─2において「帰属権利者」という。)は含まれないことに留意する。
(新設)
(説明)
 平成19年度税制改正前の信託課税においては、原則として受益者が信託に関する権利を有することとされており、当該受益者が存しない場合には委託者(その相続人を含む。)が信託に関する権利を有することとされてきた(平成19年改正前の相基通4―1)が、新信託法では、遺言によって信託行為が行われた場合には、原則として、委託者の相続人は、委託者の地位を相続により承継しない旨の規定(新信託法147)が設けられるなど、委託者は、基本的には何らの権利も有さないことがより明確化された。
 このようなことから、平成19年度税制改正後の信託課税においては、単に委託者であるということのみで課税関係を律していた従来の方式から、財産的な権利を有するか否かをメルクマールとして課税関係を律することとし、具体的には、信託に関する権利を有する者は、受益者としての権利を現に有する者(信託行為において受益者と位置づけられている者のうち、現に権利を有する者をいう。以下同じ。)及び特定委託者(法第9条の2第1項に規定する特定委託者をいう。以下同じ。)とされた。
 ところで、受益者とは、新信託法第2条第6項及び第7項の規定により、受益権、すなわち、1信託行為に基づいて受託者が受益者に対して負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及び2これらを確保するために新信託法の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利(以下「受益債権を確保するための権利」という。)を有する者をいうこととされている。
 したがって、新信託法第182条第1項第1号((残余財産の帰属))に規定する残余財産受益者(以下「残余財産受益者」という。)は、残余財産の給付を内容とする受益債権を有する者であり、かつ、信託の終了前から受益債権を確保するための権利を有することから、受益者として現に権利を有する者に含まれることとなる。もっとも、残余財産受益者が、信託が終了し、当該信託に係る残余財産に対する権利が確定するまでは残余財産の給付を受けることができるかどうか分からないような受益債権しか有していない場合には、現に権利を有しているとはいえないことから、このような残余財産受益者については、当該権利が確定するまでは受益者として権利を現に有する者に該当しないことは言うまでもない。
 一方、次に掲げる者は、それぞれに掲げる事由により、受益者に該当しないので、受益者として権利を現に有する者には当たらないことになる。
  1. (1) 停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する者 受益債権ないし受益債権を確保するための権利に停止条件が付されていることから、受益権を有していない。
  2. (2) 新信託法第90条第1項第1号((委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例))に規定する受益者 同号の規定により委託者死亡前はまだ受益者とされていない。
  3. (3) 新信託法第90条第1項第2号に規定する受益者 同条第2項の規定により委託者が死亡するまでは原則として受益者としての権能を有しないとされている。
  4. (4) 新信託法第182条第1項第2号に規定する帰属権利者(以下「帰属権利者」という。) 本来的に信託から利益を享受するものとされている受益者への給付が終了した後に残存する財産が帰属する者にすぎないことから、信託が終了するまでは受益者としての権利義務を有せず、信託の終了後、はじめて受益者としての権利義務を有する。
そこで、相基通9の2―1では、受益者として権利を現に有する者の範囲を例示した。
(参考)
信託に対する相続税・贈与税の課税関係

新信託法(抜すい)

(定義)
第二条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
  • 2〜5  (省略)
  • 6 この法律において「受益者」とは、受益権を有する者をいう。
  • 7 この法律において「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいう。
(以下省略)
(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)
第九十条 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
  • 一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
  • 二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託
2 前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
第百八十二条 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
  • 一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
  • 二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
3 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。

