(別紙)
令和6年12月23日
国税庁 課税部
審理室長 望月 千春 殿
中小企業の事業再生等に関する研究会
座 長 小林 信明
当研究会は、令和3年6月に公表された「成長戦略実行計画」を受け、中小企業者(中小企業基本法第2条第1項に規定する中小企業者をいい、常時使用する従業員数が300人以下の医療法人を含みます。以下同じです。)の事業再生・事業廃業(これらを併せて、以下「事業再生等」といいます。)に関し、関係者間の共通認識を醸成し、事業再生等に係る総合的な考え方及び具体的な手続等として、別添の「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」といいます。)及び同ガイドラインと一体的に定められている「『中小企業の事業再生等に関するガイドライン』Q&A」(以下「QA」といいます。)を取りまとめ、令和4年3月に公表しています(本ガイドラインは、それまでの活用実績を踏まえ、令和6年1月17日に一部改定を行っております。)。
本ガイドラインは、その目的を定めた第一部、基本的な考え方を示した第二部、私的整理手続を定めた第三部から構成され、第三部の「中小企業の事業再生等のための私的整理手続(中小企業版私的整理手続)」では、破産手続、再生手続、更生手続又は特別清算手続等の法的整理手続によらずに、債務者である中小企業者と債権者である金融機関等の間の合意に基づき、主として金融債務について返済猶予・減免等を受けることにより、当該中小企業者の円滑な事業再生や廃業を行うことを目的とする私的整理の手続(以下、事業再生に係る私的整理手続を「再生型私的整理手続」といいます。)を定めたものであり、また、QAは、具体的な実務を行う上で留意すべき事項等を当研究会においてとりまとめたものです。
当研究会としましては、本ガイドラインの中小企業版私的整理手続(再生型私的整理手続及び廃業型私的整理手続)が円滑に運用されるため、当該手続に関する税務上の取扱いを検討する必要があると考えます。
つきましては、再生型私的整理手続において、中小企業者に該当する個人事業者が次の2の手順に従って策定された事業再生計画(以下「本件事業再生計画」といいます。)に基づいて債務の免除を受ける場合におけるその免除を受けた金額は、所得税法第44条の2第1項の規定により、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないと考えて差し支えないか、ご照会申し上げます。
再生型私的整理手続の対象となる債務者(以下「対象債務者」といいます。)は、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生ずることで経営困難な状況に陥っており、自助努力のみによる事業再生が困難であること等の要件を満たす中小企業者であることとされています【第三部3(1)】。
なお、再生型私的整理手続における対象債務者は、法人に限られず個人事業者も含まれています【第三部3(2)@】。当該個人事業者は、民事再生法が定める再生手続開始の要件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にあることを照会の前提とします。
再生型私的整理手続の対象となる債権者は、対象債務者に対して金融債権を有する取引金融機関等で事業再生計画が成立した場合に権利を変更されることが予定されている債権者とされています【第一部3、第三部1(1)】。
第三者支援専門家とは、対象債務者及び対象債権者との間に利害関係を有しない弁護士、公認会計士等の専門家であって、再生型私的整理手続を遂行する適格性を有し、その適格認定を得たものをいいます。第三者支援専門家は、対象債務者からの申出を受けて、主要債権者(※)の意向を踏まえて、再生支援を行うことが不相当でないと判断した場合には、対象債務者の資産負債や損益の状況の調査検証や事業再生計画策定の支援等を行い、策定された事業再生計画案の内容の相当性及び実行可能性等について調査し、対象債権者に報告して事業再生計画案について合意形成を図ることとなります【第三部4(1)、(5)@、(6)B】。
※ 主要債権者とは、対象債務者に対する金融債権額が上位のシェアを占める対象債権者で金融債権額のシェアが最上位の者から順番に、そのシェアの合計額が50%以上に達するまで積み上げた際の単独又は複数の対象債権者をいいます【第三部2(5)】。
再生型私的整理手続に基づく金融支援は、債権放棄等のほかリスケジュール等の様々な手法が考えられますが、債権放棄等を伴う事業再生計画を策定する場合には、以下の手順等を経て計画が成立することが想定されています。
個人事業者が債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額は、所得税法第36条第1項に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当するため(所基通36―15(5))、原則として、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されます。
ただし、当該個人事業者が「破産法に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があった場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」にその有する債務の免除を受けたときは、当該免除により受ける経済的利益の価額については、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないこととされています(所法44の2@)。この「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」をいうこととされています(所基通44の2―1)。
この点、以下の(1)ないし(3)を踏まえれば、本件事業再生計画に基づき対象債務者である個人事業者が債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額は、所得税基本通達44の2―1の「破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合」に該当することから、所得税法第44条の2第1項の規定により、当該個人事業者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないと考えます。
以上