別紙

平成28年5月20日

T 特定支援業務の経緯

株式会社地域経済活性化支援機構法の一部を改正する法律(平成26年法律第37号)が、平成26年5月9日に成立し、同月16日に公布された。同法は10月14日から施行され、株式会社地域経済活性化支援機構(以下「機構」という。)は、同法に基づいて、新たに特定支援業務(株式会社地域経済活性化支援機構法(以下「法」という。)第32条の2)を行うことができるようになった。

この特定支援業務は、機構が、事業者及びその債務の保証をしている代表者等(当該事業者の債務の保証をしている代表者、代表者の配偶者、取締役又は取締役と同等以上の職権若しくは支配力を有すると認められる者をいう。以下同じ。)並びに事業者に対する債権を有する金融機関から申込みを受けて、株式会社地域経済活性化支援機構支援基準(以下「支援基準」という。)に従って特定支援決定を行った場合に、債務整理の対象となる金融機関から、代表者等の保証付貸付債権等を適正な時価で買い取り、又は弁済計画への金融機関の同意を取り付けて、経営者保証に関するガイドライン(以下「経営者保証ガイドライン」という。)(注)に基づいて主たる債務及び保証債務の一体整理を図り、代表者等の再チャレンジ支援を行うものである。

特定支援業務は、法、株式会社地域経済活性化支援機構法施行令、株式会社地域経済活性化支援機構法施行規則、支援基準及び特定支援規程(以下「規程」といい、特定支援業務を規定する法令等をまとめて「支援基準等」という。)に従い、具体的には、下記Uの5の特定支援業務による債務整理手続(手順)のとおり行われる。

(注)中小企業の経営者保証に関する契約時及び履行時等における中小企業、経営者及び金融機関による対応について、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的自律的な準則として平成25年12月に策定・公表された準則。

U 特定支援業務の概要

1 対象となり得る債務者

特定支援業務の対象となり得る債務者は、

1 過大な債務を負っており、既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること(事業者が法人の場合は債務超過である場合又は近い将来において債務超過となることが確実と見込まれる場合を含む。)(支援基準V1)。

(注)上記の「既往債務を弁済することができない」とは破産手続開始の原因となる「支払不能」若しくは「債務超過(事業者が法人の場合)」(破産法第2条第11項、第15条、第16条、第30条第1項)又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」(民事再生法第21条第1項、第33条第1項)と同様の状態にあることを前提としている。

2 申込事業者の代表者等が、金融機関等と協力して新たな事業の創出その他の地域経済の活性化に資する事業活動の実施に寄与するために必要な当該事業者及びその代表者等の債務(代表者等の債務にあっては、当該事業者の債務の保証に係るものに限る。)の整理を行おうとする場合であること(支援基準V2)。

といった一定の要件を備える事業者としている。

2 対象債権者

対象債権者は、特定支援業務の対象となった事業者の債権者である金融機関等のうち弁済計画に基づく事業者及びその代表者等の債務の整理のために協力を求める必要があると認められる債権者(以下「関係金融機関等」という。)としている(法第32条の3第1項)。

3 特定支援チーム及び特定支援業務室

特定支援業務は地域経済活性化支援部特定支援チーム(以下「特定支援チーム」という。)及び資産管理部特定支援業務室(以下「特定支援業務室」という。)が行う(規程第3条第1項)。

特定支援チームは、機構内部や外注による資産査定等を通じ、事業者及び保証人の状況を把握し、弁済計画の策定を支援するほか、次に掲げる業務を行う。ただし、必要に応じて外部専門家に委託することができる(規程第3条第2項)。

1 特定支援の申込受付

2 事業者及びその代表者等の財産の状況(以下「財産の状況」という。)の査定

3 弁済計画の内容の確認

4 特定支援決定基準、経営者保証ガイドライン及び買取決定基準に係る内容の審査

5 特定債権買取りに係る債権の買取価格の調整

6 債務の整理のために必要な債権者間の調整

7 その他必要と認められる業務

特定支援業務室は、次に掲げる業務を行う。ただし、必要に応じて外部専門家に委託することができる(規程第3条第3項)。

1 特定債権買取りに係る債権の買取価格の調整

2 債務の整理のために必要な債権者間の調整

3 特定債権買取りにより買い取った債権の管理回収その他の処分

4 その他必要と認められる業務

4 特定支援専門家

機構は、専門的な知見及び第三者の観点から適正かつ公正な評価を行うために、債務の整理に必要な専門的な知識を有するものを案件の都度任命する(以下、任命された者を「特定支援専門家」という。)(規程第6条第1項)。

