平成15年7月
中企庁企画課

1. 事業内容

(1) 事業概要
 B社は、創業以来、自動車のギヤ、ギヤボックスの製造を中心に、自動車産業の興隆とともに成長を続けてきた。精密金属加工での高い技術力を背景に、平成元年には、ロボットの分野の特殊部品にも進出。現在では、汎用性の高い自動車部品(ギヤ、ギヤボックス)の製造とともに、ロボットなど工作機械向けの多品種少量の特殊部品(超小型ギヤ、ギヤボックス)の製造を行っている。ロボットなど工作機械向けの特殊部品については、大手の工作機械メーカーからも高い評価を受け、継続的な取引関係を築きつつあり、高い利益率をあげている。

(2) 経理内容概要
 経理内容については、現在、以下のとおり。

前年度売上高 50億円 従業員数 200人 資本金 8千万円 負債総額 50億3千万円(うち金融機関単名借入36億円) 債務超過額(実質) 16億2千万円 取引金融機関 (債権者) 5行 一般債務者 取引先数十社

(3) 経営困難に陥った理由
 平成5年にギヤボックスの納入先である自動車会社のマレーシア進出に伴い、B社でも現地法人を設立し、新たな工場建設のために20億円を投資した。この20億円の投資は、B社の当時の内部留保及び銀行からの借入により調達し、全額を現地法人の資本金としてB社が出資した。現地法人は、その後も借入による資金調達は行わず、資本金20億円の範囲内で運転資金も回している。自動車会社では、現地での新規の顧客開拓と日本への逆輸入による生産増を図ったが、折からの世界的な不況により売上増加は一時的なものに止まり、また、労務上の問題も発生し、海外進出は失敗に終わり、自動車会社は現地からの撤退を模索中。B社では、他の自動車会社への売り込みを図るなど経営努力を続けているが、現地法人は営業赤字が続いている。B社では、現地法人設立のための借入金による債務負担が資金繰りを圧迫し、取引各行より返済条件緩和を受けている状態。現地法人への出資の評価損など含み損が22億円あり、実質債務超過16.2億円。過剰債務負担が大きく、このままでは経営の継続が困難な状況にある。

(4) 事業価値
 B社がマレーシアで生産するギヤ及びギヤボックスは、大量生産ができ他の企業でも代替可能なため、苦戦。一方、国内工場で生産している工作用ロボットのための超小型ギヤボックスは、製造過程で特殊な技術が必要とされ、実用新案を取得している技術も持っており、技術力は非常に高く、競争力は高い。また、納入先である大手の工作機械メーカーからの評価も高く、継続的な取引関係を築きつつあり、メーカーから見ても存在意義は大きい。市場全体としても、今後、成長が見込まれる分野でもあり、設備投資を継続し、納入先と強固な関係を続けていくことにより、大きな収益源となると考えられる。

(5) 再建の可能性
 ロボットなど工作機械向けの特殊部品は、付加価値が高く、マーケットの需要は大きい。一方、この分野では技術の進歩が早く、ボックス製造のための鋳型、歯車製造のための研磨機など、設備を更新する必要がある。B社は、社長を中心として、高い技術力を有しており、技術開発の質とスピードには定評があることから、これまで利子の支払いにより抑制された設備投資や研究開発などに、十分な資源を投入することにより収益の増大が見込まれ、再建の可能性は高い。

