5 租税公課等

【新設】(内国法人に帰せられるものとして計算される金額を課税標準として当該内国法人に対して課せられる外国法人税)

9−5−5 令第78条の2第1項及び第2項《損金の額に算入されない外国源泉税等》に規定する外国法人税には、その所在地国でいわゆるパス・スルー課税が適用される事業体で、我が国においては外国法人に該当するものの所得のうち、その所在地国において構成員である内国法人に帰せられるものとして計算される金額に対して課される外国法人税が含まれる。

【解説】

1  平成21年度の税制改正において外国子会社配当益金不算入制度(法23の2)が導入されたことに伴い、この制度の適用を受ける剰余金の配当等の額に対して課される外国源泉税等の額については損金不算入とされた(法39の2)。
 この外国源泉税等の額とは、次のものをいう。

  • 1 剰余金の配当等の額を課税標準として源泉徴収の方法に類する方法により課される外国法人税の額(法39の2)
  • 2 剰余金の配当等の額の計算の基礎となった外国子会社の所得のうち内国法人に帰せられるものとして計算される金額を課税標準として当該内国法人に対して課される外国法人税の額(法39の2、法令78の22

 このうち、2の外国法人税の額が具体的にどのようなものをいうのか疑問が生じる。
 この点について、本制度の適用対象となる外国子会社が、その所在地国でいわゆるパス・スルー課税(その所在地国において事業体や組織体が課税の主体にならず、その構成員(出資者)が課税の主体とされるもの)が適用される事業体であって、我が国においては外国法人に該当するものの所得のうち、その所在地国において構成員である内国法人に帰せられるものとして計算される金額に対して課される外国法人税がこの損金不算入となる外国法人税に含まれる。本通達ではこのことを明らかにしている。

2  その所在地国でパス・スルー課税が適用される事業体で、我が国において外国法人に該当するものの具体的な例としては、米国のリミテッド・ライアビリティー・カンパニー(Limited Liability Company、以下「米国LLC」という。)で、米国の租税法上パス・スルー課税を選択したものが挙げられる。
 パス・スルー課税を選択し、その適用を受ける米国LLCについては、原則的には我が国の税務上「外国法人」として取り扱われることから、その米国LLCから構成員である内国法人が受ける利益の分配は、我が国の税法上、外国子会社からの配当であり外国子会社配当益金不算入制度の対象となる。
 米国の税制では、米国LLCの利益分配時には源泉徴収されず、その構成員が米国の非居住者である場合には、その前段階であるその所得の分配額が確定した段階で構成員に対し課税が行われるが、このような分配確定段階において構成員である内国法人に帰せられるものとして計算される金額を課税標準として当該内国法人に対して課される外国法人税の額が、2の外国法人税の額ということになる。
 以上のことから、パス・スルー課税を選択した米国LLCのような事業体から構成員である内国法人が分配される所得の金額(自らに帰せられるものとして計算される金額)は外国子会社配当益金不算入制度の対象となり、また、こうした事業体が本制度の適用対象となる外国子会社に当たる場合に、その外国子会社から利益の分配があるときのその所得の分配額が確定した段階で構成員に対して課される外国法人税の額についても、損金不算入となる外国源泉税等の額に該当することとなる。

3  連結納税制度においても、同様の通達(連基通8−5−6)を定めている。

(参考)国税庁ホームページ「米国LLCに係る税務上の取扱い」

【Q】 米国のリミテッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC:Limited Liability Company)は、米国各州が制定するLLC法(Limited Liability Company Act )に基づいて設立される事業体です。LLC法は、1977年に米国ワイオミング州で制定されたのを皮切りに、現在では全米の各州(50州)及びコロンビア特別区において制定されています。
 LLCは法人(Corporation)に似かよった性質を有していますが、米国の税務上は、事業体(LLC)ごとに、法人課税を受けるか、その出資者(メンバー)を納税主体とするいわゆるパス・スルー課税を受けるかの選択が認められています。
 米国の税務上、法人課税を選択したLLC又はパス・スルー課税を選択したLLCは、我が国の税務上、外国法人に該当するものとして課税関係を考えることになりますか。

【A】 ある事業体を我が国の税務上、外国法人として取り扱うか否かは、当該事業体が我が国の私法上、外国法人に該当するか否かで判断することになります。
 LLC法に準拠して設立された米国LLCについては、以下の理由等から、原則的には我が国の私法上、外国法人に該当するものと考えられます。

