別紙

平成24年6月14日

国税庁課税部審理室長
住倉 毅宏 殿

一般社団法人 信託協会
専務理事 上野 宏

1 照会の趣旨

受益証券発行信託(信託法第185条第3項)を利用した具体例の一つとして、外国会社等が、その発行する外国株式等を本邦金融商品取引所に直接上場する代わりに、当該外国株式等を信託財産とする法人税法第2条第29号ハに規定する特定受益証券発行信託(以下「本件JDR」といいます。)を設定し、その受益権を本邦金融商品取引所に上場する仕組みがあります。
 本件JDRは、その信託行為において、受託者が外国株式等の配当等を受領後、受益者に収益の分配金として遅滞なく交付することとしますが、この収益の分配金の収入すべき時期については、受益者に収益の分配金を交付することとされている日である信託行為に定めた弁済期と考えておりますが、念のため照会します。

2 照会に係る事実関係

本件JDRの概略は次のとおりです(別添1(PDF/160KB)参照)。

  • (1) 委託者(証券会社)が外国株式等(以下「原株等」といいます。)の引受けを行い、発行会社に対して原株等の払込金の支払を行う。なお、原株等は現地の証券保管機関(カストディアン)において保管を行う。〔別添1(PDF/160KB)13
  • (2) 委託者は、受託者(信託銀行)に原株等を信託財産とする本件JDRを設定し(注1)、その受益権を本邦金融商品取引所に上場して投資家(受益者)に販売する。〔別添1(PDF/160KB)47
  • (3) 本件JDRに係る信託行為において、次のような定めをおくこととする。
  • イ 原株等の配当等に係る基準日と同日(又は実務上可能な近接日。以下同じ。)を本件JDRの収益の分配金に係る権利確定日とする(注2)。
  • ロ 当該権利確定日における受益者を、当該原株等の配当等を原資とする収益の分配金を受け取る権利者とする。
     なお、当該権利確定日における受益者が当該権利確定日後に本件JDRの受益権を譲渡した場合であっても、収益の分配金を受け取る権利は移転しない。
  • ハ 受託者は、信託の計算期間中に原株等の配当等(外貨)を受領した場合、これを遅滞なく円転するとともに、権利確定日における受益者に対する分配金の額を計算し(注3)、当該信託期間中の一定の弁済期(注4)において、当該受益者に対して、当該分配金の額を通知し支払を行う(別添2(PDF/127KB)参照)。
  • ニ 信託の計算期間は、1年を超えない範囲で信託行為において定める期間とする(注5)。

(注)

  • 1 原株等の発行会社以外の外国会社等の発行する株式等を、別途本件JDRの信託財産とすることはありません。
  • 2 権利確定日は、弁済期(下記注4参照)より以前の日となりますが、原株等の配当等が期末の利益処分による配当等(期末配当)に当たる場合には、権利確定日はその弁済期を含む信託の計算期間の前計算期間の末日とし、また、原株等の配当等が中間配当など期中における配当等に当たる場合には、権利確定日はその計算期間中の日とする予定です。
  • 3 収益の分配金の額は、分配金の振込費用や計算書作成費用等に充当するための一定の信託報酬を控除した金額となります。この場合の信託報酬の額は、受益者の保有口数に応じて定額とし、配当等の額が信託報酬の額に満たない場合には、分配金は支払われないものとします。なお、その他の信託報酬や上場費用などは、原株等の発行会社が負担することとなります。
  • 4 本件JDRにおける「弁済期」は、受託者が権利確定日における受益者に対して収益の分配金の額の通知を行う日のことをいい、信託行為において、受託者が配当金を受領後、円転、信託報酬の計算、受益者への通知等を行うための事務処理を考慮した一定の期間(約1か月半)経過後の日をもって定めることとしております。なお、この「弁済期」については、信託法施行規則第18条第1号、第22条第1号において受益権原簿及び受益証券の記載事項とされています。ただし、振替受益権(社債、株式等の振替に関する法律第127条の2第1項)の場合には受益証券は発行されません。
  • 5 本件JDRは、その計算期間中において、弁済期の定めに基づき原株等の配当等を原資とした収益の分配が行われる以外に別途収益の分配が行われることはなく、本件JDRに係る損益計算書には受益者に交付した収益の分配金の額が利益処分額として記載されることとなります。