この特定支援専門家のうち2名は、弁護士及び公認会計士により構成され、対象案件と利害関係を有する者及び当該案件に係る弁済計画の策定支援業務を行った者は、当該案件の特定支援専門家になることができない(規程第6条第2項、第3項)。

特定支援専門家は、特定支援チームが行った次に掲げる業務に関して、支援基準及び経営者保証ガイドラインに照らして、その内容に問題がないか確認し、評価を行う(規程第7条第1項)。

1 財産の状況の査定

2 弁済計画の内容の確認

3 特定支援決定基準及び経営者保証ガイドラインに係る内容の審査

5 特定支援業務による債務整理手続(手順)

(1) 事業者、代表者等及び関係金融機関等が機構に対し、連名で、事業者及び代表者等の債務の弁済に関する計画(以下「弁済計画」という。)を付して、特定支援の申込みを行う(法第32条の2第1項、第2項)

(2) 機構は、案件の都度特定支援専門家を任命し、特定支援専門家が弁済計画の内容や財産状況の査定内容等について確認・評価を行う(規程第6条、第7条)。

(3) 機構は、支援基準に従って、上記(2)の確認・評価を踏まえて、特定支援をするかどうかの決定を行う(法第32条の2第3項)。

(4) 機構は、関係金融機関等を選定し、また、事業者及び代表者等の債務の整理のために債権買取りや債権放棄の同意が必要と認められる債権の額(必要債権額)を決定する(法第32条の2第3項)。

(5) 機構は、関係金融機関等に対して、弁済計画を示して、当該関係金融機関等が事業者に対して有する全ての債権につき、債権の買取りの申込み又は弁済計画に従って債権放棄をすることの同意をするように求める(法第32条の3第1項)。

(6) 機構は、債務の整理の円滑な実施に必要な場合は、全ての関係金融機関等に対して、上記(5)の求めに併せて、上記買取りの申込み又は弁済計画への同意が行われる期間(買取申込み等期間)中回収等をしないことの要請を行う(法第32条の4第1項)。

(7) 機構は、関係金融機関等からの債権買取りの申込みに対して、支援基準に従って、債権買取り(特定債権買取り)をするかどうかを決定する(法第32条の5第1項)。なお、機構は、買取りすることができると見込まれる債権の額及び債権放棄の同意がなされる債権の額の合計額が必要債権額に満たない場合は、特定債権買取りをする旨の決定(買取決定)を行うことができず、その場合は、特定支援決定を撤回しなければならない(法第32条の5第2項、第32条の8第1項第2号)。

(8) 特定債権買取りを行う機構及び債権放棄に同意した関係金融機関等は、機構が債権買取りを実行した後、速やかに弁済計画に示された弁済額を超える部分の債権を放棄する。

また、代表者等が弁済計画に示された保証履行を完了した後には、速やかに代表者等の保証債務の一部履行後に残存する保証債務を免除する(規程第25条)。

(注)事業者が法人である場合には、通常、機構が弁済計画に従い債権買取りを実行した後、速やかに特別清算手続により債権の切り捨てが行われる。

(9) 機構は、買取決定に基づき買い取った債権について、管理及び譲渡その他の処分を行う(特定支援決定から5年以内に完了する。)(法第22条第1項第9号、第33条第2項第1号)。

6 特定支援業務による債務整理

特定支援業務における債務の整理は、

1 事業者及びその代表者等が弁済について誠実であり、関係金融機関等及び機構に対してそれぞれの財産状況(負債の状況を含む。)に関して、適時に、かつ、適切な開示を行っていること(支援基準V3(1)、規程第15条第2項(3)1)。

2 事業者の主たる債務及び代表者等の保証債務について、破産手続による場合の配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、関係金融機関等にとっても経済的な合理性が期待できること(支援基準V3(2)、規程第15条第2項(3)2)。

3 代表者等に破産法(平成16年法律第75号)第252条第1項各号(第10号に掲げる事由を除く。)に掲げる事由が生じておらず、又はそのおそれもないこと(支援基準V3(3)、規程第15条第2項(3)3)。

4 代表者等は、全ての関係金融機関等に対して、代表者等の資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証を行うこととし、また、経営者保証ガイドラインの定める保証人の手元に残すことのできる残存資産を除いた財産を処分するものとして弁済計画が策定されていること(支援基準V3(4)、規程第15条第2項(3)4ロ、第25条(1))。

