問8

 被相続人(甲)の死亡から6年を経過した後に相続人(1名)である養子(乙)に係る養子縁組無効判決が確定し、甲の弟である丙の相続権が回復し、甲に係る相続財産を取得した。
 この場合、丙に係る相続税法第27条第1項に規定する「相続の開始があったことを知った日」は、いつになるか。

(設例)

  • 被相続人 甲(平成12年1月死亡)
  • 相続人   乙(平成18年2月に乙に係る養子縁組無効判決が確定)
     ※ 養子縁組無効判決の確定により丙の相続権が回復
  • 乙は、相続税の期限内申告書を提出している。

(答)

 「相続の開始があったことを知った日」は、養子縁組無効判決が確定したことを知った日となる。

(解説)
 「相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいう(相基通27−4)。
 丙は、養子縁組無効判決が確定した日に相続権が回復したと認められることから、当該養子縁組無効判決が確定したことを知った日の翌日から10か月を経過する日までに相続税の申告書を提出しなければならない。
 また、乙は、養子縁組無効判決が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に相続税法第32条第2号の規定に基づく更正の請求を行うことができる。

【関係法令通達】
 相法第27条第1項、第32条第2号
 相基通27-4

問9

 祖父(70才)が保険料負担者、父が被保険者(45才)、孫(21才)が保険金受取人である生命保険契約について、被保険者である父の死亡により、孫が生命保険金(2,000万円)の支払を受けた場合、祖父から孫へ生命保険金の贈与があったものとみなされ贈与税の課税対象となるが、この場合、孫は、父の死亡により代襲相続人として祖父の推定相続人の地位にあることから、当該生命保険金に係る贈与税について相続時精算課税の適用を受けることができるか。

(答)

 孫は、相続時精算課税に係る他の要件を満たせば、相続時精算課税の適用を受けることができる。

(解説)
 親の死亡により相続権を代襲した子は、その死亡の時に祖父の推定相続人に該当することになり、また、同時に生命保険金請求権を取得することから、子が祖父の推定相続人に該当することとなった時と生命保険金請求権を取得した時は同時である。
 相続時精算課税の適用は、年の中途において贈与者の推定相続人となった者については、推定相続人となった時前に当該贈与者からの贈与により取得した財産について適用を受けることはできないとされている(相法21の94)。
 法律用語において、「時」はある具体的な時点を指し、「以」は起算点になる数量、日時等を含むことを意味することから、ある時点から遡る場合、起算点を含む場合は「以前」(参考:以下)、起算点を含まない場合は「時前」(参考:満たない、未満)という表現を用いることとなる。
 したがって、「推定相続人となった時前」には、推定相続人となった時を含まないと解することが相当であり、推定相続人に該当することとなったと同時に贈与により取得した財産について相続時精算課税の適用を受けることができる。

【関係法令通達】
 相法第21条の9第4項

問10

 平成19年4月から離婚時の厚生年金の分割制度が施行され、また、平成20年4月から離婚時の第3号被保険者期間の厚生年金の分割制度が導入されることとなるが、これらの制度の適用を受けて離婚時に離婚当事者間で婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割した場合、贈与税の課税関係が生じるか。

(答)

 離婚時の厚生年金の分割制度及び離婚時の第3号被保険者期間の厚生年金の分割制度に基づき離婚時に離婚当事者間で婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割したときは、原則、贈与税の課税関係は生じない。

(解説)
 平成16年度の年金制度改正において離婚時に厚生年金の分割が可能となる制度(平成19年4月施行、以下「厚生年金分割制度」という。)及び離婚時の第3号被保険者期間についての厚生年金の分割制度(平成20年4月施行、以下「3号被保険者の分割制度」という。)が導入された。
 厚生年金分割制度においては、保険料納付記録のあん分割合(最大2分の1)を離婚当事者間の協議又は裁判手続により決めることとされており(厚生年金保険法78条の2)、例えば、離婚した夫婦のうち保険料納付記録の少ない配偶者は、協議等により保険料納付記録の分割を受けることができることとなる。この場合、保険料納付記録の分割を受けた者は、離婚に伴い保険料納付記録の分与を受けたと認められるが、離婚に伴い財産を取得したときは、原則、贈与により取得した財産とはならないことから(相基通9−8)、当該保険料納付記録の分割については、原則、贈与税の課税対象とはならない。
 また、3号被保険者の分割制度においては、被扶養配偶者を有する被保険者が平成20年4月以降に支払った保険料納付記録の2分の1を、離婚した3号被保険者(被扶養配偶者)からの分割請求により、自動的に分割を受けることができることから(厚生年金保険法78条の13、78条の14)、当該保険料納付記録は、離婚した3号被保険者の固有の権利に基づくものといえる。したがって、当該保険料納付記録の分割については、贈与税の課税関係は生じない。

