第1 法人税基本通達関係

【改正】 (信託をしている有価証券)

2−3−16 法人が信託(金銭の信託及び退職給付信託を除く。)をしている財産のうちに当該法人が有する有価証券と種類及び銘柄を同じくする有価証券がある場合には、当該信託に係る有価証券と当該法人が有する有価証券とを区分しないで令第119条の2から第119条の4まで《有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法等》の規定を適用するのであるから留意する。

(注) 金銭の信託に係る有価証券には、次のようなものがある。

(1) 合同運用信託及び証券投資信託に係る有価証券

(2) 指定単独運用の金銭信託に係る有価証券

【解説】

1 本通達においては、現行法人税法の信託財産に係る課税上の考え方を前提として、法人が同一銘柄の有価証券の一部を手許に保有し、他の部分を信託財産として信託している場合は、その信託している有価証券についても、手許の有価証券と一括して有価証券の一単位当たりの帳簿価額等を計算する旨を明らかにしている。
 今回の改正において、退職給付信託に係る有価証券については、手許の有価証券と切り離して処理(いわゆる簿価分離)することができることを明らかにしている。

2 退職給付信託とは、退職一時金及び退職年金制度における退職給付債務の積立不足額(会計基準変更時差異)を積み立てるために保有資産を直接受託機関に信託するものであり、信託財産を退職給付に充てることに限定した他益信託である。また、事業主から法的に分離されており、信託財産の返還が禁止されている(平成11年9月14日付日本公認会計士協会「退職給付会計に係る実務指針(中間報告)」7)
 退職給付信託の設定は信託財産の所有権が委託者から受託者に移転することから、企業会計上は信託財産の時価による譲渡損益を計上することとされている。
 ところが、税法上は、信託法上の受益者が特定していない又は未だ存在していない場合に該当することから、信託財産は委託者が所有するものとして取り扱われる(法121二)。
 このため、法人が同一銘柄の有価証券の一部を手許に保有し、他の部分を退職給付信託の信託財産として信託している場合において、その有価証券の一単位当たりの帳簿価額は、手許の有価証券と信託している有価証券とを一括して計算するのか、あるいは、それぞれ別々に計算するのかが問題となる。

3 この点については、上記のとおり、会計上は有価証券を退職給付信託に拠出する時点において譲渡損益を計上して、拠出した資産は完全にオフバランスになるため、法人はその後手許の有価証券の帳簿価額のみを基に有価証券の譲渡原価を計算することとなること、退職給付信託に係る資産は事業主との間で現金による入替え又は時価が同等の他の資産との入替えは原則として認められず、拠出した資産が事業主に返還されないこと等から、手許の有価証券と信託している有価証券とをそれぞれ切り離して処理しても恣意的に利益調整が行われる可能性はない。
 そこで、本通達において、金銭の信託とともに退職給付信託についても、いわゆる簿価分離が認められる旨を明らかにしている。

4 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通2−3−16)を定めている。

【改正】 (普通株式と種類株式とが発行されている場合の銘柄の意義)

2−3−17 法人が、他の法人の発行する普通株式と種類株式とを有する場合において、その種類株式の権利内容等からみて、当該種類株式が普通株式の価額と異なる価額で取引が行われるものと認められるときには、当該種類株式は普通株式と異なる銘柄の株式として、令第119条の2第1項《有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出の方法》の規定を適用するものとする。

【解説】

 本通達においては、法人が他の法人の発行する普通株式と種類株式とを有する場合の有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出に関する取扱いを明らかにしている。
 平成13年の商法改正において、種類株式制度が見直され、優先株式をはじめとした種類株式の内容が多様化している。また、最近、会社再建支援の一手法としていわゆるデット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)が行われているが、この場合に発行される株式も種類株式が多いようである。
 このため実務においては、法人が他の法人の発行する普通株式と種類株式とを保有する場合に、その株式の一単位当たりの帳簿価額を算出するときには、これらの株式は同一銘柄の有価証券として一括して計算するのか、それぞれ異なる銘柄の有価証券として別個に計算することになるのか、といった疑問が生じる。
 この点については、種類株式は様々な権利内容のものが想定されるため、一慨にはいえないが、少なくとも種類株式の権利内容等からみて普通株式の取引価額とは明らかに異なる値動きをするようなものについては、これを区分して処理する方が合理的であると考えられる。
 そこで、本通達において、法人が、他の法人の発行する普通株式と種類株式とを有する場合において、その種類株式の権利内容等からみて、当該種類株式が普通株式の価額と異なる価額で取引が行われるものと認められるときには、当該種類株式は普通株式と異なる銘柄の株式として、有価証券の一単位当たりの帳簿価額を算出する旨を明らかにしている。
 なお、連結納税制度においても、同様の通達(連基通2−3−16の2)を新たに定めている。

戻る