3 受益者等課税信託による損益

【新設】 (信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属)

14−4−1 受益者等課税信託における受益者は、受益者としての権利を現に有するものに限られるのであるから、例えば、一の受益者が有する受益者としての権利がその信託財産に係る受益者としての権利の一部にとどまる場合であっても、その余の権利を有する者が存しない又は特定されていないときには、当該受益者がその信託の信託財産に属する資産及び負債の全部を有するものとみなされ、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部が帰せられるものとみなされることに留意する。

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 平成19年度の税制改正後の法人税法においては、信託のうち集団投資信託、退職年金等信託、特定公益信託等又は法人課税信託のいずれにも該当しないものは、受益者等課税信託として、その信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、同法の規定を適用することとされている(法12丸1)。また、信託の変更をする権限を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除く。)は、受益者とみなすこととされている(法12丸2)。

2 新信託法における受益者とは受益権を有する者をいい(新信託法2丸6)、受益権とは受益債権及びこれを確保するために同法の規定に基づき受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいうこととされている(新信託法2丸7)。したがって、信託行為にこれらの権利につき停止条件が定められているような場合は、上記の「受益者としての権利を現に有するもの」には含まれないこととなるのである。
 また、信託行為における受益者の定め方にはさまざまなものがあり、受益者を「○○年後に生まれてくる子供」や「将来設立される法人」などとする受益者が未だ存在していない場合や受益者を「将来の××大会の優勝者」などとする受益者が特定されていない場合もあり得る。このような場合にも、受益者等課税信託の受益者にはなり得ないのである。

3 ところで、このような信託行為における受益者の定め方からすれば、受益者等課税信託の受益者に該当する一の受益者が有する受益者としての権利がその信託財産に係る受益者としての権利の一部にとどまり、その余の権利を有する者が存しない又は特定されていない場合も生じ得る。例えば、一の受益者が有する受益者としての権利が全体の権利のうち70%にとどまり、残余の30%の権利については受益者不存在又は不特定の場合があり得るのである。
 このような場合においては、当該信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされ、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部が帰せられるものとみなされるのは、受益者としての権利を現に有するものに限られるのであるから、権利の一部(70%)を有する者がその余の権利を含めて受益者としての権利の全部(100%)を有するものとして、信託財産に属する資産及び負債の全部を有する者とみなし、かつ、信託財産に帰せられる収益及び費用の全部が帰せられるものとされるのである。
 本通達はこのことを留意的に明らかにしている。

4 更に、受益者としての権利を現に有する受益者の数が二である場合において、これらの者が有する受益者としての権利が全体の権利のうち70%(各35%)にとどまり、その余の権利(30%)は受益者不存在又は不特定であるようなケースも考えられる。
 法令上、受益者の数が二以上である場合、受益者等課税信託の信託財産に属する資産及び負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとされている(令15丸4)。
 したがって、この場合、各受益者の権利の内容(各35%)に応じて信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属が決められるのであるから、各受益者は均等の権利を有することとなるため、当該信託財産に属する資産及び負債の50%をそれぞれ有し、信託財産に帰せられる収益及び費用の50%がそれぞれに帰せられるものとして課税関係が生ずることとなる。

5 また、以上のことについては受益者について言及しているところであるが、一定の信託の変更をする権限を現に有し、かつ、その信託の信託財産の給付を受けることとされていることにより受益者とみなされる者(法12丸2)についても、受益者と同様に取り扱われることとなる。

6 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−1)を定めている。

【新設】 (信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属の時期)

14−4−2 法人が受益者等課税信託の受益者(法第12条第2項((信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属))の規定により、同条第1項に規定する受益者とみなされる者を含む。以下14−4−6までにおいて「受益者等」という。)である場合において、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該受益者等である当該法人の収益及び費用とみなされる当該受益者等課税信託の信託財産に帰せられる収益及び費用は、その信託行為に定める信託の計算期間にかかわらず、当該法人の各事業年度の期間に対応する収益及び費用となるのであるから、留意する。

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 本通達において、受益者等課税信託の信託財産に帰せられる収益及び費用について、受益者等に対する帰属の時期を明らかにしている。