【関係法令通達】
 相法第9条
 厚生年金法第78条の2、第78条の13、第78条の14
 相基通9−8

 (参考)厚生年金保険法(抄)

第三章の二 離婚等をした場合における特例
(離婚等をした場合における標準報酬の改定の特例)

第七十八条の二 第一号改定者(被保険者又は被保険者であった者であって、第七十八条の六第一項第一号及び第二項第一号の規定により標準報酬が改定されるものをいう。以下同じ。)又は第二号改定者(第一号改定者の配偶者であつた者であって、同条第一項第二号及び第二項第二号の規定により標準報酬が改定され、又は決定されるものをいう。以下同じ。)は、離婚等(離婚(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者について、当該事情が解消した場合を除く。)、婚姻の取消しその他厚生労働省令で定める事由をいう。以下この章において同じ。)をした場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、社会保険庁長官に対し、当該離婚等について対象期間(婚姻期間その他の厚生労働省令で定める期間をいう。以下同じ。)に係る被保険者期間の標準報酬(第一号改定者及び第二号改定者(以下これらの者を「当事者」という。)の標準報酬をいう。以下この章において同じ。)の改定又は決定を請求することができる。ただし、当該離婚等をしたときから二年を経過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当するときは、この限りでない。

一 当事者が標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合(当該改定又は決定後の当事者の次条第一項に規定する対象期間標準報酬総額の合計額に対する第二号改定者の対象期間標準報酬総額の割合をいう。以下同じ。)について合意しているとき。

二 次項の規定により家庭裁判所が請求すべき按分割合を定めたとき。

2 前項の規定による標準報酬の改定又は決定の請求(以下「標準報酬改定請求」という。)について、同項第一号の当事者の合意のための協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者の一方の申立てにより、家庭裁判所は、当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按分割合を定めることができる。

3 前項の規定による請求すべき按分割合に関する処分(以下「標準報酬の按分割合に関する処分」という。)は、家事審判法(昭和二十二年法律第百五十二号)の適用に関しては、同法第九条第一項乙類に掲げる事項とみなす。

4 標準報酬改定請求は、当事者が標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合について合意している旨が記載された公正証書の添付その他の厚生労働省令で定める方法によりしなければならない。

第三章の三 被扶養配偶者である期間についての特例
(被扶養配偶者に対する年金たる保険給付の基本的認識)

第七十八条の十三 被扶養配偶者に対する年金たる保険給付に関しては、第三章に定めるもののほか、被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に、この章の定めるところによる。(特定被保険者及び被扶養配偶者についての標準報酬の特例)

第七十八条の十四 被保険者(被保険者であつた者を含む。以下「特定被保険者」という。)が被保険者であつた期間中に被扶養配偶者(当該特定被保険者の配偶者として国民年金法第七条第一項第三号に該当していたものをいう。以下同じ。)を有する場合において、当該特定被保険者の被扶養配偶者は、当該特定被保険者と離婚又は婚姻の取消しをしたときその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定めるときは、社会保険庁長官に対し、特定期間(当該特定被保険者が被保険者であつた期間であり、かつ、その被扶養配偶者が当該特定被保険者の配偶者として同号に規定する第三号被保険者であつた期間をいう。以下同じ。)に係る被保険者期間(次項及び第三項の規定により既に標準報酬が改定され、及び決定された被保険者期間を除く。以下この条において同じ。)の標準報酬(特定被保険者及び被扶養配偶者の標準報酬をいう。以下この章において同じ。)の改定及び決定を請求することができる。ただし、当該請求をした日において当該特定被保険者が障害厚生年金(当該特定期間の全部又は一部をその額の計算の基礎とするものに限る。第七十八条の二十において同じ。)の受給権者であるときその他の厚生労働省令で定めるときは、この限りでない。

2 社会保険庁長官は、前項の請求があつた場合において、特定期間に係る被保険者期間の各月ごとに、当該特定被保険者及び被扶養配偶者の標準報酬月額を当該特定被保険者の標準報酬月額(第二十六条第一項の規定により同項に規定する従前標準報酬月額が当該月の標準報酬月額とみなされた月にあっては、従前標準報酬月額)に二分の一を乗じて得た額にそれぞれ改定し、及び決定することができる。

