第1 法人税基本通達関係

1 支配関係及び完全支配関係

【新設】(名義株がある場合の支配関係及び完全支配関係の判定)

1−3の2−1 法第2条第12号の7の5《支配関係》の規定の適用上、一の者と法人との間に当該一の者による支配関係があるかどうかは、当該法人の株主名簿、社員名簿又は定款に記載又は記録されている株主等により判定するのであるが、その株主等が単なる名義人であって、当該株主等以外の者が実際の権利者である場合には、その実際の権利者が保有するものとして判定する。
 同条第12号の7の6《完全支配関係》の規定の適用上、一の者と法人との間に当該一の者による完全支配関係があるかどうかについても、同様とする。

【解説】

1  法人税法上、支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有する関係と認められる一定の関係(以下「当事者間の支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係をいう(法2十二の七の五)。
 ところで、会社法上、会社が株式を発行した場合には、株主名簿に株主の氏名又は名称及び住所その他所要の事項を記載等することが要され(会社法121)、また、会社の株主に対する通知又は催告は、株主名簿に記載等された株主の住所又は株主が会社に通知した連絡先にあてることをもって足りることとされている(同法1261)。したがって、一の者と法人との間に当該一の者による支配関係があるかどうかは、原則として、当該法人の株主名簿等に記載等された株主等の持株数又は出資金額を基礎としてその判定を行うこととなる。

2  しかし、現実問題として、株主名簿等に記載等されている株主等が単なる名義人であって、実際の権利者が他に存在する場合も少なくない。この点、税務上は、いわゆる「名義株」をその外形どおりに取り扱うこととすると税制の適用が恣意的に行われる可能性もあることから、株主名簿等に記載等されている株主等が単なる名義人であって、他に実際の権利者がいる場合には、その実際の権利者が株式等を保有するものとして、その判定を行うこととしている。本通達の前段では、支配関係の判定に当たっても、名義株がある場合には、実際の権利者が株式等を保有するものとして判定することを明らかにしている。

3  また、法人税法上、完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係と認められる一定の関係(以下「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいうが(法2十二の七の六)、本通達の後段では、この完全支配関係の判定に当たっても、名義株がある場合には同様に取り扱うことを明らかにしている。

4  連結納税制度においても、同様の通達(連基通1−2−1)を定めている。

【新設】(支配関係及び完全支配関係を有することとなった日の意義)

1−3の2−2 支配関係又は完全支配関係があるかどうかの判定における当該支配関係又は当該完全支配関係を有することとなった日とは、例えば、その有することとなった原因が次に掲げる場合には、それぞれ次に掲げる日となることに留意する。

  • (1) 株式の購入 当該株式の引渡しのあった日
  • (2) 新たな法人の設立 当該法人の設立後最初の事業年度開始の日
  • (3) 合併(新設合併を除く。) 合併の効力を生ずる日
  • (4) 分割(新設分割を除く。) 分割の効力を生ずる日
  • (5) 株式交換 株式交換の効力を生ずる日

(注) 上記(1)の株式を譲渡した法人における法第61条の2第1項《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する譲渡利益額又は譲渡損失額の計上は、原則として、当該株式の譲渡に係る契約の成立した日に行うことに留意する。

【解説】

1  「支配関係又は完全支配関係を有することとなった日」とは、一般的には、一方の法人が他方の法人の発行済株式の過半数又は全部を直接・間接に保有するに至った日をいう。株式を保有するに至る原因は様々であることから、本通達では、代表的な原因を掲げ、その原因ごとに、その日がいつであるかを明らかにしている。以下では、「支配関係を有することとなった日」について、本通達で掲げている代表的な原因ごとに解説していくが、この解説は「完全支配関係を有することとなった日」についても通ずるものである。