2 受益者等課税信託では、その信託の受益者段階で法人税の課税関係が生じることとなり、当該受益者等課税信託の信託財産に帰せられる収益及び費用は、当該信託の受益者(受益者とみなされる者を含む。以下「受益者等」という。)に帰属することとなる。ところで、実際の課税場面では、法人が受益者等課税信託の受益者等であって、当該法人の事業年度開始の日から終了の日までの期間と信託行為に定められた計算期間が一致しない場合もあり得よう。このような場合に、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は、当該法人の事業年度開始の日から終了の日までの期間に対応する収益及び費用となるのか、あるいは、当該信託行為に定められた信託の計算期間中の収益及び費用をまとめたところで、例えば当該計算期間の終了の日の属する当該法人の事業年度の収益及び費用となるのかとの疑義を抱く向きもあるようである。

3 この点、受益者等課税信託の受益者等は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者等の収益及び費用とみなして法人税法の規定を適用することとされていることから(法12)、当該受益者等に係る信託財産の帰属損益額は、受益者等である法人の各事業年度の期間に対応する信託財産に係る個々の損益を計算して、当該事業年度の益金の額又は損金の額に算入することとなる。
 したがって、その信託行為に定める信託の計算期間の始期及び終期と受益者等である法人の事業年度の開始の日及び終了の日が一致しない場合には、当該法人の各事業年度の期間に対応する信託財産に帰せられる収益及び費用に基づき、受益者等である法人の各事業年度の所得の金額を計算することとなるのである。

4 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−2)を定めている。

【新設】 (信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属額の総額法による計算)

14−4−3 受益者等課税信託の受益者等である法人は、当該受益者等課税信託の信託財産から生ずる利益又は損失を当該法人の収益又は費用とするのではなく、当該法人に係る当該信託財産に属する資産及び負債並びに当該信託財産に帰せられる収益及び費用を当該法人のこれらの金額として各事業年度の所得の金額の計算を行うのであるから、留意する。

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 本通達においては、受益者等課税信託の受益者等である法人が信託財産に係る帰属損益額を各事業年度の益金の額又は損金の額に算入する場合の当該帰属損益額の計算方法を明らかにしている。

2 受益者等課税信託では、その信託の受益者段階で法人税の課税関係が生ずることとなり、当該受益者等課税信託の信託財産に帰せられる収益及び費用は、当該信託の受益者等に帰属することとなる。
 ところで、この場合の受益者等である法人の収益及び費用の計算に当たっては、いわゆる総額法により、当該信託財産に帰せられる収益及び費用を当該法人の収益及び費用とするのか、それともいわゆる純額法により、当該信託財産に帰せられる収益及び費用から計算される利益又は損失を当該法人の収益又は費用とするのかという疑義が生ずる。

3 この点については、受益者等課税信託の受益者等は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者等の収益及び費用とみなされるのであるから(法12)、信託財産に帰せられる損益の計算結果だけをその法人の各事業年度の所得の金額の計算に反映させる純額法ではなく、その法人に係る当該信託財産に属する資産及び負債を有するものとし、その信託財産に帰せられる収益及び費用をその法人の収益及び費用の金額として各事業年度の所得の金額の計算を行う総額法によることとなる。本通達はこのことを留意的に明らかにしている。

4 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−3)を定めている。

【新設】 (権利の内容に応ずることの例示)

14−4−4 令第15条第4項((信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属))の規定の適用に当たっては、例えば、その信託財産に属する資産が、その構造上区分された数個の部分を独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものである場合において、その各部分の全部又は一部が二以上の受益者等の有する権利の目的となっているときは、当該目的となっている部分(以下14−4−4において「受益者等共有独立部分」という。)については、受益者等共有独立部分ごとに、当該受益者等共有独立部分につき権利を有する各受益者等が、各自の有する権利の割合に応じて有しているものとして同項の規定を適用する。

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 法人税法上、受益者等課税信託においては、その信託の受益者等は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者等の収益及び費用とみなして、法人税法の規定を適用することとされている(法12)。また、当該受益者等課税信託の受益者等が二以上ある場合には、受益者等課税信託の信託財産に属する資産及び負債の全部をそれぞれの受益者等がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益及び費用の全部がそれぞれの受益者等にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとされている(令15丸4)。