3 社会保険庁長官は、第一項の請求があつた場合において、当該特定被保険者が標準賞与額を有する特定期間に係る被保険者期間の各月ごとに、当該特定被保険者及び被扶養配偶者の標準賞与額を当該特定被保険者の標準賞与額に二分の一を乗じて得た額にそれぞれ改定し、及び決定することができる。

4 前二項の場合において、特定期間に係る被保険者期間については、被扶養配偶者の被保険者期間であつたものとみなす。

5 第二項及び第三項の規定により改定され、及び決定された標準報酬は、第一項の請求のあった日から将来に向かつてのみその効力を有する。

(注) 上記法令の施行日は次のとおりである。

  • 第3章の2及び第78条の2・・・平成19年4月1日
  • 第3章の3、第78条の13及び第78条の14・・・平成20年4月1日

問11

 被相続人甲(H12.5.20死亡)の相続人は子A及び子Bの2人であり、相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わなかったために相続税法55条の規定により期限内申告書を提出した。
 その後、平成18年5月15日に審判により遺産分割が行われ、各人の課税価格及び相続税額は、次のとおりとなった。
 なお、遺産は一の土地であり、遺産分割前の価額は200であったが、遺産分割の結果、評価単位が変わったことにより、子Aが分割取得した土地の価額は50、子Bが取得した土地の価額は250となった。また、当初申告に係る計上漏れ債務(50)があり、当該債務は子Bが負担することとなった。

  分割前
(当初申告)
分割後(案1) 分割後(案2) 分割後(案3)
相続人 課税価格 税額 課税価格 税額 課税価格 税額 課税価格 税額
子A 100 10 33 3 50 6 50 7
子B 100 10 167 17 200 24 250 35
合計額 200 20 200 20 250 30 300 42

(注)上記の分割後の各案の課税価格及び税額は、次によりそれぞれ計算したものである。

1. 「(案1)」は、分割の前後において課税価格の合計額は変動しないものとして計算(各人の課税価格は、分割前の土地評価額を分割後の土地評価額の比であん分して計算)

2. 「(案2)」は、分割に基因する土地評価額の変動及び分割に基因しない計上漏れ債務を加味して計算

3. 「(案3)」は、分割に基因する土地評価額の変動のみ加味して計算
この場合において、

(1) 子Aの相続税法第32条第1号の規定による更正の請求は、案1から案3のいずれに基づいてすることができるか。

(2) (1)の更正の請求に基づき更正をした場合には、子Bに対し、相続税法第35条第3項の規定により更正を行うことになるが、当該更正は案1から案3のいずれに基づくべきか。

(答)

 いずれも案3による。

(解説)

1. 相続税の課税対象財産は、遺産分割前は遺産分割共有状態にある相続財産の相続分に応じた共有持分権であり、遺産分割後は遺産分割により現実に取得した相続財産である。このように遺産分割の前後においては、相続税の課税価格の計算の基礎となる課税対象財産が異なることから「課税価格の合計額」の変動はあり得る。

2. 更正の請求の対象となる相続税法第32条第1号に掲げる事由は、文理上、遺産分割に基因する変動であると解されることから、遺産分割による土地評価額の変動はこれに含まれるが、他方、当初申告の過誤(債務の計上漏れ、評価基本通達の適用誤りなど)はこれに含まれないと解される。この点については、多くの裁判例(東京地判H9.10.23、神戸地判H14.10.28)で確認されている。
 したがって、子Aの同号の規定による更正の請求は、当初申告に係る計上漏れ債務を加味できないことから、案3に基づきすることができる。

3. 相続税法第35条第3項の規定による更正は、同法第32条第1号から第6号に掲げる事由による更正の請求に基づき更正をした場合において、当該更正の請求をした者以外の者の課税価格又は相続税額に異同が生じたときに、当該事由に基づき行われるものである。
 したがって、相続税法第35条第3項の規定による更正は、当初申告に係る計上漏れ債務を加味できないことから、案3に基づき行うこととなる。

4. なお、上記2の更正の請求に基づいてする更正及び上記3の更正が国税通則法第70条に規定する除斥期間内に行われる場合には、同法第23条第4項又は第24条に規定する更正により、当初申告に係る計上漏れ債務の是正をすることは可能である。

【関係法令通達】
 相法第32条第1号〜第6号、第35条第3項
 通法第23条第4項、第24条、第70条