(1) 株式を保有するに至る原因が株式の購入である場合の「支配関係を有することとなった日」とは、株式の購入に係る契約の成立した日、あるいは株式の引渡しの日等のいずれの日をいうのかという疑義が生じる。
 この点、「支配関係を有することとなった日」とは、一方の法人が他方の法人を支配することができる関係が生じた日をいうのであるが、株式の購入により支配関係を有することとなる場合、例えば、当該他方の法人が株券発行会社であるときには、会社法上、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じないこととされている(会社法1281)。したがって、株券の交付(引渡し)をもってその譲渡の効力が生じ、譲受人は株主としての権利を行使することができることになる。すなわち、株式の購入により支配関係を有することとなる場合には、株式の購入に係る契約が成立した日ではなく、当該株式の株主権が行使できる状態になる株式の引渡しが行われた日となる。

(注)

1 法人の発行済株式の一定割合以上の株式を有するかどうかによりその判定を行う関係法人株式等(法236)の判定や同族会社(法2十)の判定にあっても、その法人が支配されているかどうかといった点を判断要素としていることから、これらの判定においても上記の取扱いと同様になろう。

2 平成21年1月5日から実施されている株券の電子化(株式振替制度)により、上場会社の株式に係る株券はすべて廃止され、株券の存在を前提として行われてきた株主権の管理が、証券保管振替機構及び証券会社等に開設された口座において電子的に行われることとなった。これにより、上場会社の株式を譲渡する場合には、株券の引渡しに代えて、譲受人がその口座における保有欄に当該譲渡に係る数の増加の記載又は記録を受けることで、その効力が生ずることになる(社債、株式等の振替に関する法律140)。したがって、この場合の「株式の引渡しのあった日」とは、譲渡人の口座から譲受人の口座への株式の振替の記録がされた日となる。

 なお、株主として法人を支配する権利の移動ではなく、株式を譲渡した法人においてそのキャピタルゲインを認識し、帰属させることとなる当該株式の譲渡損益の計上時期は、従来どおり、原則として、当該株式の譲渡に係る契約の成立した日となる。本通達の注書では、このことを留意的に明らかにしている。

(2) 法人が、金銭出資、現物出資等により他の法人を新設したことにより、当該他の法人との間に支配関係を有することとなった場合の「支配関係を有することとなった日」は、新設された法人の設立後最初の事業年度開始の日(設立の日)となる。

(3) 法人が合併法人となる吸収合併が行われた場合、被合併法人である他の法人に当該他の法人による支配関係がある子法人が存するときには、当該合併法人は、その吸収合併により当該子法人との間に支配関係を有することとなる。会社法上、吸収合併を行う場合には、吸収合併契約に効力発生日を定めることとされ(会社法7491六、7511七)、吸収合併存続会社(合併法人)はその効力発生日に吸収合併消滅会社(被合併法人)の権利義務を承継することとされていることから(同法7501、7521)、吸収合併における「支配関係を有することとなった日」は、合併の効力を生ずる日となる。

(4) 法人が分割承継法人となる吸収分割が行われた場合、その吸収分割に係る分割法人から当該分割法人による支配関係がある子法人の株式のすべてを承継したときには、当該分割承継法人は、その吸収分割により当該子法人との間に支配関係を有することとなる。会社法上、吸収分割を行う場合には、吸収分割契約に効力発生日を定めることとされ(会社法758七、760六)、吸収分割承継会社(分割承継法人)はその効力発生日に吸収分割会社(分割法人)の権利義務を承継することとされていることから(同法7591、7611)、吸収分割における「支配関係を有することとなった日」は、分割の効力を生ずる日となる。

(5) 法人による支配関係がある他の法人を株式交換完全親法人とする株式交換が行われた場合、当該法人は、その株式交換により株式交換完全子法人との間に支配関係を有することとなる場合がある。会社法上、株式交換を行う場合には、株式交換契約に効力発生日を定めることとされ(会社法7681六、7701五)、株式交換完全親会社(株式交換完全親法人)はその効力発生日に株式交換完全子会社(株式交換完全子法人)の発行済株式の全部を取得することとされていることから(同法7691、7711)、株式交換における「支配関係を有することとなった日」は、株式交換の効力を生ずる日となる。

2  連結納税制度においても、同様の通達(連基通1−2−2)を定めている。

【新設】(完全支配関係の判定における従業員持株会の範囲)