(6) 私的整理を行うことの債権者にとっての経済合理性
 B社の納入先である大手の工作機械メーカーは、超小型ギヤボックスの仕入先を、その技術の特殊性からB社に大きく頼っている状況である。B社が商品を円滑に納入できない場合、全ラインが一時的に停止することとなり、メーカーの売上に与えるダメージは甚大である。さらに、民事再生法申請に伴う信用力の低下から、B社にギヤの原材料や部品を納入している業者においても、取引を控える企業が多く出現することが予想される。これらにより、民事再生法申請後にB社の売り上げが伸び悩み、円滑な債権回収に支障を来す恐れがある。
 また、B社に原材料や部品を卸している地元の金属材料卸業者などは、B社が仮に民事再生手続を行った場合に、それに伴う一定期間の取引停止に伴い大幅な売上高の減少を余儀なくされるほか、売掛債権の焦げ付きにより、地域経済全体へ連鎖的に悪影響を及ぼす恐れがある。B社に対して貸出を行っている地方銀行や信用金庫は、地元の金属材料卸業者などに対しても債権を有しており、B社が民事再生手続きなど法的整理を行うことによって、他の企業も連鎖的に業績を悪化させた場合には、金融機関はB社だけにとどまらないさらに大きな経済的な損失をこうむる可能性がある。

(7) 再建計画成立のプロセス
 業績の悪化を受け、B社から協議会に対して相談を持ちかけた。再建計画の策定にあたっては、銀行出身者や中小企業診断士など中小企業の再生について知見を有している常駐の支援業務責任者等が協議し、対応について決定した。その間、B社からメインバンクにも内々に相談の上、債権放棄を含めた再建計画の策定を考えている旨の理解を得た。B社が再建計画を策定するにあたっては、支援協議会の中に設置された個別支援チームに、メイン銀行から派遣された担当者、公認会計士、中小企業診断士が参加して、再建計画の策定に協力した。その際、素案のできた段階で、債務者及び協議会から主要3行の金融機関に相談を行い、全行の合意の上、その他2行も含めた全取引金融機関(及び返済延期を依頼する大口取引先)に対して、一時停止通知及び債権者会議開催通知を送付した。
 債権者会議においては、再建計画の内容について決定等を行った。

2. 損失負担の必要性

(1) 債務者は事業関連性のある「子会社等」に該当するか
 B社の再建計画に基づく債権放棄において、5行の金融機関はB社と取引関係、資金関係等を有しており、B社は事業関連性のある「子会社等」に該当するものと考えられる。

(2) 子会社等は経営危機に陥っているか
 B社は、16億2千万円の債務超過に陥っており、また、利子返済が財務状況を圧迫しているため、自力による再建が困難な企業であると考えられる。(別紙B/S、P/L参照(PDFファイル/86KB)

(3) 支援者にとって損失負担等を行う相当な理由はあるか
 B社においては、再建策を講じることなく倒産等により法的整理となった場合、債権者(各金融機関)の非保全債権の回収見込み総額が破産清算の場合503百万円、民事再生の場合、5年間の回収見込み額が500百万円、私的整理の場合、5年間の回収見込み額が850百万円となり、私的整理により再建を支援することは法的整理によるよりもその損失が少ないと見込まれる。各行ベースで見ても、A行B行をはじめ私的整理を行った方が経済合理的であることから、当該再建計画に基づく損失の負担には相当の理由があると考えられる。
 なお、本協議会手続においては、金融機関5行の債権者の適切な調整が予定されており、計画策定や調整に係る手続が効率化するため、本協議会手続の活用は、債権者にとっての経済的な合理性が補完されるものである。