なお、本件JDRは、金融商品取引法上の「有価証券信託受益証券 」(注)に該当することを前提としており、この場合、原株等の発行者が本件JDRの発行者とされ、開示義務などの規制を受けることとなります(金融商品取引法第2条第5項、第5条、第24条、金融商品取引法第2条に規定する定義に関する内閣府令第14条第2項第3号)。
 また、有価証券信託受益証券の信託財産は、金融商品取引法において、(イ)受託有価証券、(ロ)受託有価証券に係る受取配当金、利息、その他の給付金、(ハ)その他一定の措置に要する費用に充てるための金銭その他の財産のみを信託財産とすることを要件としており(企業内容等の開示に関する内閣府令第1条の2第1号、特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令第1条の2第1号)、利殖を目的として原株等の配当等を運用することは想定していません。

(注) 「有価証券信託受益証券」とは、受益証券発行信託の受益証券のうち、金融商品取引法第2条第1項各号に掲げる有価証券を信託財産とするものであって、受託有価証券に係る権利の内容が当該信託の受益権の内容に含まれている等の要件を満たす信託をいいます(同法施行令第2条の3第3号)。

3 照会者の求める見解となることの理由

(1) 投資信託の収益の分配の収入すべき時期について
 集団投資信託のうち投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除く。以下同じ。)の収益の分配については、信託期間中のものは収益計算期間の満了の日、信託の終了又は解約(一部の解約を含む。)によるものはその終了又は解約の日が、収入金額の収入すべき時期とされています(所得税基本通達36−4(2))。
 通常、投資信託においては、投資信託の決算における利益の処理として、確定した有価証券の売買等損益、配当金等の収入金額から、信託報酬等の経費、準備金、引当金等を控除した金額を収益の分配金として、各計算期間の末日において権利を有する受益者に対し交付するものとされています。
 このように、信託の計算期間の末日において、利益処分の計算に必要とされる金額が全て確定することで収益の分配金の額が確定するとともに、その収益の分配金も当該計算期間の末日における受益者に帰属することから、上記のように、投資信託の収益の分配金は各計算期間の末日が収入すべき時期になるものと考えられます。

(2) 本件JDRの収益の分配金の収入すべき時期について(別添2(PDF/127KB)参照)
 特定受益証券発行信託は、所得税法上、投資信託と同様に集団投資信託に分類されていますが(所得税法第13条第3項第1号)、投資信託のように収益の分配金の収入すべき時期について明らかとはされていません。
 本件JDRは特定受益証券発行信託に該当しますが、その信託行為において、原株等の配当等に係る基準日と同日を収益の分配金の権利確定日と定め、原株等の配当等があった場合には、その配当等があった日の属する信託の計算期間の末日における受益者ではなく、当該権利確定日(例えば、原株等の配当等が期末配当である場合には、その計算期間の末日ではなく、その1年前の日である前計算期間の末日)における受益者に分配することとされています。
 また、本件JDRは、その収益の分配に当たり、当該権利確定日後、円転、信託報酬の計算、受益者への通知等を行うための事務処理を考慮した一定の期間(約1か月半)経過後の日を信託行為において弁済期と定め、当該権利確定日の受益者はその弁済期において当該分配金を受け取ることができます。
 そのため、受託者が原株等の配当等を受領したとしても、弁済期が到来するまでは、円転に伴う為替差損益など収益の分配金を計算するための金額が一部未確定であり、収益の分配金の額を確定することができません。一方、弁済期が到来すれば、信託の計算期間の末日を待たずに、収益の分配金の額が確定し、その時点で当該権利確定日の受益者はその収益の分配金を信託の計算期間における利益処分として受け取ることとなります。
 以上のとおり、本件JDRの収益の分配金については、信託行為において定めた弁済期に具体的な金額が確定し、信託の計算期間における利益処分として権利確定日の受益者に分配されることから、その収入すべき時期は、信託の計算期間の末日ではなく、信託行為において定めた弁済期とするのが相当と考えられます。

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