(別紙)
令和6年12月23日

国税庁 課税部
審理室長 望月 千春 殿

中小企業庁事業環境部金融課長
野澤 泰志

1 照会の趣旨及び照会事項

中小企業活性化協議会(以下「協議会」といいます。)は、令和4年3月4日に策定された「中小企業活性化パッケージ」(経済産業省・金融庁・財務省)を受けて、同年4月1日に47都道府県に設置され、産業競争力強化法第134条の認定を受けた認定支援機関として、中小企業者(産業競争力強化法第2条第22項に規定する中小企業者をいい、常時使用する従業員数が300人以下の医療法人を含みます。以下同じです。)からの相談に対応し、再生計画の作成支援を行ってきました。
 協議会が行う各種支援事業については、その設置・運営体制や各種支援の内容等を定めた「中小企業活性化協議会実施基本要領」(以下「本基本要領」といいます。)が作成されています。そして、協議会は、再生支援を実施する場合、本基本要領「別冊2 再生支援実施要領」(以下「本要領」といいます。)に定める具体的な内容及び手続等に基づき行われることとされています。また、本要領に関し実務上留意すべき具体的な事項がQ&A(以下「本要領QA」といいます。)に定められています。
 つきましては、協議会が行う再生支援において、中小企業者に該当する個人事業者が次の2の手順に従って作成した事業再生計画(以下「再生計画」といいます。)に基づいて債務の免除を受ける場合におけるその免除を受けた金額は、所得税法第44条の2第1項の規定により、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないと考えて差し支えないかについて照会申し上げます。

2 照会に係る取引等の事実関係

(1) 対象債務者

協議会の実施する再生支援の対象となる債務者(以下「対象債務者」といいます。)は、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難であること等の要件を満たす中小企業者であることとされています【本要領2(1)】。
 なお、対象債務者は、法人に限られず個人事業者も含まれています。当該個人事業者は、民事再生法が定める再生手続開始の要件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にあることを照会の前提とします。

(2) 対象債権者

本要領に基づく手続の対象となる対象債権者は、対象債務者の取引金融機関等の債権者であって再生計画が成立した場合に金融支援の要請を受けることが予定されている債権者とされています【本要領2(1)A】。

(3) 統括責任者及びその役割

統括責任者とは、中小企業や事業の再生等に相当の知見と経験を有する者の中から地域の実情を考慮し、認定支援機関の長が選任する者をいい、協議会の再生支援等を行う支援業務部門に配置され、金融機関等及びその子会社からの出向者は選任できないこととなっています【本基本要領3(2)@A】。
 また、統括責任者が再生支援に係る職務を執行するに当たり、対象債務者又は対象債権者等との間に利害関係を有する場合、認定支援機関の長は、統括責任者補佐(中小企業や収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジ、経営企画、マーケティング、事業計画の立案等に知見を有する者の中から地域の実情を考慮し、認定支援機関の長が選任します。)の中から統括責任者の職務を代理する者を定めることとされています【本基本要領3(2)BC】。
 統括責任者は、対象債務者からの申出を受けて、主要債権者(対象債権者のうち対象債務者に対する債権額が上位のシェアを占める債権者をいいます。)の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当でないと判断した場合には、再生支援案件ごとに編成される個別支援チームに参画した弁護士等を活用し、対象債務者の財務面(資産負債及び損益の状況)及び事業面(これらを併せて以下「財務面等」といいます。)の調査分析・検証を踏まえた再生計画作成の支援等を行い、作成された再生計画案の内容の相当性及び実行可能性等について、調査し、対象債権者に報告して再生計画案について合意形成を図ることとなります【本要領2(2)、(4)@、(6)@、(7)D】。

  1. (4) 「再生計画」の作成手順等の概要

    本要領に基づく金融支援は、債権放棄等のほかリスケジュール等の様々な手法が考えられますが、債権放棄等を伴う再生計画を作成する場合には、以下の手順を経て当該再生計画が成立することが想定されます。

