※ 平成27年度税制改正により、本照会の方法により有効性判定を行っている法人が、そのオプション取引について、平成27年4月1日以後に開始する事業年度において引き続き有効性判定を行うためには、その事業年度の確定申告書の提出期限までに、所定の事項を記載した届出書を所轄税務署長に提出しなければならないこととされました(そのオプション取引については翌事業年度以降の届出書の提出は不要です。)(法令121の3の2、法規27の8、平成27年改正法令附則2)。
この届出書を提出しなかった場合、法人税法施行令第121条の2の規定によりそのオプション取引によるヘッジが有効と認められるときを除き、税務上の繰延ヘッジ処理は認められず、ヘッジ手段であるオプション取引に係るみなし決済損益額を益金の額又は損金の額に算入することとなりますので御注意ください(法61の5、法令121の2)。
平成27年度税制改正の内容(オプション取引に係る有効性判定)
[照会]
オプション取引は、税務上、繰延ヘッジ処理の適用を受けるヘッジ取引の手段の一つとして認められています(法61の6、61の5、規27の7)が、ヘッジ目的でオプション取引を行う場合には、通常アウト・オブ・ザ・マネー、つまり、オプションの基礎商品の時価より低い価格でプットオプションを設定したり、基礎商品の時価より高い価額でコールオプションを設定するので、その権利行使価格とオプション取得時の時価との差額分について利益額が圧縮されることになります。このため、ヘッジ対象資産等評価差額と期末時又は決済時におけるデリバティブ取引等に係る利益額又は損失額とを比較する法人税法施行令第121条第1項第1号に規定するヘッジの有効性割合は一般に低いものとなります。
会計上においては、原則的には税法と同様の有効性判定を行うものとされていますが、例外として、このような一定の損失を見込んだ価格設定になっているオプション取引については、オプション取引の基礎商品価格の変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較する方法が認められています(金融商品会計に関する実務指針156)。
そこで、一般的にヘッジ取引に利用されることの多い通貨オプション及び個別株オプションのオプション取引について、会計基準と同様に、基礎商品価格の変動額により算出される損益を法人税法第61条の6第1項に規定するデリバティブ取引等に係る利益額又は損失額として、その金額とヘッジ対象資産等評価差額との比較をする方法により有効性判定を行うことは認められるのでしょうか。
(回答)
原則として貴見のとおり、取り扱って差し支えありません。
ただし、例えば、ヘッジ手段とヘッジ対象の通貨が異なり、両者の相場変動が完全に連動していない場合など、そのヘッジ効果の相関関係が明らかでないときには、その相関関係の合理性について事前に確認が必要と考えられるので、法人税法施行令第121条の4(繰延ヘッジ処理における特別な有効性判定方法等)の規定に基づき申請し、当該方法が合理的であるか否か所轄税務署長の承認を受ける必要があります。
(参考)
〇 有効性の判定
資産又は負債の価額の変動に伴って生ずるおそれのある損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合 |
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資産の取得若しくは譲渡、負債の発生若しくは消滅、金利の取得若しくは支払その他これらに準ずるものに係る決済により受け取ることとなり、又は支払うこととなる金銭の額の変動に伴って生ずるおそれのある損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合 |
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【解説】
1 | プットオプション取引(売却する権利を取得)によりドル建資産の為替リスクをヘッジした場合
(単位:円)
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2 | コールオプション取引(購入する権利を取得)によりドル建負債の為替リスクをヘッジした場合
(単位:円)
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○円高をヘッジするためのプットオプション取引(1の場合)
○円安をヘッジするためのコールオプション取引(2の場合)
3 1、2の事例による当該オプション取引のヘッジの有効性
事例1、2のいずれの場合も、本来のデリバティブ取引等に係る利益額又は損失額に基づき計算すると、表にあるとおり、有効性割合が80% 〜125%の範囲外となり、当該オプション取引については、ヘッジ処理は認められないことになります。
しかしながら、これらの事例のいずれも、ヘッジ対象資産に係る損失相当額をオプション取引によりヘッジしており、双方が相関関係にあることは明らかです。
また、このオプション取引と同様なヘッジ効果を有する先物取引と比較すると、法人税基本通達2-3-48により認められている先物取引のプレミアム又はディスカウントに係る部分を除いて有効性判定を行った場合、結果として基礎商品価格の変動額との割合となり、上記の事例の1及び2の表の各による結果と同じものとなります。
このため、例えば、先物取引とオプション取引の基礎商品が同じ場合、オプション取引では1及び2の表の各を、先物取引では1及び2の表の各により有効性判定が行われることとなり、ヘッジ対象商品の価格の変動と基礎商品の価格の変動との相関関係において、ヘッジの有効性を判定すると、先物取引は繰延ヘッジが可能となり、オプション取引では繰延ヘッジ処理ができないという結果となります。
そこで、オプション取引の商品の特殊性から考えると、先物取引で認められている方法により有効性を判定してもその基礎商品とヘッジ対象資産等とのヘッジに係る相関関係の判断を誤らせるものではありません。したがって、一般的にヘッジ取引に利用されることが多い通貨オプション及び個別株オプション取引において、オプションの基礎商品価額の変動額により算出される損益とヘッジ対象資産等評価差額との比較をする方法も合理的な有効性判定の方法であると認められます。
なお、本来、法令に定める有効性判定の方法と異なる方法による場合は、法人ごとに所轄税務署長に承認を受ける必要がありますが、
イ オプション全般に認められるものであること、
ロ 基本通達で認められている基礎商品価額の変動額とヘッジ対象資産等の時価変動額との比較する方法による先物取引の有効性判定には承認手続を要しないこと、を踏まえ、オプションの基礎商品がヘッジ対象資産の基礎数値と同一の場合は、特に承認手続は必要ないと考えられます。
ただし、例えば、米ドル建の資産を香港ドル建のプットオプションでヘッジする場合など基礎商品とヘッジ対象資産等の単位が異なり、相場の連動性が100%合致していないものについては、法人税法施行令第121条の4(繰延ヘッジ処理における特別な有効性判定方法等)に基づき申請し、当該方法が合理的であるか否か所轄税務署長の承認を受ける必要があります。