2 この「権利の内容に応じて」の意義について、例えば、土地の区分所有のごとく、受益者等の有する権利に応じてその信託財産が特定され、当該信託財産に帰せられる収益及び費用も明確に区分され得るものであれば特段の疑義も生じないが、信託財産に属する資産が、マンションやオフィスビルなど、その構造上区分された数個の部分を独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものであって、その受益者等の権利が共同所有のように、区分されずに特定されていない部分がある場合には、若干の整理が必要であろう。
 この場合においては、まず、その構造上区分された独立した部分のうち一の受益者等に帰せられるものについてはその受益者等に帰属するものとした上で、共有物である建物の独立部分(受益者等共有独立部分)について、上述の受益者等が二以上ある場合の規定に従い、各受益者等がそれぞれの有する権利の割合に応じて信託財産に属する資産の受益者等共有独立部分を有しているものとし、その信託財産に帰せられる収益及び費用が各受益者等にそれぞれの有する権利の割合に応じて帰せられることとされるのである。

3 本通達は、平成19年6月22日付課審1−16ほか5課共同「「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」及び「信託受益権が分割される土地信託に関する所得税、法人税、消費税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」の廃止について」(法令解釈通達)により廃止された昭和61年7月9日付直審5−6ほか4課共同「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(法令解釈通達)における「第1共通」の1−4((取扱いの原則))において定められていたものと同趣旨のものであり、平成19年度税制改正後も同様の取扱いとなる旨を明らかにしているものである。

4 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−4)を定めている。

【新設】 (信託による資産の移転等)

14−4−5 委託者と受益者がそれぞれ単一であり、かつ、同一の者である場合の受益者等課税信託においては、次に掲げる移転は受益者である委託者にとって資産の譲渡又は資産の取得には該当しないことに留意する。

(1) 信託行為に基づき信託した資産の当該委託者から当該受託者への移転

(2) 信託の終了に伴う残余財産の給付としての当該資産の当該受託者から当該受益者への移転

(3) これらの移転があった場合における当該資産(当該信託の期間中に信託財産に属することとなった資産を除く。)の取得の日は、当該委託者が当該資産を取得した日となる。

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 新信託法上、信託とは、契約、遺言、一定の意思表示等により、特定の者(受託者)が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他のその目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることとされており(新信託法2丸1)、法形式上は、信託を行うことによって、信託財産に属する資産の所有権は受託者へ移転するものと解されている。
 したがって、自益信託(委託者と受益者が同一の信託をいう。以下同じ)で受益者が単一の場合の受益者等課税信託において、信託行為に基づき信託した資産の移転(委託者→受託者)や、信託の終了に伴う残余財産の給付としての資産の移転(受託者→受益者)がなされた場合、新信託法上は、それぞれの移転に際して当該資産の所有権が移転したものとみることとなる。

2 しかしながら、法人税法上は、受益者等課税信託においては信託の受益者はその信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされることから(法12)、自益信託で委託者兼受益者が単一である受益者等課税信託においてこれらの資産の移転があった場合であっても、当該資産は受益者(委託者)が引き続き有していることとなる。したがって、これらの資産の移転は資産の譲渡又は資産の取得に該当しないこととなるのである。本通達ではこのことを明らかにしている。

3 また、これらの委託者兼受益者と受託者との間の資産の移転があった場合における当該資産の取得の日については、交換により取得した資産の圧縮額の損金算入、土地の譲渡等がある場合の特別税率又は短期所有に係る土地の譲渡等がある場合の特別税率、特定の資産の買換え等の場合の課税の特例等の適用に当たって問題となるところである。この点、法人税法上は、受益者等課税信託の受益者が信託財産に属する資産を有しているものとみなされるため、委託者兼受益者の場合における当該資産の取得の日については、信託の期間前に取得した資産は委託者が取得した日となり、信託の期間中に受託者が新たに取得したことにより信託財産に属することとなった資産は、その属することとなった日となる。本通達の(注)では、このことを明らかにしている。

4 本通達の本文は、平成19年6月22日付課審1−16ほか5課共同「「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」及び「信託受益権が分割される土地信託に関する所得税、法人税、消費税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」の廃止について」(法令解釈通達)により廃止された昭和61年7月9日付直審5−6ほか4課共同「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(法令解釈通達)における「第3法人税に関する取扱い」の3−1((信託による資産の移転等))において定められていたものと同趣旨のものであり、平成19年度税制改正後も同様の取扱いとなる旨を明らかにしているものである。

5 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−5)を定めている。

【新設】 (信託の受益者としての権利の譲渡等)