【相続税及び贈与税関係の改正の概要】

1 信託に係る相続税及び贈与税の課税の原則(法9の2)
(1) 信託の効力が生じた場合(法9の21
 適正な対価を負担せずに信託の受益者等となる者がある場合には、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(委託者の死亡に基因してその信託の効力が生じた場合は遺贈)により取得したものとみなされ、贈与税(遺贈の場合は相続税)が課税されることとされた。
(2) 受益者等の存する信託について、新たに信託の受益者等が存するに至った場合(法9の22
 適正な対価を負担せずに新たに信託の受益者等となる者は、当該受益者等が存するに至った時において、当該信託に関する権利を当該信託の受益者等であった者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されることとされた。
(3) 受益者等の存する信託について、一部の受益者等が存しなくなった場合(法9の23
 適正な対価を負担せずに既に信託の受益者等である者がその信託に関する権利について新たに利益を受けることとなった場合は、当該信託の一部の受益者等が存しなくなった時において、当該利益を受ける受益者等である者は、当該利益を当該信託の一部の受益者等であった者から贈与(委託者の死亡に基因して当該信託の利益を受ける場合は遺贈)により取得したものとみなされ、贈与税(遺贈の場合は相続税)が課税されることとされた。
(4) 受益者等の存する信託が終了した場合(法9の24
 適正な対価を負担せずにその信託の残余財産の給付を受けるべき者(帰属すべき者を含む。)となった場合において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき者となった時において、当該信託の残余財産の給付を受けるべき者は、当該信託の残余財産を当該信託の受益者等から贈与(委託者の死亡に基因して当該信託が終了した場合は遺贈)により取得したものとみなされ、贈与税(遺贈の場合は相続税)が課税されることとされた。
2 受益者連続型信託に係る課税の特例(法9の3)
(1) 受益者連続型信託の概要
 受益者連続型信託とは、いわゆる後継ぎ遺贈型信託のことであり、次の信託をいうこととされた(法9の31、令1の8)。
  • イ 新信託法第91条に規定する受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する定めのある信託
  • ロ 新信託法第89条第1項に規定する受益者指定権等を有する者の定めのある信託
  • ハ 受益者等の死亡その他の事由により、受益者等の有する信託に関する権利が消滅し、他の者が新たな信託に関する権利を取得する旨の定め(受益者等の死亡その他の事由により順次他の者が信託に関する権利を取得する旨の定めを含む。)のある信託
  • ニ 受益者等の死亡その他の事由により、当該受益者等の有する信託に関する権利が他の者に移転する旨の定め(受益者等の死亡その他の事由により順次他の者が信託に関する権利が移転する旨の定めを含む。)のある信託
  • ホ イからニまでの信託に類する信託
(2) 受益者連続型信託に係る課税の概要
 受益者連続型信託に関する権利を受益者(受益者が存しない場合にあっては、特定委託者)が適正な対価を負担せずに取得した場合の課税関係は次のとおりとされた(法9の213、9の3)。
  • イ 最初の受益者は、信託に関する権利を委託者から贈与(委託者の死亡に基因して最初の受益者が存することとなった場合は遺贈)によって取得したものとみなされ、贈与税(遺贈の場合は相続税)を課税することとされた。
  • ロ 次の受益者は、最初の受益者から贈与(最初の受益者の死亡に基因して次の受益者が存することとなった場合は遺贈)により取得したものとみなされ、贈与税(遺贈の場合は相続税)を課税することとされた。
  • ハ 次の受益者以後の受益者についても、上記ロと同様とみなされ、贈与税又は相続税を課税することとされた。
    (注)1 受益者連続型信託に関する権利の価額の計算上、受益者連続型信託に関する権利に受益者連続型信託の利益を受ける期間の制限その他の受益者連続型信託に関する権利の価値に作用する要因としての制約が付されているものについては、当該制約は付されていないものとみなすこととされた。
    2 異なる受益者が性質の異なる受益者連続型信託に関する権利をそれぞれ有している場合で、かつ、当該権利のいずれかに収益受益権が含まれている場合には、収益受益権が含まれている受益者連続型信託に関する権利について上記(注)1の取扱いが適用される。
3 受益者等の存しない信託に係る課税の特例
  1. (1) 受益者等の存しない信託に係る課税の原則
     受益者等が存しない信託については、原則としてその後に存在することとなる受益者等に代わって受託者に法人税等(受贈益課税)が課税され、その後の運用益についても受託者に課税されることとされた。また、その後に受益者等が存することになった場合には、受益者等が受託者の課税関係を引き継ぐことになり、この段階では課税関係が生じないこととされた。
  2. (2) 受益者等の存しない信託に係る課税の特例の概要(法9の4)
    1. イ 受益者等の存しない信託の効力が生じた場合
