【新設】(損失が見込まれる場合の工事進行基準の適用)

2-4-19 法人が、当該事業年度終了の時において見込まれる工事損失の額(その時の現況により見積もられる工事の原価の額が、その請負の対価の額を超える場合における当該超える部分の金額をいう。)のうち当該工事に関して既に計上した損益の額を控除した残額(以下「工事損失引当金相当額」という。)を、当該事業年度に係る工事原価の額として計上している場合であっても、そのことをもって、法第64条第2項《長期大規模工事以外の工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》に定める「工事進行基準の方法により経理したとき」に該当しないとは取り扱わない。
 この場合において、当該工事損失引当金相当額は、同項の規定により当該事業年度において損金の額に算入されることとなる工事の請負に係る費用の額には含まれないことに留意する。

【解説】

1  法人が、長期大規模工事以外の工事の請負をした場合において、その工事の請負に係る収益の額及び費用の額につき、着工事業年度からその工事の目的物の引渡しの日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の確定した決算において工事進行基準の方法により経理したときは、その経理した収益の額及び費用の額は、当該各事業年度の益金の額及び損金の額に算入することとされている(法642)。
 工事進行基準の方法とは、その工事の請負に係る当該事業年度の収益の額及び費用の額について、その工事の請負の対価の額及びその工事原価の額(当該事業年度終了の時の現況によりその工事につき見積られる工事の原価の額をいう。)に当該事業年度終了の時におけるその工事に係る進行割合を乗じて計算した金額から、それぞれ既にそれまでの事業年度においてその工事の請負に係る収益の額とされた金額及び費用の額とされた金額を控除して計算する方法をいう(令1293)。

2  企業会計においては、平成19年12月に企業会計基準委員会から企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」が公表され、工事契約に関し、その進捗部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用することとされた。
 このような企業会計における工事契約に関する収益等の認識基準の改正を踏まえ、平成20年度の税制改正において、従来、工事進行基準を適用できる工事の範囲から除外されていた「損失が生ずると見込まれる」工事の請負についても、工事進行基準を選択適用できることとされた(法642)。したがって、当期末の現況によりその工事につき見積もられる工事の原価の額が、請負の対価の額を超える場合においても、法人が当該工事につき工事進行基準を選択したときは、その工事の請負の対価の額及びその工事原価の額をその工事の進行割合に応じて、各事業年度の収益の額及び費用の額として計上していくこととなる。

3  ところで、新たな企業会計基準では、工事損失の発生が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、工事契約の全体から見込まれる工事損失から、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額(すなわち、当該工事契約に関して、今後見込まれる損失の額)について、工事損失引当金を計上することとされ、当該工事損失引当金相当額を工事原価として計上する会計処理が示されている(工事契約に関する会計基準19〜20・60〜69、工事契約に関する会計基準の適用指針〔設例2〕)。
 一方、法人税法第64条《工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》に定める工事進行基準は、上記1のとおり、工事の進行割合に応じて収益の額及び費用の額を計上することを求めるものであると解される。
 このため、法人が、新たな企業会計基準に従い、損失が生ずると見込まれる工事に係る工事損失引当金を工事原価として計上した場合、必ずしも工事の進行割合に応じた経理処理ではなくなることから、法人税法上の工事進行基準の適用に際し、「確定した決算において工事進行基準の方法により経理した」という要件を満たさなくなるのではないかという疑問が生じる。

4  この点、法人税法第64条《工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》に関する平成20年度の税制改正が、会計処理との整合性を配慮した見直しであることを踏まえると、企業会計基準に従って工事損失引当金を計上したことのみをもって、同条第2項に定める経理要件を満たさないと取り扱うことは企業実務の実情にそぐわないと考えられるとともに、その工事に係るその余の収益の額及び費用の額について工事の進行割合に応じて適正に計上している場合において、法人税法上、工事進行基準の適用を認めることに特段の課税上の弊害も認められない。
 そこで、本通達において、法人が、工事損失引当金相当額を、当該事業年度に係る工事原価の額として計上しているときであっても、そのことをもって、法人税法第64条第2項《長期大規模工事以外の工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度》に定める「工事進行基準の方法により経理したとき」に該当しないとは取り扱わないことを明らかにしている。

5  なお、法人税法上の工事進行基準の適用に際し、工事損失引当金相当額は、当該事業年度において損金の額に算入されることとなる工事の請負に係る費用の額には、当然のことながら含まれないこととなる。すなわち、法人税法上、認められている所定の引当金以外の引当金への繰入額について、当該事業年度の損金の額に算入することは認められないところ、本通達の前段の適用がある場合であっても、同様である。本通達の後段において、このことを留意的に明らかにしている。

6  連結納税制度においても、同様の通達(連基通2-4-19)を定めている。

(参考)
「工事契約に関する会計基準」(抄)
工事契約から損失が見込まれる場合の取扱い

  • 19. 工事契約について、工事原価総額等(工事原価総額のほか、販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、その超過すると見込まれる額(以下「工事損失」という。)のうち、当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を、工事損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する。
  • 20. 前項の取扱いは、当該工事契約について適用されている工事契約に係る認識基準が工事進行基準であるか工事完成基準であるかにかかわらず、また、工事の進捗の程度にかかわらず適用される。

 
「工事契約に関する会計基準の適用指針」(抄)
〔設例2〕工事損失引当金の会計処理
1. 前提条件
 〔中略〕

(単位:百万円)
  X1年度 X2年度 X3年度
工事収益総額 10,000 10,000 10,000
過年度に発生した工事原価の累計 2,400 7,560
当期に発生した工事原価 2,400 5,160 2,940
完成までに要する工事原価 7,200 2,940
工事原価総額 9,600 10,500 10,500
工事利益(損失△) 400 △500 △500
決算日における工事進捗度 (*1)25% (*2)72% 100%
  • (*1)X1年度の進捗度 25%(=2,400百万円/9,600百万円×100%)
  • (*2)X2年度の進捗度 72%(=7,560百万円/10,500百万円×100%)

 
2.会計処理
 (1)X1年度の会計処理

1工事原価の計上

(単位:百万円)
(借)工事原価 2,400 (貸)諸勘定 2,400

2工事収益の計上

(単位:百万円)
(借)工事未収入金 2,500 (貸)工事収益(*1) 2,500
 (*1)10,000百万円×25%=2,500百万円

 
 (2)X2年度の会計処理

1工事原価の計上

(単位:百万円)
(借)工事原価 5,160 (貸)諸勘定 5,160

2工事収益の計上

(単位:百万円)
(借)工事未収入金 4,700 (貸)工事収益(*2) 4,700
 (*2)10,000百万円×72%−2,500百万円=4,700百万円

3工事損失引当金の計上

(単位:百万円)
(借)工事原価 140 (貸)工事損失引当金(*3) 140
(*3)  (ア)見積工事損失 △500百万円 (=10,000百万円−10,500百万円)
  −(イ) X1年度計上利益 100百万円 (=2,500百万円−2,400百万円)
  −(ウ) X2年度計上利益 △460百万円 (=4,700百万円−5,160百万円)
   工事損失引当金繰入額 △140百万円 (=(ア)−(イ)−(ウ))

 
 (3)X3年度の会計処理

1工事原価の計上

(単位:百万円)
(借)工事原価 2,940 (貸)諸勘定 2,940

2工事収益の計上

(単位:百万円)
(借)工事未収入金 2,800 (貸)工事収益(*4) 2,800
 (*4)10,000百万円−(2,500百万円+4,700百万円)=2,800百万円

3工事損失引当金の取崩し

(単位:百万円)
(借)工事損失引当金 140 (貸)工事原価 140