14−4−6 受益者等課税信託の受益者等がその有する権利の譲渡又は取得が行われた場合には、その権利の目的となっている信託財産に属する資産及び負債が譲渡又は取得されたこととなることに留意する。

(注) 例えば、受益者等がその有する権利の目的となっている信託財産に属する資産が土地である場合において、当該権利が譲渡されたときには、当該受益者等が当該土地を譲渡したものとして、その譲渡の態様に応じて、譲渡、交換、収用、買換え等の法人税に関する法令の規定の適用があることに留意する。

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 受益者等課税信託においては、その信託の受益者等は、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者等の収益及び費用とみなして、法人税法の規定を適用することとされている(法12)。このため、受益者等がその有する権利の譲渡をし、又は、他の者からその権利を取得した場合には、その権利の目的となっている信託財産に属する資産及び負債を譲渡又は取得したこととなるのである。本通達はまずこのことを明らかにしている。

2 ところで、上記のことからすれば、その有する権利の目的となっている信託財産に属する資産が土地である場合において、受益者等がその権利を譲渡したときには、当該土地を譲渡したものとされるのであるが、この権利の譲渡に土地の譲渡に関する法人税法等における特例の規定の適用があるかどうかが問題となる。この点については、土地を譲渡したものとされる受益者等課税信託に係る受益者等が有する権利の譲渡においては、その譲渡の態様等に応じて、譲渡、交換、収用、買換え等の法人税法等における特例の規定の適用があることになる。本通達の(注)では、このことを明らかにしている。

3 本通達の本文は、平成19年6月22日付課審1−16ほか5課共同「「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」及び「信託受益権が分割される土地信託に関する所得税、法人税、消費税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」の廃止について」(法令解釈通達)により廃止された昭和61年7月9日付直審5−6ほか4課共同「土地信託に関する所得税、法人税並びに相続税及び贈与税の取扱いについて」(法令解釈通達)における「第3法人税に関する取扱い」の3−2((信託受益権の譲渡等))において定められていたものと同趣旨のものであり、平成19年度税制改正後も同様の取扱いとなる旨を明らかにしているものである。

4 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−6)を定めている。

【新設】 (受益者等課税信託に係る受益者の範囲)

14−4−7 法第12条第1項((信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属))に規定する「信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)」には、原則として、例えば、信託法第182条第1項第1号((残余財産の帰属))に規定する残余財産受益者は含まれるが、次に掲げる者は含まれないことに留意する。

(1) 同項第2号に規定する帰属権利者(以下14−4−8までにおいて「帰属権利者」という。)(その信託の終了前の期間に限る。)

(2) 委託者の死亡の時に受益権を取得する同法第90条第1項第1号((委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例))に掲げる受益者となるべき者として指定された者(委託者の死亡前の期間に限る。)

(3) 委託者の死亡の時以後に信託財産に係る給付を受ける同項第2号に掲げる受益者(委託者の死亡前の期間に限る。)

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 新信託法においては、受益権とは信託行為に基づいて受託者が受益者に対して負う債務であって、信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権及びこれを確保するために新信託法に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利をいい(新信託法2丸7)、これらの権利から成る受益権を有する者を受益者としている(新信託法2丸6)。
 他方、法人税法においては、受益者等課税信託に該当する信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされる受益者は、原則として、受益者としての権利を現に有するものに限られている(法12丸1)。

2 ところで、新信託法においては、受益者をはじめ信託財産の給付を受ける者に関する規定がいくつか設けられており、これらの者が法人税法上の受益者等課税信託における受益者に該当するかどうかについて整理しておく必要がある。

3 新信託法においては、信託の残余財産の帰属について、同法第182条((残余財産の帰属))に残余財産受益者と帰属権利者とを定めている。信託は、その信託が終了した場合には、清算することとされており(新信託法175)、その信託を清算する際に、その残余財産の給付を受けることとされている者が残余財産受益者と帰属権利者である。
 残余財産受益者とは、信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者として指定された者をいうことから、信託行為に別段の定めがない場合には、受益者としての権利を現に有する者に該当するため、法人税法上の受益者に該当することとなる。
 一方、帰属権利者とは、信託行為における受益者ではなく、残余財産の帰属すべき者として指定された者にすぎない。帰属権利者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得し(新信託法183丸1)、信託の清算中は受益者とみなすこととされている(新信託法183丸6)。これらの規定から、帰属権利者は、信託の終了事由が発生する前は新信託法において受益者ではなく、信託行為に別段の定めがない場合、受益者としての権利義務を有しない。
  したがって、原則として、残余財産受益者は法人税法上の受益者等課税信託における受益者となるが、その信託の終了前の期間における帰属権利者は受益者とはならない。本通達の(1)では、このことを明らかにしている。