  • 1 LLCは、商行為をなす目的で米国の各州のLLC法に準拠して設立された事業体であり、外国の商事会社であると認められること。
  • 2 事業体の設立に伴いその商号等の登録(登記)等が行われること。
  • 3 事業体自らが訴訟の当事者等になれるといった法的主体となることが認められていること
  • 4 統一LLC法においては、「LLCは構成員(member)と別個の法的主体(a legal entity)である。」、「LLCは事業活動を行うための必要かつ十分な、個人と同等の権利能力を有する。」と規定されていること。

 したがって、LLCが米国の税務上、法人課税又はパス・スルー課税のいずれの選択を行ったかにかかわらず、原則的には我が国の税務上、「外国法人(内国法人以外の法人)」として取り扱うのが相当です。
 ただし、米国のLLC法は個別の州において独自に制定され、その規定振りは個々に異なることから、個々のLLCが外国法人に該当するか否かの判断は、個々のLLC法(設立準拠法)の規定等に照らして、個別に判断する必要があります。

【新設】(外国等が納付を命ずる課徴金及び延滞金に類するもの)

9−5−10 法第55条第4項第3号《不正行為等に係る費用等の損金不算入》に規定する「外国若しくはその地方公共団体又は国際機関が納付を命ずるこれらに類するもの」とは、外国若しくはその地方公共団体又は国際機関が、法令等(市場における公正で自由な競争の実現を目的とするものに限る。)に基づいて納付を命ずるもの(同項第1号に掲げる罰金及び科料を除く。以下9−5−10において「外国課徴金」という。)をいう。

(注) 欧州連合によるカルテル等違反への制裁金は、外国課徴金に該当する。

【解説】

1  従来、カルテル等違反に対する制裁金について、我が国の独占禁止法の規定による課徴金及び延滞金は損金不算入とされる一方で(平成21年改正前法554三)、外国又はその地方公共団体によって課される制裁金は、刑事訴訟手続を経るものは損金不算入とされ(法554一)、刑事訴訟手続を経ないものは損金算入とされていた。このような不均衡を是正するため、平成21年度の税制改正において、所得の金額の計算上損金の額に算入しないこととされている課徴金の範囲に、外国若しくはその地方公共団体又は国際機関(以下「外国等」という。)が納付を命ずる独占禁止法の規定による課徴金及び延滞金に類するもの(以下「外国課徴金」という。)が追加された(法554三)。
 本通達において、この外国課徴金とは、外国等が市場における公正で自由な競争の実現を目的とする法令等(いわゆる「競争法」)に基づいて納付を命ずるものをいうことを明らかにしている。

2  我が国の独占禁止法における課徴金の対象とされる行為は、不当な取引制限(カルテル、談合)や支配型の私的独占など一定の行為に限定されているが、世界の競争法の中には、我が国の独占禁止法における課徴金の対象となる行為以外の行為が制裁金の対象に含まれるものも存在する。
 今般の税制改正は、外国等が行う制裁についてその効果を減殺しないように、各国のカルテル等違反に対する制裁を目的として納付を命ずるものについて、我が国の独占禁止法の課徴金と同様に損金算入を制限する趣旨からすれば、損金不算入の対象となる外国課徴金は我が国の独占禁止法に規定する課徴金と対象行為が一致するものに限られず、その趣旨・目的、対象となる行為、計算方法などからみて、我が国の独占禁止法と同質といえる法令等を根拠として納付を命ぜられるものが外国課徴金に該当することになる。
 そこで、本通達においては、外国課徴金は外国等が競争法に基づいて納付を命ずるものをいうとすることにより、外国課徴金の対象行為は我が国の独占禁止法に規定する課徴金そのものと一致するものに限定されないことを明らかにしているのである。
 そして、実務においては、欧州連合(EU)によるカルテル等違反に対する制裁金が一般に多く見受けられ、これが外国課徴金に該当することから、代表例として注書に記載している。

3  なお、競争法に基づいて納付を命ずるものであっても、刑事訴訟手続を経て課されるものは、法人税法第55条第4項第1号に規定する罰金及び科料に該当し、当該規定により損金不算入となる(基通9−5−9)。
 また、競争法違反に基因して納付を命ずるものであっても、その目的が競争法違反による不当利得の返還・剥奪・没収のみであるものについては、そもそも課税すべき所得が消滅してしまうことからしても、外国課徴金には該当せず、その損失額は損金の額に算入されることに留意する必要がある。

4  連結納税制度においても、同様の通達(連基通8−5−11)を定めている。

(参考) 世界の競争法の具体例については、公正取引委員会のウェブページ「世界の競争法」の中でその主な内容がそれぞれ紹介されている。