5 事業者が清算することを前提として財産を処分・換価する(個人事業者である場合は、全ての関係金融機関等に対して、個人事業者の資力に関する情報を誠実に開示し、開示した情報の内容の正確性について表明保証を行うこととし、また、破産法第34条第3項その他の法令により破産財団に属しないとされる財産(いわゆる「自由財産」)及び同条第4項に基づく自由財産の拡張に係る裁判所の実務運用に従い、通常、自由財産とされる財産を除いた全ての資産を処分・換価する(処分・換価の代わりに、「公正な価額」に相当する額を弁済する場合を含む。))ものとして弁済計画が策定されていること(支援基準V3(5)、規程第15条第2項(3)5)。

6 代表者等が開示し、その内容の正確性について表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合(代表者等の資産の隠匿を目的とした贈与等が判明した場合を含む。)には、免除した保証債務及び免除期間分の延滞利息も付した上で、追加弁済を行うことについて、代表者等と関係金融機関等が合意し、書面での契約を締結していること(規程第25条(4))。また、事業者が個人である場合において、個人事業者が開示し、その内容の正確性について表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合(個人事業者の資産の隠匿を目的とした贈与等が判明した場合を含む。)には、免除した債務及び免除期間分の延滞利息も付した上で、追加弁済を行うことについて、個人事業者と関係金融機関等が合意し、書面での契約を締結していること(規程第15条第2項(3)5(注)4)。

といった一定の要件を満たすものでなければならない。なお、弁済計画における関係金融機関等の債権切捨率は基本的には一律となる(規程第15条第3項)。

7 保証債務の免除

特定債権買取りを行った機構及び債権放棄に同意した関係金融機関等は、代表者等が弁済計画に示された保証履行を完了した後には、速やかに代表者等の保証債務の一部履行後に残存する保証債務を免除する(規程第25条)。

V 照会事項(照会者の求める見解の内容)

特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により債権放棄が行われた場合、その債権放棄に係る関係金融機関等、事業者及び代表者等の税務上の取扱いは、次のとおりと解して差し支えないか。

なお、当該特定支援業務が支援基準等に適合したものであることを本件の照会の前提とする。

(注)支援基準V3(6)に該当する場合については、本照会の対象としていない。

1 関係金融機関等

関係金融機関等が複数存在する場合において、弁済計画には同意するものの債権買取りを希望しない関係金融機関等の有する債権については、弁済計画に従って上記U5(8)のとおり債権放棄を行うこととなる。この場合に関係金融機関等が債権放棄したことにより生じた損失は、法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)の(3)ロにいう「法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイ(合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの)に準ずるものにより切り捨てられることとなった部分の金額」に該当することから、法人税法上、債権放棄の日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入される。

(注)事業者が法人である場合には、通常、機構が弁済計画に従い債権買取りを実行した後、速やかに特別清算手続により債権の切り捨てが行われるところ、この場合の債権の切り捨てについては、法人税基本通達9-6-1(2)の場合に該当することが明らかであるため、本照会の対象とはしない。

2 事業者(個人)

事業者が個人である場合において、債務免除を受けたことによる債務免除益は、所得税法第44条の2(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入)にいう「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたとき」に該当することから、所得税法上、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。

(注) 同条第2項に該当している場合には、事業者が受けた債務免除額のうち同条第2項に掲げる金額についてはこの限りではない。

3 代表者等

(1) 保証債務の特例(所得税法第64条第2項)

イ 制度の概要

保証債務を履行するため資産(棚卸資産等を除く。)の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)をその年分の譲渡所得等の金額の計算上、なかったものとみなすこととされている。

この保証債務の特例を適用するための要件を整理すると、

1 資産の譲渡時に保証債務契約が存在していたこと。

2 資産を譲渡してその譲渡代金でその保証債務を履行したこと又は当該資産により保証債務を代物弁済したこと。

3 その保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこと。

の全ての要件を満たすこととされている。

ロ 機構の見解

特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により代表者等の個人資産を譲渡し、その譲渡代金により保証債務を履行する場合がある。具体的には、代表者等が事業者に貸し付けている個人所有の資産(以下「事業用資産」という。)を、当該事業者の関係金融機関等からの借入金の担保に供している場合において、代表者等が当該事業用資産を担保権負担付のまま当該事業者に担保権負担がないものとして算定した適正な時価により有償で譲渡するときに、代表者等は受け取った譲渡代金により、債務超過である当該事業者の保証債務を履行し、あるいは、代表者等が関係金融機関等に対して当該事業用資産による代物弁済を行うことにより、債務超過である当該事業者の保証債務を履行することなどが考えられる。