    1. イ 統括責任者又は統括責任者補佐は、窓口相談段階で把握した対象債務者の状況を基に、再生支援を行うことが適当であると判断した場合には、当該対象債務者の承諾を得て、主要債権者に対して再生可能性を説明し、意向を確認することになります【本要領2(2)@】。
    2. ロ 統括責任者は、主要債権者の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当ではないと判断した場合には、再生支援を行うことを決定し、支援を開始します【本要領2(2)A】。
    3. ハ 統括責任者は、対象債務者に対する再生支援を実施するため、統括責任者や統括責任者補佐の他、原則として外部専門家(事業再生に関する高度の専門的な知識と経験を有する弁護士、公認会計士、税理士、中小企業診断士等であって、認定支援機関が委嘱した者をいい、債権放棄等を伴う場合、弁護士及び公認会計士が含まれることになります。)から構成される個別支援チームを編成します【本基本要領3(3)B、本要領2(3)@】。
       なお、統括責任者は、統括責任者補佐が対象債務者又は対象債権者等との間に利害関係を有する等の場合には当該統括責任者補佐を個別支援チームの一員として参画させてはならず、外部専門家の活用に当たっては、対象債務者及び主要債権者との間に利害関係を有しない外部専門家を選定することとされています【本要領2(3)AB】。
    4. ニ 対象債務者は、個別支援チームの対象債務者に対する財務面等の調査分析を通じて把握した状況に基づく支援を受けて再生計画案を作成することになります。この場合、個別支援チームによる、対象債務者が実施した財務面等の調査分析に対する検証を通じて把握した状況に基づく支援を受けて再生計画案を作成することもできることとされています【本要領2(4)@AC、本要領QA25】。再生計画案の内容は、対象債務者の自助努力が十分に反映されたものであるとともに、企業の概況、財務状況の推移、実態貸借対照表、経営が困難になった原因、事業再生のための具体的内容、今後の事業見通し、資金繰り計画、債務弁済計画、債権放棄等の金融支援の内容及び保証人がいる場合はその資産と負債の状況を含むものとされています【本要領2(5)@】。
       また、経営責任及び株主責任の明確化を図る内容であること【本要領2(5)DE】、加えて、破産手続で保障されるべき清算価値よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとって経済的合理性のある内容であることが求められます【本要領2(5)G】。
       更に、再生計画案における権利関係の調整は、債権者間で平等であることを旨とし、債権者間の負担割合については、衡平性の観点から、個別に検討することとされています【本要領2(5)F】。
    5. ホ 統括責任者は、個別支援チームに参画した外部専門家である弁護士を活用して、再生計画案の内容の相当性、実行可能性及び金融支援の必要性等について調査し、調査報告書を作成の上、対象債権者に提出し報告することになります【本要領2(3)B、(6)@A、本要領QA33】。
    6. ヘ 対象債務者により再生計画案が作成された後、全ての対象債権者による債権者会議を開催し、統括責任者は、当該債権者会議で対象債権者全員に対し再生計画案の調査結果を報告するとともに、再生計画案の説明、質疑応答及び意見交換を行うこととなります【本要領2(7)@】。
       そして、全ての対象債権者が、再生計画案に同意し、その旨を文書等により確認した時点で再生計画は成立し、対象債務者は再生計画を実行する義務を負担し、対象債権者の権利は、成立した再生計画の定めにより変更され、対象債権者は、再生計画に従った債権放棄等をすることとなります【本要領2(7)A】。
    7. ト 支援業務部門は主要債権者と連携の上、必要に応じて、外部専門家の協力を得て、再生計画成立後の対象債務者の再生計画達成状況等についてモニタリングを行うこととされ、モニタリング期間は原則として再生計画が成立してから概ね3事業年度を目途とし、必要な期間が定められます。また、支援業務部門は、対象債務者の再生計画達成状況等を踏まえ、その後のモニタリングの要否を判断することとなります【本要領4(1)@BD】。

3 照会者の求める見解となることの理由

個人事業者が債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額は、所得税法第36条第1項に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当するため(所基通36―15(5))、原則として、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されます。
 ただし、当該個人事業者が「破産法に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があった場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」にその有する債務の免除を受けたときは、当該免除により受ける経済的利益の価額については、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないこととされています(所法44の2@)。この「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」をいうこととされています(所基通44の2―1)。
 この点、以下の(1)ないし(3)を踏まえれば、再生計画に基づき対象債務者である個人事業者が債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額は、所得税基本通達44の2―1の「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」に該当することから、所得税法第44条の2第1項の規定により、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないと考えます。

  1. (1) 上記2(1)のとおり、対象債務者となる個人事業者は、民事再生法が定める再生手続開始の要件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にありますので、民事再生法による再生手続の対象者と同様に資力を喪失している者であると認められます。
  2. (2) 上記2(4)ニのとおり、再生計画案は、破産手続で保障されるべき清算価値よりも多くの回収を得らえる見込みがある等、対象債権者にとって経済合理性のある内容であることが求められるため、再生計画に基づく債権放棄額は、民事再生法による再生手続と同様に破産手続による債権の免責額と同等以下となるように設定することとなります。
  3. (3) 上記2(4)ニ及びホのとおり、再生計画案は外部専門家を含む個別支援チームの支援の下に作成され、外部専門家弁護士により検証されることからすれば、再生計画に基づく債務免除額は、再生手続の対象となり得る者に対して、再生手続による債権の切捨額と同等の債務免除をするものと認められます。
  4. (注) 【 】は参照すべき本基本要領、本要領及び本要領QAの該当部分を示しています。

以上

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