4 資産の評価損

【新設】(評価換えの対象となる資産の範囲)

9−1−3の2 法人の有する金銭債権は、法第33条第2項《資産の評価換えによる評価損の損金算入》の評価換えの対象とならないことに留意する。

(注) 令第68条第1項《資産の評価損の計上ができる事実》に規定する「法的整理の事実」が生じた場合において、法人の有する金銭債権の帳簿価額を損金経理により減額したときは、その減額した金額に相当する金額については、法第52条《貸倒引当金》の貸倒引当金勘定に繰り入れた金額として取り扱う。

【解説】

1  平成21年度の税制改正において、法人の有する資産の評価損の損金算入制度の適用場面が次の3つに整理された。

  • (1) 物損等の事実又は法的整理の事実が生じた場合に資産の評価換えをして損金経理により帳簿価額を減額したとき(法332
  • (2) 会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画認可の決定があったことによりこれらの規定に従って行う評価換えをして資産の帳簿価額を減額した場合(法333
  • (3) 民事再生法の規定による再生計画認可の決定その他これに準ずる事実が生じた場合において資産の価額につき適正な評定を行っているとき(法334

 また、評価損の計上対象となる資産の範囲について、法律の規定上、改正前の「預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権…を除く」という規定が削除されたことにより、この3つの損金算入制度において、評価損の計上対象となる資産の範囲に金銭債権が含まれるのかという疑問が生ずる。

2  この点、(2)及び(3)については、1評価損の計上が会社更生法等又は法人税法の規定に基づいて行われるもので、会社法や企業会計における評価換えを前提としたものではないこと、2原則としてその有する資産の全部を対象に資産評定を行う必要があること、3手続が裁判所や多数の債権者の監視の下で公正に行われるものであること又は税務上認められた公正な要件の下で行われるものであることから、いずれも評価損の計上対象となる資産の範囲に限定を付さないこととされている。

3  これに対して、(1)は会社法及び企業会計における資産の強制評価減又は減損損失の取扱いに準拠するものであり、企業会計上評価損として損金経理の対象とならない資産にまでその範囲が拡充されたものではないことに留意する必要がある。
 (1)のうち物損等の事実が生じた場合の評価換えについては、評価損の計上対象となる資産の範囲が法令の規定上、棚卸資産、有価証券、固定資産及び繰延資産に限定され、それぞれの資産の区分に応じた物損等の事実が規定されていることから(法令681各号)、金銭債権がこの評価換えの対象とならないことは明らかである。
 これに対し、(1)のうち法的整理の事実が生じた場合の評価換えについては、評価損の計上対象となる資産の範囲が法令の規定上、限定されていないものの、金銭債権に関する含み損は会社法及び企業会計において貸倒引当金というツールを用いて会計処理することとされていることから、税務上も金銭債権は評価換えの対象とならず、会計処理と同様に貸倒引当金(法52)の定めに従って損金算入されることになる。
 本通達では、これらのことを明らかにしている。

4  ところで、法的整理の事実が生じた場合の会計処理として、金銭債権も含めた法人のすべての資産について評価し、帳簿価額との差額を「事業再生関連損失」などとして特別損失に計上する会計処理も見受けられるようである。このような処理をした場合における金銭債権の評価損は、法人税法第33条第2項による損金算入が認められず、また、損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れているわけでもないことから、法人税法第52条《貸倒引当金》の規定による損金算入も認められないのではないかという疑問が生じる。
 この点、貸倒引当金の損金算入制度は、金銭債権の評価勘定として引当金が計上されるという会計慣行にかんがみ、損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額の損金算入を税務上認めたものである。一方、法的整理の手続における金銭債権の帳簿価額の減額処理は、その回収可能性や経済的価値に基づく時価まで帳簿価額を切り下げるものであり、その処理の方法に違いはあるものの、いずれも金銭債権について評価を行っているという共通点があることからすれば、法的整理の事実が生じた場合にすべての資産を一括して評価し、金銭債権の帳簿価額を損金経理により減額する会計処理は、貸倒引当金に繰り入れたものと取り扱って差し支えないものと考えられる。
 そこで、本通達の注書において、そのようにして減額をした金額に相当する金額は、法人税法第52条の貸倒引当金勘定に繰り入れた金額として取り扱うことを明らかにしている。
 なお、これにより金銭債権の帳簿価額の減額を貸倒引当金勘定に繰り入れた金額として取り扱う場合において、法人税法第52条第1項及び第2項の規定の適用を受けるためには、確定申告書に貸倒引当金勘定に繰り入れた金額の損金算入に関する明細の記載が必要であることは言うまでもなく(法523)、確定申告書に明細の記載がない場合にこれらの規定の適用を受けることができるのは、その記載がなかったことについてやむを得ない事情がある場合に限られる(法524)。

5  連結納税制度においても、同様の通達(連基通8−1−3の2)を定めている。

【新設】(資産について評価損の計上ができる「法的整理の事実」の例示)

9−1−3の3 令第68条第1項《資産の評価損の計上ができる事実》に規定する「法的整理の事実」には、例えば、民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことにより、同法第124条第1項《財産の価額の評定等》の評定が行われることが該当する。

【解説】

1  法人税法施行令第68条第1項《資産の評価損の計上ができる事実》に規定する「法的整理の事実」とは、会社更生法又は金融機関の更生手続の特例等に関する法律(以下「会社更生法等」という。)の規定による更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実とされている。

2  会社更生法では、更生手続開始後遅滞なく、更生会社に属する一切の財産につき、更生手続開始時の時価によりその価額を評定しなければならないこととされている(会社更生法8312)。これと同様に、民事再生法においても、再生債務者等は再生手続開始後遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならないこととされている(民事再生法1241)。
 そこで、本通達では、この「法的整理の事実」の例示として、民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったことにより、同法第124条第1項《財産の価額の評定》の評定が行われることがこれに該当することを明らかにしている。

(注) 会社更生法等による財産の評定は、その評定した価額を財産の取得価額とみなすこととされているが(会社更生法施行規則12)、民事再生法による財産の評定は、裁判所に提出するための財産目録と貸借対照表を作成するものであり(民事再生法1242)、再生債務者等の財産の帳簿価額を強制的に評価換えするものではないという点で、違いがある。

3  また、産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の規定による債権放棄を含む事業再構築計画等が認定された場合には、第三者による債務者の資産の再評価を行って財産目録及び貸借対照表を主務大臣に提出することとされており、この場合の評定についても、民事再生法の規定による再生手続開始の決定の場合と同様に、「法的整理の事実」に該当することになる(経済産業省からの照会「産業活力再生特別措置法において債権放棄を含む計画が認定された場合の資産評価損の計上に係る税務上の取扱いについて」に対する平成15年4月17日付国税庁文書回答参照)。

4  なお、本通達は、平成21年度の税制改正前の法人税法施行令第68条第1項第1号ニ及び同項第3号ヘ《資産の評価損の計上ができる場合》に規定する「準ずる特別の事実」の例示として、本改正通達による改正前の法人税基本通達9−1−5(2)及び9−1−16(2)において定められていた内容と同様である。

5  連結納税制度においても、同様の通達(連基通8−1−3の3)を定めている。