第1 法人税基本通達関係

7 青色申告事業年度の欠損金

【新設】(最後に支配関係があることとなった日)

12−1−5 法第57条第3項第1号《被合併法人等からの青色欠損金の引継ぎに係る制限》及び同条第4項第1号《青色欠損金の繰越しに係る制限》の「最後に支配関係があることとなつた日」とは、内国法人と支配関係法人等(同条第3項に規定する被合併法人等及び同条第4項に規定する支配関係法人をいう。)との間において、同条第3項の「当該適格合併の日」、同項の「当該残余財産の確定の日」又は同条第4項の「適格組織再編成等の日」のそれぞれの日の直前まで継続して支配関係がある場合のその支配関係があることとなった日をいうことに留意する。
 令第112条第3項第5号及び同条第4項第2号《適格合併等による欠損金額の引継ぎ等》の「最後に支配関係があることとなつた日」についても、同様とする。

【解説】

1  適格合併が行われた場合において、その被合併法人の当該適格合併の日前7年以内に開始した各事業年度(以下「前7年内事業年度」という。)において生じた未処理欠損金額(前7年内事業年度における青色欠損金額及び災害損失欠損金額から、当該各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び欠損金の繰戻しによる還付を受けるべき金額の計算の基礎となった金額を除いた金額をいう。)があるときは、その未処理欠損金額は、それぞれその未処理欠損金額の生じた前7年内事業年度開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなすこととされ、未処理欠損金額の引継ぎができることとされている(法572、582)。
 ただし、合併法人と被合併法人との間の支配関係(一の者が法人の発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係(以下「当事者間の支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の支配の関係のある法人相互の関係をいう。)が、当該適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日から継続してある場合又は当該適格合併が共同で事業を営むための合併として政令で定めるものに該当する場合のいずれにも該当しない場合には、次に掲げる欠損金額は、合併法人に引き継がれる未処理欠損金額に含まないものとされている(法573)。

1 被合併法人と合併法人との間に最後に支配関係があることとなった日の属する事業年度(以下「支配関係事業年度」という。)前の各事業年度で前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額

2 支配関係事業年度以後の各事業年度で前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち、法人税法第62条の7第2項《特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入》に規定する特定資産譲渡等損失額相当額から成る部分の金額として政令で定める金額

1及び2のいずれの欠損金額からも、被合併法人において前7年内事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び欠損金の繰戻しによる還付を受けるべき金額の計算の基礎となったものを除く。)

2  ところで、上記1の1及び2の欠損金額を算定する基礎となる「最後に支配関係があることとなった日」について、例えば、次のケースにおいて、合併法人(法人A)と被合併法人(法人B)との間に最後に支配関係があることとなった日とは、適格合併の日から見て支配関係が生じた最も古い時点である@の時点をいうのか、あるいは、適格合併の日の直前まで継続した支配関係が生じているBの時点をいうのか疑義が生じる。

@ X年4月1日 法人Aが法人Bの発行済株式等の50%超を取得(支配関係の発生)。

A X+1年4月1日 法人Aが法人Bの発行済株式等の一部を売却したことにより、その発行済株式等の保有割合が50%以下となる(支配関係の消滅)。

B X+2年4月1日 法人Aが法人Bの発行済株式等の一部を再度取得したことにより、その発行済株式等の保有割合が50%超となる(支配関係の発生)。

C X+3年4月1日 法人Aを合併法人、法人Bを被合併法人とする適格合併が行われる。

 この点について、「最後に支配関係があることとなった日」とは、合併法人と被合併法人との間において、適格合併の日の直前まで継続して支配関係がある場合のその支配関係があることとなった日をいうことを本通達の前段において明らかにしている。
 すなわち、上記のケースにおいては、合併法人(法人A)と被合併法人(法人B)の適格合併の日(X+3年4月1日)の直前まで継続して支配関係があることとなるBの時点(X+2年4月1日)が、最後に支配関係があることとなった日となる。

(参考)
参考イメージ

3  なお、残余財産が確定した場合又は法人税法第57条第4項に規定する適格組織再編成等が行われた場合における未処理欠損金額の引継ぎ等の制限に係る「最後に支配関係があることとなった日」とは、1内国法人との間に完全支配関係(当該内国法人による完全支配関係又は法人税法第2条第12号の7の6《定義》に規定する相互の関係に限る。)がある他の内国法人で当該内国法人が発行済株式等の全部若しくは一部を有するものの残余財産が確定した場合には「残余財産の確定の日」の直前まで、2内国法人と支配関係法人(当該内国法人との間に支配関係がある法人をいう。)との間で法人税法第57条第4項に規定する適格組織再編成等が行われた場合には「適格組織再編成等の日」の直前まで、それぞれ継続して支配関係がある場合のその支配関係があることとなった日をいうこととなる。