1−3の2−3 令第4条の2第2項第1号《支配関係及び完全支配関係》に規定する組合は、民法第667条第1項《組合契約》に規定する組合契約による組合に限られるのであるから、いわゆる証券会社方式による従業員持株会は原則としてこれに該当するが、人格のない社団等に該当するいわゆる信託銀行方式による従業員持株会はこれに該当しない。

【解説】

1  完全支配関係とは、一の者が法人の発行済株式等(当該法人が有する自己の株式等を除く。)の全部を直接若しくは間接に保有する関係と認められる一定の関係(以下「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう(法2十二の七の六)。
 そして、この完全支配関係があるかどうかの判定上、発行済株式の総数のうちに次の1及び2の株式の合計数の占める割合が5%に満たない場合には、1及び2の株式を発行済株式から除いて、その判定を行うこととされている(法令4の22)。

1 法人の使用人が組合員となっている民法第667条第1項に規定する組合契約(当該法人の発行する株式を取得することを主たる目的とするものに限る。)による組合(組合員となる者が当該使用人に限られているものに限る。)の主たる目的に従って取得された当該法人の株式

2 会社法第238条第2項の決議等により法人の役員等に付与された新株予約権等の行使によって取得された当該法人の株式(当該役員等が有するものに限る。)

2  ところで、社外委託により運営される従業員持株会を、その委託先に応じて分類すれば、一般的には、証券会社方式と信託銀行方式の2つに区分できる。そして、証券会社方式による従業員持株会は、通常民法上の組合としての性格を有し(参考:平成20年6月「持株制度に関するガイドライン」日本証券業協会)、信託銀行方式によるものは、一般的には従業員の任意団体(法人税法上の人格のない社団等)として組織されることとなる。
 したがって、一口に従業員持株会といっても、証券会社方式による持株会に取得された株式は、その持株会の主たる目的がその法人の株式の取得であり、かつ、会員を使用人に限定しているものである限り、上記1の株式に該当することとなるが、信託銀行方式による持株会に取得された株式は上記1の株式には該当しないこととなる。本通達では、このことを明らかにしている。

3  なお、法人が、証券会社方式によっている場合であっても民法上の組合に該当しないものが存する可能性があり、証券会社方式以外の方式によっている場合であっても民法上の組合に該当する可能性があることから、持株会により取得された株式が上記1の株式に該当するかどうかは、その持株会の法的性格、目的及び会員となれる者の範囲を上記1に照らして判断することとなる。

4  連結納税制度においても、同様の通達(連基通1−2−3)を定めている。

【新設】(従業員持株会の構成員たる使用人の範囲)

1−3の2−4 令第4条の2第2項第1号《支配関係及び完全支配関係》の「当該法人の使用人」には、法第34条第5項《使用人兼務役員の範囲》に規定する使用人としての職務を有する役員は含まれないことに留意する。

【解説】

1 完全支配関係の判定上、次の1及び2の株式の合計数が発行済株式の総数に占める割合が5%未満の場合には、これらの株式を発行済株式から除いてその判定を行うこととされている。そして、1の組合は、組合員となる者がその法人の「使用人」に限られているものとされている(法令4の22)。

1 民法上の組合である一定の従業員持株会によって取得された株式

2 新株予約権等の行使によって法人の役員等に取得された株式

2  ところで、法人の役員には、使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者(いわゆる使用人兼務役員)が存在し(法345)、その使用人としての職務に対する給与は役員給与の損金不算入規定の適用対象から除かれているが(同1)、この使用人兼務役員が上記1の組合の組合員となる「使用人」に含まれるかどうか疑義が生ずる。
 この点、使用人兼務役員といえども法人税法上の「役員」であることに変わりはないことから、上記1の組合の組合員となる「使用人」には含まれず、仮に法人が従業員持株会の会員に使用人兼務役員を含めている場合には、その従業員持株会によって保有される株式は、完全支配関係の判定上、発行済株式から除かれる株式に該当しないこととなる。本通達では、このことを明らかにしている。

3  連結納税制度においても、同様の通達(連基通1−2−4)を定めている。