4 また、信託においては、受託者に財産を信託して、委託者自身を自己生存中の受益者とし、自己の子、配偶者等を委託者死亡後の受益者(委託者の死亡を始期として信託から給付を受ける権利を取得する受益者)とすることによって委託者自身の死亡後における財産分配を信託によって達成しようとするようなものがある。
 このようなものは、一般的に遺言代用の信託というようであるが、新信託法第90条第1項((委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例))においては、この遺言代用の信託に係る受益者等に関する特則が設けられ、次の丸1及び丸2に掲げるものはこれに該当することとされている。

  1. 丸1 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託
  2. 丸2 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託(当該受益者は、信託行為に別段の定めがない場合、その委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。)

丸1の「委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者」とは、新信託法上受益者ではなく、あくまで委託者の死亡事由を起因として受益権を取得することとされている者に過ぎない。したがって、この指定された者は委託者の死亡前においては法人税法上の受益者等課税信託における受益者に該当しない。
 次に、丸2の「受益者」とされる者は、新信託法上「受益者」と称されてはいるが、新信託法第90条第2項において、この場合の受益者は信託行為に別段の定めがない場合、その委託者が死亡するまで受益者としての権利を有しないこととされていることから、法人税法上も、当該受益者は委託者の死亡前においては受益者等課税信託における受益者には該当しないこととなる。本通達の(2)及び(3)では、このことを明らかにしている。

5 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−7)を定めている。

【新設】 (受益者とみなされる委託者)

14−4−8 法第12条第2項((信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の帰属))の規定により受益者とみなされる者には、同項に掲げる信託の変更をする権限を現に有している委託者が次に掲げる場合であるものが含まれることに留意する。

(1) 当該委託者が信託行為の定めにより帰属権利者として指定されている場合

(2) 信託法第182条第2項((残余財産の帰属))に掲げる信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下14−4−8において「残余財産受益者等」という。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合

※下線部分が改正部分である。

【解説】

1 受益者等課税信託においては、受益者でなくても、実質的に受益者と同等の地位を有する者をみなし受益者として、受益者等課税信託における受益者と同一に取り扱うこととされている。具体的には、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限を除く。)を現に有し、かつ、信託財産の給付を受けることとされている者を受益者等課税信託における受益者とみなすこととされている(法12丸2)。

2 そこで、まず、信託の変更をする権限を有している者についてであるが、新信託法においては、信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができることとされている(新信託法149丸1)。したがって、信託の変更をする権限は、信託行為に別段の定めがない限り、委託者、受託者及び受益者が現に有することとなる。

3 次に、これらの者のうち、信託財産の給付を受けることとされている者であるかどうかが問題となる。新信託法において、残余財産の帰属すべき者となるべき者として指定された帰属権利者は、信託の清算中は受益者とみなされ、その信託の清算に当たって当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する(新信託法182丸1二、183丸1丸6)。このことから、帰属権利者は新信託法上の受益者ではないが、上述の「信託財産の給付を受けることとされている者」に該当することとなる。したがって、変更権限を現に有する委託者で信託行為の定めにより帰属権利者として指定されている場合には、当然に受益者等課税信託におけるみなし受益者に該当することとなる。
 また、信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者の指定に関する定めがない場合又は残余財産受益者若しくは帰属権利者の指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、新信託法上、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなすこととされている(新信託法182丸2)。したがって、これらの場合には、委託者は、帰属権利者として信託財産の給付を受けることとされている者に該当することとなるので、みなし受益者に該当することとなるのである。

4 すなわち、変更権限を現に有する委託者で、

  1. 丸1 当該委託者が信託行為の定めにより帰属権利者として指定されている場合
  2. 丸2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めに残余財産受益者若しくは帰属権利者として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合

のいずれかに該当する場合には、その委託者はみなし受益者に該当することとなる。本通達では、このことを明らかにしている。

5 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通18−4−8)を定めている。