4  また、未処理欠損金額の引継ぎ制限に関して、法人税法施行令第112条第3項第5号及び同条第4項第2号《適格合併等による欠損金額の引継ぎ等》に規定する「最後に支配関係があることとなつた日」についても同様に取り扱うことを、本通達の後段において明らかにしている。

【新設】(事業を移転しない適格分割等)

12−1−6 分割法人又は現物出資法人が分割承継法人又は被現物出資法人に対してその有する株式のみを移転する適格分割又は適格現物出資は、令第113条第5項《欠損金の制限措置の計算の特例》の「事業を移転しない適格分割若しくは適格現物出資」に該当する。

【解説】

1  内国法人と支配関係法人(当該内国法人との間に支配関係がある法人をいう。)との間で適格組織再編成等(当該内国法人を合併法人、分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人とする適格合併若しくは適格合併に該当しない合併で法人税法第61条の13第1項《完全支配関係がある法人の間の取引の損益》の規定の適用のあるもの、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配をいう。)が行われた場合(当該内国法人の当該適格組織再編成等の日の属する事業年度(以下「組織再編成事業年度」という。)開始の日の5年前の日から継続して当該内国法人と当該支配関係法人との間に支配関係がある場合など一定の場合を除く。)において、当該適格組織再編成等が共同で事業を営むための適格組織再編成等として政令で定めるものに該当しないときには、当該内国法人の当該組織再編成事業年度以後の各事業年度における青色欠損金の繰越控除については、当該内国法人の青色欠損金額のうち次の金額は切り捨てられることとされている(法574)。

1 当該内国法人の支配関係事業年度(当該内国法人と当該支配関係法人との間に最後に支配関係があることとなった日の属する事業年度をいう。)前の各事業年度で前7年内事業年度(当該組織再編成事業年度開始の日前7年以内に開始した各事業年度をいう。)に該当する事業年度において生じた欠損金額

2 当該内国法人の支配関係事業年度以後の各事業年度で前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち法人税法第62条の7第2項に規定する特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める金額

2  ただし、当該適格組織再編成等が事業を移転しない適格分割若しくは適格現物出資である場合又は適格現物分配である場合には、当該適格組織再編成等に係る分割承継法人、被現物出資法人又は被現物分配法人である内国法人において切り捨てられる欠損金額は、その移転を受けた資産の時価に応じた金額とすることができる特例が設けられている(法令1135)。

(注) 具体的には、適格組織再編成等により移転を受けた資産が含み益のない資産である場合には、上記1の欠損金額及び上記2の金額を切り捨てる必要がないこととし、含み益のある資産である場合には、含み益に相当する金額の範囲内で上記1の欠損金額及び上記2の金額を古いものから順に切り捨てられることとされている。

3  ところで、この特例が適用できる「事業を移転しない適格分割又は適格現物出資」について、分割法人又は現物出資法人(以下「分割法人等」という。)が分割承継法人又は被現物出資法人(以下「分割承継法人等」という。)に対してその有する株式のみを移転する適格分割又は適格現物出資(以下「適格分割等」という。)がこれに該当するのかという疑義が生ずる。すなわち、株式とは、その株式の所有を通じてその株式を発行した会社の事業を支配しているともみることができることから、株式を移転することによって当該会社の事業が移転することとなり、このような適格分割等は「事業を移転しない適格分割又は適格現物出資」に該当しないのではないかという疑義である。

4  この点について、例えば、会社法における会社分割(吸収分割)にあっては、吸収分割を行う会社(吸収分割会社)は、その事業に関して有する権利義務の全部又は一部を承継する会社(吸収分割承継会社)との間で、吸収分割契約を締結することとされ(会社法757)、その吸収分割契約には、吸収分割承継会社が吸収分割により吸収分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項を定めることとされている(会社法758二、760二)。このように、会社法の規定上、吸収分割による承継の対象は「事業」ではなく、吸収分割契約に定められた「資産、債務、雇用契約その他の権利義務」とされていることから、その吸収分割によって何が移転されるかは、当該吸収分割契約に定められた内容によることとなる。
 したがって、吸収分割契約書上、ある事業に関する資産、負債、雇用契約及びこれに付随する一切の権利義務が承継の対象となっているなど、これらが一体として事業を承継する内容が定められている吸収分割は、事業を移転するものに該当する。他方、吸収分割契約書上、吸収分割会社が有する株式のみを吸収分割承継会社に承継する内容が定められている吸収分割は、単に資産を移転するものであって、事業を移転するものに該当しない。
 上記のことから、適格分割等が行われた場合において、分割法人等が分割承継法人等に対してその有する株式のみを移転するときには、その適格分割等は「事業を移転しない適格分割又は適格現物出資」に該当することになる。本通達では、このことを明らかにしている。