この場合、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により保証債務の履行が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合において、当該事業者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》の規定による保証債務の特例の適用がされる。

(2) 保証債務の消滅

代表者等の保証債務は、特定支援業務に基づいて作成・成立する弁済計画に示された保証履行が完了した後、残存する保証債務が免除されることとなる。また、代表者等の個人資産が事業者の借入金の担保に供されている場合も、弁済計画に示された保証履行が完了した後、当該担保権を消滅させることなる。

この場合、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画に基づき、特定債権買取りを行った機構及び債権放棄に同意した関係金融機関等が主たる債務者である事業者から残債務を回収できる見込みである場合には、個人保証の免除や担保権の消滅による代表者等に対する利益供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じない。また、このように代表者等に対する利益供与がないことからすれば、原則として機構、関係金融機関等及び当該事業者において寄附金課税(法人税法第37条)の対象となることはない。

W 照会者意見(照会者の求める見解となる理由)

1 関係金融機関等

法人税基本通達9-6-1(3)ロによれば、法人の有する金銭債権について、法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものにより切り捨てられることとなった部分の金額は、その事実が発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入することとされている。

特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により債務免除(債権放棄)が行われた場合において、当該弁済計画が支援基準等に適合したものであることを本照会の前提とすれば(上記V参照)、当該弁済計画の成立に至るまでの手続、当該弁済計画の対象となる事業者、代表者等及びその債権放棄額については、次の事実が認められることとなる。

1 民事再生法における再生計画は、再生手続開始の申立て、裁判所及び裁判所の選任する監督委員(又は個人再生委員)の監督の下で行われる財産状況等の調査手続を経た再生計画案の提出及び再生債権者の同意を経た認可決定により成立する。この点、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画は、債務整理の申出、特定支援専門家による確認及び機構の特定債権買取り又は関係金融機関等の同意という手続により成立することから、民事再生法による再生計画に係る一連の手続に準じて成立するものであること(上記U5)。

2 当該事業者は、過大な債務を負っており、既往債務を弁済することができないこと又は近い将来において既往債務を弁済することができないことが確実と見込まれること(事業者が法人の場合は債務超過である場合又は近い将来において債務超過となることが確実と見込まれる場合を含む。)から(上記U11)、破産手続開始の原因となる「支払不能」(破産法第2条第11項、第15条、第30条第1項)又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」(民事再生法第21条第1項、第33条第1項)と同様の状態にあること(上記U11(注))。

3 関係金融機関等が行う債権放棄額は、破産手続による債権の免責額よりも少額となること(上記U62)からすれば、再生計画不認可決定事由の一つである「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」(民事再生法第174条第2項第4号)に該当しないよう破産手続による弁済額以上の弁済をすること(債権の切捨額が破産手続による債権の免責額と同等以下であること)が求められる民事再生手続による債権の切捨額と同等と認められるほか、弁済計画における関係金融機関等の債権切捨率は基本的には一律とされ、債権者間において平等又は衡平と認められるものとなること(上記U6)。

4 代表者等は、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画に従って保証履行しなければならないこと(上記U7)。

5 事業者が上記2の状態にあること、債権放棄額が上記3に合致した金額であること、上記4の保証履行を求める金額など、弁済計画が支援基準等に適合したものであることを第三者の観点から特定支援専門家が確認した上で、機構が特定支援決定を行うこと(上記U4)。

以上の事実からすれば、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により債権放棄が行われた場合には、その手続は民事再生法による再生計画に係る一連の手続に準じており、対象となる事業者は破産法又は民事再生法による債務整理の対象となる者であるとともに、その債権放棄額も破産手続による免責額の範囲内であり、代表者等から保証債務の履行を求めることから、当該弁済計画による債権放棄額については合理的な基準により債務者の負債整理を定めているものにより算出された債権放棄額に該当すると解される。

また、第三者の観点から特定支援専門家がその内容を確認した上で、機構が特定支援決定を行い、複数の関係金融機関等が同意した当該弁済計画に基づき債権放棄が行われることからすれば、行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が合理的な基準によるもの(法人税基本通達9-6-1(3)ロ)による債権放棄額であると認められる。

したがって、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により行われる債権放棄額は、法人税基本通達9-6-1の(3)ロを根拠として、法人税法上、貸倒れとして損金の額に算入されることとなる。

2 事業者(個人)

(1) 債務免除益に係る所得税法上の取扱い

個人が債務免除を受けた場合の債務免除益については、所得税法第36条第1項かっこ内に規定する「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」に該当し、原則として、各種所得の金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入することとなる(所得税基本通達36-15(5))。