       受益者等の存しない信託の効力が生じた場合において、当該信託の受益者等となる者が当該信託の委託者の親族等であるときは、当該信託の効力が生ずる時において、当該信託の受託者は、当該委託者から当該信託に関する権利を贈与(委託者の死亡に基因して信託の効力が生ずる場合は遺贈)により取得したものとみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)を課税することとされた(法9の41)。
    2. ロ 受益者等の存する信託について、当該信託の受益者等が存しないこととなった場合
       受益者等の存する信託について、当該信託の受益者等が存しないこととなった場合において、当該信託の受益者等の次に受益者等となる者が、当該次に受益者等となる者の前の受益者等の親族等であるときは、当該受益者等が存しなくなった時において、当該信託の受託者は、当該次に受益者等となる者の前の受益者等から当該信託に関する権利を贈与(前の受益者等の死亡に基因して受益者等が存しないこととなる場合は遺贈)により取得したものとみなして贈与税(遺贈の場合は相続税)を課税することとされた(法9の42)。
      (注)1 受益者等の存しない信託の受益者等となる者が明らかでない場合であっても、当該信託が終了した場合に当該信託の委託者の親族等が当該信託の残余財産の給付を受けることとなるときは、上記イ又はロと同様の課税が行われることに留意する。
      2 上記イ又はロの親族等とは、民法第725条各号に掲げる6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族をいう(令1の9)。
      3 受託者が個人以外の者(法人、人格なき社団等)である場合は、当該受託者は個人とみなされる(法9の43)。
      4 上記イ又はロにより受託者に課税される相続税又は贈与税については、当該信託につき受託者に課税された上記(1)の法人税等を控除後の税額とされた(令1の105)。
4 受益者等の存しない信託について、受益者等が存することとなった時における贈与税の課税
未だ生まれていない孫等を受益者とする信託を設定した場合等には、受託者段階での負担(法人税法等の課税及び法第9条の4の規定の適用による相続税又は贈与税の課税)のみになることから、将来発生する相続税の課税回数を減らすことが可能となり、また、信託の設定時に受益者等を定めずに受益者指定権を有する者を定め、信託の効力が生じた後に親族等を指定すれば、法第9条の4の課税を回避することが可能となる。
そこで、課税の公平確保の観点から、受益者等が存しない信託について、当該信託の契約締結時等において存しない者が当該信託の受益者等となる場合において、当該信託の受益者等となる者が当該信託の契約締結時等における委託者の親族等であるときは、当該存しない者が当該信託の受益者等となる時にすおいて、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を個人から贈与により取得したものとみなして贈与税を課税ることとされた(法9の5)。
(注) 「存しない者」とは、例えば次のような者をいう。
  1. 1 契約締結時において出生していない者
  2. 2 養子縁組前の者
  3. 3 受益者として指定されていない者
5 その他
(1) 信託の権利を有する者の整理
 従来の信託課税においては、原則として受益者が存する場合には受益者が信託に関する権利を有することとされ、受益者が存しない場合には委託者(委託者の相続人又は一般承継人を含む。)が信託に関する権利を有するものとされてきた。
 平成19年度税制改正においては、信託に関する権利は、受益者等(受益者としての権利を現に有する者及び特定委託者)が有することとされた(法9の21)。
 当該受益者としての権利を現に有する者とは、信託行為において受益者として位置づけられている者のうち現に権利を有する者をいい、例えば、新信託法第90条第1項第2号の受益者のように委託者が死亡するまでは受益者としての権利を有さないとされている者は、委託者が死亡するまでは現に権利を有する者と言えないことから、委託者が死亡するまでは受益者等には含まれず、また、残余財産受益者であっても、信託が終了し、残余財産に対する権利が確定するまでは残余財産の給付を受けることができるかどうかが分からないような場合には、残余財産に対する権利が確定するまでは受益者等には含まれないことに留意する。
 また、当該特定委託者とは、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として信託の目的に反しないことが明らかな場合に限り信託の変更をすることができる権限を除き、他の者との合意により信託の変更をする権限を含む。)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)をいう(法9の25、令1の7)。
 なお、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者には、停止条件が付された信託財産の給付を受ける権利を有する者を含むこととされた(令1の124)。
(2) 信託に関する権利と信託財産との関係の明確化
 信託に関する権利又は利益を贈与又は遺贈により取得したものとみなされた場合において、当該信託に関する権利又は利益を取得した者は、当該信託に係る信託財産に属する資産及び負債を取得し、又は承継したものとみなされ、相続税法の規定が適用されることとされた(法9の26
(注) 「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(昭和61年7月9日付直審5−6ほか5課共同)における取扱いを制度化したもの。