3. 再建計画等の合理性

(1) 再建計画の具体的内容
 マレーシア現地法人は営業赤字を計上しており、今後も収益の改善の見込みが立たないことから整理することとし、マレーシア現地法人が負っている債務のほとんどにつきB社が保証を行っていることから、B社で損失を負担することとなる。一方、国内のロボットなど工作機械用の精密なギヤやギヤボックスに関する事業は、B社の有する高い技術を活かして十分採算がとれているが、これまで利息の支払いなどで抑制されていた設備投資や研究開発を積極的に行っていくことで、より競争力を高め、収益を向上させていく。
 事業のリストラ、資産の処理を積極的に進めることとしており、具体的には、国内工場の従業員の10人削減(200人→190人)、有価証券の清算(借入2億円返済、特損18億円)、国内工場を一部売却(土地1.5億円、建物2億円、特損4億円)、機械を廃棄(特損2億円)することとしている。
 計画策定直後は、自動車部品部門についての整理による売上高減等により若干の赤字を計上することとなるが、2年目からは、ロボットなど工作機械部門の新規の売上高増などにより営業黒字となる見込み。
 現在の債務超過額は、固定資産の含み損の処理や社長の個人資産(1億円)の提供等により16億2千万円である。工場整理に伴う機械の廃棄損(2億円)をプラスしたものから、毎年の予想経常利益(初年度−0.1億円、2年度以降1.0億円)による返済を勘案し、13億円の債権放棄をすることで、計画策定後5年目での債務超過解消を目指す。
 なお、債務超過解消までの期限については5年となっているが、競争力の高いロボットなど工作機械部門ギヤ及びギヤボックスに資源を集中し、これまで利息の支払いに圧迫され、十分になされなかった設備投資や研究開発による生産増で売上高、経常利益の増加を図ることで、大手工作機械メーカーとの取引をより強化なものとしていくこととしており、債務の円滑な支払いがなされる可能性は高い。一方で、B社は、債務超過解消のため処理可能な海外資産や、返済のためのキャッシュフローに限りがあることから、これらの事情を勘案し、債務超過解消までの期間を5年に定めたものである。
 また、私的整理ガイドラインにおいて、債務超過解消までの期間が3年とされているが、本件のような案件については、上述のとおり、再建可能性は高く、例外事例として問題はないものと考える。
 自己資本の増強については、株主責任の観点から100%減資を行った後、従業員や工作機械メーカーなどの取引先から出資をあおぐことにより、10百万円の増資を行う。今後の運転資金については、主力行から引き続き調達することとしている。

(2) 損失負担額(支援額)の合理性
 (1)で述べたように、B社の再建計画については、第三者の専門家を含む個別支援チームがその作成を支援しており、経営危機を回避し再建するための必要最小限の金額か、十分吟味したものである。吟味にあたっては、利益率の高い特殊部品への特化、海外部門の整理、国内工場の売却などのリストラの状況、現経営者からの不動産など個人資産の提供等を踏まえ、今後の返済計画を綿密に検討しているものである。
 なお、債権放棄割合については、各金融機関が協議の上、融資の割合に応じて行うこととしているが、各行のそれぞれの放棄額は非保全債権の額内にとどまっている。
 また、株主責任ついては、減増資を行って、既存株主の株主責任を明確にすることとしている。資本金を十分に増強するため、従業員や工作機械メーカーなどの取引先からの協力をあおぎ10百万円の増資を行う。

(3) 再建管理等の有無
 B社の再建計画については、協議会及び債権者に対して、年2回その状況を報告することとなっている。また、B社においては、社長は、当該分野に関する製造技術について卓越した知見を有するとともに、それを活かすための豊富な人脈を有しており、B社の再建に不可欠であることから、私的整理後も経営者として留任が必要である。一方、業務が窮地に陥った経営責任をとる観点から、社長はB社の債務に対して負っていた保証債務を履行することとし、主たる資産である社長宅、車売却の上、約1億円を提供し、手元には、賃貸住宅の賃料など、生活に必要な資産に限り残すこととする。これにより相応の経営責任を問うこととしている。加えて、取引先であるメーカーから役員の派遣を受け、メーカーとの連携強化を図るとともに、的確な経営が行われるよう、社内体制の整備を図ることとしている。

(4) 支援者の範囲の相当性
 B社の再建計画については、取引金融機関5行すべての同意を得ており、複数の金融機関等が債権者として関わっているので、相当であると考えられる。

(5) 負担割合(支援割合)の合理性
 債権放棄割合については、経営改善計画を実施する際の債権者間の負担割合に関しては、関与度合・取引状況等を考慮の上で、利害の対立する5つの金融機関の合意により成立したものである。具体的には、各債権者から「経営改善計画案同意書」の提出を受けており、各行の非保全債権の融資割合に応じ、37.9:31.0:17.2:10.4:3.5の負担割合で、合理的に決定されている、と考えられる。

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