A医療法人は、出資持分の定めのある社団医療法人であり、甲一族の6名が社員及び出資者となっている。A医療法人では、将来、社員に相続等が開始した場合に備えて、定款を変更して出資額限度法人に移行することとしているが、出資額限度法人に移行しただけでは、社員が退社して出資額の払戻しを受けた場合に残存出資者に贈与税等の課税が生じるおそれがあるため、親族以外の者に、社員及び出資者となってもらうことを考えている。
 この場合、A医療法人の医師・看護師である従業員5名、理事長の知人5名が増資に応じて出資持分を取得したときの課税はどうなるか。

(答)

出資額限度法人の増資に伴い、既存の出資者以外の者が当該医療法人の出資持分を取得した場合で、取得した出資持分の価額のうち出資額を超える部分については、事実関係に応じて所得税又は贈与税の課税が生じることとなる。

(理由)

1 出資額限度法人とは、定款の定めにより、社員の退社時における出資払戻請求権及び医療法人の解散時における残余財産分配請求権に関し、その権利の及ぶ範囲を実際の払込出資額を限度とする旨を明らかにしている医療法人である。しかしながら、将来退社した場合の出資払戻請求権等が現行(出資時)の定款では制限されているとしても、医療法上は、再び定款を変更して元の出資持分の定めのある医療法人に戻ることが可能であり、また、そのような理由から、出資額限度法人の出資持分の価額は、通常の評価方法によって評価することとされている(平成16年6月16日付文書回答に係る厚生労働省からの照会文書の記の2参照)。
 したがって、既存の出資者以外の者が増資に応じることによって新たに出資持分を取得する場合で、その出資額に応じる出資持分の価額(純資産価額等による価額)が払込出資額を超えるときには、その差額は、増資に応じることによって取得する経済的利益として課税関係が生じることとなる。

(注) 平成16年6月16日付文書回答では、上記のような理由から出資額限度法人への移行時には課税関係は生じないこととされている。

2 医療法人の増資に応じることにより新たな出資者が取得する経済的利益は、基本的に社員総会の決議により当該医療法人から与えられる利益であり、従業員等に対して出資額限度法人から労務その他役務の提供の対価として与えられたものと認められる場合には給与所得又は雑所得として、それ以外の場合には一時所得として所得税の課税対象となると考えられる。しかし、一般に医療法人は、株式会社等の場合と異なり、死亡を退社原因としているなど社員の人的信頼関係を重視する法人で、社員は退社に伴い出資払戻請求権を認められるなど出資持分は法人財産に対して直接的な持分を有する権利といえる側面を持っている。特に、照会事例の場合のように、特定の同族グループによって支配されている出資額限度法人(同照会文書の記の3(3)参照)において、当該出資額限度法人の本来的な要請(設備拡充等のための資金調達の必要性等)によるものではなく、既存の出資者の将来の相続税対策と認められるなど、実質的に個人出資者から与えられた利益と認められる場合には、当該利益については、原則として相続税法第9条に規定するみなし贈与の課税が生じることとなる。

(注) 新たな出資者が取得した出資持分の持分割合(口数で表示される出資持分については出資者が取得する口数の総口数に占める割合)が、出資時における当該出資額限度法人の純資産の時価総額に占める払込出資額の割合に過ぎないことが社員総会等により明らかとされ、社員名簿等でその持分割合が明確に管理されているときには、出資時において新たな出資者が経済的利益を受けることがないと考えて差し支えない。ただし、その場合には、同族グループに支配されているかどうかの判定においても当該持分割合に基づき判定することとなる。

 平成16年6月16日付文書回答によれば、社員の死亡退社に伴い、被相続人の出資に関する出資払戻請求権を取得した相続人等が現実に出資払戻額の払戻しを受けたときには、当該出資払戻請求権は出資払込額により評価することとされている。
 そこで、相続人がいったん出資払込額の払戻しを受け、その後改めて同法人に出資して出資持分を取得するとすれば、相続税の課税上は、当該出資払戻請求権は払込出資額により評価することとなると解して差し支えないか。

(答)

 あらかじめ出資持分を取得することを予定して払戻しを受けていると認められるような場合には、実質的には出資を相続したものと同様であることから、出資としての価額により評価されることとなる。

(理由)

 出資払戻請求権を相続等により取得した相続人等がその払戻しに代えて出資を取得した場合には、当該出資払戻請求権の価額は、財産評価基本通達194−2の定めに基づき評価することとされている。
 これは、定款の定めにより被相続人の出資を社員の地位とともに相続する場合だけでなく、定款にそのような定めがない場合でも、社員総会の承認を得て社員として出資を引き継ぐときには、その実態から相続財産は出資とみるのが相当との考え方によるものである。すなわち、被相続人から相続等により取得した財産が出資持分に相当する権利であるか、出資額の払戻しを受けるだけの権利であるかは、その実態に応じて判断する必要があり、単に金銭の払戻しの事実だけでなく、当該相続人及び他の社員等の認識等も含めて総合的に判断すべき事柄である。
 したがって、あらかじめ再度出資持分を取得することを予定して払戻しを受けていると認められるような場合には、実質的には出資を相続したものと同様であることから、出資としての価額により評価することとなる。
 なお、相続人が出資を相続したものと認められ、それに基づき相続税課税上出資としての評価がなされる場合は、相続人が当該払戻額を出資した際に問1のような課税は生じないが、そうでない場合には、退社時と出資時にそれぞれ課税関係が生じることに留意する。

 平成16年6月16日付文書回答によれば、出資額限度法人が特定の同族グループによって支配されているかどうかの判定に当たり、役員(理事・監事等)のそれぞれに占める親族等の数が3分の1以下であることが定款で定められていることが一つの基準として示されているが、6名の理事のうちの1名が死亡退社したことにより、親族等の割合が6分の2(3分の1以下)から5分の2(3分の1超)になってしまう場合がある。この場合、新たな理事を選任して要件を満たすこととなったとしても、退社時には特定の同族グループによる支配がされているとして、残存出資者に贈与税の課税関係が生じることとなるのか。

(答)

 一時的に役員に占める親族等の割合が3分の1を超えることとなったとしても、定款の定めに従って、すみやかに新たな役員が選任されて基準を満たしたときには、それだけをもって残存出資者に贈与税の課税が生じることにはならない。

(理由)

 出資額限度法人の出資、社員及び役員のそれぞれが特定の同族グループによって占められているかどうかは、社員の退社時だけでなく、その前後を通じて当該出資額限度法人の実態に即して個別に判断されるものである。
 特に、役員については、役員に占める親族等の割合が3分の1以下であることが定款に定められていることが必要であり、一時的にこの基準を超えることとなったとしても、定款の定めに従って、すみやかに新たな役員が選任されて基準を満たしたときには、その点では定款に従って適正に運営されているということができ、特定の同族グループによる支配がされているという必要はないものと考えられる。