ただし、「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたとき」は、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないこととされている(所得税法第44条の2第1項)。

そして、この「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」とは、破産法の規定による破産手続開始の申立て又は民事再生法の規定による再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の規定による免責許可の決定又は民事再生法の規定による再生計画認可の決定がされると認められるような場合をいうこととされている(所得税基本通達44の2-1)。

(2) 所得税法第44条の2への当てはめ

特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により債務免除を受けることとなる事業者は、上記12のとおり、破産手続開始の原因となる「支払不能」又は民事再生手続開始の条件である「破産手続開始の原因(支払不能)となる事実の生ずるおそれがあるとき」と同様の状態にある者とされ、民事再生手続の対象者又はそれよりも資力を喪失している者が対象となっている。

また、特定支援業務による債権放棄額(債務免除額)は、上記13のとおり、民事再生法による再生手続と同様に破産手続による債権の免責額と同等以下となるように設定することとなる。

さらに、これらのことにつき、利害関係のない中立かつ公正な立場の特定支援専門家により確認されていることが照会の前提であることからすれば、特定支援業務による債務免除額は、民事再生手続の対象となり得る者に対して、民事再生手続による債権の切捨額と同等の債務免除をするものと認められる。

したがって、特定支援業務による債務免除を受けた事業者に係る債務免除益については、民事再生手続による債権の切捨額と同様に、所得税法第44条の2第1項にいう「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合にその有する債務の免除を受けたとき」に該当し、その債務免除益は、同項により各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入されないこととなる。

3 代表者等(保証債務の特例)

特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により代表者等の個人資産を譲渡し、その譲渡代金により保証債務を履行することがあるが、この場合、V3(1)のとおり、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画に基づき保証債務の履行が行われることを前提とすれば、代表者等が保証債務の履行により取得した求償権を書面によって放棄した場合において、当該支援対象者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、平成14年12月25日付照会回答「保証債務の特例における求償権の行使不能に係る税務上の取扱いについて」(以下「平成14年照会回答」という。)に照らしても、下記(2)のとおり原則として求償権の行使は不能であり、代表者等の課税関係においては所得税法第64条第2項の規定による保証債務の特例が適用される。

(1) 求償権行使不能の判定における税務上の取扱い

法令等の手続によらない求償権の放棄について法人が求償権の放棄を受けた後も存続し、経営を継続していたとしても、次の全ての状況に該当すると認められるときは、その求償権は行使不能と判定することとされている(平成14年照会回答)。

イ その代表者等の求償権は、代表者等と金融機関等他の債権者との関係からみて、他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情により、放棄せざるを得ない状況にあったと認められること。

ロ その法人は、求償権を放棄(債務免除)することによっても、なお債務超過の状況にあること。

(2) 照会の場合

本照会の場合、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画に基づき行われる求償権の放棄であり、次の事情を考慮すれば、平成14年照会回答でいうところの「他の債権者の有する債権と同列に扱うことが困難である等の事情」により求償権は放棄せざるを得ない状況にあったと認められることから、事業者が求償権の放棄を受けた後においてもなお債務超過の状況にあるときは、当該求償権の放棄は、原則として「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」(所得税法第64条第2項)に行われたものと解することが相当であり、代表者等について保証債務の特例が適用される。

イ 求償権の放棄は、株主又は経営者責任の明確化の観点から行われるものであり、特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画により機構及び関係金融機関等が事業者に対して債権放棄を行うことが前提となっていること。

ロ 事業者は自力による経営の再建が困難な状況にあり、仮に代表者等が求償権の放棄に応じず特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画が成立しなければ、事業者及び代表者等は破産手続により清算することになることが想定されるが、この場合には、代表者等は特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画で予定されていた求償権の放棄を含む私財提供よりも多額の損失負担を求められることは必至の状況であると考えられること。

4 代表者等(保証債務の消滅)

特定支援業務に基づいて作成・成立した弁済計画に基づき、特定債権買取りを行った機構及び債権放棄に同意した関係金融機関等が事業者から残債務を回収できる見込みである場合には、残債務に付されている担保権の消滅や個人保証の免除を行ったとしても、偶発債務の免除等にすぎず、関係金融機関等及び特定債権買取りを行った機構から代表者等に対する利益供与はないことから、所得税法第36条に規定する収入の実現はなく、原則として代表者等に所得税の課税関係は生じないこととなる。

また、代表者等に対する利益供与がないことから、原則として機構、関係金融機関等及び当該事業者において寄附金課税(法人税法第37条)は生じないこととなる。